ハロウィンの花嫁

Note

小話まとめ
・幽霊たちと
・佐藤刑事と
・風見さんと

 幽霊になってから思っていることがある。俺たちは死んでるから、生きている人間に作用するなんてできない。さらに言えば、俺たちの願いとかそういうものは生きている彼らにとってはどうでもいいものと思われてしまうということ。#名前2#くんがまるでなんの躊躇いもなく命の限界を飛び越えようとするさまを、俺はずっと怖かった。ゼロも怖がるところを世祖ちゃんは信頼という脅迫で動かしていた。#名前2#くんは、まるでそれが当たり前のように動いていた。飛び降りる彼を見て叫んでいた。俺たちはそこにいることは許されなかった。あんまり近くにいて#名前2#くんの邪魔になっちゃ困る、と不動たちは遠くのビルから見ているように言った。  彼は俺たちの声なんてまるで聞いてなかった。パラシュートを持っていたからよかったとか、そういう話でもなかった。やるしかないから、とその一言で自分の命をあんな軽々しく扱うような男だと知ったのが悲しかった。  彼が死んだあとの世界は自分がもらえると思っていた。そういう約束だったから。いや、もらえるなんておこがましい。死んだ後の未来の世界では自分はようやく平等さをもって彼に告白できるのだろうと思っていた。 「俺、#名前2#くんに死ぬなよって言ったんだけどさ」 「……それ、返事くれなかったんじゃない?」 「わかる?」 「うん。#名前2#さんのことだから、何となく」  包と書いてくるみと読む。見た目は可愛らしい子どもでもこの子は刀剣男士という人間ではない別の生き物なんだそうだ。なのに、この世界で暮らしていけるのはそういう風に誰かが世の中を動かしているから。その誰かさんは今はFBIに身を隠しているだとか、黒の組織にいるだとか、色々なことを聞いている。  ここは、彼ともうひとり不動行光が住んでいる家。見た目はそんなに広くはないけれど、なぜか中身は広々とした雰囲気のある家。どうやってるの? と聞いたら、刀剣男士のパワーってやつかなと適当に返された。刀剣男士ってなんでもあり? と聞いたら軽くうなずかれた。 「なんでもありなのは世祖の方だよ」たしかに。  刀剣男士たちと一緒にいる頃からあんな感じ? とついでのように聞いたらすぐに頷かれた。 「#名前2#さんは、いつだって一生懸命だよ。自分が死んでもいいと思ってる」 「……#名前2#くんには、そんなところで死んでほしくないなぁ」 「おれたちもずーーっとそう言い続けてたんだけどさ!」  ぴょこん、と包が椅子から飛び跳ねて着地した。にっこり笑っているのに冷えたような雰囲気をかもしていた。ここから先は、俺たち人間と刀剣男士とでは違うというように。 「でも、ダメだった。あの人は、どうやっても変わってくれなかった」 「……さびしくない?」 「いやだーって思うし、ずっとそれを忘れるってことはない! と思う! でも、#名前2#さんと世祖以外に自分の主を考えるとかもうできないし……。一生、付き合っていくしかないのかなあって」  それを聞いて、なぜか自分の仲間を思い出した。みんなは家族を殺された事件を追いかけるときに「死なない」と宣言してくれた。というか、あのときは結局俺の方が無茶したわけだけど。それでも、アイツらがいなかったらあんなこともできなかったわけだし。 「それって、信用? それとも、諦め?」 「へへっ。どっちも、って感じ!」  #名前2#くんが家に、というか不動たちに会いに来たんだと思ったけどそうではなくて俺たち幽霊の方に会いに来てくれた。異様な回復力というか、もうすでに事件のけがは消えていてふつうの大学生の出で立ちだった。本当の年齢は俺たちよりももっと上なんだよな、と思うとなんだか変な気持ちだ。  包は#名前2#くんの膝の上にすわりたそうにしていて、横で不動が「お話が終わったらな」とこそこそ話をしていた。それに気づいてか、#名前2#くんは「手短に終わらせますね」と苦笑いである。 「皆さんのおかげで助かりました。ありがとうございます」 「って、言われてもなあ……。俺たちは何もしてねえぞ」 「いろんなことがめぐって、プラーミャも、彼女を殺すためにあった組織もこれで決着がついたんです。皆さんがあのとき爆弾を止めてくれてよかった」 「ってか、俺にいたってはそのプラーミャってやつにも会ってないけど」 「あ、ああ。そのことなんだけどよ」 「萩原さんが教えてくれたことが、爆弾を止めるアイデアになったので」 「えっ、そうなの!? なんか面と向かって言われると照れるな……」 「んで、今回はお礼を言いに来ました」  ありがとうございます、と深く頭をさげる彼を見るとやっぱり好きなんだよなあという気持ちになる。惚れた弱み。こいつ!! と思うことはいっぱいあるのに、どうしてか他にいいところを見るとすごくぐぅ~~っと気持ちがわき上がってくる。 「いいってことよ、おまえが無事で何よりだしな」  松田に言われて、#名前2#くんはにっこりと笑った。あ、これはまずい。俺はそっと松田の傍からはなれた。 「あ、今度からどうしてもお手伝いをお願いしなきゃならない時以外は絶対に近寄らないようにしますね。マジで気が散るんで」  松田に変装したときのあの話をしているのだと思うが、松田はぴしりと表情を崩した。 「おまえ、俺がいなかったらもっと大変だっただろうが!!」 「あのときは我慢しましたよ」 「大体な、ただの大学生があんなヤバい事件に首つっこむなよ!」  #名前2#くんはもはや話半分に聞いていて、包を膝の上にのせている。なんというか、ようやく日常に戻ったんだなとホッとした。


