京極VSキッド
空港で彼を待っていたら、珍しくジャケットを着ていたので一瞬気づかなかった。一緒に車に乗ってきた世祖と鳴狐が先に「あ!」と声を挙げたので俺もきょろきょろと辺りを見てしまった。 「鳴、来てくれたんだな」 「#名前2#さんに連れてきてもらいました」 「お久しぶりです、#名前2#さん。一期さんはお元気ですか?」 「元気にしてるよ、あいつも。真の方は? 非公式の戦いは勝ったのか?」 「勿論です」 「うん、よくやった。って、何から目線って話なんだけど。えーっと、園子ちゃんの家に行くんだっけ」 「はい、お願いします」 トランクに荷物を乗せて車を発進させる。京極が日本に帰ってきたのはいつ以来だろうか。なんだかんだ園子に呼ばれて帰ってきていたようだが俺が会ってないこともあり久々に会えた気がした。 「この前、お会いした時は時間もなく手合わせをお願いできませんでしたから。今度こそ、よろしくお願いします」 「お、おう……。考えさせてくれ」 京極は俺のことを買いかぶりすぎだ。世祖はまるで呆れたように俺のことを見てペットボトルを開けた。鳴狐は俺の面倒くさがりを知っていて「もっとまじめに言わないと」と京極にアドバイスしている。聞こえないフリで車の中をやり過ごした。 京極が帰っている間は園子ちゃんも大人しくデートなんかして少女漫画みたいなことをしているのかな、と思っていた。のだが、そう思っていたことがフラグになってしまった。テレビでは怪盗キッドの予告状についてニュースをやっている。園子ちゃんについては色々と吹っ切れたような男である京極はおそらくキッドのことを恋のライバル認定とかしてるんじゃないだろうか。 予告を受けた二日後、園子ちゃん蘭ちゃんに宝石を見に行かないかと誘われた。世祖にどうする?と聞いたらむうっと顔を歪めたので今回は遠慮することにした。代わりと言ってはおかしいが、変なことを始めた友人を心配する鳴狐と、キッドについて興味を最近持ち始めた蜂須賀が行くことになった。蜂須賀自身は園子と知り合いではないので、もし会うことがあればよろしくという話だ。園子ちゃんは嬉しそうに「#名前2#さんのご友人ってことはハイスペックなイケメンですね!」と言っていた。そんな言葉を京極に聞かれたら俺の命が持たない。さっさと結婚でもなんでもしてくれ、と思った。 博物館にいる鳴狐からはたまに実況のようにメッセージが届いた。あんまりよくない行動だぞ、とたしなめると流石にトイレの中で送っているという返事が来た。そういう話ではないのだが、聞いている方は面白くそれ以上は何も言わなった。京極宛にキッドから送られてきた沢山のあぶり出しの手紙に園子ちゃんたちのパリのデザイナーによるドレスだったりと楽しいことが目白押しだ。蜂須賀の方からは連絡がないのだが、何かあったんだろうか。 「100通のあぶり出し、か。キッドもよくやるね」 「……蜂須賀殿はキッドの正体を知っているのでございますか?」 「……なんだい、そのパペットは」 「お伴の狐の代わり」 「なるほど。……正体については知っているけどね、それを口にはしないさ」 「話されても無粋なものではございませんぞ? 」 「まあね。でも、彼はあの行為に誇りを持ち目的を持っているんだろう? そう考えるとあまり口を出すのは悪いと思ってね」 蜂須賀らしい言葉に鳴狐はふふっと笑った。京極から昨日沈んだ声でキッドんついて問いかける電話を受けて心配だったために来たのだがそんな心配もいらなそうだ。園子嬢の母親との賭けのお蔭でモチベーションはさらに上がったらしい。 「それにしても…相手の彼はあれで宝石の守り手のつもりなのかい?」 「勿論。真は人間の中ではとても強いよ。徒手空拳で戦ったら一期兄さんともやりあえるくらい」 「それは、…なかなかの実力者なんだね」 「キッドは肉体戦は弱いよね。トリックと直感。どちらに軍配が上がるか」 「……その言葉、まるで#名前2#くんみたいだ」 そう言われて鳴狐は顔を赤くさせてパペットで顔を隠してしまった。本当?と小さな声で聞かれて蜂須賀は頷いた。うぅ~と顔を仰いだ鳴狐は「全く、恥ずかしいです」と呟いた。 「全くは否定形と使うべきだよ、鳴狐」 「……。蜂須賀とのは手厳しい、であります」 「慣れないことしてるから君のお伴、キャラぶれぶれじゃないか」 鳴狐はぺろりと舌を出すと壁に寄りかかり親友の勇姿をこっそりと写真に撮った。