紺青の拳

 シンガポールへ来た。園子が金を払うから、と数珠丸たちも彼女と同じマリーナベイサンズホテルへと泊まっている。飛行機にいる新一を見て色々と察してしまったが#名前2#は何も言わなかった。  数珠丸は今回は芸術家と称してついてきた。刀剣男士たちの適当な職業詐称に段々怖さを思いながらも#名前2#は世祖とおそろいで買ったサングラスをつけてシンガポールへと降り立ったのだった。 「暑いなあ、世祖飲み物は?」  世祖は地面を反射する光にも辟易しているのか首を力なくふるだけだった。数珠丸が水を買ってきてくれるという。同じく暑さにだれている毛利探偵の横に#名前2#も座った。 「おう、お前か。世祖は大丈夫か。子供の方が浴びるからな」 「日焼け止めと帽子とサングラスは装備してるんですけど飲み物が終わっちゃって。今、恒次が買いに行ってくれて」 「そうか……。ああー、マーライオンったってあんなもんだしな。お前らは楽しんでるか?」 「俺はもう十二分に」  本丸にいたころは海外に目を向けることもなかったのだ。こうやってネタにされたりつい最近ニュースを賑やかしたマーライオンを見れるとは思ってもみなかった。 「#名前2#、水です」 「ありがとうー」 「これは毛利探偵に」 「おお……すまねえなぁ…」  水を飲んで世祖にも飲ませてやる。数珠丸はあの長い髪の毛をまとめあげて涼しそうにしているが熱は籠っているはずである。#名前2#は鞄に何か入ってなかったかと探してシンガポールで買ったキャンディを取り出した。 「アメでも舐めるか?」 「……。いただきます」 「いや、いらないならいいんだけど」 「いえ頂きます」  数珠丸は口に含むとカラコロと転がした。飴を舐めるのが下手くそな人間を初めて見た。園子たちは京極と合流するためにまだマーライオンのところに立っている。と、変装したキッドが近寄って来た。 「#名前2#さんたちも休んでたんですね、大丈夫ですか」 「なんとかって感じだけどなあ。あれ、お前のスーツケースは?」 「あ、えっと」  新一が視線を向けた先に一人の少年がいる。肌が黒くなっているがコナンだ。何でこんなところに? しかも現地の子どものような恰好をしている。世祖も気づいたのか#名前2#の膝の上から降りようともがく。一緒に行く、と#名前2#が手を繋いで歩き出すと新一の方が先に駆け寄った。 「あー、新一? ていうかキッド? もうバレてるからあんまち取り繕うなよ」 「へぁ!?」 「キッド、お前秒でばれてんじゃねえか」 「まあ骨格で少しは分かるしな。コナンはキッドに連れてこられたってことか。まああんまり危険なことするなよな」 「分かってますって」 「#名前2#さんと新一? そんなところで何をーー」  顔を見せた蘭ちゃんにコナンは慌ててキッドの後ろに隠れた。園子ちゃんはガキんちょにそっくり、と驚いているが本人だから仕方ない。蘭ちゃんはニコニコして「君、お名前は?」と聞いている。 「ぼ、僕はアーサー平井だ!」 「んっふ!」  名前の由来が相変わらずドイルと乱歩から取ってくるのか。コナンはキッドと話をすり合わせるように親が日本にいて一人で留守番してるんだ、と言う。 「俺達、ここに空手の大会の観戦に来たんだ。そのついでに観光したいんだけど君暇なら案内してくれるか?」 「いいの? もちろんだよ!」 「よかった」  これで一緒に行動するのに理由をつけられた。園子は観光するのに現地のガキんちょかあ、と唸っていたがすぐにスマホを確認して「やば!」と行ってしまった。 「あのお姉ちゃんどうしたの?」 「うん、ここで待ち合わせしてる彼氏からの連絡かな?」  京極真っていう人でね、あの空手の大会に出るんだ。そう教えてやるとアーサー、もといコナンは「そうなんだ、かっこいいね!」と笑う。情報共有したいのは俺もコナンも同じ気持ちなのだ。コナンをスーツケースの上に置くと数珠丸に呼ばれてしまった。蘭ちゃん、キッド、コナンと置いておくのに見た目は蘭ちゃん、新一、シンガポールの少年のアーサーである。不思議な気分になりながらまた世祖を連れて数珠丸の元へ戻る。 「あそこにいるのが中富海運の息子です」 「ああ。禮次郎って名前だっけ」  お雇いのボディーガードが沢山ついている。数珠丸の話を聞いたやつだとあれはレオン・ローの会社の人間なんだろうか。園子ちゃんに中富がナンパしたがすぐに京極が動いていた。園子ちゃんのこととなると紳士的に活動しようとしてかなり暴走している気がする。まあ園子ちゃんも京極のために色々とするところは似ているか。  二人が何か言っているが園子ちゃんが顔を赤くさせているのと、その顔を見て京極が照れているので邪魔しないようにしておこう。体力が少し回復した毛利探偵と一緒にℬ所を移動した。 「えっ、大会に出られないってどういうことぉ!?」 「実はこの大会にはスポンサーからの招待枠で出ることになっていたんですが……」  そういえばシェリリン・タンの妨害で京極が召喚されたと言っていたな。それをそのまま言うのは変な感じがするので黙っておく。スポンサーがいないので出ることは出来ないと言った京極に園子は「なら! 私がスポンサーになってあげる!!」と宣言した。そのままどこかに電話を書けたと思ったら京極の招待枠をもぎ取ったというのだ。 「やっべぇー」 「……。失礼」  数珠丸も同じく少し離れたと思ったらどこかに電話をかけ始めた。そして何度か頷くとこっちを向いて「#名前2#、こちらも準備が整いました」と言う。 「は? いやいや何の準備だよ」 「三条がスポンサーです」 「いやいやいや」 「#名前2#さんも出られるのですか!? ありがたい。一期から戦ってみろ、と言われていたのですがなかなか本気を出していただける機会がないと考えていたのです。お忙しいことも聞いておりましたし。でも、大会なら思う存分戦えますね!」  好戦的な獣の目つきになった彼に園子を押し出した。ぽん、と顔が恋する男に戻る。少し面白い。園子はさ、行きましょ!と京極の背中を押して歩き出す。俺たちも後をついていくがちょっと話がしたかった。 「ていうか数珠丸。今の電話本当に三日月たちか?」 「沖野さんもいました」 「だよな、世祖が少し反応してた」 「京極真のこともレオン・ローには気づかれています。しかし彼に宝石をそのまま取られていいものか、と思っていました。鳴狐殿から京極君があなたと戦いたがっていることを聞いてこれはいい、と」 「なるほどねえ」 「三日月からの伝言ですが棄権は許さない、とのことです」 「三日月? 沖野さんじゃなくて?」 「戦う姿を見たい、ということでしたよ」  うう~~と頭を抱えた#名前2#に数珠丸はくすり、と微笑んだ。彼にこんな顔をさせる三日月も多少は羨ましく思いながら。