「松田くんのマネ、とってもうまかったわよ」 「……ありがとうございます」  佐藤刑事は俺がわざとついていったとき、風見刑事に「子どもを危険にさらすなんて!」とビンタしたらしく、それで今は処分を待っているんだそうだ。子どもながらに突っ込ませたのは風見さんよりも上の人間なので、おそらく佐藤刑事に大きな処分は下されないだろうと思う。それよりも心配なのは風見さんだ。振り回されまくっていて、心配になる。 「いろいろ、ありがとうございました」 「こっちこそ。いつもありがとう」 「佐藤刑事たちがホントに結婚するときには招待してくださいね。絶対行きますから」 「あら嬉しい」  ふふっと佐藤刑事は笑った後「今回も、君に頼ってもらえなかったね」とつぶやいた。  大人を頼れ、という言葉は松田さんにも言われたんだっけ。おんなじことを言う人なんだな、と思ったのだ。あのとき。 「頼らないんじゃなくて、信頼してるから頼れないんですよね」 「え?」 「何か任せておきたくて、絶対やってくれるって信じてるから、俺は俺にできることをやるしかないなって」 「……だからって、君は無茶しすぎ」  頭をこん、とつつかれたあと「でも君たちがいてくれて本当によかった」と笑った。へへ、と笑うと彼女は俺にコーヒーをおごってくれた。迷惑料ということらしい。お手軽な迷惑料である。  佐藤刑事も高木刑事も根がとても善良だったので、俺は迷わず彼女たちの結婚式の招待状をなかったことにした、と言えば。彼女たちは怒るのだろうか。


 キュラソーの一件でも思ったが、風見さんはどうにも真面目すぎる。もっと不真面目に生きてみればいい。俺みたいに。少しは気が楽になってだんだんまともに生きていくことも難しくなって、最終的には気楽に、不真面目に、死に向かって生きていくだけになる。  風見刑事に会うために、誰かつかまえようと思っていたが目暮警部が電話をつないでくれた。おかげで出待ちなどせずに済んだ。  いつかの時にコナンと風見さんが会ったという公園に来た。風見さんにはいい思い出なんてないんじゃないかと思ったが、彼はふつうにやってきた。意外と図太い人だ。 「風見さんって呼んだ方がいいのか、田上さんって呼んだ方がいいのかどっちかな」 「……風見、で大丈夫です」 「わかりました。風見さん」 「はい」 「今回はほんっとうにご迷惑をおかけしました……!」 「えぇっ!? あ、いや、あの……」 「なんかうちの身内がいろいろとご迷惑をおかけしていたみたいで……」 「大丈夫ですよ、それに早期解決になってこちらも助かりました」  言うほど早期解決でもなかったかもしれない、と思ったが風見さんは愛想でそんなことを言っているわけでもなく本気で「よかった」と思っているようなのでそれ以上は何も言わなかった。  やっぱり世祖と安室さんとで連絡をとりあってましたか? と聞いたら、苦笑いでうなずかれた。 「あの子が凄腕のハッカーだなんて、初めて知りました。この世は、やはり広いですね」  なるほど、そうやって話が通っているのか。ならば、こっちもそれに合わせて話をしよう。世祖の生い立ちや能力なんて基本的には嘘でできているのだし。 「世祖、ちゃんは」 「はい?」 「…………いえ、やっぱり何でもありません」 「そうですか」  風見さんはたしか、一度沖野さんに直々に釘をさされたと聞いている。世祖が小さくなったのは俺の不手際ではあるけれど、その余波がいろんなところに及んでいる。幽霊たちには結局、刀剣男士だとかそういった話もバレてしまった。風見さんや佐藤刑事だっていつそっち側にいってしまうかわからない。まあ、知ったときには命だってなくなっているだろうが。