木馬荘の火事

 世祖が学校から帰る時は#名前2#か刀剣男士が迎えにくるようになっている。世祖の決まったルートは少年探偵団も知っているのでたまに一緒に帰ることもあるのだが、その日のお迎えは#名前2#ではなかったので時間もズレて会えなかった。明日は少年探偵団の依頼で出かける日なのになあ、と元太がつぶやく。博士の家に行って電話すればいいじゃないかとコナンが言うと少しだけ気分も上がったようだ。それもそうだな、と元太が走るので仲間もその後ろに走ってついていく。  #名前2#さんの家の固定電話はあまり繋がらないことの方が多い。家に人がいないか、世祖が出ないときか。その日は珍しく#名前2#さんではない人が電話に出たのだった。 「へぇー、木馬荘かあ。うん、わかったよ。世祖にはこっちから言っておく」 「あのお、名前を聞いてもいいですか?」  コナンの言葉に電話の相手はふふっと笑って「キッコウ。亀の甲羅って書くんだけど。……ねえ君、刀については知ってるかい?」と質問を返した。 「うん、ちょっとだけね」 「そうかぁ。うんごめんよ。聞いてみたかっただけだから」  電話はそう言って切られた。念のため#名前2#さんの携帯にもメッセージを送信すると、了解という返事がきた。元太たちにそれを見せるとみるみるうちに笑顔になって博士にご飯をねだっている。さっきの質問が気になり、博士のパソコンを借りると灰原が後ろから覗き込んできた。 「文化遺産に興味があったなんて驚きね」 「ちげーよ、#名前2#さんのあだ名持ちさんの方だっての」 「ああ、新しい人?」 「亀甲だってよ。多分これだな。亀甲貞宗か」 「どうやってこんな風にあだ名つけるのかしらね」 「さあなあ。まあ、関係あるなってのは分かるけど。たまにそのまんまの人いるし」  コーヒーをすすり灰原は「もしかしたら、彼等のようなコードネームなのかもね」と呟いた。 「……」  それはコナンも一度考えたことがある。だが、表舞台によく立つような人間もいて、学生……それも小学生まで含めた悪の組織というのは考えにくかった。それに刀剣のコードネームを持った彼らの中心部である#名前2#さんと世祖にそういった名前がないことも気になる。  コナンは身内にした人のことを疑うのは苦手だ。特に、いつもお世話になってきた彼のことは。灰原も同じ気持ちなのか「ごめんなさい、忘れて」と言う。コードネームと言えば、組織の人間も動き出したとジョディから聞いていた。探り屋のバーボン。灰原のことを狙ってくるかもしれないことと、#名前2#さんのことも気になる。大丈夫なんだろうか。  家に帰ると亀甲と物吉の貞宗二人がいた。さっきコナンっていう子から電話があったよと言われる。亀甲と喋ったのかあと顔に出てしまったのか「変なことはいってないよ」と口をとがらせた。 「世祖、久しぶり」 「もにょ」 「へへー、世祖は可愛いなあ」 「出たよ、物吉の猫かわいがり」 「#名前2#さんも僕を猫かわいがりしていいんだよ?」 「何でだよ」  仕方ない、家にあるもので何か作ろうとキッチンに行くとすでにフライパンが置かれている。蓋を取るとドライカレーがすでに完成されていた。はっと冷蔵庫を見てみると一週間分の野菜が使われている。ああああと崩れ落ちたのは言うまでもない。明日は土曜日だがバイトの方で用事が入っている。世祖を連れていけないかも、と思ったが世祖は行きたいと駄々をこねた。仕方ない、と#名前2#はスマホを用意する。いつも事件に巻き込まれているあいつらも一度会ったことのある少年なら構いやしないだろうと彼を呼ぶことにした。 「それで? お前らは何でここに来たんだ?」 「まあ、ちょっとした用事がありまして」 「俺には、言えないことか」 「すみません」 「いや。沖野さんのことだったら仕方ないだろうな」  亀甲の方は物吉についてきただけで特に用事はないらしい。逆にそれが怪しく思えたが#名前2#は何も言わずにカレーを口に押し込んだ。うまいよ、と言うと亀甲は体をくねらせて「うふ、ふふふ!」と笑った。正直言ってその体を縛ってるのによく動くな、と冷ややかな目になったが亀甲はさらに喜ぶだけだった。  翌日、世祖を連れていくために信濃藤四郎が迎えに来た。家にいる物吉と亀甲を見て「泊り? ずりぃ」と口をねじまげた。君らも泊まりにおいでよ、と亀甲が無責任なことを言う。それもそうだよね!と信濃が頷いた。 「いやいや、粟田口全員はここはムリだって。三日月たちの方にしてくれよ」 「それじゃあ意味ないでしょ! 大将の懐じゃないもん!」 「世祖の懐は今コナンたちと遊びに行くことでいっぱいいっぱいだ」  俺の言葉を無視して「ねーダメー?」と信濃が可愛く聞くが残念ながらうちは本丸ではないので粟田口全員は本当に難しい。そして家計も厳しい。できないことはないが準備がいる。世祖は俺と手を離して信濃と手を繋ぐことを今、頭に入れている最中だ。今日は信濃の言うことを聞く日、と書かれたメモをじっと見ている。 「じゃあ信濃、よろしくな」 「はーい。亀甲さんは?」 「敵情視察ってやつかな」 「あーなるほどねえ」 「僕も少し野暮用です」 「そっちも察した。俺はとりあえずで呼ばれたの?」 