ポアロの三毛猫
毛利探偵にお願いしたいことがあり、今日はコナンの家に行こうなーなんて話をしていたら少年探偵団に捕まった。同じ道を歩いていくので聞いてみたら探偵事務所ではなくポアロに用事があるらしい。 哀がいないなあと言うと「用事があるから先に家に帰っちまったよ」と教えてくれた。ミステリートレインの後でかなり疲れているし、バーボンに会いたくないんだろう。合流した小学生4人と事務所の入ったビルを目指すことになった 歩きながら今日は何の用事があるのー?と歩美ちゃんに聞かれた。お腹が空いたという元太たちにコンビニでナゲットを買ってきて早々に、である。食べたり質問したり忙しいなあ。 「俺の方はちょっとした依頼だ。そっちは何しに行くんだ?」 「ポアロにいる三毛猫の大尉って知ってますか?」 「あー、梓さんがお世話してるんだっけ」 「そいつがよ、雑誌に載ったっていうからこれからみんなで見に行くんだ!」 「いいねー。世祖も見に行くか?」 世祖は横に首を振った。ポアロにつく前にナゲットも食べ終わりゴミを回収する。探偵団と別れて階段を上っていくと競馬を当てようと鉛筆片手にテレビを睨む毛利探偵と呆れてみている蘭ちゃんに会った。 「蘭ちゃん、こんちわ」 「ほら、お父さん! #名前2#さん来ちゃったじゃない!」 「お? おおー、よく来たな」 「こんにちわ。また競馬ですか」 「今度こそ当たりそうな気がするんだよなあ」 「はいはい、お電話した依頼はこれです」 A4の封筒から出したのは今度のヨーコちゃんの新曲PVに伊達組をカメオ出演させることになったのだが、毛利さんが見学したいと言いだしたのだ。本当はヨーコちゃんのマネージャーさんがやれればよかったのだが忙しくてヨーコちゃんの従兄で毛利探偵とも親しい俺にお鉢がまわってきたのだ。 「お、これかあー! いやー、ありがてえなあ」 「こっちにも見学の誘いはあったので……。喜んでいただけたらよかったです」 「このDAtEってのがお前の友人なんだっけか?」 「はい。まあ、ヨーコちゃんの親戚としてたまにチケットはもらってるんですけどなんだかんだ忙しくて……」 「そうだったな。ヨーコちゃんもお前のこと心配してたぞ」 「え、そうなんですか? 元気だよってお伝えしてもらっていいですか?」 「毎回ちゃんと伝えてるよ。全く、ヨーコちゃんを心配させてんじゃねえよ」 「はーい」 さて、用件は伝え終わったのでロシアンブルーと遊んでいる世祖を捕まえる。蘭ちゃんに猫をお返しして扉を開けようとしたらお客さんの方から扉を開けてきた。うち開きになっている扉にとっさに対処できずがつんとぶつかってしまった。 「ったあ……!」 「す、すみません、大丈夫でしたか!!?」 「ぐう……安室さん? コナンたちも…」 「#名前2#さん大丈夫?」 「うん。まあねー」 「な、何か冷やすもの持って来ますね」 「え、いや、もう出ていくから」 俺の言葉もむなしく蘭ちゃんは絞ったタオルと氷嚢を持ってきてくれた。頭にあてていたら探偵団と世祖に周りを囲まれた。#名前2#さんも手伝って―と服を掴まれる。コナンに目を向けると両手を開いてお手上げのポーズをされた。 「あー、うん、じゃあお話聞くよ。毛利探偵には俺から依頼します」 「ああ? 何もお前がやらなくても」 「そうですよ、話を持ち込んできたのは僕ですし。僕が依頼します」 「俺がやるのは決定かよ!?」 仕方ねえなあと小五郎さんがソファーに座り直した。払い込みするときは少し多めにお金を払おうと思った。 休んでてください、と蘭ちゃんにいつも毛利探偵が座っている事務イスを差し出した。そこに座ってどこかに行かないように世祖を膝に抱えた。安室さんからくるチラチラとした視線は一応無視させてもらった。ミステリートレインで俺がスプリッツァーであると言ったためにこんな視線なんだろう、と思う。 まず一人目の飼い主候補さんについて毛利さんが話を聞いている間、なんでこんなことになったのかコナンが説明をしてくれた。雑誌に載ったポアロの記事で野良猫の大尉について飼い主さんがいたら出てくるようにお願いしたんだそうだ。 「それで三人集まったんだけど、誰が本物か分からなくて」 「なるほどねー」 「そして今、お話を聞いているのが専業主婦の舎川さん、というわけです」 安室さんが話をつないで説明してくれた。