刀剣男士に嫉妬

 ガチャリ。同時に扉が開かれた。よく似た双子が出てくる。「ようこそおいで下さいました」の声がぴったり重なって二つの方向から聞こえてきた。 「毛利様、お連れの方、三条融はこちらのエントランスよりお入りください」 「片桐様、松平様、長良様はこちら、西のエントランスよりお入りください」 「なんで別々にする?」 「この屋敷は内部で西と東に分かれています。西側の部屋にお泊りいただく方は西のエントランスから」 「東側の部屋にお泊りいただく方は東のエントランスからお入りいただくことがこの家のしきたりなのです」 「この家でしきたりを守らない方は」 「災いを招くことになるのです」  双子が片方ずつ喋っているのを聞くと頭がぐらぐらしてくる。岩融は何でもいいからさっさと中に入れてくれ、とメイドをねめつけた。 「災いをまねく…?」 「どうしてそんな、」  蘭と松平が助長させるように肩を震わせた。メイドたちは笑みを深くしている。まるでその言葉を待っていたかのような顔だった。 「だってここは」 「だってここは」 「呪いの仮面の棲む屋敷ですもの」  最後は二人ぴったりだった。岩融からすれば本丸でのホラー体験より怖いものはない。何かあっても薙刀で何とかなるだろうと考えているタイプだ。館にいたカラスたちが一斉にざわめく。謎のホラー演出だった。  中に入ると仮面が飾られた壁が目に飛び込んできた。メイドを見ると「蘇芳先生のお趣味ですわ」と説明してくれる。階段を一階分登ったところに仮面の間があった。荷物をメイド―下笠穂奈美と言うらしい。西にいた方が美奈穂という名前―に預けてその部屋に通された。向かいにもドアがあり、西側のエントランスから入ったゲストたちが顔を出す。 「なるほど。この部屋で屋敷の東と西が繋がってるんですな?」 「そういうことみたいだな」  岩融が西側の方を見てみると同じような階段と、たくさん飾られた仮面が目に入った。仮面は国や種族などは問わないのか日本の能面の横にインディアンの面などが置かれたりしていた。  仮面舞踏会などで見かける目元を隠すタイプもあれば鳴狐のような口を隠すタイプもあった。本当に趣味で集めているらしい。 「ん? なんだこれ?」 「坊主、どうした」 「あ、あのねなんかリモコン見つけて」  ほう、と岩融はエレベーターの開くボタンのマークをしたそれを試しに押してみた。ぎぃいいいと後ろのカーテンが開いて白く薄笑いを浮かべたような仮面の群衆が現れる。 「この仮面はーー」 「これはショブルーの仮面ですわ」 「あああ、あ、貴方は、蘇芳紅子さん」 「心配しなくとも大丈夫ですわ、毛利さん」と微笑みかけてから部屋中を見渡した。岩融とコナンがリモコンを持っているのを見つけてクスリと笑う。 「みなさんよくお越しくださいました」 「ねえ、岩融さん。あの後ろにいる人は?」 「秘書の稲葉さんだ。どうかしたか?」 「あ、ううん、別にーー」  蘇芳紅子はショブルーの呪いの仮面の話をしていたがコナンも岩融も都市伝説的な話として聞いたことがある。こっそりとコナンは岩融に聞きたかったことをたずねた。 「もしかして、ここに来たことがあるの?」 「どうしてそう思う?」  ギザギザの歯を見せつけて岩融はニヤリと笑った。 「だって、さっきから屋敷の中を歩いてくのに確認するように色々と見てたから」 「がはは、残念ながらハズレだ。だがまあ、いい線はいっている。依頼はこのチャリティーに参加してほしいというだけだ」 「それだけだったら#名前2#さんたちが依頼しないじゃない」  すん、と突然岩融は真顔になった。 「坊主。#名前2#の何を知ってそんなことをしゃべる?」 「え、」  岩融が立ち上がり、さっき木に貼りついていたという紙を蘇芳に見せる。すると周りのゲストたちもそれを見たと言い始めた。コナンはなんだか胸に言い表せないわだかまりをぎゅっと握りしめて仮面を見ていたら誰かが来る気配がした。 「その妙な紙なら事務所にも来てたぜ」 「ああ、冬矢。遅かったわねえ」 「全国ツアーの真っ最中なんだ。ちょっとの遅刻は勘弁してくれよ」  金髪にカラーコンタクトをしてサングラスをかけ、ライダースジャケットを着た男。どこかで聞いたことのあるような声だった。岩融はなんだかむずがゆい顔をしている。 「あの人誰?」 「あら、コナン君知らないの? 