ベイカー街の亡霊
ゲーム作りに協力してほしい、と呼ばれてのこのこ出向いた。何の偶然か、後輩の父親とよくお世話になっている発明家に出会うこととなった。 人生って分からないものだ。 後輩、工藤新一の父親は世界的に有名な小説家である。工藤優作という名前のその人は顔出しも多いし握手会やサイン会もよく開かれる。 そんなに有名な彼の息子が高校生探偵として活躍していればメディアの格好の餌食だった。一時期は2世スターとして色々と書かれていた工藤だが、最近はコナンになってしまったためお騒がせすることもない。少し寂しい。新聞に書かれるあの煽り立てた文句は割と好きだった。 依頼を受けたこのゲーム、コクーンはシンドラーカンパニーの社長が製作指揮を執った新感覚バーチャルゲームである。 このバーチャル具合が異常だったため、最初は断ろうとしていたゲーム企画に参加する羽目になった。 シナリオはステージに合わせて5つ用意される。工藤の父親が担当したオールド・タイム・ロンドン。俺たちが担当したソロモンの秘宝。それと、顔は知らないが名前は有名なゲームシナリオライターの人々がパリ・ダカール・ラリーと、バイキングと、あとはー……あれ、忘れてる。とまあ、ステージは5つでシナリオも5つ。 分岐選択肢などはなくエンディングもひとつである。シナリオライターの手の上で転がりながら頑張れというゲームだ。こんなの楽しいんだろうか? 「#名前2#君、君も来とったのか」 「ちはー、阿笠博士。実はシナリオ提供で色々とありまして……。えっと、そちらは?」 「初めまして、工藤優作と申します。今回オールド・タイム・ロンドンの話を担当しました。君が#名前1##名前2#くんですか?」 「そうです。初めまして」 握手を求めるとぐっと握られた。ペンだこのある硬い手だ。そちらは?と聞かれる前に俺は後ろに控えていたやつらを引っ張り出した。 「ソロモンの秘宝では本物のトレジャーハンターをイメージしてほしいと言われたので本物のトレジャーハンターです。緑がギネで黒がタヌです」 「俺、刺すしか能がねえんだからやめてくれよー」 「ふざけんな、なんだタヌって!!」 「トレジャーハンターでしたか。私はてっきりコロセウムでの戦いの指南の方かと」 「まあそれも少し手伝いました。えっと、ご紹介します。シナリオライターのクニユキです」 「どうもー」 「クニユキさん……。ドラマや映画の脚本を担当されている、あの?」 「そちらさんが戦国時代劇もののことを言うてはりましたらそうですね」 「そうでしたか。お会いできて光栄です」 「ええっ、やめてください。そんな頭下げられるような人間とちゃいます」 「だな」 「おう」 「無用はんら厳しいわあ」 俺たちの会話に阿笠博士たちは苦笑いして行きましょうかと先を促した。着いていくと広いホールにはもう人が何人か集まっている。 樫村、と工藤さんは親しそうに話しかけた。ゲームプロデューサーの樫村さんだ、と気づいたのはその時だった。何度か会っているのにどうにも顔と声が一致しないので覚えられないのだ。 「優作くんと樫村さんは大学時代の友人だそうじゃよ。今回の話はそれで引き受けたとも聞いておる」 「へー」 「#名前2#君はどうしてここに?」 「クニユキとの共同制作って感じですかね。あとは徒手空拳も少し手伝いましたけど」 「#名前2#君は本当に顔が広いのう」 「いや、俺なんてまだまだですよ」 沖野さんという人を見れば俺の顔の広さなんて蟻の額レベルである。俺の言葉に阿笠博士はまた苦笑した。そんなことないがのう、と顔に書いてあった。 今回の集まりは完成パーティの予定の調整と、映画試写会ならぬコクーン試乗会だった。 俺がやるべきことは明石をここに連れてくるまでのこと。連れてきた後は同田貫と御手杵を連れてすぐ別室へと行った。 本当は出ていこうと思ったのだが明石の迎えにもまた来なければいけないので適当な会議室に放り込んでもらった。シンドラーカンパニーはとても大きいので部屋は何個か予備で開けておくらしい。庶民とは考えが違うな、やっぱり。 「#名前2#は今度のパーティに出るのか?」 「まあなー。一応、三日月のSPみたいな感じで行くと思う」 「陸奥守は?」 「あいつも今回はSPじゃないかな。薬研はゲストだな。三日月の方じゃなくて、警察からお呼びかかってるんだと」 「警察から?」 同田貫の言葉を聞いて御手杵は手錠で捕まったようなポーズをした。ぶふっと#名前2#が思わず笑い出す。同田貫もそれを見てやめろよ、と言うが顔は笑っていた。御手杵はその姿のまま「あんまりだぁぁ」と言うのでさらに笑ってしまった。 ひとしきり笑ったあと#名前2#はひいひい息をしながら「前科とかあったら俺が殺されるっての」と笑えない冗談を投下した。 「警察の子どもと仲良くなったって言ってたからな」 「そんなら#名前2#も陸奥守もゲストになるんじゃね?」 「ええー、そうかなあ。世祖ならありそうだけど」 #名前2#はへらりと笑った。同田貫と御手杵は、三日月のことだからきっとゲストとして#名前2#を華やかにしていくのだろうなと思った。 オーダーメイドとまではいかないものの、パーティ用スーツを着せて髪をセットさせてあの高価な時計をつける。