キッドと図書館
本を探していたらぐうっと腹がなった。俺と世祖の2人分。図書館は普段通り飲食禁止なのでどうしようかと思っていたら哀ちゃんがとことこと世祖のもとに近寄った。 「ご飯は?」 「ないー」 「家にも?」 「うん」 仕方ない人ねえみたいな視線で見つめられた。面目ない。今日、帰ってから急速炊飯しようと思ってた。毛利さんと次郎吉さんに今日のところは帰らせてほしいと言おうとしたら「じゃあ沖矢さんのところに寄っていったら?」と哀ちゃんが俺の退路を絶った。 「ん?」 「はい?」 「この人、ここに来る前に肉じゃが作ってたのよ。作りすぎて持ってきてたから世祖の分くらいはきっと貰えるわ」 ねえ?と聞いた哀に「そうですね」とにこやかに沖矢さんが頷いた。俺の分もあるらしい。めんどくさい気持ちを抑えて笑顔で返事をした。 「あなたも料理をするの?」 「ええ、まあ」 「私も肉じゃがは得意料理なの! 主人の好物で義母様に直々に教わったんだから」 「へえー」 なるほど。肉じゃがのページに入ってたのはそういうことだったのか。奥さんが絶対に開けないだろうと思ってたのだろう。その時コナンに洋服を引っ張られた。 「#名前2#にーちゃん、ちょっといーい?」 「あ、ああ」 世祖の方を向くと哀がきっちり手を握っている。行っていいわよ、と顔が言っていた。沖矢さんには頭を下げて部屋を出た。コナンは服ではなく俺の手を握ってさっさか歩いていく。自販機のところにやってきてコナンがくるりと振り向いた。 「#名前2#さん」 「んー?」 「沖矢昴さんが工藤家に来る前はどこに住んでたでしょーか?」 「は? 木枯らし荘だろ?」 「じゃあ沖矢さんのコードネームは?」 「え? なに? ライで合ってる?」 コナンはむーっと俺を見つめたあと「本物っぽいね」と言い出した。どうやらキッドかどうか疑われていたらしい。道理であの視線をもらうわけだ。 「あの沖矢さん、いつも通りだと思う?」 「うん?」 キッドかそうじゃないかという話だろうか。それともコナンは赤井さんが隠し持っていた感情に気づいたのか。黙った俺にコナンは「……本物じゃない?」と聞いてきた。 キッドの話だった。俺はすぐに頷いて平気だと笑うり 「そっか……ならよかった」 「ていうか、あの人がキッドに騙されると思うか?」 俺の言葉にコナンは神妙な顔をして「ごめんなさい、俺が間違ってました」と答えた。けらけら笑って部屋に戻ると皆はまだ本を探していた。 「コナン、俺と世祖はちょっと帰るわ。このままにしておくのは可哀想だし」 「その方がよいじゃろう」 「私もそう思いますわ」 次郎吉さんと友寄夫人に言われて世祖の手を繋ぐとついでに沖矢さんもこっちにやってきた。 「私も帰ることにしましょう。料理を振る舞わねばなりませんし」 「あ、あざいます」 次郎吉さんたちに頭を下げて部屋を出る。箱のところには毛利探偵が悪戦苦闘していた。そんな姿を一般のお客さんがわちゃわちゃしている。見世物みたいだった。 「#名前2#くん、こちらにはどうやって?」 「バスっすね。沖矢さんは?」 「車で来ました。送りましょう」 「いいっすよ、ご飯もらうのに」 「僕がしたいだけですから」 爽やかに笑ってはいるが中身はあの赤井秀一である。なんだこのいらないギャップは。女の人にモテるためか。……黒の組織だってビックリするだろうよ。 「……じゃあお願いします」 世祖と握った手が手汗をかきまくっている。世祖がそれを気づいてかぱっと離した。ちょっと悲しくなった。 世祖をひとりで座らせると怖いので助手席に2人で座ることにした。ことこと動きながら沖矢さんが話しかけてくれる。 有難く乗っかり世間話をしていたら話題はさっきのキッドに変わった。高価な月長石らしいがキッドの狙いはそれではないだろう、というのが沖矢さんの考えらしい。むしろあの奥さんのためだと思われる。そんなことを聞いていると確かになあと思えてくる。 「#名前2#くん」 「はい? どうかしましたか」 「キッドの正体に気付いていたのですか?」 へ?と言いそうになった俺に世祖がそっと俺のシートベルトをきつくした。痛かった。ふっと視界に現れたのは阿笠博士の文字だった。 「……途中からっすけどね」 「なるほど。答え合わせをしたいのですが」 「……はあ」 めんどくさい。それが顔に出ていたのかミラー越しに顔を見られた。 「阿笠博士だと思いますよ」 「やはりそうでしたか」 答えを言わずに自分だけ納得するなんて……。せこいやり方だ。 窓の方を向くと夜の中にぽつりぽつりと光が出ている。月明かりも明るい内からライトをつけるなんて、本丸では考えられなかったことだ。 「あの箱の開け方は……」 「コナンが解くんじゃないすかね」 「次郎吉さんのスタッフが全部確認したようですが?」 「ぱらぱら見た紙が悪いんすよ。真ん中とか下の端っことか折れてたり擦り切れたりしてたら見れなくなりますから。上の端っことかをめくって確認した方がいい」 「それをあの一万冊にやりますか?」 「限定の仕方は簡単ですよ。旦那さんは奥さんに見られたくなかったから見ないであろうページに隠したんです」 「見ないであろう?」 「盲点ですよ。肉じゃがのページなんて」 「………」 言いすぎた。これはやばい。怪しまれる。ぎちぎちとシートベルトが締め付けてくる。く、苦しい……。 「これ以上のことは聞かれたくないことのようですね」 「ま、まあ……」 「分かりました」 そういって沖矢さんはその後何も聞かなかった。その代わりになんでキッドの戦いに来たのかとか俺からの質問も許さなかった。世祖は知っているようだったが俺には教えてくれなかったし。全く、俺だけ損したみたいな気分になる。 #名前2#とコナンが外に出てる間に世祖はキッドのスマホから沖矢さんの写真を消してます。で、それを哀ちゃんから伝えるようにしています。本編に入れられなかった。