今人気のロックシンガー、藍川冬矢さんよ」 「へー」  それにしてもどこかで見覚えのある顔だった。どこで見たのか、それはコナンには思い出せなかったが。  藍川が持ってきた手紙には「今宵 呪いの仮面が生き血をすする 呪いの仮面の使者」と書いてあったがやはり岩融は気にした風もない。ますます怪しさをともなってきた。  東側1階に食堂はある。メイドたちの給仕を受けながらその豪華な食事に手も口もよく動いた。蘇芳紅子の口上はいつも通り型の決まったフレーズだ。岩融はワインを飲みながら横に座った藍川を見つめた。なかなかうまく変装している。 「蘇芳さん、少しおたずねしてもいいですか」 「何でしょうか」 「蘇芳さんはなぜ交通事故遺児チャリティーをするようになったんですか?」  片桐のした質問に蘇芳は付き人の話をし始めた。付き人が轢き逃げをして以来、交通事故は遠いものだと考えられなくなってしまった、と。秘書も援護するように売名行為なんかじゃないと続ける。 「あの、その付き人の方はその後ーー?」 「自殺したよ。その付き人は俺の母なんだ。俺は父親を早く亡くしたからな、母親を亡くした後は親戚中をたらいまわし。蘇芳先生が援助してくれたからな。今の俺をつくってくれたのは蘇芳先生なんだ」 「冬矢の母は付き人というより親友のような存在でしたから」 「紅プロモーションには交通遺児の方が数多く働いていて、蘇芳先生は自立の援助もされているんです」 「くぅう~! 感動的な話だなぁ!」  作られた連携プレーだ。冬矢は素知らぬ顔で食事を続けているが内心でどう思っているかは付き合いの長い岩融の方が分かる。  松平と片桐はチャリティーに精力的に参加させてもらう、と言ったが片桐の裏事情は色々とある。その言葉を聞くとあんまりいい思いはしなかった。  夕食後、プレイルームで岩融は蘭につかまりチェスをやっていた。あまり強いとは言えない彼女にほどほどの力で対応する。なんだか今剣と遊んでいる時の気分だった。 「そういえば坊主は?」 「食べすぎてお腹がいたくなっちゃったらしくて。先に部屋で休んでます」 「なるほど」  なんとなくだが、岩融の前ではしたくないことをしているんだろうなと思った。その予感は的中しており、コナンは部屋で#名前2#と電話をしていた。もちろん、岩融のことで。 「なあー、#名前2#さんー。あの人、絶対俺らのこと嫌いなんすけど」 「はあー? 岩融がぁー? ないない。あいつ子ども好きだし」  高校生は子どもじゃないっての、と内心呟きながら窓の外を見る。雪が降り始めていた。 「岩融にはあいつの考えがあるんだよ。手伝ってやって」 「手伝って、って言ったって……。何するのか教えてくれないし」  ううん、確かにそれはあるかも。#名前2#が苦笑いで「それでも根気よくいってくれよ」と言う。 「大丈夫。あの人は優しいから」  むぅー、と唇がとんがっていく。慰めるというよりはなだめるような口調だった。電話を切ってそんなに岩融さんがいいのかよ、と呟く。小学生みたいな自分に頭を振ってベッドにもぐりこんだ。  12時前には小五郎が部屋に帰ってきた。12時には仮面の間にカギをかけなければいけないのだ、と愚痴りながら部屋に備え付けのシャワーを浴びる。館の鐘がゴォオオン、ゴォオオンと鳴っている。小五郎はなんとなく怖がってすぐに出てきて寝る姿勢に入った。 「おじさん、髪の毛」 「いいんだよ、もう寝るぞ!」  まったく。仕方なくタオルを枕にかけてやって自分も寝ることにした。岩融の依頼が早く終わるように思いながら。  翌朝、チャリティーショーを中止することが蘇芳紅子の口から語られた。松平などは残念そうな声をあげたが、岩融と藍川の2人は薄く微笑んですらいた。長良はそんな2人をじっと見つめ「それでいいのね」と呟いて館を出ていった。 「毛利さん。すみませんが、昨日の依頼はなかったことにしてくださる?」 「え、それはーー」 「ごめんなさいね。もういいんです」 「あのぉ、チャリティーショーはどうして止めることに?」  片桐が話しかけてきたのに蘇芳はびくりと肩を震わせて「体調の問題なんですけれど、ちょっと入院しなければいけなさそうで」 「入院、ですか。……そうですか」 「……片桐さん、本当に申し訳ありません」 「いえ、大丈夫です」  それでは、と館を出ていく松平と片桐に岩融が声をかける。