登場人物

「お前に、任務を与える」 「は?」  前を歩く上司は、俺に一本(……?)の業物を渡してクイと顎を向ける。  上司の奥を見るとスーツを着た明らかお偉いさんがこっちを見て手招きしている。 「政府からの命令だ。#名前1#。お前には、今から審神者守護になってもらうぞ」 「は?」  上司への返答がなってないとの理由で本日2度目の、上司からの鉄拳をいただいた。  グラグラした頭のままお偉いさん方の元に駆け寄ると、俺を見てちょっと目配せしあってから「君が#名前1#…なんだったかな、」と言われた。なんだよと思いながらも名前を答えた。 「#名前1##名前2#です」 「ああ、そうだったな…。いやぁ、君の経歴を見たときにこれだ!と思い立ってねえ」 「…はあ」  なんのことかさっぱりわからなかった。俺は生まれてこの方犯罪も犯したことはないし、この前なんか彼女と別れてしまって切ない人生を送ってきたのだ。性格はまじめ…とは言い難いし、頭はからっぽとからかわれるビビリな俺だがわりと頑張って訓練は受けてきている…はずだ。お偉いさんに目をつけられるほどの経歴などない。 「君の親せきに、自閉症の子がいただろう?」 「ええ」 「それで、君はその子を高校生になるまで育てた…」 「まあ」 「その手腕を買って、君に自閉症の審神者を手伝ってほしいんだ」 「はあ」  俺の経歴は自衛隊などなんの関係もなく甥っ子の話だった。  孤児院に連れてかれそうになった奴をせめてもの妹の形見として引き取った覚えがある。昔も甥っ子を育てたことがある。そっちでは色々家族ともひと悶着あったわけだが妹は関係ない。自閉症の子を育てるのは楽なことじゃなかったし、おっさん(ガチムキ)が保育園やらに通うのはさぞ変な姿だったろう。でもまあ、高校過ぎてからは自立してちゃんと暮らせるように手配をしたはずだ。音楽の才能があったんだ。なんとかなるだろう。  それにしてもそれがどうしたっていうんだ。そもそも、さにわってなんだ。新種のはにわのことか? でも、自閉症のはにわとか想像がつかん。はにわって古墳…縄文…あれ?  どっちだったかな? 「あの、審神者って…?」 「まあいいから」  俺の疑問は軽く無視されておえらい役人さんたちは、俺に着いてくるように言った。  ガチャリ、と黒塗りの車に乗るとブシュッと催眠ガスをかけられる。まあ、そうだろうよ。と思いながら俺は眠りについた。  どすどすと腹がつつかれた。「いってぇよ、ぼけ!」  ついつい友人に叫ぶように起き上がると狐がいた。覆面をした狐だった。ちょっと青い線と、くりくりした目。狐面にありそうなペイントだった。  ふわふわに見えるしっぽ。(そう見えるだけだ。カピバラみたいに硬い毛なのかもしれないが。そもそもこれが狐で合ってるのかどうかもわからない) 「は?」 「わたくし、こんのすけと申します。どうぞよろしくお願いします、審神者守護さま」  意味が解らない。役人たちはどうしたんだ。  そしてここはどこだ。  お前はなんなんだ。What's you?? 「ああ、起きたんだね」 「え?」  どこからか男のひっくい声が聞こえてきた。ここで初めて周りを見回すこととなったのだが、どうやらここはどこかの和室のようだった。長机と古めの階段みたいな形をした箪笥。扉…いや仕切りはふすまだった。障子はたぶん廊下へ向かってるんだろう。  なんだか甘い…?匂いがする。 「ここだよ。こんのすけから君に干渉している」 「は、はあ…」 「とりあえず、ここについて説明しようね。ここは、本丸」 「本丸?」 「そう。審神者たちの本拠地となるところだ」 「本拠地、って。そんな、戦争じゃないんですから…」 「そう、#名前2#君。君の言うとおり、これは戦争だ」 「…は、」 「ここは2205年の世界。今、君は未来に来ているんだ」 「みら、い…」 俺の頭は、どうかしちまったのだろうか?  役人の話をまとめると。  歴史修正主義者という奴らが敵で、過去から変えて未来を変えてしまおうとたくらむ連中らしい。いわば、パラレルワールドを選ぶ選択肢を増やそうって感じだな。  それを止めるため、政府は審神者なるものを送り出した。審神者は誰でもなれるわけじゃない。素質あるものが、選ばれるのだ。(そこらへんの細かいところはよくわからない。)  そして、困ったことにこの本丸の素質ある審神者はある種、素質がありすぎたというのだ…。 (ちなみに、他の勢力として検非違使というものがあるらしいが日本史で習う検非違使とは全く違う存在らしい。嵯峨天皇に謝れよ、政府。ネーミングセンスなさすぎだわ。) 「ああ、時間だ。君、そろそろ行きなさい」 「え?」 「彼女には、君が11時にくると言ってある。11時ピッタシに来ないと怒るんだよ」 時計を見ると1分前。 「部屋は?」 「廊下に出て、3つ隣の部屋だよ」  ズッと障子をあけるといかにも風流といった庭園が広がっていた。 