緋色の奪還
さっきの事件はどうやらレモンの酸化反応とアルカリ性の重曹による酸化還元反応(であってたかなあ?)で紅茶の色を変えていたらしい。 へぇー、って感じだ。まず紅茶に重曹入れて飲もうっていう考え自体が怖い。飲めなくはないけど飲みたくないよな。 そして俺は今学校に呼び出しを受けた。事情聴取してすぐって感じだが仕方ない。 面倒を見てる彼、包丁藤四郎が学校内でいじめを受けているかもしれないという話だった。おそらく本丸にいたヤツらはうっそだぁと思うだろう。俺もそう思った。包丁は割と子どもっぽい。短刀たちの中では1番小学生を謳歌している。怒ったら暴れるのが普通。なのだが……いじめ、か。包丁がイケメンだからいじめられてますー、なんてことはないだろうしなあ。 車の中で連絡を受けたので小五郎たちを送り届けてからまた家で連絡を入れる。世祖はいつの間に起きたのか#名前2#の背中からずるずると滑り落ちて着地する。ズボンとシャツが肌蹴てすごいことになっている。 「あ、もしもしー? 澁谷先生ですか? はい、粟口包の保護者の#名前1#です。先程はすみません、運転中だったものですから……。はい、はい、杯戸小学校の、はい、7時過ぎならなんとか行けます。はい、じゃあ半に。はーい、お願いしますー」 スマホ片手にぺこぺこと礼をするのは日本人の性だろうか。世祖が不思議そうに下から俺のことを見つめていた。 「どぅたーの?」 「んー、ナイフスがいじめられてるかもしれないからって話を聞いてくれってさ」 「いじめ?」 「家出の様子とか聞きたいけど、ナイフスがいたら話せないこともあるだろうから学校に来いってさ」 「あぁー。あー、あー?」 「世祖、お前は留守番だからな」 「えー」 「安定と不動のとこに連れてってやるから、今日はお泊まりかなー」 どうせ服とかは置いてってるからいいよな、と#名前2#は世祖を抱いてまた車に戻る。厄日があるとするならば、今日はその厄日の1日に入るだろう。この学校に行く行為は後々#名前2#やめればよかったと後悔した。 「包君のことですが、今日こんなものを見つけてしまって……」 くるみ、とは包丁の名前だ。粟口包。おいしそうな名前だなと言ったら馬鹿にされたことは今でも覚えている。さて目の前の紙。ぐしゃぐしゃに丸められてあるが、そこにはシネとカタカナで書かれていた。マジックペン。先の割れたものを使用。ていうか、このシがツなのか微妙なラインだ。でもいじめの証拠なんだからシだろう。 「今日、包君が放課後これを捨てていて……。周りの子もなんとなく包君と関わらないようにしてるみたいで、いじめが…起きているのかな、と」 「へー」 「へー、って……」 「いや、これぐらいなら平気でしょう」 「平気って、あなた、子どもが死ねと言われているんですよ!?」 「だからってこの程度で大騒ぎするべくもないでしょう……。子どもたちはケンカだって出来ます。アイツにはアイツのやり方があります」 要するにケンカさせてやれよ、という事なのだが先生には分かってもらえなかった。何かあったら遅いんですよ!!?と叫ばれる。ぐぬぬ、そういう事じゃないんだ……。ケンカとか知らないで友達になってグダグダしても包丁には合わないだけなんだ……。 「分かりました、じゃあ家でもそれとなく見ておきます。包が疲弊しきって学校に行くのが辛いと言うならば、保健室登校も考えます。それでいいですか?」 「………私も、早々に原因と対処を考えます。この主犯も」 ぐしゃぐしゃに丸められたのを必死に伸ばした紙。この先生が必死なのはちゃんと伝わっている。よろしくお願いしますと下げた頭の向こうで、先生も頭を下げた気がした。包丁たちの家に帰ると、世祖だけが眠れずにまだ起きていた。抱き上げてなぜかぐずついていた世祖が眠りについたのは深夜の2時。俺が眠れたのは4時間ほどだった。 翌日。世祖を迎えに行って、今日はまたナイフスんとこ行って学校の様子を聞くかなあなんて話をしていたら電話がかかってきた。昨日もお世話になった高木刑事からだ。不思議に思いながらも出ると、開口一番「事件が発生したので至急杯戸小学校にきてもらえますか?」と言われた。 「はぁ、分かりました……」 「急いでくださいね!」 仕方なくスーパーの買い物袋をシルビアに乗せて急いで車を走らせる。世祖はなにか分かったのかすごくブサイクな顔をしてむすっとしている。可愛くないぞーと言うと拗ねるのでわざと笑ってやったら脇腹をチョップされた。 学校に着くと高木刑事が「ああ、#名前2#くん」と背中を押される。車の中に世祖を置いていくのも危険そうだったので連れてきた。保健室かどこかで預かってもらおうと思っていたら……。案内された職員室にやっぱり見知った顔があった。ええっ!?