これはこれで何だか御利益がありそうだ、と#名前2#に送信する。すぐに返事が来た。草をはやしたメッセージと笑いすぎでお腹がいたいですと書いてあるスタンプ。蜂須賀にも見せるとくすりと笑った。 「君たち、本当に楽しんでるよね」 「そう、だね。蜂須賀はあんまり?」 「……。僕らは#名前2#くんに会うのも遅かったからね。つまらない人生だとも思っていたよ」 「それは…、すみません」 「謝ることじゃないよ。今はとても楽しいしね」 笑った蜂須賀の顔はとても爽やかで綺麗だった。いつもの金色の鎧はなくとも彼は輝いているなと思った。昔は鎧も外せないような自尊心を持っていたのに。 「変わりましたねえ」 「? 何がだい」 「いえいえ、何でもありませぬ」 「ほらほら、一般人の公開はもう終わりだよー」 博物館から出された後の夜十時にキッドは盗みに来るらしい。どこかで見ていようか、と相談した二人は一番近くのコンビニで時間をつぶし適当な時間になったら戻ってくることにした。夜は遅いから迎えに行くよという#名前2#にお願いしますというメッセージを送った。既読のマークがついたと思ったら電話がかかってくる。流れるようにスマホを蜂須賀に渡し、鳴狐はサムズアップを見せた。全く、と言いながら蜂須賀の顔は緩んでいる。電話をとると「もしもし? 今、大丈夫か?」と聞いてきた。 「平気だよ、コンビニの駐車場にヤンキーのようにたむろしてる」 「なんだそれ! 蜂須賀だよな? なに、今、博物館にはいないのか?」 「ああ。一般客は出ていけと追い出されてね」 「園子ちゃんにお願いしといたろー?」 「いや? 彼女に鳴狐が話しかけに行ったけど話は伝わってなかったようだよ?」 「……。それ、完全に園子ちゃんキッドに変そうされてるじゃねえか」 「ああ、そうだったのかい? なんとなく知っている気配だなあとは思ったんだけど」 「蜂須賀は同じクラスだったっけか。クラスメートの女装はどうだった?」 「変装と女装は別物だよ。…それで、この電話は何だい?」 「ああ、キッドと真が戦うんなら見てみようかなと思ったんだけどお前らコンビニいるって言うしそっち向かってる。駅前じゃない方だよな、駐車場ありって」 「そうそう」 待っていたら10分ほどして#名前2#の車が見えた。助手席に世祖がいるのかこんのすけの人形がフロントガラスのもとに置いてある。停車を確認し、ナンバープレートも#名前2#のものであることを確認した。ドアをノックすると「開けていいぞー」と声が聞こえる。ドアを開けると世祖が助手席の方に顔を見せてくれた。 「世祖、久しぶり」 「うん」 「よーし、時間そろそろだし博物館行くか」 シートベルトを締めて出発する。蜂須賀はあまり車が好きではないので窓を全開にしてぜーはーと息を吸い込んだ。それを見て世祖も真似をする。「危ないぞー」という#名前2#の声は二人とも聞き流していた。博物館の駐車場には警察の車が多く停めてあったので近くのコインパーキングに停めて博物館を見にいった。何か叫ぶ声と鈍い音を聞きながら何をやってるのかなあと笑っていたら屋上にキッドが出てきた。 「お、きたな!」 #名前2#はキッドと正面から向かい合ったことも会話したこともない。まるで映画でも見ているかのようにわーっとはしゃいでいたが世祖と蜂須賀にとっては知っている人間だ。響いて来る物を壊す音に何か嫌な予感を感じていた。数分とせずに京極がなぜか窓を突き破って出てきた。 「おおっ!? え、京極、飛んだ!?」 #名前2#の声に「それはない」とツッコム人間はいなかった。京極真ならそれくらいやりそうだな、と思っていた。キッドが何かを投げて京極がキャッチする。そしてキッドはいつものようにハンググライダーで飛んで行った。真っ白な姿で闇夜を切り裂いていく姿はやっぱり映画のようで#名前2#はぱちぱちと拍手までした。京極はキッドのことを追いかけようとはせず、さっき出てきたところから中に下りて行く。 「さー、帰るか」 「おや? #名前2#様は中に行かなくてよいのですか?」 「あはは、もういい時間だ。帰らないと明日に響くだろ。送ってくからさっさと乗りな」 #名前2#が言えばきっと中に入れるだろうがそんなことせずに帰るらしい。さっき屋上にいた時二人ともこっちを見ていたような気がするよなあと刀剣男士は思ったが何も言わなかった。明日の学校で何か話を聞いてみようと鳴狐は思い、明日は絶対に彼を避けようと蜂須賀は決めた。