園子と赤いハンカチ
園子ちゃんたちに紅葉狩りに誘われた。車を出してくれというお願いだったが、自分も嫌な話ではない。向こうは蘭ちゃん、園子ちゃん、コナンでこっちは俺と世祖とで行くことになった。指定された山はなんとなく聞き覚えが合ったが、どこで聞いたのかは全く思いだせなかった。 山の駐車場に車を置いて舗装された道を上る。世祖は本丸で山を近くに感じさせていたからか紅葉狩りを雅に楽しんでいた。歌仙の努力のたまものである。でも、園子ちゃんは紅葉狩りは口実で何か別の目的があるらしい。赤いハンカチを片手にリズミカルに歩いている。今にもスキップしそうな勢いだった。 「園子ちゃんの持ってるハンカチ、何かあるのか?」 「へへーん、実はですねー!」 喜んで理由を語ろうとする園子ちゃんの手から、風がハンカチをさらってしまった。紅葉している木にハンカチがかかる。 「あ」 「あ、うそ、やだー! ちょっとガキンチョー! あれ、取ってきてー!」 「えぇー」 「コナン君、お願い」 全くしょうがねえなあと呟いてコナンがするすると木を登っていく。世祖もそわそわと横で体を動かしたが手をつないで引き留めた。今日履いているズボンは記事が薄いのだ。ざらついた幹にこすれてケガする可能性もある。世祖はまだ下りるのが下手なのだ。 「ねー、見つからないよー?」 「そこに見えてる赤いのは違うのか?」 「んー、縛られてるしたぶん違うと思う」 「#名前2#、こぇ」 世祖が手渡したハンカチに園子ちゃんが反応した。 「それよ、それー!!」 「園子ちゃん、世祖に言うことは?」 「あ、世祖ちゃんありがとうね!」 「いぃよー」 世祖がにへへと笑ったところでコナンは「で、俺には?」と木の上で言っていた。 「それで、そのハンカチとこの山はどんな関係があるんだ?」 「#名前2#さん受験生だったから見てないかなー。『冬の紅葉』っていうの!」 「せい、しってう! ドラマ!」 「それそれ!」 「そういえば去年、流行ったねえ。うちは裏でヨーコちゃんの歌番組あったからおとうさんにテレビ取られちゃったのよね」 「で? そのドラマと赤いハンカチと何の関係があるの?」 「うーん、がきんちょに言ってもこの恋愛のすばらしさは分からないと思うけど…話してやるか!」 そう言って園子ちゃんは冬の紅葉というドラマについて語ってくれた。検索すると主役の男はこのドラマで有名になったらしい。あまりこういった恋愛もののドラマは好きではないので全然知らなかった。 時代背景は戦争が始まりそうな昭和初期。資産家の令嬢と若い将校が主役だ。紅葉の木にひっかかってしまったハンカチを将校がとってあげたのが彼等の出会い。相思相愛になった二人を妬んだ悪役に将校は濡れ衣を着せられてしまう。このままではいけないと将校は身を隠すことにして、二人は離れ離れになってしまった。そして戦争が終結を迎えるというころに令嬢に一通の電報が届く。 「彼は電報でね、こう書いたの。『初空の紅葉の下で待つ』って」 「初空、って確か元日の朝の空のことよね? 紅葉なんて散ってるんじゃ……」 「そう。その令嬢もその場所が二人が初めて出会った紅葉の山ってことは分かったんだけど……彼がどこで待ってるかまでは分からなかったの。そして彼女は雪の降る山の中を一人で探し回るの。『初空の紅葉』はありえないことの例え。もしかしたら自分を待つことは諦めてくれって意味かと思い令嬢は帰ろうとしたときに見つけるの! 木に結わえられたこの赤いハンカチをね! そしてその木の下で再会した二人はそのまま駆け落ちして幸せな家庭を築いたってわけ!」 「今、検索してみてたんだけどさ。この将校、京極に似てね?」 「あ、そう思いますー!? この前見返したらなんか私と京極さんみたいだって思ったらハマっちゃってー! ロケ地まで来ちゃいましたー!」 「それで赤いハンカチを持参したのか。京極に見せるの?」 「うふふ、それは内緒でーす」 「でも、それ結んで大丈夫なの?」 「ひとつくらいバレないってー!」 「いやあ、バレると思うよー」 コナンが指差した先には赤いハンカチがずらりと結ばれている光景があった。まるで神社でおみくじを結んであるかのようだった。 「な、なにこれー!!?」 「このいわ。 みた」 「あー、ここがちょうどロケ地なんだ?」 「は、はい。この岩をバックに将校が待ってたんです」 「みんな考えてることは同じってことだなー」 「そ、そんなあ……。どうしよう、私もう真さんにメール送っちゃった」 「メール?」 「今年のイヴイヴ冬の紅葉の下で待ってます、って」 「あー」 京極なあ。園子ちゃん大好きなのはいいんだけどちょっと時代とはズレてるところがあるからなあ。鳴狐も面白がってノリで教えたりしないし天然炸裂するし…。ちゃんと来れるのか、アイツ。 「園子ちゃんのためにもハンカチ取ってやるか? まあ、京極と会えたら園子ちゃんのハンカチも回収してほしいんだけど。ここ、公共の場として公開してるけどハンカチ結ぶのはあんまりいい行為あないし」 「手伝ってくれますかー?」 「君たち、ハンカチを取るのかい?」 後ろから話しかけられた。見るとニット帽に薄手で袖のないダウンジャケットを着た男の人がいる。全く知らない人だった。 「ごめんね、僕のせいでハンカチがこんなに付けられるようになっちゃって」 「僕のせい、ってことは冬の紅葉の原作者さんですか?」 「いや、僕は番組のADだよ。