天空の難破船

『赤いシャム猫』という犯罪グループは以前、#名前2#と世祖とで手がかりをつかんだグループだった。結局、グループの1人を捕まえることは出来たがその他には逃げられてしまいその1人も今は脱獄してどこかへ行ってしまったと聞く。だからと言って#名前2#たちは動く事はできないので、ここは日本の警察の威信とやらを信じるしかない。 ウイルスを盗んだというが、どこでテロをするのかは分からない。今度乗る飛行船でなければいいなあと願うのみだ。 天空を横切ってこちらにやってくる乗り物は魔女の宅急便を見てきたせいか墜落する予感しかしない。この飛行船の名前は確か……ベルツリーなんちゃら号である。鈴木という名前を存分に押し出した次郎吉の所有物だ。 不安だねえ、と#名前2#は世祖を片手で抱き上げると「なんだっけ? 宝石の名前」とたずねた。 世祖はヒュウーと吹いていた笛ラムネを口からはずし天空の貴婦人ーレディー・スカイーだと教えてくれた。 「なんか前にんなやつなかったっけ? 海っぽいやつ」 「ブルーワンダー」 「それだ…!」 「#名前2#さん? そろそろ行くわよー」 「あ、園子ちゃん。今回はお招きいただき本当にあざいますー」 「いいですよ、別に! おじ様は世祖ちゃんのこと気に入ってますから」 「たはは……」 今日は俺の後輩である園子ちゃんの親戚、次郎吉さんの厚意によってベルツリー号に乗らせてもらうことになった。初航路を乗らせてもらうなんて恐れ多いというべきか悪い予感ばかりすると言うべきか。次郎吉がぜひに、と言わなければおそらく絶対にこなかった。さて。乗客はルポライターの藤岡さんにテレビ局の人が数名…あとはスタッフが数名に加えて米花のいつものメンバーがそろっている。次郎吉さん本人とそのSPたちは言わずもがななのでカウントしない。……気になるのは妙に雰囲気が薄いSPの1人がいるということ。強そうに見えないその人は1番足音がなくて気配も静かで……簡単にいえばこの中で一番強そうだ。恐ろしい人を連れてきたなあ、と思ったが赤井さんとシャム猫対策と考えることにする。さすがのキッド予防じゃないだろう。 飛行船の中はバカみたいに広くてこの中だけで人口密度を計算したら1人どのくらいになるのかってぐらいにすごかった、というのが#名前2#の感想だ。世祖は哀の手を引っ張り、至るところの窓を確認しにいくので#名前2#はとりあえずイスに座っていることにした。スマートフォンにはRINEの通知がたまっており、「はやく写真あげんしオラァ(👊 ˙-˙ )」と陸奥から連絡も入っていた。んっんー、と笑いをこらえながら世祖を探しに行こうとすると1人のスタッフと肩がぶつかってしまった。 「あ、すんません…」 「いいえ、こちらこそ」 柔和に笑うその男性スタッフに何故か既視感を覚える。あの顔は、……どこかで見たはず? 気づいた時にはスタッフはどこかへ行ってしまい廊下には#名前2#が1人だけいることになった。 「あ、#名前2#さん!」 「哀じゃん。どうかしたのか?」 「世祖がぐずり始めちゃって……」 「ありゃ、どうしたんだろ。ごめんな、連れてきてくれてあんがと」 世祖を抱き上げてダイニングに戻ると、園子がスカイデッキに上ろうと声をかけてきた。 「ごめん、世祖が変な調子だからここにいるわ」 「え……。大丈夫ですか? 世祖ちゃん」 「ああ、たぶん気圧変化で耳がおかしくなっただけだから」 「お大事にー」 バイバーイと手を振り、椅子に座ると世祖はぐずったまま#名前2#の首に抱きついてきた。唇をとがらせて頭がこすりつけてくる。 「どした、世祖」 「ややー。アイツ きた」 「アイツぅ?」 「アイツ…… しゃぁこ……」 「しゃぁこ、って…。ッ、赤いシャム猫のイル・ラットがいるのか……、」 「ううぅぅぅ」 「世祖? どうかしたの…?」 「あ、哀……」 「心配になって帰ってきたんだけど、何かあったの…? もしかして、組織が…!?」 「ああ、いや。大丈夫。もしソレが本当なら危ないのは俺たちだけだから」 ** 次郎吉にかかってきた電話は不穏な気配をさせていた。大人達の顔が厳しい表情になり、目の前のデザートも捨てて早々に部屋を出ていく。 戻ってきた刑事たちは喫煙室に赤いシャム猫のアンプルがあったという話をした。バクテリアがある、という恐怖に乗客は一種のパニック状態になっている。 「た、助けてくれ……。まだ、死にたくないんだ……」 ルポライターの藤岡が発疹だらけの体をこちらに見せてきた。これはやばい、と頭で考えるよりも先に足が出ていた。ハイキックが頭にあたり大きく音を立てて倒れ込む。 「すんません、誰か消毒液を持ってきてください!」 「こっちに! 配膳用のがあるわ!」 「すんません、それこっちに持ってくることできますか? とりあえずこの人自身と床に散布してから俺も消毒しますんで」 「分かったわ!」 「手早いな…」 「前に感染系パンデギミックを見たことがあって。こうゆう時のためにどうすればいいのか看護師たちに聞いたことがあるんすよね」 カシュカシュとノズルを押してハンカチで藤岡の体を拭いていく。他に喫煙室に行った人は!?とがなりたてると女性スタッフとテレビ局のディレクターも手を挙げた。 「どこか閉鎖できる場所に行かないと」 「診察室の奥に鍵のかけられる部屋がある。そこでどうじゃろう?」 「はい、そこで大丈夫です。世祖、お前は蘭ちゃんたちに着いていきな。刑事さんたちは手袋か何かをつけてから触るようにしてください」 「この細菌は飛沫感染だけじゃないのか…?」 「アンプルが赤いシャム猫でも中身がそうとは限らないんすよ。言ったでしょ、パンデギミックだって。分からないものには何十通りと対策を考えるしかないんすよ。経口感染やほかのことも考えて動くのが懸命っす」 「そ、そうか……」 刑事たちは捜査用の手袋をはめて、#名前2#はそのまま素手で3人を連れていく。その姿を世祖ともう一人が心配そうに見つめていた。