「少年探偵団とも仲良くやってたし、いいかなって。それにお前人の事よく見てるから少年探偵団のフォローもできるだろ?」  俺の言葉に信濃はかあっと顔を赤くさせると「もうーっ」と世祖を抱っこした。世祖は遊んでもらえると思ったのか信濃に噛みついている。世祖を引きはがし頭をなでると少しだけ落ち着いたようだった。もう一度信濃と手を繋ぐことを頭に入れてようやく出発した。 「それじゃあ俺もバイトあるから行ってくるけど」 「僕も駅まで着いていっていいですか?」 「んじゃ、行くか。亀甲は?」 「敵情視察です」 「……どこ行くかって話なんだけど」 「敵情視察だよ♡」 「え、突然ハートつけられた……」  あんまり危険なことはするんじゃないぞ、と声かけだけして俺たちも出発する。世祖は時たまこちらを見ては信濃に引っ張られていくので連れていかれる家畜のようだと思ってしまった。あんまりな考えだ。 「ねえ、ここで本当に合ってる?」 「?」  信濃の質問に世祖も首をかしげた。言われた住所のもとに来てみると、火事があったらしく燃え尽きた建物があった。なんとか看板は燃えずに済んだらしく木馬荘の文字があった。世祖と信濃は指差しで確認するとやっぱりここだ、と頷いた。ふと、世祖は燃えた家の中に何かあるのが見えた。きょろきょろと辺りを見回して誰もいないことを確認する。世祖がひょいっとそれを自分の手元へと送ってみせた。 炭が手につくのも気にせずに太陽にすかしてみてみた。ミニカーのおもちゃだ。世祖は遊んだことないが#名前2#はたまにそれを欲しそうに見ていたので覚えがあった。これはパトカーのタイプだ。 「世祖、早かったな!」  元太たちが手を振るので世祖も手を振り返した。信濃さんだー、と声がかかり信濃もニコニコと笑う。刀剣男士は基本的に子どもが好きだ。守るべき存在であると強く意識し、未来を感じさせるからかもしれない。 「ねえ君たち。言ってた場所はここで合ってる?」 「うん、そうだよ。でも……」  コナンが焼け跡を見て痛ましい顔をした。何か予測がつくこともなかったようだ。信濃が話を聞いてみると木馬荘の管理人の息子が依頼人らしい。住人の中に怪しい男がいるため調べてほしいということだった。 「開人くんっていうんだけど……もしかして火事に巻き込まれたりとかは……」 「それなら大丈夫だ、安心してくれお嬢ちゃん」 「え?」 「弓長警部!」 「よぉーボウズ。赤馬事件の時以来だな」 「それで? この火事で亡くなった人っている?」 「いや死人はいねえが、その開人っての父親が大やけどで今も集中治療室にいる……」 「火事で逃げ遅れた人とかは他にいるんですか?」 「いや。母親は友人と旅行中、住民はみんな朝帰りで火事があったことも知らなかったらしい」 「そうなの?」  信濃と世祖が警部から話を聞いていたら少年探偵団はこそこそと話し合い、その住人の中に犯人がいるのではないかと言うのだった。 「だってよ、開人が言ってたんだよ」 「夜中に怪しい人が庭で何かしてるって!」 「怪しい人ってどんな?」 「それを聞きに今日来たんです!」  警部も少年探偵団も話が分からない、ということらしい。世祖はミニカーをポッケの中に転がしながら警部の後ろに集まった人を見てみる。と、ばっちり目が合ってしまった。沖矢昴が、いた。 「世祖、あの人って」  すぐに変装を見抜いてしまった信濃の足を瞬間的に蹴った。#名前2#もよくしているのを見ていて真似したわけだが信濃は舌をかみしめて何とか叫び声を抑えた。 「あの三人ってどんな人?」 「右から大工をやっている細田竜平さん、大学院生の沖矢昴さん、フリーターの真壁吟也さんだ」  みんな悪そうな顔をしている。朝帰りということで眠いのをこらえているんだろう。世祖はふと哀の方に目を向けた。雰囲気が一瞬だが変わったのが肌で感じられたのだ。哀はコナンの背中で体を縮めていた。世祖は自分と繋いでいる信濃を見上げてそっと哀の方に近寄った。コナンの肩を握りしめる哀の手をちょん、とつつく。 「はい」  世祖が信濃の手を差し出した。え?と出した方も出された方も頭に疑問符が浮かぶ。コナンは納得したのか哀に笑いかけた。 「信濃さんの後ろにいさせてもらえよ」  うんうん、と頷く世祖に信濃はよくわからないながらに「僕の方が大きいしおいで」と言う。少年探偵団たちも察したのか何も言わなかった。世祖が言わせなかった、という方が正しいかもしれない。 「警部、焼け跡からこんなものが!」 「おお! 開人くんの日記じゃねえか」  弓長警部が日記を読み始めた。今日は朝からやな天気、僕は学校だけど赤い人は寝坊できるかもね。玄関から帰ったら転んじゃった。白い人がいてくれて出かけるところでよかった。誰かお父さんと話してる。誰だろう、……黄色の人だ。怪しい事してるのがお父さんにばれちゃったのかな。怖いから耳をふさいで寝よう。 「黄色い人が犯人だ……」 「朝に帰ったって嘘をついてますからね!」 「だがよぉ、黄色の人ってどの人のことだ?」  弓長警部のことはもっともだがとにかく沖矢昴が犯人ではないことだけは確かだ。これで赤い人が沖矢のことを指していたら思い白いのに、と思いながら世祖たちは容疑者となった三人から話を聞くことになった。