靴は映画好きの#名前2#なので勿論オックスフォードだろう。沖野に無理やり仕込まれたというマナーはまるで貴族のようだが、#名前2#の精神からはウェイターとしても雇われんじゃねえの?と言いたいレベルだった。 ただし、本人としてはその礼儀正しさが大嫌いである。その矛盾している感じは刀剣男士たちにとって面白おかしく見えた。 御手杵が同田貫の耳に口を寄せた。 「賭けるか?」 「勝ちしかねーよ」 皆ゲストになるに賭けるに決まっている。 御手杵たちの予想通り#名前2#と世祖はゲストとしてパーティへとやってきた。生憎と陸奥守がいないのは、彼が大学での発表の準備に追われているからだ。 明石に渡されたコクーン参加用バッジは世祖のもとに。出資者である三日月に渡されたバッジは薬研のもとに行った。 高校生以上は参加出来ないので、世祖は最初#名前2#が行かないならヤダとごねていた。薬研もいると聞いて仕方なく行くことに了承したほどである。 世祖は薬研と共にパーティ会場でぽつんと立っている。薬研は友人の諸星に誘われたのだが世祖を理由に断った。世祖が諸星たちのサッカーは好きじゃないと嫌がったのだ。 世祖は可愛い顔をしているわけではないが、言動はちょこまかとした可愛さがある。世祖を見た諸星たちは無理強いはしなかった。 もぐもぐと食事をしながら世祖は薬研を見上げた。スーツ姿は似合っているが蝶ネクタイはやけに似合わなかった。 「にぁーあ、ない」 「そう言うなよ。貰いモンだ」 薬研は笑ってジンジャーエールを飲み干した。その仕草は#名前2#にそっくりだった。 真似されている#名前2#もウェイターから受け取ったシャンパンを飲んだ。高い酒なのだろう。スッキリとした後味がほどよく気分を高めた。 「#名前2#。あれがよく言っていた子どもたちか」 三日月が挨拶を適当に終わらせて#名前2#のもとに近寄った。パーティ用のスーツは線の細さを強調させている。深みのある青色のレンジネクタイは前に#名前2#が選んでやったものだった。 対して#名前2#は黒いスーツに白いシャツ、ノーネクタイとかなりラフな格好だった。怒られるならば、と思ってかなり崩した姿にしたが三日月の影響なのか変な目で見られることはあっても何か言われることは無かった。 三日月のやる視線の先には食事を満喫している少年探偵団たちが見えた。保護者として毛利さんたちも来ている。きっと園子の招待だろうと予想できた。 「ああ、そうそう。世祖の学友ってやつだな。少年探偵団だよ。そんで、青いドレスが後輩の毛利蘭。横にいるスーツが巷を騒がせる眠りの小五郎。蘭ちゃんは毛利さんの娘なんだ」 「ふむ……。何度か見たことがあるな」 「鈴木財閥関係で見たことあるのかもな。赤いドレスは鈴木園子嬢だ」 「ああ。……うん、顔は覚えていた」 「名前も覚えてやれよ」 #名前2#の苦い言葉を三日月は笑って受け流した。顔や名前を覚えてもどうせ横のつながりは薄いのだから気にすることは無い。 三日月は心の中でそんなことを思ったが口にはしなかった。#名前2#はこういった言葉を嫌がるきらいがあったからだ。 「話しかけるか?」 「うん? ……そうだな、そうしよう」 三日月はすたすたと近寄っていく。毛利と同じくらいの身長のはずが脚はスラリと伸びている。2人を比べると月とスッポンだった。 「鈴木財閥のご令嬢殿は楽しんでいらっしゃるかな」 「あなたは…!」 園子ちゃんが驚いたような声を出したあと俺の方を向いて「っしゃあ」と目を輝かせた。わかりやすい仕草だった。 「園子、こちらは…?」 「三条グループの三条宗近さんよ」 「俺をゲスト招待してくれたやつだよ」 #名前2#の言葉にぽかんと皆の口が開く。三条グループがすごく有名、という訳では無いがニュースでは時たま話題に上がる。そんな人と#名前2#という男が知り合いというのは驚きだった。 「三条宗近だ。よろしく頼む」 にっこりと笑ったその顔は日本人らしからぬ美麗さがある。女性の顔を赤らめさせながら三日月は#名前2#を連れてまた歩き始めた。挨拶は済んだのでもういいだろう?と言いそうな顔だった。 「三日月ぃ」 「すまんすまん。見せつけてやりたかったのだ」 本丸では言わなそうな積極的な言葉に#名前2#がたじろぐ。どうにもここに来てから三日月の性格はさっぱりと変わって自分をアピールしてくる。嫌な訳では無いが、何となく変な感じがするのは確かだった。 「ってあれ? 世祖は?」 「世祖なら先ほどコナンに捕まっていたぞ」 「ああ、そう……」 ならいいか、と酒を飲んだ#名前2#はふと首をかしげた。 「俺、あいつらの紹介してねーけど?」 「ふはは、よいではないか」 「よくねーよ。監視すんなっつっただろーが」 #名前2#はどんと三日月を小突き食事テーブルに近寄った。その背中を見つめる視線は1つではないことに三日月は気づいていた。また厄介な者を惹いてきたものだ、と息を吐きながら三日月もテーブルに近寄った。 5つのステージ、残り一つはコロセウムですね。 簡単な人物紹介 ・御手杵 トレジャーハンターに近い仕事をしている。お察し。 ・同田貫正国 上に同じ。 ・明石国行 シナリオライターをしている。