舎川さんは猫が好きみたいだが、あまり扱いには慣れてないらしい。ゴロちゃんに対してちょっと大きな声で「おいでおいで」としゃべっている。猫について俺も詳しいわけではないがじっと目を見たり急に撫でようとするのは嫌だった、はず。 「問題の三毛猫には去勢手術をした痕がありましたけど…」 「あの時は大変でしたわね…。一晩入院して戻ってきたんですがなかなか包帯が取れなくて。抜糸するまでに一週間くらいかかりましたわ」 あれ? 五虎退も今ネコを飼っているが入院させるのはメスだけだったはず。俺の記憶違い、だったろうか。 「世祖、五虎退の飼ってる猫はオスもメスもいるっけ?」 「うん」 「メスは一匹で、その時は忙しかったっけ」 「うん」 そっかあ。じゃああの飼い主さんはもしかしたら勘違いしてるのかなあ。コナンと安室さんが何か分かったような顔になっているのを見ながら氷嚢とタオルを外した。 二人目の飼い主候補さんはIT企業の社長、益子さんだった。見たことある人だったので会釈すると向こうもなんとなく気づいたのか「やあ」と声をかけてくれた。 「なんでぇ、知り合いか」 「まあ、ちょっと。奥さんの方と喋ることは多かったんですが」 「4か月前にその妻も亡くなりまして…。引越しをしようとしたら猫はケージからいなくなっていたんです」 コナンがまたゴロちゃんを差し出した。受けとろうとすると小さくくしゃみをする。猫のためなのかその小さなくしゃみに思わず可愛さを見た。これがギャップ萌えだろうか。 「ちなみに、あなたの猫は去勢手術をしたんですか?」 「ええ…でも、そういったことは妻に任せていたので…。ただ手術したのに包帯なんか巻いてなく、パラボラアンテナみたいな物を首につけていたのは覚えていますけど」 バラボラアンテナと言うのは例えとして分かりやすいが、それはエリザベスカラーというものだ。傷口を舐めたり掻いたりしないようにつけられる。例えもなんだか可愛いなと思ってしまった。最近イケメンばかり見ていたので純朴な人を見るとなんだかんだ好感を持ってしまうようだ。 三人目の飼い主候補はフリーターの雨澤さん。世祖は事務所に入ってきた彼をみるなりへにょんと力を抜いて顔を背けた。ぐすんっと鼻をこすっている。何かの臭いにやられたらしい。もう溶けて水がだらりと流れている氷嚢とハンカチを渡すと鼻の頭に乗せた。少し楽になる、気がする。プラシーボ効果かもしれないが。 前二人と同じようにコナンがゴロちゃんを差し出すと飛びつくようにじゃれていた。猫は気まぐれって聞くけどこんなに懐くものなのか。可愛いなあと思いながら見ていたら世祖に氷嚢を顎にぶつけられた。顎が痛い。 「去勢手術をしたことは覚えていますか?」 「さぁ……あれはそこそこ大きくなってからもらったネコでよお。元の飼い主がそうしてたならそうなんじゃねーの? 」 「ちなみにさー、あの三毛猫『大尉君』なんて書かれてるけど雌猫だよ?」 「え? あ、いや…だ、だったらそれは俺のじゃねえかも…」 「何言ってるんですか?」 「大尉はオスだぞ!」 「タマタマついてたもん!」 歩美ちゃんが顔を真っ赤にして下ネタみたいなことを言いだしてる。対面にいた俺がぶふっと吹き出すと少年探偵団ににらまれてしまった。 「#名前2#さん、下品~」 「ごめ、まさか歩美ちゃんがそんなこと言うとは思ってなかった」 とりあえず飼い主候補さんはポアロに下りてもらって、誰が本物なのか考えることになった。もう痛みは引いたので帰っても良かったのだが乗り掛かった舟なので話だけは聞いていくことにした。コナンはもう分かっているのかニヤリとかっこいい顔をしている。 「あ、蘭ちゃん。これありがとう」 「大丈夫ですか、頭?」 「なんかケガより頭脳を心配されてる…?」 「え、あ、いやそういう意味ではなかったんですけど!」 「あはは、痛みは引いたからたぶん大丈夫」 タオルと袋を返すと俺にたんこぶを作った張本人である安室さんが背後に現れた。本当に大丈夫なんですか?とおでこをさすられる。 「大丈夫です」 つっかかるのも変かと笑顔で返事をしたら安室さんはホッとしたような顔でよかったと笑った。変な気分になる前に手を外してコナンたちの方に戻った。顔、赤いぞ?と元太に覗き込まれる。世祖が慌てたように俺の手を掴んだ。 「ううん、大丈夫だ」 言葉の真意はたぶん世祖にしか伝わらなかったが少年探偵団はそれ以上何も聞かなかった。