安室と世祖と

 世祖は不機嫌だった。喉で猫のような音を鳴らしながら目の前のジュースを飲む。毛利小五郎の家にお世話になっているのはとある理由があった。 ーー世祖、ごめん! 俺、明日哀のとこについてなきゃいけないんだよ……。お前、沖矢さんのこと苦手だろ? 沖矢さん盗聴器仕掛けてるから絶対こっち来るだろうし……。沖野にもバレんなって言われてるからさ。頼む! 明日は小五郎さんとこに夜までいてくれ! 全部終わったら迎えに来るから! と#名前2#に言われたからである。哀と何をするのかは知らないが、多分宮野明美についての話なんだろうなとは思っている。世祖は#名前2#に明美を助けに行かせなかった人間だ。さすがにそんな人間の前で殺された女の話はできない。世祖もそれは分かっていたので今回ばかりは折れてコナンについてきた。 「頼太くん! 初音さん! 結婚おめでとう!!」  そして小五郎の旧友である男の結婚パーティーについて来させられた。ファミレスでの食事はあまり好きじゃない。もそもそと口にスパゲティーを押し込んだ。もそ、と噛み締めながら結婚する2人を見た。  伴場頼太と加門初音。同い年。骨格も似ている。目元、眉毛の感じ、その他諸々。かなりの確率で一卵性双生児だ。#名前2#の友達にも異性一卵性双生児がいたのを覚えてる。確率が低いにしてもいるという事実はある。  はぁとまたスパゲティーを食べる。口の中に物を詰め込んでおけば話す必要もない。平安時代からの知恵だ。 「あ、こっちの子はコナン君の友達で、指貫世祖ちゃん! この子のお兄さんが大学の方に呼ばれてて家に誰もいないそうなのでうちが預かってるんです」 「……」  もそもそスパゲティーを食べている。新郎新婦はうわぁという顔をしたが世祖は気にしない。気にしたのはコナンたちだった。 「こ、この子ね、自閉症の子で知らない人と全くしゃべれないんだ!」 「あ、ああ、そうだったのね」 「そうだ! お2人は一目惚れって聞いたんですけど本当ですか?」 「ああ。一目見た瞬間にピーンと来たよ」 「やっと会えたって感じがして……」  へぇーとコナンたちは関心しているが世祖からすれば「ですよね」と言いたくなる話だった。双子は片割れの気持ちを感じ取ることが出来る、というのは信じていないが心理学的にそういう反応があることは知っている。きっとそれだろう。一目見た瞬間に運命の人が分かるなら#名前2#の相手はもう見つかっているはずだ。 「なにしろ、誕生日も血液型も境遇も同じでね…」 「たまに、黙っててもお互いが考えてることが分かったりするのよ」  確定だろう、これは。完璧に双子だ、この人たち。精神的に双子にならなかったのがある意味すごいだろう。世祖はふにゃあとあくびをもらす。ちょっと眠い。昨日の夜になって急に#名前2#が話をしだしたから寝るのが遅くなったのが原因だ。時間はきっちり守らないとからだに悪い。ジュースを飲みながら周りの座席を見ていたら見覚えのある顔があった。  チョコレートケーキを持ってきたウェイターが新郎の方にわざとズボンにかかるように落とす。あーあ、と世祖はため息をつきたくなった。眠い上にまさか組織のノックに会うとは。横にいるコナンは相当のトラブル吸着剤らしい。もうほかの話も聞かずにとりあえず頼んでもらったスパゲティーを食べ終わらせることにする。  スパゲティーを食べおわらせて残していたオレンジジュースを飲む。ゴクゴクゴクゴク。なんで飲む時に人は息を止めるんだろう。息を吸いながらは飲めないけど。ぷはあと息をついて窓の外を見た。新婦の傘が動いてる。 「……。あーあー」 「え?」  パリィンと音がした。今のはガラスが割れる音。ノックのウェイターと新郎の声がする。  オレンジジュースが飲み終わってしまった。人が死んだ、と外は騒いでるから#名前2#がここに来るのはきっと遅くなるんだろあなあ…。眠くならないようにオレンジジュースをもう一杯もらいにいく。ついでに氷ももらってこようとした。ドリンクバーのところでボタンを押そうとしたらノックのウェイターが世祖のところにやってきた。