ミステリートレイン
殺される役目は久々にやったけれどつまらないものだねえ。 青江にそう言われて#名前2#は苦笑いで「すまねえな」と頭を撫でる。青江はくすぐったそうに髪の毛を揺らして「銃に撃たれたふりだけで良かったのかい? 爆発しても良かったけど」と言い出す。 「バカ言え。家の中で急に爆発したら困るだろ。ガス会社に迷惑かけ続けたら怒られるのは俺なんだから」 「君たちだって爆発したくせに」 「はいはい」 ミステリートレインでの邂逅のあと、安室さんに願い出たのはシェリーが殺されたことの情報操作だった。ベルツリー急行ではスプリッツァーが邪魔をした、と言えばボスたちは諦めると電話したのは#名前2#である。結局使わなかったあの電話機を使ったのだ。 最初の作戦はシェリーが殺されたと言うべき話だったのにスプリッツァーをねじ込んだためおかしくなってしまった。なので#名前2#は青江に頼みキュラソーを呼び出した。 「……久しぶりね、エージェント」 「よっキュラソー」 「いつまで経ってもださいわね。ネクタイは?」 「大1にネクタイなんか似合うかよ」 「それで、シェリーを見つけたって言うのは本当なの?」 「殺しの依頼はそういうこと」 「だったわね」 キュラソーは愚問だったわ、と言いながら自慢の髪の毛をぱさりと揺らした。黙って見ていた#名前2#は不思議な笑顔を浮かべて「隣の部屋に彼女が寝ている」と指さした。いつもとは違う指示だったがキュラソーは迷いなく中に入った。 中にいたのはひどく拷問を受けたあとのような茶髪の女が横たわっていた。洋服というよりは入院患者が着るようなそれはただ体に巻きついているだけのものだ。火傷と凍傷とで体は肌色という元の色を失っていた。足が歪にねじまがり女が息をする度にきりきりと動いた。こふこふと血が張り付いたような呼吸が時たま起きる。キュラソーはそれを見ながら平然と#名前2#に話しかけた。 「カメラは?」 「俺が撮るよ」 「三脚の方がいいんじゃない?」 「俺の撮影技術なめんなよ?」 キュラソーは悪かったわよと笑いながら銃を取り出した。そして#名前2#の方を向いたまま一気に引鉄を引いた。パァンッパァンッとかわいた音が2回。頭と心臓を1発ずつ。 「お見事」 「茶化さないで」 「茶化してなんかないさ」 「処理班は?」 「いつもの所がやる。大丈夫だ」 「ならいいんだけど。ジンたちは雑だからやなのよね。アイリッシュやピスコもひどいんですもの」 「仕方ないだろ。あいつらにとっては要らないものは地球に還すんだから」 「組織がバレるかもしれない危険性を残すのは危険と言ってるのよ。情報操作も大変なの」 「違いない」 #名前2#はけらけらと笑いながらビデオを止めて部屋を出ていった。キュラソーもそれに続く。ぱたんと閉じられた部屋の中には刀が1振り残された。 「キュラソー、これからどうする?」 「ビデオは私がラムに渡すわ。スプリッツァーは?」 「ちょっとしたお仕事。ボスに渡された」 「馬鹿ね。バーボンたちの邪魔なんてするから」 「違うね。バーボンが俺達の邪魔をしたんだよ」 #名前2#はにっこり笑うとキュラソーに金を渡した。7枚のそれにキュラソーは顔を顰めて「いらないわ」と突き返す。 「貴方と私の関係はそんなチンケに扱われたくないわ」 「………。なら、仕方ない」 これは弔い火にしよう、と#名前2#はライターを取り出した。じゅっと燃えていく人の顔にキュラソーは皮肉ったような顔をする。 「金。金でスプリッツァーは動くのね」 「そうだな」 「あなたは何で動くの?」 「………」 #名前2#は何も言えなかった。そして顔を少しだけ歪ませて「俺は命のために動いてる」と借り物のような言葉で返事をした。キュラソーはふうんと言うだけで何も言及しなかった。 その日はいつも通りの夜だった。特に月が出ることも星が出ることもない。都会の真っ暗な空だった。 「キュラソー」 女はまるで暗闇に消える猫のようにひっそりとその背中を壁に預けていた。ライダースーツが体にフィットしていて扇情的な姿をしていたが呼びかけられた方はつれない返事だった。 「どうしたの、始末人を使うなんて。貴方らしくないわね」 「シェリーを殺すのが命令なんでしょ。確実な手段を選んだだけよ」 キュラソーは文句があるの?と言いたげにベルモットを見つめた。カラーコンタクトをつけた瞳がぎゅっとベルモットを睨んでいる。ベルモットからすればキュラソーの方が猫のようだった。愛しい愛しい野良猫だ。 「スプリッツァー(愛しの彼女)を無くしてからは使わなかったじゃないの」 だからこそ彼女の傷口をえぐる言葉を選んだ。キュラソーは飼われているような狡猾な猫は似合わない。その役はベルモットのものだ。 「………。それがどうしたの。組織にはラブはあっても関係はない。そう言ったのはあなたでしょう?」 「っふふ。そうだったかしら?」 「ジンとのマティーニは美味しかった? 私なら死んでも食べないけど」 「貴方達は混じったら飲めもしないただの液体。それならマティーニの方がいい。違う?」 ベルモットの下劣な言い方にキュラソーは眉を顰めて「ファッチ」と呟く。スプリッツァーが昔に使っていた口の悪い口癖だ。 「用件は? それだけ?」 「残念。私はラムから連絡を預かってきたのよ」 ベルモットの体がゆらりと動く。本当に闇みたい、と昔のキュラソーなら言っただろう。今のキュラソーならまた「ファッチ!」と叫ぶだろう。 「公安に潜みノックリストを調べてきなさい」 「……」 「アイリッシュが持ってきたものはアスピーが壊しちゃったでしょう?」 ベルモットはふふと笑っていうがキュラソーは笑いたくもなかった。潜入するための変装を教わったらすぐにでもどこかへ行きたい気分だ。ああ、#名前2#に手紙を書かなくてはならない。 「行きましょう、キュラソー」 悪魔のような手がキュラソーの肩に乗せられる。振り払ったらベルモットはどんな顔をするだろうか。何よ、と怒るだけ? それとも……。 考えたところでキュラソーは実行には移さない。ただ静かに寄り添って歩いていくだけだ。 「ファッチ」 また口の中で呟いた。 ファッチは友人達とクソを使わない時の言葉としてfu/k+ビッ/でファッチって言ってるのをそのまま使ってます。こういったネタが嫌いな人はすみません。 アスピー:アスペルガーの人を指すスラング。誰かに使うってことはないようにお願いします。