園子と赤いハンカチ
群馬県警の山村刑事がパトカーに乗ってここまでやってきた。紅葉狩りをする人にとっては下の落ち葉も楽しむ一つの光景なのにタイヤ痕で悲しいことになっている。まあ仕方ないことではあるが。 「あれ? 君とそこの御嬢さんは初めてですね。同じく第一発見者ですか?」 「name1##名前2#です。東都大学の一年。こっちは指貫世祖。妹でコナンと同じ小学1年生です。今日は蘭ちゃんたちと一緒に行動してて」 「家族なのに苗字違うんですか? 怪しい…もしかして、この人と家族関係のいざこざがあっちゃったりして!?」 「いざこざはもう終わってますよ。苗字が違うのは養子に取られても名前を変えないようにお願いしたからです。そしてこの人とは今日が初対面です」 「あ、そうですか」 「#name2さんは犯人じゃないわよ! 今日は私達とずっと一緒に居たもの!」 「それで、この被害者とは何かあったんですか?」 「言伝を頼まれて駅前の赤城旅館に行って、またここに戻ってきたら倒れてたんです」 「言伝ってどんな?」 「この人、冬の紅葉ってドラマのADさんで…」 山村刑事は冬の紅葉!?と驚いている。おばあさんに勧められて見始めたらハマってしまったらしい。群馬のローカルTVでちょうど再放送をやっているんだとか。 「毎週土曜日にやってるんだけどね、ほら、今日は土曜日だろう!? 一応録画はしてるんだけどね、携帯TV持って来ちゃったよ!」 白けた視線を受けて山村刑事は「それで、どんな言伝を?」と本題に戻った。 「あ、はい…ドラマの元となった赤いハンカチがついていた紅葉の木の場所を知りたいというファンがいて。その木を見つけたから赤城旅館に泊まっているファンにそのことを伝えたい、と」 「横着な人ですねえ……」 「朝から木を探してたから疲れちゃったんだって」 「それで、そのファンの人には会ったのかい?」 「あ、それは#名前2#さんがノートに書いてくださって」 「俺が書いた後、誰かノートに近寄ってったのは感じたけど誰かまでは見てないなあ。流石にプライベートなことだし、と思って」 「そんなの気にせず見てくれちゃってよかったのに…」 「そういえば、この人自分の名前をホヅミってカタカナにしろって言われました。漢字は稲穂を積むでいいのかって聞いたんですけどね」 「ふーん?」 「もしかしたら普段からカタカナを使ってたのかもね。ほら、この手帳もホヅミってカタカナだし」 「これは?」 「被害者の人のやつだと思うよ。落ちてたのはここから100Mぐらい離れた所。血で濡れてたから急いで走ったらこの人を見つけたんだ」 「……だとしたら、この人は自分の名前の漢字を忘れちゃうようなおバカさんってことに…」 さすがの世祖も白けた顔になっている。「あのお」と話しかけて4月1日のページを見せた。赤く染まっていて指紋もついているというのに山村刑事は「そうか、やっぱりこの人はおバカさんだったんだ!」と言いだした。どうしてそうなるんだ……。 「あの、それ、ダイイングメッセージだと思うんですけど…」 「えー、それじゃあ犯人がおバカさんってことかい?」 「あの山村さん。この被害者、被害者の死亡推定時刻は午後5時頃…。一度腹を刺されたあと、胸を刺されたというのは分かったんですが…。被害者の身元を確認できるようなものはなくって」 「それなら大丈夫ですよ、テレビ局に電話してADのホヅミって人について聞けばいいんです」 そこはちゃんとできるのか…。不思議な刑事さんだ。と思ったら世祖にしゃがまされた。上で刑事さんたちが無人のテントがどうたらこうたらと喋っている。 