緋色の弾丸

 今剣にかかってきた電話は長谷部からだった。珍しい。はい、とマイク付きのイヤホンに返事をすれば「おい、三日月からの命令なのか?」と不機嫌そうな声が聞こえる。 「そうです、みかづきどのが たいへんおこっていて」 「#名前2#たちの方も今やばいらしいが」 「でーとのやくそくをしているらしいので へいきなんじゃないですか?」 「……そうか」 「はせべどのは どうしてでんわを?」 「お前たちが追いかけている犯人を、FBIと一緒に追いかけろと#名前2#が言っている」 「むぅ……。#名前2#さんがいうなら、しかたないです。なにをすれば?」 「今から俺たちの指示通りに動いてくれ。FBIはすでに待ち伏せに入っている、罠の場所にまでしかける」 「りょうかいです、いいですかいわとおし」 「おお、任せておけ!」  井上という男の車がFBIから情報が送られてきた。あの車を追いかけろということらしい。  アラン会長と一緒に白鳩さんを連れて後方車両へうつった。世祖は嫌な予感がするから、と前の方に行くので俺と陸奥もついて行く。コナンと世良はまた話があるみたいだったから、放置しておこうということになっていた。 「今剣と岩融動かすってガチじゃねーか」 「三日月だからな」 「これ、俺と陸奥と両方ヤバいことになってるから?」 「じゃないか?」 「世間体があるとはいえ……無茶するよな。バトルジャンキーたち動かす方がやばいと思うんだが」  三人でこれからどうするか、と考えていたら急にリニアが速度を上げた。窓から見る光景がみるみるとブレていく。 「芝浜駅まであと10分って言ってなかったか!?」 「言った!」 「加速してるよな!?」 「してる!」  世祖が転げるように前へ走り出した。俺たちも急いであとを追いかける。世祖が何がするはずないし、たとえ阻止していたとしてもリニアの制御室があるからうまく力を隠しきることができないだろう。だから、今回のことはもう「事故が起きたあとで止める」しかなかったのだ。このままじゃリニアは芝浜駅に突っ込んでしまうだろう。 「#名前2#、おまん、」 「あぁ?」  陸奥はなにか言いたそうな顔をしていたがなんちゃあない、と笑った。 「新一、元気にしてるんじゃな」 「おう、あんな感じでバレバレの演技してるけど」  がははっと陸奥が笑う。本当は、もっとこんな風に笑いあっていたいけれど揺れがひどくなってきてしまった。世祖がメインの制御パネルをいじっているがコントロールが効かないみたいだ。 「これ、ダメかもしれねえな」 「ダメ、じゃない」  世祖はもぞもぞと白鳩さんが持っていた拳銃を口にくわえて運転席の横にある扉を開いた。 「せ、世祖? なあ、おい。今回どうして俺に何も話してくれないんだ?」 「やっっ」 「拒否られた……」 「#名前2#さん、今灰原から連絡があってこっちでもクエンチが起きてるみたいなんだ。それでメインの制御室に……」 「あ、ああ。こっちにいるよ。たぶん、同じこと考えてると思う」 「え……?」 「パラシュート、やるんだろ」 「そうだけど……」 「コナンたちは危ないからそっちにいてくれ。陸奥も向かわせる」 「#名前2#!」 「世祖が先頭に向かってるから、俺も残る。な、頼むよ。さすがに小学生と高校生をそんな危険な目に合わせられない」 「……#名前2#さんだって、まだ、わけーだろ! デートあるってさっき陸奥さん言ってた!!」  陸奥の方を見るとへらりと笑っていた。どこでいつの間に話してしまったんだか。 「そのデートのためにも絶対生き残る。だから、お前たちはそっちにいてくれ」  探偵団バッジが切れる音がした。世祖とは、念の為に力で紡いだ紐を持たせている。片方は俺が持つことにして、何かあればすぐに引っ張り出せるように。  陸奥は揺れている車体の中も気にせず走り抜けた。やっぱら刀剣男士ってなにかおかしい。  制御室のもとで世祖からの合図を待っていたら、びくりと紐が大きく揺れた。合図だ。青いボタンを押して紐をたぐりよせて走り抜ける。  世祖は弾丸のように飛び出てきた。その手に持っていたのは阿笠博士と一緒に試作品をしていたという巨大なサッカーボールを膨らませるベルトだった。 「お前、それ……」 「いこ!!」  世祖が走り出して、俺も一緒に走り出した。そのベルトで自分と世祖をしばりアラン会長やコナンたちがいる車両へ駆け込んだ。  今剣は長谷部の電話からかかってくる知らない人間の声を聞きながら岩融に指示を出していた。ふたりとも、犯人を必ず裁きたいわけではなかった。ただ、三日月があんな風に怒るのは珍しかったので首を突っ込みにきただけである。  男の声が命じるままに横浜を駆けていたら、犯人は見事にFBI達のいる場所へと突っ込んでいった。車が吹き飛ぶのを現実で見るのは初めてだった。いや、ただの人間が吹き飛ばすのは、である。  後は彼らが何とかするだろう。犯人を改心させるのか、それとも心を折るのか。どちらにせよ犯人が警察に捕まるところまでは興味はなかった。でも、その前にと今剣は写真をおさめた。 「今剣? どうしたんだ」 「みかづきどのにわたすんです。これですこしは きぶんもはれるでしょう」  意外なことに、世祖はあまり大きな怪我はしていなかった。俺の方は頭を縫わないといけませんね、と言われて「は、はい」とおそるおそる返事をする。コナンたちにまた睨まれていた。今度は涙目で。「#名前2#さんがどうにかなるかと思った!!」と叫ばれて彼らをなだめすかすが陸奥が横で色々言うので俺の言葉がどうも空回りしていく。 「とりあえず、病院行ってきます……」 「事情聴取は僕らで終わるように頑張るね」 「うん、頼んだ」  世祖だけでは不安だ、と陸奥も一緒に救急車に乗って俺たちは病院へと向かった。自分が気づいてないだけでひどいケガだったらしく、検査入院だと言われて病室へ行ったら三日月がいた。  つよく抱きしめられて、ようやく帰ってきたんだなあと思う。 「なあ、デートいつがいい?」  そう聞いたら三日月は涙声になって「今やっている科博の展示会でいい」と言った。それは俺だけ楽しいんじゃないのか、と聞いたら「ついでに東博も行きたい」と言われる。 「……ん。わかった」 「約束だからな」 「はいはい!」