探り屋のバーボンだ。#名前2#を好きだった……えーっと、あの人は……そう、スコッチ。スコッチと一緒にいる頻度高い人。 「何をお飲みになりますか?」  思考が遮られた。オレンジジュース、と呟くとどうぞと手渡された。結露したグラスは冷たい。ノックの視線も冷たい。氷も、と言ったら今度こそ不謹慎だと怒られそうだ。 「ありぁと」 「いえいえ」  人が死んでる時にジュース飲むのっておかしい? 双子なのに結婚しようとしたあの人たちが悪いのに。変なの。  席に戻ろうとしたらみんな立ち上がってた。仕方なく適当なテーブルにオレンジジュースを置いて蘭ねーの隣に立つ。新婦さんの付け爪に新郎のDNAがあるんだって。双子だとそうゆうこともあるらしいし不思議じゃない。なんで騒ぐことがあるんだ……。  刑事さんたちの話を聞いていたらノックのウェイターが探偵であることを明かした。バーボンこと安室透は偽名で爽やかそうに笑った。きっと本名も職業も別にあるのにここで姿を見せたということは誰か確認したい人がいるんだろう。それが誰か分からない今は……大人しくしてるべきだが、もう手遅れだ。  世祖の不機嫌さがあがる。マナーモードで揺れたスマホを確認するとRINEで#名前2#からメッセージが入っていた。 ーすまん、もうすぐで着くから。 ーこっちは殺人事件。 ーえっ、したら中に入れねーぞ!  そうだとしたら刑事に頼み込んででも#名前2#を中に連れてくる。こんな居心地悪い場所はままっぴらだ。毛利探偵も蘭ねーもコナンも悪くない。悪くさせたのはノックの探偵だ。 「なあ、世祖。何かわかったか?」 「……」 「なに怒ってんだよ…。#名前2#さんならもう少しで来るって言ってたから我慢しろって」 「うんー」  ぐす、と世祖が頷いたのを見てコナンは頭を撫でた。「事件に巻き込んじまって悪かったな」と言って毛利探偵の方に行く。立っているのは疲れて壁のところにしゃがみこんでいたら、千葉刑事が近寄ってきた。 「世祖ちゃん」 「あい」 「今、外に#名前2#さんが来てるみたいなんだけど……」 「!! 中に連れてきて、ね! せい、犯人 探す! 頑張る!」 「あ、ああ……。犯人探しは頑張らなくてもいいんだけど…」  千葉刑事が現場保存を担当している警官に話をつけてくれた。ぺこりと挨拶して外に出てみるとキョロキョロと周りを見る#名前2#がいた。 「#名前2#!!」 「お、世祖ー」  ぴょんと飛び跳ねると大きな手のひらがキャッチしてくれた。ぐるぐると回って#名前2#の胸に顔を埋める。 「ふふー、#名前2# おそい」 「ごめんごめん、沖矢さんが引き止めてきてて……。ああ、とりあえず中に入るか。世祖、また巻き込まれたらしいなぁ?」 「うんー。でももうわかってる」 「分かってんのか」 「じさ、ちゅ、だ」 「ふぅん?」  カランコロンと中に入ると#名前2#は世祖を抱き上げて小五郎たちのところに近寄った。新郎と向き合って座る小五郎は今回は自分の足で調べるまもなく新郎が犯人だと思い込んでるらしい。ノックの探偵が#名前2#を見てはっと息を飲んだ。何を意味するんだろう。もしかして、#名前2#のことも調べる予定なんだろうか。 「毛利さん、世祖のことあざいました」 「あ、ああ。いや……」 「あと、刑事さん。その人疑ってるみたいすけど自殺らしいすから。離してやったらどうです? 時は金なりですし」 「……はぁ? #名前2#君…。君は急に入ってきて何を言ってるんだね? 彼女が自殺? 結婚間近だというのに、またなんで…」 「はひぃん」  ばたりと小五郎が背もたれにもたれかかった。眠りの小五郎が生まれたらしい。世祖はくいっと#名前2#の服を掴むと「ショー!」と笑って見せた。  結局、世祖が気づいたとおり新郎新婦は双子であった。机の下で声をアフレコのように口にしていたコナンはあまりにも切ない顔をしていたが世祖からすれば気づかない方が悪い。#名前2#は大変だなあと他人事のように思いながら世祖を連れて帰るのだった。