「あの刑事さん、優秀なんだかポンコツなんだかわかんないなあ」 「わたぬき、はしがつ ついたち」 世祖が見せてくれたのは四月一日と書いてわたぬきと読ませるキャラクターだった。昔、短刀の誰かがハマり本丸に漫画を置くことを要求されたので覚えている。面白い名前だなあ、と。 「つまり?」 「ほづみ は、はちがつついたち」 「あー、そういうことか」 漫画の中では五月七日でつゆりと読ませるキャラクターもいた。日本の苗字でも日付から付けている人たちがいるのだ。携帯で確認してみると本当に八月一日と漢字で書いてほづみと読ませている。ダイイングメッセージの正体は分かったが殺人の動機は分からない。このまま旅館に行こうかどうしようか迷っていたらパトカーはそのままに旅館まで歩いていくことになったようだ。チャンス!と思い、世祖はコナンと一緒に連れていってもらい段々と歩くペースを遅らせて集団から外させてもらった。 最初の赤いハンカチがあったところを確認しに行くとやっぱり土が柔らかくなっている。落ち葉でカモフラージュしようとしたのは分かるが、地学を習った人なら分かると思うが腐葉土などの腐りかけた落ち葉が地面と接着してないとおかしい。あまりにも分かりやすかったのでもう一度掘り返すと骸骨があった。と、電話がかかってきた。 「あれ、鳴狐」 「#名前2#さん…今、群馬の紅葉の山に来てる?」 「……。あのさあ、変なこと言うけどお前もしかして…」 がさりと後ろから手が伸びてきて目隠しをされた。だーれだ、と狐の声で言われる。 「…鳴狐」 「正解」 ジャージを着て立っていたのは杯戸高校で学生をやっている鳴狐だった。どうしてここに?と聞くと「真が園子嬢のためにここで待つって言うから、今日は差し入れしに来た」 「なるほどねえ」 「#名前2#さん、ここの周り変な人だらけ。悪い人?」 「えーわかんないなあ。わたぬきって人が殺人犯なのは分かってるんだけど」 もう話しかけた方が早いのでは、と近くにいた男の人の手をひねり上げた。 「ったああ!!!」 「え、これで痛いとか今の人言いだすのか。ごめんなさい、とりあえず話を聞かせてください。ここにいる人たちはあの死体を知ってるんですか」 「誰がっ! いうもんか!!」 「あ、知ってるんですね」 ごきり、と鈍い音がした。肩の外れる音だ。男はもう声を出すのも嫌なのか涙を流しながら小さく痛い痛いと呟いている。ヤクザだか何だか知らないが大勢でいると個々が弱くなってしまってしょうがない。酒浸りの生活でもしたんだろうか。やけに肌がたぷたぷとしていた。 「鳴狐、京極呼んできな。こいつら、たぶん何かやってるわ」 「了解」 「いえ、大丈夫です」 ずさりと木の上から誰か下りてきた。蹴撃の貴公子なんて言葉がよく似合う。下りた際にちゃんと背後にいた男を一人伸している。 「す、すげえ」 「ぜひあなたのお力を見たかったのですが多勢に無勢。ここはお力を貸すことにしました」 「あ、そう…うん、ありがとうね」 いつの間にそんな実力者扱いされていたんだろうか。鉄パイプを避けながら#名前2#はそんなことを考えていた。鳴狐は京極がきたので世祖に電話している。スピーカーにしてもらい、旅館内のわたぬきという男を逮捕することとその仲間らしき男たちがここにいるから応援に来てほしいとお願いした。 真剣を持ち出す男もいたが、たかがチンピラ。剣道もまともにかじってないのだろう。本丸での手合わせの方がよっぽど大変だった。刀自体も焼きが甘い。峰の部分から蹴りを入れると簡単に折れてしまった。 電話を終えた鳴狐も参戦するともはや相手側の方が戦意喪失状態になる者がちらほらと出てくる。さっき肩外して脅しをかけたのが良かったんだろうか。