少し声をかけたのみですぐにコナンたちのもとに近寄って来た。 「俺たちも行きましょう」 「ああ、はい。それでは蘇芳さん」 「はい。ありがとうございました」  藍川、蘇芳、メイド二人に見送られてコナンたちは車を発進させた。帰りは小五郎が運転することになっている。助手席に蘭が座り、岩融は後部座席にいった。コナンと二人で座っている姿はちょっと面白かった。 「なんで突然止めたのかなあ?」 「本当にね」 「あの人にがんの症状があった」 「え?」  ぽつりぽつりと岩融が語り始めた。 「藍川から聞いていてな。背中が痛いと最近よく言う、と。姿勢をよくしてできるだけ背もたれに当たらないようにしてたのもそのためだ。俺はそれを確認しに来た」 「ってことは、チャリティーに参加するしないというのは、」 「あの人がやれる状態かどうかという話だったわけだ」  レンタカーの場所で別れ、岩融は近場の牛丼屋に寄った。よっと腕を上げる男がいる。そして隣には先ほど館で別れたロックシンガーもいる。 「おかえりー、岩融」 「全く。面倒なことを頼んで」 「あはは、ごめーん」  店員を呼んで普通の牛丼、大盛りを頼んだ。 「あの、本当にありがとうございました。天国にいる母も喜んでると思います」 「そうそう。そんままロックシンガーで人気獲ってなよ。そっちの方が喜ばれますって」  がつがつと食べながら#名前2#が適当なことを言う。ロックシンガーは気にしてないのか、ちょっと笑って食べ始めた。  今回の仕事は青江と数珠丸のファインプレーである。数珠丸が頑張ってくれなければ成功はなかった。  藍川冬矢は蘇芳紅子に復讐をしたがっていた。それをどこからか調べ上げたのが伊達組の4人だった。同じバンドを組む人間として思うことがあったのか、その声に親近感を抱いたのか大倶利伽羅が連絡を取り続け心を開かせた。復讐したいという話に小夜も聞きつけ、それに左文字兄弟と聞きつけてーーと数珠つなぎに刀剣男士たちに伝わっていった。  殺しは冤罪になった母親に申し訳なく、ロックシンガーとして成功したすがたのままがいいと藍川を説き伏せ蘇芳紅子には何らかの罰を与えることにした。そこで膝丸をけしかけて蘇芳紅子に病気がないかどうかを調べてもらった。案の定、彼女はがんに侵されていた。 「で、どうする」 「俺は、チャリティーをやめさせたい! あんなの、あいつの売名行為なんだ!!」 「ってことで、やりますか」  チャリティーをするようになったのは彼女の力にしても、轢き逃げをしたことを付き人におっかぶせたことは罪深い。だが#名前2#たちが罰するわけにもいかないため、とりあえず彼女が罪と向き合う方向に持っていくことにした。まず轢き逃げの被害者、片桐怜子について調べた。旦那は写真家の片桐正紀。彼は外国にわたる際のネットワークで同田貫と御手杵と知り合いだった。そこからコンタクトをしかけ、蘇芳紅子のチャリティーにゲストとして参加するよう呼びかけた。  問題だったのは一緒にゲストになった小五郎、ひいては一緒に居るコナンである、色々と考えたがカモフラージュとして三条を誰か連れていくことになった。多少の不自然な動きは全て三条に注目がいくようにするのだ。 「それで、俺の身代わりがあのパーティーにいったのか」 「そういうことだ。俺も突然パーティーに行けと命じられて焦ったぞ」 「小狐丸だとガチすぎてダメなんだよー。石切丸だとおっとりしすぎてなあ。あと岩融のでかさだと周りを隠せる」 「数珠丸殿の演技もすごかったな」 「まったく。ドッペルゲンガーに会ったかと思ったよ」 「教育のたまものだな」 「がはは、よくやるなあ」  牛丼を食べ終えた後、藍川とも別れて岩融は#名前2#の車に乗りこんだ。チャリティーは今後、三条の方がやっていくことになるのだろう。石切丸などは張り切ってやっていくのが目に浮かぶ。 「#名前2#、お前蘇芳紅子がチャリティーの詐欺師と気づいていたのか」 「あー、まあなー」 「お前に言われた通り、あの女に証拠書類を叩きつけたがこの後もあの事務所にいさせるつもりか?」 「いやいや。何とか考えてるよ。ツテ使っていいところを探すさ」 「優しいな」 「大倶利伽羅があんなに優しくしてるのなかなか見ないだろ」  本当にそれだけか?と聞こうとしてやめた。#名前2#はもう何も言いそうになかった。あとで三日月に報告しておくか、と心に留めて岩融はまぶたを閉じた。