04 出会いは一番乗り
世祖は今、助けたばかりの目の前の青年に問いかけた。虎杖悠仁。返答次第では彼の死刑を執行するのは世祖かもしれなかった。#名前1##名前2#は知っているか、と。腕をしばられている青年は世祖のスマホをじーっと見ると「ああ!」と声をあげる。 「#名前1#さん、うん、知り合い、って言えるのかな。うん、多分。向こうは俺のことどう思ってるのかわからないけど」 「この病院に何しに来てたのか知ってる?」 「看護師さんに家族がいるんじゃなかったすか? 着替えとか持ってきてたし」 「……嘘はついてないみたいだ」 「えっ、俺今もしかして命ギリギリの話でもやってましたか?」 「そういうことじゃないけどそういうことかもしれないし……ねえ、君、生きたい?」 青年は迷っていた様子だが、はっきりと頷くと世祖はにっこりと笑った。 「五条、私も彼を助けるのは手伝う」 「わぁ~~、本気で言ってるのそれ」 「もちろん。死刑だなんだ、は勝手にやってくれ」 「あのさあ、僕も一応死刑を止めようとした側だよ?」 「はははは」「ははははじゃないんだけど」 ぴり、と世祖は虎杖に印をつけた。宿儺相手に効果があるかはわからないけど、と世祖は言うが虎杖の体はさっきよりも軽くなった気がした。 「君が虎杖悠仁としている限り、私は君を助けることを誓うよ。指貫世祖という名前に賭けて」 それは初めてのことだった。世祖がそんな風に頭を下げるところを、五条は初めて見た。そのときから、虎杖は世祖にとっては第二の特別になった。 病院に来ていた虎杖を見て#名前2#はいつものように声をかけていいのか迷った。虎杖がいつも見舞いにきていた老人が亡くなったことは聞いていた。いろいろ考えて今はやめよう、と背中を向けたとき「#名前1#さん!」と呼びかけられた。 「い、虎杖くん」 「#名前1#さん、あんね」「あ、あのさ!」 二人の声が重なった。お互いに先にどうぞ、と譲ったが虎杖の強い視線によって、#名前2#の方が先に話すことにした。 「おじいさんの件、聞いたよ。ご冥福をお祈りします」 「あ、ああ……。そのことなら平気だよ」 「平気って君ねえ……」 「人が死ぬのは、当たり前のことだから。じいちゃんは、それが運命だったんだろうなって」 虎杖のような悟った考え方をする人間は少ないだろう。#名前2#は「そうかあ」と頷くのみだった。自分よりも年下の青年の方が人間の器ができてるよなあ、と思ったら虎杖が急に笑った。 「はは、#名前1#さんに器とか言われるとなんかおかしくなる」 「え、どうして……。俺、そんなに何もできない人間と思われてる?」 「逆逆。#名前1#さんの方がすごいってこと」 「ああ、そう思う……? それはそれで嬉しいけど」 話題が途切れた。次は虎杖の呼びかけを聞く番だ。#名前2#がじっと虎杖を見つめると彼は携帯を取り出してにかっと笑った。 「あのさ、#名前1#さん。俺、もうここにはあんまり来ることないだろうからさ。連絡先交換とかしてもらえる?」 「え、俺と? いいけど……。あんまり携帯使わないからなあ」 「平気。ただ、たまにメールさせてほしいってだけだから」 それは頼られているという意味でいいのか。#名前2#は不思議に思いながらも連絡先を交換してあげた。 虎杖は他人との会話の中で自分のやることを決めることが多かった。自分の中で決めていることはある。だが、それは他人と会話してようやく相対的なことを決められるのだ。#名前1#と会話して思ったことがある。彼は、呪霊についてもよく知らない一般人だ。彼と世祖がどんな関係にあるのか、自分にはわからない。だが、彼を守ってやらねばと思った。 病院の外には五条と世祖が待っていた。五条は虎杖が宿儺の指を飲むのかどうかの決断を聞きに、世祖は#名前2#のことを探しに来ていた。 「あの、指貫さん」「世祖でいいよ」 間髪入れない言葉に虎杖は「世祖さん」とすぐに言い直した。 「世祖さんは、#名前1#さんと知り合いなんですか?」 あちゃぁ、と五条は心の中でつぶやいた。その言葉は世祖にとってはトリガーポイントである。誓いがあるから、と油断はできない。五条は念のため、自分の術式を世祖に向ける準備もしたが、予想に反して彼女はふふっと笑って見せた。 「知らない人を大事にしてるのって変?」 イエスともノーともとれない返事に虎杖は「どっちなんすか……」とつぶやく。世祖はやはり笑ったままである。 「変っつーか、その人が知らなくてもどうやっていい人とか判断してんのかな、って」 「生きてればわかるかも知れない」 「そうなんすか?」 「私は、絶対にこの人を大切にするって、そういう運命を感じることがあるよ。だから、手放しちゃいけないの」 私はそうやって生きるって決めたの。 世祖の言葉は難しいことばかりだ。虎杖は全部に納得したわけじゃなかったが、今の世祖にそれ以上の言葉をかけることはできなかった。 ――それじゃあ、悠仁はどうするか決めた? 五条の問いかけに虎杖は強く頷いた。 「俺も、やりたいことをやるよ。あの札の部屋で見せてもらった宿儺の指、ある?」 ぱくり、と指は飲み込まれた。