「なるほどねえ」  俺はまったく納得してないのに、かっこよく決めて歩き出す。とりあえずかっこつけてみたものの、わけわからないまま未来で独りぼっちとか笑えない。……こんのすけの中の人や、俺を迎えに来た役人はなんなのだろうか? なぜ、俺達自衛隊がこっちで活動しないんだ? 北朝鮮と戦争でも起こしたんだろうか? 「そうそう、君の本丸の担当は僕、沖野だから。セイソともどもよろしくね」  そういってこんのすけは動かなくなって、また起き上がると「こんにちわ!」と甲高い声で話しかけてきた。さっきのこんのすけに戻ったらしい。 「ああ、こんにちわ」と俺が返すと嬉しそうにこっちに寄ってきた。猫っぽい。だがしかし狐(っぽいもの)だ。 「なあ、こんのすけ」 「なんでしょうか?」 「お前ってなんなの? 狐か?」 「狐ですよ! 政府から遣わされた管狐です!」 「ほうー」  狐を腕にかかえあげ、沖野が言っていた部屋まで歩いた。さあ、ここだ。だが、11時までにはあと20秒ある。……しょうがない、ここで待つか。 「あのう、あなたのお名前をうかがっても?」 「ああ、俺は#名前1#。#名前1##名前2#だ」 そういや、自閉症の子の名前は…なんつうのかな。 「#名前2#さま。一応、申し上げておきますが本丸内では私以外に本名を明かしてはいけませんよ。刀剣男子も付喪神。名を知られることは、魂の一部をつかまれたということと同義なのですよ。ねえ、#名前2#さま、聞いてますか??」  はぁ~~~?? きいてないんだけど???  あと2秒といったところで静かに障子を開けた。 「こんにちわ」  そこには1人のランドセルを背負った小学生がいた。ん? 女の子? しかも、小学生…!? 「おい、こんのすけ」 「なんでしょうか?」 「審神者ってのは、こんな小さな子までやらせるのか?」 「昔の話ですよ」 「んで、この子は?」 「諸事情もあって、と言いますか。力を惜しんだ政府が置いておくことを決めたみたいです。たぶん、力が強大すぎて歴史修正主義者側に付かれたら困るからでしょう。 #名前2#さまはある意味監視役も含められてますね」 「へえ」 「あ」 「ん?」 「あー」  女の子はとてとてとこちらに向かって歩いてきた。どうやら歩くのも苦手らしい。まあ、自閉症ならあり得る話だ。俺は手を伸ばして「いる?」と聞いてみた。女の子はにぱっと笑って「るぅ!」と叫ぶ。  飛びついてきた女の子を抱きとめてけらけら笑った。  後ろでこんのすけが、「世祖さまに気に入られたみたいですね」と言う。 「世祖?」 「ええ。審神者さまの名前です。指貫世祖とおっしゃるのですよ」  女の子は自分が呼ばれたと気づいたらしく、部屋の隅にあったぐしゃぐしゃの紙を見せてきた。  そこには大きく流麗な文字で「指貫世祖」と書かれている。 「へー、これでさしずきか」 「ええ。世祖さまは、どうやら自閉症とサヴァンを合併しているらしくあまり刀剣たちと交流できないのです」 「へー。刀剣かあ」  沖野さんから聞いた話じゃ、刀の付喪神だとか。 「なあ、その刀剣たちってどこにいんの?」 「? すでに、部屋におりますが…」  こんのすけの言葉に俺は首をかしげる。どうみたって俺とこんのすけと、世祖1人だ。 「なにいってんだ、--……」  ふわっと肩に何かあたった。布…だろうか? 「んな、ああ!?」 「加州どのが#名前2#さまを覗こうとしておりますです。どうやら世祖さまに一目で気に入られたのが気に食わないのでしょうね」  そんな冷静な説明いらん!と思いながらも目をこらしてみるとなーんか歪んでる気がする。もしかして…。 「なあ、こんのすけ」 「はい?」 「刀剣って、付喪神…だよな?」 「ええ。そうですよ。でも、実際には付喪神といっても神様も幽霊も素質ある者にしか見えませんが」  うわあああああああああ。  俺は思わず叫びながらあとずさる。障子を倒し、縁側も落っこちて縁石にあたって頭がいたい。 「え、まって。じゃあ、ここって」 「いわば、幽霊屋敷ですな」  あ、死んだわ、俺。  視界がブラックアウトできたらよかったのに、それをさせてくれなかったのは世祖である。 「うぇっへぇーい!?」  体が宙に浮いて、なぜか下には世祖が手を動かしている。  右にゆらせば俺が右に飛ばされ、左にゆらせば俺が左の壁にぶつけられる。どうやら操られているらしかった。スマホのアンドロイドを使ってるやつはわかるだろう。しゃべってコンシェルのひつじみたいにスワイプされれば動く感じだ。  俺は今度からあいつにやさしく接することにする。これ、かなり吐き気がする。 「主、やめてあげて」  声が、聞こえた。でも、声だけだ。ただ、そいつが俺のことを助けてくれた。 「うん」  世祖は、とにかくこの部屋にいる刀剣男子を信頼しているらしかった。