亀甲と毛利の話

【亀甲貞宗】 主守護の男に殴られた。お前みたいなやつが刀剣になるなんて、と吐き捨てられた。 僕もビックリだった。まさか、あの子どもの方が主だったなんて。そうと気づけなかったのだ。思わず向けてしまった刀はすぐにへし折られた。そして瞬間的にすぐに手入れが入った。折れたと思ったのに。 #名前2#さんに殴られた跡は治療されていない。歯も痛いし口の中は血も流れている。腫れた頬はメガネをかけるのも痛かった。 「やらかしたなぁ、お前も」 「持ってことは君も?」 「つい最近までな」 あいつと喧嘩してたんだ、と視線を向けられたのは食事を作るのが上手な燭台切光忠という刀だった。同じ長船派と聞いているけれどそういうこともあるのか。不思議に思いながら僕も食事を続けた。 「やらかしましたね、亀甲さん」 「本当になァ」 「面目ないよ」 「まあ今日1日の我慢だから」 同じ貞宗派に詰られながら寝る準備をする。#名前2#さんの機嫌が悪いため今日は寝るまえの遊びはなしだそうだ。すごく専制君主って感じだね、と言ったら伝わらなかった。 次の日起きたら#名前2#さんはもう殴ったことを忘れたかのように振舞った。僕の怪我も治っていて貞宗派たちは今日は何をして遊ぼうかなんて考えている。何が起きたのか僕だけすっぽり置いてけぼりだ。 「おはよう!」 「あ、おはようございます」 「昨日は大丈夫だった? 手入れされないまんまだったし心配だったんだ」 「あ、はい」 「よかった!」 指南役の大和守安定さん。ヤスサダという名前だけどアンテイというあだ名で通っている。彼はまだ僕が怪我していることを覚えてるみたいだ。ついつい気になってしまって尋ねてしまった。 「#名前2#さんのこと。あの人はいつもあんな感じだよ。1日経つと怒るエネルギーはどこかに消えちゃうんだ」 「へえー」 「それを見計らって世祖も手入れをしたんじゃないかな。もしくは#名前2#さんにそう言うように命令されてるか」 「命令なんですね」 「僕がそう思ってるだけだよ。お願いでもなんでもいいけど。世祖は#名前2#さんのことできるだけ叶えてあげようってやってるから」 不思議な話だ。#名前2#さんは主と認めない刀に怒り、主の世祖は守護する#名前2#さんの願いを叶えようとする。歪な関係なのに周りは疑問に思ってない。もしかして昨日の自分はこの本丸にとっての見せしめだったのでは?と考えすぎてしまうくらいだった。 「早くご飯食べに行こう? みんな待ってる」 「あ、はい」 考えすぎるのは良くない、と思ってそんな考えは頭から捨てた。昨日は感じられなかった料理の味に感動しながら食事をした。 久々に見たな、#名前2#さんのアレ。 後藤がこぼした言葉を横に座っていた秋田がすくいあげた。 「仕方ないです、#名前2#さんですから」 「それを言ったらおしまいだろ」と薬研も乗ってくる。 「#名前2#さんって怒りは持続しないけどかなりデカいの一発来るよなあ」 「そんでも理不尽な怒りってほどでもないだろ」 「それは僕も同感です!」 「初期からいる奴らは慣れててもさあ、新しく来たばっかりの奴らは大変だろ」 頭に叩き込んだ知識と自分の体を動かすのとは全くの別物だ。分かっていても、というところがある。 分かっていても世祖を主とはすぐに気づけないし、ブラック本丸からやってきた刀だということを気遣ってやれない。後藤とて色々と大変な思いをしてきたのだ。 「まあそう言うのはあとから慣れてくもんだろ」 「そうですよ」 薬研と秋田はそういうが、まあ難しい話をしている自覚もあるのだろう。話はこれでおしまいと言うように食事の話にすげ替えられた。 後藤もこれ以上何か話していると喧嘩の火種になりそうで辞めることにする。ちらりと横目に#名前2#さんを見ると世祖の方がこっちを睨んでいた。 慌てて自分の膳に目を向けてご飯をかきこむ。どうしたー?と聞かれる言葉に返事もしないで食べ終わることに専念した。 【毛利藤四郎】 大阪城からドロップすると言われて何回目のイベントだろうか。一期一振が殺気立った様子で大阪城の地下へ潜るのを見ながら書類を片付けていたらおいでなさった。書類は未だに終わっていない。 「ということだから」 「分かりました!」 「君の指南役は……どうしようかな、お兄さんの誰かに任せようか」 「えっ」 「あからさまにショックな顔された……。んー、じゃあ日本号にするか」 「黒いつなぎの槍の方ですよね」 「黒いつなぎの人間は俺なのでよろしく」 「大丈夫です!」 毛利藤四郎。政府からの知らせを読む限り包丁藤四郎のようにめんどくさい性格、な気がする。子どもにしか見えない姿で子どもを可愛がる……。