キッドと図書館
次郎吉さんがキッドに新しい挑戦状を叩きつけたらしい。それだけなら良かったのだが俺たちのもとにも来るように依頼がきた。依頼人は三水吉右衛門の箱を開けてほしい未亡人。その箱の開け方は亡くなったご主人と、書かれた紙しか知らないらしい。その紙はご主人の持つ本に挟まっていて、そして本があまりにも多いので探すのを手伝って欲しいと。 「え、なにそれ、ただの雑用じゃん」 「それな」 「OKしたの?」 「ああ」 「#名前2#さあ、そうやってホイホイ引き受けるのやめなよ」 「いや、そうゆう訳じゃないんだけど」 「忙しすぎて倒れない? 平気?」 「レポートはあと2000字書けばいいし平気だろ」 「それ平気じゃないでしょ」 「本気出せば3日で終わる」 「はいはい」 どうなっても知らないよーと言いながら俺にチョコをくれた。ありがたく貰うと「もう行くから」と言われてしまった。 加州はこれからバイトらしく飯を食べ終わったらすぐにカバンに詰めて行ってしまった。陸奥を待ちながらスマホをいじっていたら誰かが写真を撮った気がした。 「……?」 今のシャッター音は?と思ったらスマホのカメラがふわふわと見えた。ピストルとりんごのカバーが机からちらちらと見え隠れしている。 「むーつー」 「にゃーっ」 「ふざけんな、さっさと来い」 「なんじゃ、冗談が通じんのう」 口を尖らせた陸奥が俺の前に座る。二つの弁当箱をカバンから出して一気に食べていく。相変わらずの消費の悪さだった。飲み物がいるのかいらないのか分からないので適当にみかんジュースをくれてやるとすぐに受け取った。 「飲むのか」 「おん」 「なあ、お前、明日空いてる?」 「午後は無理じゃき」 「まじか。なに、バイト? 授業ないよな?」 「三日月殿からのお願いじゃ」 「ああ、そーゆー」 それなら仕方ないか。おん、と陸奥が頷いてひとつめの弁当箱を終わらせた。園子ちゃんのスマホに俺と世祖だけが行くように言って閉じた。 黄昏時より少し前くらい。鈴木大図書館に来ると警察の人たちはもう既に集まっていた。中森警部に挨拶をすると不機嫌そうな顔で追い払われた。警部の後ろ姿に思わず中指を立てたのは昨日見てたイギリス映画のせいだ。アメリカよりも欧州は口が悪い印象がある。すぐにFワード言うし。 すぐに手を引っ込めて世祖の手を取りお客さんの集まる方へ向かった。かき分けて進むと客の誰かがチャレンジしていた。失敗するとケガをするのはいつものことらしい。 丸く囲まれた本棚の中央にお目当ての箱が設置されている。上には大きな鳥かごのような檻があった。図書館という場所にこんな設置をするのは非常識に思えたがモニュメントだと思うことにした。お客と一緒にやいのやいのと見ていたら次郎吉さんが図書館の奥からやってきた。もう来たのか、と言われると恥ずかしい。 「図書館にも用があったんす」 「そうだったか」 「それで、あの箱を開けるための紙はどこに?」 「こっちじゃ。奥さんに寄贈してもらって部屋に入れたのじゃ」 案内された部屋は新設された……というよりは元からある部屋を片付けて詰め込んだようだった。ざっと何冊あるかは分からないがとにかく沢山ある。壁一面全て本棚だった。ハシゴがふたつ。机には椅子が六つ。 「先に探してても?」 「もちろんじゃ」 手当り次第探すのもよかったが世祖に任せた方が楽そうだった。次郎吉さんが出ていったところで世祖にもとにしゃがみこんだ。 「世祖」 「うん」 「紙の場所分かるか?」 部屋を一周見てうん、と頷いた。恐らく箱の中身も分かってるのだろうが俺が開けてみたかったので探すことにした。きっと世祖にもバレている。 「どれだ?」 「あれ」 指さされた本は料理の本だった。ページのはしを持ってパラパラめくるが見つからない。世祖の方を向くとぴょんと探し求めていた紙が飛び出てきた。 「力」 「う、ごめん……なしゃ」 「許す」 先に使えと言ったのは俺のためこんなのは茶番なのだが。世祖に紙の内容を記憶させてもう1度しまった。さて、今日は本を借りようと思っていたのだ。鈴木大図書館は検索データベースも充実していたのでどこにあるのかもすぐに分かった。一旦部屋の外に出ると気品の良さそうなお婆さんが立っている。化粧の少し濃いお婆さんだ。 「えっとー。こんちは」 「こんばんわ」 「友寄夫人ですか?」 「ええ」 「俺は次郎吉さんに頼まれて紙を探しに来たんです」 「そうなの……」 「少しここの図書館に用があって、今は中断してます」 「……」 どうも話が繋がらない。困ったと思うが気にしすぎも良くない。世祖の手を引っ張りカウンターのもとへ行った。 「なあ世祖。あの人なんか隠してねー?」 「ううん。かくし ないよ」 「そうかなー」 #名前2#は世祖のことを抱き上げるとマンガコーナーに行った。鈴木大図書館はマンガコーナーも充実していると陸奥から聞いたのだ。行ってみるとかなりの品揃えだった。探していた漫画も手に取ってひょいと後ろを見たら手塚治虫文庫を見つけた。 そのラインナップの中に奇子があって感動した。手塚治虫の問題作と言われたりするが、人間関係のドロドロとしたそれは自分の悩みを塗りつぶしてくれる。 「世祖、すげーよ。手塚治虫まで揃ってる。これも借りてこ」 「うん」 「何があったんですか?」 後ろから声をかけられてビックリした。恐る恐る世祖を床に下ろして振り返るといつも通りの変装をした沖矢昴がいた。 「沖矢さんか。あー、ビックリした」 「何やってるんです? こんな所で」 「キッド関係で呼ばれたんすよ。ついでにこの図書館で用事を済ませようと思って」 「手塚治虫ですか」 「ここのマンガコーナーすごいんすよ」 あとこの本もね、なんて笑って#名前2#はカウンターへ行った。あとを世祖と沖矢がついてくる。 何で沖矢さんはここに?と#名前2#が前を向きながら話しかけた。 「僕もキッド探しに声をかけられましてね。阿笠博士の知り合いだと言ったら通してもらえました」 「なるほど」 そうじゃなくとも一般人たちはここに来ているのだからそれに混じってもよかったのに。まあそこから疑われると面倒か。 カウンターで受付をして返却期限の書かれた紙を受け取る。カバンなどは持ってきていないので手に持ったままだ。 「サイフとスマホだけですか?」 「あとは車のキーですね」 「シンプル・イズ・ベストの究極形みたいなことしますね」 「どっちかってーとものぐさ太郎ですかね」 へらへら笑いながら寄贈されたという本の部屋に行くと阿笠博士たちや毛利探偵たちが既に中にいた。 「遅えぞ、都大生」 「すいません、ちょっと読みたいマンガがあって。えっと、どこから探しましょうか」 「どこでもいい。とにかく探せ」 「はいはい」 そこから沖矢さんと別れたわけだがなぜか視線がいたい。一体俺は何をしたんだったか。