ミステリートレイン
「ミステリートレインにですか?」 「ああ。ぜひに行ってきてほしいんだよね。チケットはもうそろそろ届く頃だろう?」 沖野さんの言葉が聞こえると同時に家のインターホンが音を鳴らした。相変わらずの動かしっぷりに#名前2#はもはや笑うことも出来ずただ宅配便からチケットを受け取った。封筒を開けてみるとミステリートレインのパスリングは1つのみ。 玄関に置いておいたスマホを手に取ると#名前2#はまた話しかけ始めた。 「なんで1つなんすか?」 「どうやら組織がシェリーを見つけたと言いだしてね。今回は隠れるのが無難だと思った次第だ」 つまり、世祖を連れていくのは危ない、と。玄関にいた俺に世祖が近寄って来た。お・き・のと口を動かすと 「世祖は追いかけられるの禁止されてるんでしょう? 手を出したら殺される、とかキールは言ってましたけど」 「キール…ああ、本堂さんの娘さんか。そういや、あの弟くん。彼は頭はいいけどまだグリーンカードとるのは大変そうだね」 「瑛祐のことですか。あの父親とあの姉にあの弟を比べるのはどうかと思いますけど……」 「ああ、君のトラウマも刺激されるかな?」 沖野はそう言っていやらしく笑うと「世祖がどうしてもミステリートレインに行きたいというならもう1つのパスリングも送ろうかな」と云った。 それを耳敏く聞きつけた世祖は#名前2#の足にしがみつき「いく! いく! いーくー!!」と叫ぶ。 「ーだそうです」 「……君、世祖に傷ひとつつけたら殺すからね?」 「分かってますよ」 沖野が電話を切ると今度は黒のスーツを着た男が玄関前に立っていた。 「はい?」 「シグマからだ。セイソにこれを」 「あいあい、了解でーす」 沖野はどうやら向こうではシグマと名乗っているらしい。彼は曲がりなりにも歴史修正主義者と第1線で戦う未来人である。むやみに名前を言うのは良くない、ということらしい。 「#名前2#? リング?」 「ああ、ごめん。これだよ」 世祖はリングを受け取ってキラキラした顔で見つめている。可愛いなあと#名前2#も思ってしまう。 「今日はどこか食べに行こうか」 「うん!」 折角のパスリングをつけて世祖はいそいそとお出かけの準備をし始めた。今日は沖野さんと電話があるからコナンたちとのキャンプは行かなかったのだが……世祖も仲間はずれは嫌らしい。ご機嫌取りのための外食は世祖に効果てきめんだった。 「どこ行く?」 「ダァニーィー」 「ファミレスかー。今日はオムレツの日だなー」 「うんー」 ファミレスに行き、二人席に案内された。そのまま注文もお願いしてあとは待つだけ。と、その時遠くにテレビでもよく知っている怪盗キッドがいた。学友たちと来ているのか制服姿のままである。それでも世祖の目には怪盗キッドとして写っていた。 「キロ」 「マジ?」 そんな会話をするくらいには世祖はビックリしていた。あのコナンのライバルがこんな所にいるなんて。しかも声が工藤新一にそっくりである。 「他人の空似っつっても、声が似るなんてなあ」 「なー」 世祖はさっさと興味をなくしたようでオムレツが来るのを待っている。#名前2#もそんな世祖を見ていたら気にするのが馬鹿らしくなった。じっと見ていたらそれこそ不審者だ。 「楽しみだな、オムレツー」 怪盗キッドの方も#名前2#たちを盗み見したということには、世祖しか気づいていなかった。 7号車のD室。2人分の名前が入ってるという事は……多分だがC室かE室には#名前2#1人の時の名前が入ってるんだろう。沖野さんのその権力の飛ばし方はどうなってるんだろうか。彼ならいつか国家さえも動かせそうな予感がする。……それだけはぜひにやめていただきたい。と、そこまで考えて「ああ、世祖のせいか」といたった。 世祖の頭脳なら核兵器のボタンを繰り出すことも、衛生の回線を壊すことも、スマホによるサブリミナル効果で洗脳国家すら作れそうだ。ただ、それは世祖がとても頭のいい人間であった場合で今の彼女のような#名前2#や沖野に頼りを求める人間はあてはまらない。 それでも注意書きにはこう書かれる。"可能性は0に近いが0ではない。"つまり、世祖が未来で得てしまったその頭脳を持っている限り沖野は交渉道具に使うし世祖は誰かに危険視されて生きることになる。珍しく#名前2#は自分の頭でそこまで考えてそして考えることを止めた。慣れない事をしたので頭が痛くなってきたのだ。 駅のホームに来るとにょっきり現れた影に腕を掴まれた。 「やっぱり#名前2#さんだった!」 