ここは実家の近くでね、子どもの頃から遊んでたんだ。脚本家の人に紅葉の綺麗な山はないかって言われてここを紹介してね。ロケハン中に枝に赤いハンカチが結ばれてるのを見て脚本家が『これは使える!』って言ってドラマであんなふうに変えて使ったんだよ」 「不思議な縁もあるもんですね」 「はは、縁か。そうだね、ここも紅葉シーズン以外に人が呼べるようになったし、縁が繋がったのかな。……ああでも、縁と言えば面白いファンの人がいたよ。冬の紅葉のモデルになった赤いハンカチを探してほしいって言われて山中歩き回ってきたんだ」 「お疲れ様です……」 「ありがとう。…それで、ちょっと言伝を頼まれてくれないかなあ」 「え?」 「そのファンの電話番号度忘れしちゃって。駅前にある赤城旅館のロビーのノートに書いてくれるだけでいいんだ。『お探しの木は見つかりました。ドラマラストで使った岩の前に来てくださ。ホヅミより』って」 「あー、山を降りて山に登るのは大変ですもんね。えーっと漢字は稲穂を積む、ですか?」 「ああ、いや。ホヅミはカタカナで書いてくれればいいよ。そのファンとは電話でしか会話してないからね」 「なるほど。ファンの人はもう旅館に? すれ違いとかは?」 「いや、今朝からチェックインして首を長くして待ってると言っていたから大丈夫だと思うよ。何かあったらそのノートに書いておくって言ったしね」 「了解です」 ハンカチと紅葉に釘づけになっていた世祖を回収、コナンたちも紅葉狩りはもういいのか帰りにお団子買おうーという話をし始めた。山を降りて赤城旅館の中に入る。ロビーには山の感想などをお書きくださいというノートが設置されていた。 「俺書いておくからお団子買っておいで」 「そうだ、#名前2#さん。お腹もすいてくる頃だし、そこのファミレスでご飯食べてきません?」 「はいはい、奢ってほしいのね」 「いや、そういうわけでは」 「あはは、いいよいいよ。年上だしバイトもしてるしね。5人座れる席取り行ってきてくれる?」 「はーい」 日付と時間を書き、さっき聞いた文面を書きこんだ。ノートを返し、ファミレスに入るともう世祖が俺の分も注文を頼んでくれたらしい。リゾットとピザのダブルコンボ。的確に俺の好みが反映されていた。女子高生たちにデザートもおねだりされ、仕方なく払うことにした。 お腹も満腹になりお土産を買って帰ろうかとしたとき園子ちゃんが赤いハンカチを取り出した。引っ張り、くしゃくしゃにしたり、結んでわっかを作ったり。何となく彼女が次に何を言うか分かった。 「やっぱり結びに行こうかなあ」 もう午後5時。これで米花に帰るとなると夜7時は必ず超えるだろう。結んで終わるだけなら、の話だ。絶対にあのホヅミって人は何かある気がする。 「これから行くの!? もう結構外も暗くなるけど…」 「だって……これで真さんが来たとき私のハンカチじゃないところで待ってたとしたら…他の女に真さん取られちゃうってことでしょ?」 「けふっ。園子ちゃん、恋ってのは決闘だよ。右も左も見ちゃいけない。って偉い人も言ってる。最初に決めたならそれをやりとおした方がいいんじゃない?」 園子ちゃんはぐっと何かを決めたのか赤城旅館に行こうと言いだした。ロビーで竹串とテープ、黒いマジックを借りてハンカチを幟のように変えてしまう。分かりやすいけど情緒は確実になくなった。世祖も残念そうな顔をしている。 「んじゃまあ、早くいこうか。暗くなっちゃうし」 あの岩のところはまあまあ上にある。腹の中にある食べ物と戦いながら何とか歩き続けていたら世祖に服を引っ張られた。 「んー?」 「ねえ、これADさんのかな?」 世祖とコナンが指差したのはホヅミと大きく書かれたノートだった。パラパラと拾って中身を見てみるとロケやインタビューなどのテレビでの言葉が見えた。 「そうっぽいな。落としたのか」 「#名前2#! ち!!」 世祖が慌てて俺の手を取ってケガしてないか確認する。地面で何か汚れていたのかと思ったら血で染みていたらしい。暗くなってきて俺の視界もアホになったんだろうか。コナンがそれを見て走り出した。慌てて蘭ちゃんたちも追いかけるが俺はノートについていた血の方が気になった。エイプリルフールの日が赤く染まっているのだ。今は10月なのに。 「#名前2#、ぃたい ない? らいじょーぶ?」 「うん平気。大丈夫」 「っきゃああああ!!」 蘭ちゃんたちの叫び声が聞こえた。まだ心配そうな世祖と血で汚れなかった方の手を繋いでコナンたちを探しに行くとホヅミさんの死体を見つけた。ナイフで腹と胸を刺されている。死体の血の様子からしてそこまで時間は経ってない。 「30分くらいってところかな」 「だね。死因はこのナイフだろうけど…」 「ファンの人がなぜこの人を殺したのか。赤いハンカチに何かあるのかもな」 「つち」 「世祖?」 「ほら」 見せられたのは被害者の手だった。爪の間に土が溜まっている。話しかけられたときはこんな手ではなかったはずだ。 「どこか掘ったのかな」 「かもしれないなあ。ここ、ではないだろうなあ。一度あのノート落ちてたところ戻るか?」 「でも死体をこのままにはしておけないよ。警察が来るまで待とう?」 コナンが視線を向けた方には人の気配が数人ほどあった。犯人かもしれない、ということだろう。 「分かった、そうしよう」 下手に動くとこちらまで狙われてしまう。仕方なく俺たちはここで待つことになった。