もっと上層にいるヤクザなら真面目に拷問に耐えるんだろうが所詮は崩れだったということか。……任侠映画の見すぎで夢を描きすぎかもしれない。 死闘が5分ほど続き全員倒す、もしくは降参した男たちの武器を回収したところで警察と蘭ちゃんたちが来てくれた。綿貫という男は自分だとダイイングメッセージで言われていると気づかなかったらしくかなり白々しくしていたらしい。ある意味見世物になって可哀想なのでやめてほしい。 降参した男の一人が話を聞かせてくれた。綿貫という男と白骨は同じ泥参会の幹部で組長の跡目争いのために殺したらしい。分かりやすい解説だった。 犯人たちを伸したことで刑事さんたちから簡単に事情聴取を受けた。帰るのにはもう随分と遅い時間になってしまい、皆は家族に電話をかけている。 「真、あの子が彼女さん?」 「ああ。鈴木園子さんと言うんだ」 「へえー」 「お兄さんはだあれ?」 「僕は粟口鳴。真の友達だよ」 「お兄さんも強いんだね。あそこに着いた時には全員倒してたもんね」 「強いというのならば我が兄の方が真のライバルでございます。私等は足元にも及びません」 「!?」 口は動かしてないのに声が聞こえてきた。鳴はにっこりと笑って「腹話術だよ」と言う。 「鳴狐、そろそろ車乗るぞー」 「分かった」 すたすた歩いていく彼の尻ポケットには狐ノストップが見えた。京極の方からも園子たちに紹介したかったのか「友人の鳴狐です」と言っている。園子たちにも腹話術を披露して見せて、何だかすごくシュールな光景だった。 大所帯になってしまったので本当はいけないのだが蘭ちゃん、鳴狐の膝上にコナンと世祖をそれぞれ乗せてもらった。後部座席は手狭になってしまったが京極もいるので我慢してもらおう。帰る間、京極がなぜあそこにいたのかを聞くと「実は、園子さんのメールから場所は分かったのですがイヴイヴという言葉が分からなくて……」と恥ずかしそうに教えてくれた。 「場所は分かっただけでもすごいと思うわ。京極、そういうの疎いし」 「妹に録画を頼まれていたら自分もハマってしまいまして。イヴイヴについては、聞くは一時の恥とも思ったんですがそれでは男が廃ると思いまして。テントを張ってあそこで待ってようかと思ったんです」 「自由だな、相変わらず」 「僕もそう思う。…でも、彼女のために大会放り投げたのはかっこいい」 「え、えへへ」 園子ちゃんがガチデレしている。対して京極ははっとした顔をしている。……まさか。 「すみません、#名前2#さん。車をこのまま成田に走らせてもらっていいですか」 「あぁ!? 会場戻るのか?」 「はい。優勝者と手合わせをしてどちらが強いのかを確認したい、と」 「それ、公式の記録じゃねえだろ……」 「公式も私的も関係ありません。俺は、俺は強くなりたいんです。それを証明、確認したいんです。己の体で以て!」 「……お嬢さんがた、ごめんね。京極を成田連れてくとみんな帰るの遅くなっちゃうし今から、陸奥呼ぶよ。たぶん、そっちの方が遅くならないだろうし」 と鳴狐が「大丈夫、もうしたよ」とメールを見せてくれた。送信メールに「群馬までお迎えきてくれない? #名前2#」という文字。返信は「なんじゃ、まともにメールも打てんくなったか。いまいく!」という文字。くそぉ、俺が運転中なのをいいことに遊びやがって。 「群馬と東京の境でのパーキングエリア……あー、三芳までお願いしといてくれ。京極、お前のわがままに付き合うんだからそれぐらいはいいな」 「分かりました」 園子ちゃんは嬉しそうに応援しているがコナンなんかは呆れ返っている。俺も呆れているがそういうまっすぐな男が京極だということも知っている。付き合うのが最良の結果になるのだ。