01 わたしを愛してくれた人へ

title: 自作

 呪物だというのに、男はこう考えた。何もかもを食い殺す最悪の呪物を作ろう、と。自分が呪物だとも気づけない哀れな男はさっそく手当たり次第に材料になりそうなものを飲み込んだ。それは苔むした墓であったり、道端に落ちていたウジの湧いた死骸であったり、死体を捨てに来た馬鹿な男とそんな男に殺された女だったり。とにかく色々なものを食べた訳だが、男はいつしか呪物としてではなく「穢れを食らうもの」として知られるようになっていた。  そんなはずは無いのだ、と男は考えた。自分は強い。あんな、あんな奴らと違う。人間から無理やりに呪物にされた彼は悲しいことに人間である頃の記憶を持っていた。とにかく目に付いた物を何も考えずに食べてしまえ、と彼はそのとき最初に目に付いたそれに飛びついた。それは少女だった。まだ幼く、小さく、自分から生えてる手に笑うような子どもだった。周りから敬遠されるほどの力と、常識を覚えない獣のような頭をした少女だった。食べようと思ったその瞬間、少女の視線が男を射抜いた。  あれ?  男は気づいた時には少女の核の中にいた。染色体などをいれるその細胞の核ではなく、おそらく魂と呼ばれるものの中心部に男がいた。  今、何が起きた?  男は自分がそのような場所にいることを理解できなかった。起き上がろうとしても、攻撃を仕掛けようとしても声を上げることさえできなかった。男にできたことは考えることのみだった。  逆に食われてしまった。それに気づいたのは長い空白のあとだった。時間感覚もなかったため、それにいつ気付けたのか男には分からなかった。  彼女の空っぽな性格は彼を受けいれてしまったのだった。そうして指貫世祖という少女がこの世に誕生した。家族に捨てられたはずの彼女はひとりでも元気にすくすくと育った。覚えなくてもいい常識も言葉も忘れて、彼女はたったひとりを探すために力をつけることにした。人間を探すのには金と地位と権力が必要だ、とよく分かっていた。金を稼ぐ方法も権力を奪う方法も世祖はよく分かっていた。なにせ、彼女の中に飛び込んできた生き物はそういう情報をよく知っていたのだ。  世祖は時たま自分の部屋にやってくる家族らしい人間が嫌いだった。元から嫌いだったのか、彼を取り込んだせいなのかは分からない。とにかく彼ら・彼女らを家族と認めることができなかった。  一族は迷ってしまった。優秀な遺伝子のかけあわせの元、限界まで育て上げた少女だった。死体となった母親の腹からずるずると自分から出てきたような赤ん坊である。期待通りの力を持っていたが、いつしか期待は恐怖に変わっていた。  恐るべきものを産み落としてしまった。  始末を付けようにも差し出した刺客たちはみな殺されるか食べられるかしてしまった。さらには問題死されていた呪いのひとつを食べたとあってはどうなることか分からない。しかも、魂は二つあるのではなく完全に支配下において融合しているのである。今はあの化け物をどうすればコントロールできるのか一族の人間にはよく分からなかった。  オキノが彼女の体内に取り込まれたことは既に周知の事実であるが、元から手放した彼女を家族として受け入れる訳にも行かない。捨てた側にもメンツがある。彼女は身一つでこの学校に来たのだった。 「ごめんください」 「あ、君が噂の転入生ちゃん?」  その言葉どおりに相手はすぐに来た。言葉が聞こえたと思ったら次の瞬間には扉が開いて男が出てきた。だが、彼はどう見ても教師ではなかった。学生だ。それに気づいているのかいないのか、世祖は頭を下げた。 「よろしくお願いします」 「うん、よろしくね。転入生ちゃん」 「世祖です、その呼び名はやめていただけると」  五条悟との出会いは校門で行われた。一目見てお互いに気に食わない存在だ、と思った。  指貫世祖。最強と謳われた五条のもとに現れてしまった彼女は後日、五条の生涯のライバルと呼ばれることになる。  世祖は五条のライバルと聞いてぽかんとした顔を見せた後「めんどうだなあ」と空を仰ぎみた。彼女の目的は戦うことでも頂点に立つことでもない。彼女は一人の男を探していた。  世祖の姿を見て家入はけらけらと笑った。五条がそんな風にあうのは気分が良かった。 「世祖ちゃんにフラれちゃったねー」 「うるさいな、世祖はいつもあんな感じでしょ」 「そうだねー」 「そういえば世祖に頼まれていた一族の#名前2#って人のリスト持ってきたよ」  夏油の言葉に世祖は目を輝かせてリストを受け取った。べらべらと読んでいるかもわからない仕草で紙をめくった彼女は30秒後にはげんなりした顔に変わる。 「……ありがとね」 「いなかったみたいだね」 「可哀想に」  家入も夏油も全く世祖をなぐさめるつもりはなかったし、世祖にしても慰められなくてもどうでもよかった。五条だけが「そんな人間探してどうすんのさ?」と聞いていた。  人との温もりってそんなに大事? と聞く五条に世祖は輝くような笑顔で頷いた。 「#名前2#がいちばん好き」  会ったこともない人間をどうしてそんなに好きになれるのか、同級生たちには全く分からない感情だった。