#名前2#も子どもは可愛がる主義なので別に構いやしないのだが気にかけることはある。#名前2#にできて毛利には出来ないこと……、世祖のお守りである。日本号は立ち回りが上手なのでいいと思うのだが、どうだろうか。最近指南役選びを失敗したばかりなので心配だ。それに世祖も関わってくるのでさらに心配だ。だが書類は#名前2#を逃がしてはくれない。気分は社畜だ。 「言ってても仕方ないしやるか……」 指南役をお願いします!と叫ばれていた。ついに日本号も先輩役か、と思いながら周りはじっと世祖に気を配っていた。 「俺は日本号だ」 「毛利藤四郎です」 「短刀の戦い方は知らねえからなあ。生活するのに困ったらなにか言えってぐらいしかねえんだが」 「僕も兄弟たちがいますから。でも、僕を見つけてくれたのはアナタでしょう?」 「……」 照れたような日本号が毛利の頭を撫でる。柔らかく素晴らしい光景だが世祖の視線も痛い。 世祖は今部屋から追い出されている。#名前2#は書類仕事、こんのすけは世祖の部屋の掃除をして、近侍である鯰尾は世祖を膝に座らせたまま苦しそうな顔をしている。 日本号を羨ましがる世祖に鯰尾が頭を撫でようとするとイヤッと小さく声を上げて頭を振ってしまうのだ。 ワガママだと言えればよかったが、最近の世祖はイベントのために審神者として頑張ってきていたのだ。こんのすけからもそろそろガス抜きが必要と言われていたのだが、#名前2#に書類がのしかかってしまった。 毛利はそんな世祖を気にしてチラチラと視線を送るがその度に日本号がぐりんと彼の頭を動かす。まるで一種のコントのようなそれは普段なら笑えるのに今回は重苦しい空気で全く笑う者がいない。 「日本号さん」 「なんだよ」 「世祖、あのままでいいんですか?」 「良くはねえけど……世祖のやつ、#名前2#さんじゃねーとダメって雰囲気なんだよ」 「雰囲気で判断するんですか……」 「仕方ねえだろ! お前に仕込んだあのプリント読んでも分かるだろ」 世祖と#名前2#の関係性は刀剣たちにとってもデリケートな問題だ。足を突っ込みすぎると自分が殺されそうだがそのままにしておく訳にもいかない。古参たちはいつもの事と割り切ってしまう。新しい刀はその領分が作れない。 ぷくりと膨らませた頬を見ながらどうしようかと考えていたら厚を見つけた。同じ黒田の名の元に刀としてあったのだからと、仲良くしておいてよかった。腕を掴もうとするとふいっと避けられた。 「日本号じゃん。どしたんだ?」 「…避けるなよ」 「すまん、極になってから結構動いちまうんだ」 頭の中に五虎退を思い浮かべたが、そんなふうには思えなかった。それを厚に言うと「極の中では1番練度高いからなあ。やり返すっていう自信あんじゃねえ?」と言われた。何だかそんな理由の気がしてならなかった。 「世祖、あのままじゃよくないですよ。鯰尾兄さんも大変そうですし」 「んー……」 なおも食い下がる毛利に日本号も何か出来るかと考えてみた。脳内変換されるイメージは失敗ばかりで成功に繋がらない。 「あ、そうだ。書類整理が終わったら何したいか#名前2#さんに聞いてみましょうよ」 「ああ?」 毛利藤四郎は善は急げとばかりに#名前2#の部屋へ向かう。世祖は泣くのを我慢しているのか怒るのを我慢しているのかぷくーっと頬が膨らんでふんすふんすと鼻から息を吐いた。 「止めねえのか、指南役さんよ」 ニヤニヤと厚が笑っている。ここで止めるのは何だか良くないような、やりすぎて#名前2#さんに後で怒られるような。どうするんだと目を合わせて聞かれると、ついつい本音が零れてしまった。 「おもしれーことやりてえだろ」 「やっぱそうだよなあ!」 ほら、と立ち上がり日本号と厚も#名前2#の部屋へ向かった。こんのすけと毛利の声が聞こえてくる。温泉行きたいよー、書類でハイになる前にスッキリしたいよーという呻き声は#名前2#さんのものだろうか。さすがに全刀剣は運べないというこんのすけと、皆さんで行きたいですと叫ぶ毛利の声も出てきて障子は音が叩きつけられてひどい有様だ。 回れ右をして世祖のもとに戻ると、日本号から一言「でっかい風呂を作ってやれねえかな」と言うのだった。 お金はある。霊力もある。あとは作る場所だけである。 山伏が修行しに行く山の一角を借りて、岩風呂を建てた。本丸にいる妖精たちの力をこんな風に使うなんて、とこんのすけは嘆いたが#名前2#は大喜びであったし、それを見る世祖もようやく元気になった。 やりましたね!とキラキラした笑顔を向ける毛利に、たまには行動するのも悪くないと日本号が笑った。そんなふたりを画面に収めてパシャリと音を立てる。写真はすぐに本丸に飾られることになった。