「よーっす、園子ちゃん。うちの保護者がごめんなあー。色々やらかしたみたいで」 「世祖ちゃんのためなら大丈夫よ。おじ様、世祖ちゃんと#名前2#さんをずーっと気にしてたもの」 園子のいう気にしていた、というのは鈴木次郎吉の飛行船のときのことである。#名前2#は世祖とFBIの捜査に関与しており、そのために赤いシャムネコを捕まえたのだが彼らは脱獄。飛行船でテロもどきを起こし、世祖ふくむ乗客たちを人質に#名前2#を痛ぶりひどい傷を体に作った。 #名前2#からすればそんなにひどいケガではない。爆弾テロに巻き込まれたときの方が悲惨だった。だが一方的にやられた姿は次郎吉にはそうは見えなかったらしい。ずっと#名前2#の傷を気にしており、出来るだけの待遇をしようと頭を下げてきた。#名前2#は苦笑いして「うちの保護者がまた無理言うかもしれないんでその時はよろしくお願いします」と云った。 「あはは、申し訳ないなあやっぱり」 「ん? あっれ、#名前2#さんだ!」 「おお、真純ちゃん。君もミステリートレインに?」 「探偵としてこれは乗っとかないと、と思いましてね!」 「かっこいいねえ」 #名前2#がうんうん、と首をうなづかせながら微笑むと世祖が服の裾をぎゅっと引っ張った。 「#名前2#! 哀たちいた!」 見るとそこには確かに少年探偵団たちの姿があった。向こうも大声で叫びながらぴょんぴょんカエルのように飛び回る世祖を見つけて駆け寄ってきた。 「#名前2#さんも乗るんですねー」 「保護者にリングをもらったんでな」 「ああ、君じゃったのか。次郎吉さんに特別待遇で2部屋もぎとった、というのは」 「阿笠博士……」 もうそれ以上言わないで欲しい、と口に人差し指をあてて首を振った。ここでまた組織に見つかると面倒だ。世祖はただの小学生にしか見えないだろうが自分はそうもいかないのだ。 「お、おお、すまんかったのう」 「………」 「いや。こっちもすんません。あ、発車するみたいっすね」 「ねえ」 先程まで黙っていた哀が口を開いた。ついでに下から#名前2#のことを斜下げて見るという器用なことをして。 「世祖つれてきて本当によかったの?」 「しゃあないだろう? 保護者が俺に行けって言ったら世祖が絶対ついてくって、きかねーんだよ」 ゴホゴホと咳を鳴らしながら哀は「あの子のトラウマ、増えるんじゃない?」と言った。船も飛行機も飛行船もイージス艦もだめになって。いや、後ろの2つは普通の人は乗らないが、それでも世祖はどんどん交通手段というものをなくしている。 「はは、まあ気をつけるよ」 そんな#名前2#の乾いた声は哀にとってはフラグのように思われた。そしてそれは当たっていた。 列車は案外と広く、案外と静かだった。SLの見た目をしていても中身はDL。オリエント急行を模したそれはこの時代に合わせた最新鋭なのだ。#名前2#はふかふかのソファに座り「うひゃあ」と声を上げた。なぜかシャーロックホームズ、シャドウゲームを思い出したのだ。世紀末の女装とネットで呼ばれていたホームズはここでは出ないよな?と勘ぐってしまう。そうならないことを祈ろう。南無南無と#名前2#は手を合わせた。 ひょこん、と世祖が動き出した。耳をくすぐってむにゃむにゃと何かつぶやくと部屋を出ていってしまう。 「あ、おい世祖…!」 「8ー。Bー」 「はぁ?」 世祖が駆け足でたったか駆けて行ってしまった。おい、と追いかけようとすると#名前2#のスマホが変なタイミングで鳴り響いた。メールの着信音だ。 「んんー?」 メールの差出人はコナンと沖矢昴。 コナンからは作戦実行するということ。沖矢昴からは世祖を野放しにするな、というショートメールだった。 「何見てんだよ、こいつらは…」 #名前2#がそうつぶやくと背後によく知った気配が出てきた。 「殺人事件、みたいですね…」 「……え、安室さん?」 「奇遇ですね、#名前2#さん」 「うんー、そうですね?」 #名前2#からすれば黒の組織の1員である男がわざわざ「奇遇」にも会いに来るというのはどうなのだろうか。ここは特別車両で、普通の乗客だったら来ようとは思わない場所だ。 「蘭さんたちから#名前2#さんがこちらにいると聞いてもしや、と思いまして」 「ああ、そうだったんすか」 適当にやり過ごしてしまおうという#名前2#の魂胆は見抜かれていたらしく、腕をつかまれて言われてしまった。 「世祖ちゃんを探すんでしょう? 手伝いますよ」 有無を言わせないその言葉に#名前2#は苦笑いで「よろしくお願いしますー」と頭を下げた。