という顔でこちらを見ているコナンとFBI捜査官であるジョディさんとキャメルさん。どうやったらこのメンツで集まれるのか謎だ。 「目暮警部! こちらの4人が昨夜、澁谷先生と会う約束をしていた方々です!」 「おお、来たのか……って、#名前1#くん?」 「あはは、どもー、この感じ容疑者で呼ばれたみたいっすね」 「あ、ああ……」 「容疑者? 何のことですの?」 「昨夜、ここで何者かに殴られて杯戸公園に運ばれて階段から突き落とされたんですよ。貴方達と会う約束をしていた澁谷先生がね……」 「ええっ!?」 「マジっすかぁ」 「では、名前と会う用事をお聞かせ願いましょうか。まずは……左端の女性から」 左端ってことは、あ、俺ラストか。なるほど、扱いにくいからだな。 「私の名前は植野晶代。先生にちょっと忠告に来ただけですわ。息子を誘惑しないでくれってね。あんなに短いスカートで胸元の開いた服を着ていれば夢中になるのも当然ですわ!」 そんなもんだろうか? よく分からないんだが。いや、包丁は人妻好きだから人妻ではない先生に食指が動かなかったのかも。俺もあの人タイプじゃないしな。 「それで? あなたは何時頃澁谷先生と会われたんですか?」 「夜の8時過ぎですわ」 「その時、彼女はなんと?」 「以後気をつけますとニヤニヤ笑っていたわ。まあ10分ぐらいで帰りましたけど。家に息子も待っていましたから」 「では隣のー…」 「俺は神立文幸だ! 俺はなぁ、あのいい加減な先生に文句つけにきたんだよ! 娘の字が汚いからって不正解にしやがって……。9時前にはここに着いたが先生には会ってないよ」 「それ、本当に字が汚いからって理由だったんですか?」 「ああ、ペケされてたのは全部あってた! 本当は満点なところを60点だとよ!」 「夏子はそんなことしないと思うけど……」 #名前2#も同意だ。あの澁谷先生がそんなことするとは思えないし、第一40点もの採点ミスってマーク形式じゃないんだから……。このテストでそんなことあるのだろうか? 「その上、妙な探偵まで雇いやがって……」 「妙な探偵?」 「家に直接言いに行ってやろうと尾けてたらいきなり胸ぐら掴まれたんだよ」 「それは仕方ありませんよ、彼女にストーカー被害の依頼を受けていたんですから」 気配もなく後ろから現れた男はニンジャの末裔か何がなのか。職業公安なのは知っているが気配までゼロすぎる。目暮警部はまたコイツか……という目でみているし、コナンは何故かすごく焦っている。だが俺が一番心配しているのは手を繋いでいる世祖がギシャと締め上げることだ。この事件が終わったら俺の手は粉砕骨折してましたなんてシャレにならん。 「そちらの2人は……英語の先生ですか?」 「あ、いえ、この2人はFBIの方々で……。訳あって捜査協力を」 「ほぉー、FBIですか。よくテレビや映画でお見かけしますよ。手柄欲しさに出張って、現場を引っ掻き回し、地元警察や視聴者をイラつかせる捜査官……」 「なんだとっ!?」 「ああ、いや、僕が見たのがたまたまそういったモノだっただけですから」 「いやー、俺からすれば犯罪を解決するだけでドラマが何シーズンも続くFBIって凄いと思いますけどね」 白々しい安室さんのセリフに乗っかかると鋭い目つきで睨まれた。おー怖い。売られた喧嘩は買うがこれは売ってるというより押し付けだな。無視しよう。 「高木刑事、俺の話も聞いてもらっていいすか?」と同じ口調で話しかけると目を点にして「ああ、頼むよ……」と言う。いいんすよ、俺はこういった空気に慣れっこっすから。 「#名前1##名前2#。面倒を見てる子どものことで呼び出しを受けました。7時半に来たんで植野さんの前に来ました」 「子ども? え、結婚してたっけ……?」 「結婚はしてないっすよー。1年C組2番粟口包(あわぐちくるみ)って子預かってて。名簿確認してもいいっすよ。んで、そいつがイジメを受けているようだって言われて来ました」 「ということは、君だけは最初から来る予定では無かったのかね?」 「まあ、そうゆうことっすね」 だけど殺人なんて突然起こりうることっすから。俺を容疑者から外すのは止めてくださいと笑う。#名前2#としては自分が警察や探偵の知り合いだからと言って跳ねられるのは嫌だからという理由だったが、周りからすれば誰かを庇っているようにしかみえない。可哀想な目で見られてしまった。 「……あー、世祖くんはその時一緒にいなかったのかい?」 「家にいさせましたよ。イジメとかってかなりデリケートな問題っすから」 ほかの容疑者たちには、いい兄だと思われたようだがコナンたちは分かっている。世祖が暴走してイジメの主犯格たちを引っ捕えさせないために連れてこなかったのだろう。話をし終えると皆の視線が生ぬるい。世祖はふん、と鼻を鳴らしていた。