探偵たちの夜想曲
目覚めたあと#名前2#が手を握っていた。なんでか一緒に哀もいる。哀はさっきの服装と同じ格好だった。 「起きるのが早いですね、君は」 「………。ぁむろ…さん」 「呼びにくいのならどうぞあだ名で。コードネームは遠慮してほしいですけど」 「…なんで いる?」 「ある人間の見舞いついでに君の様子を見に来ようと思いまして。ああ、僕は2人とは別の車で来たので安心してください」 安室透はにっこりと王子様のごとく微笑んで世祖のもとに近づこうとした、が立ち止まった。#名前2#が僅かだがみじろいだのだ。そのラインを超えたら何が何でも倒すというオーラが彼にまとわりついていた。世祖は頭をふって帰れと口を動かした。安室もうなずいて部屋を出ていく。 バタンと閉まる音が響いて2分か3分たって#名前2#は起き上がった。するンと蛇のように動いて扉にぴったり張り付いた。人がいないことを確認するとようやく息をついて椅子に沈んだ哀の体を膝にのせ、手を伸ばして世祖の頭をなぜた。 「平気か?」 「ん」 「ナースコール押すぞ」 「ん」 その後、世祖は少しの検査をしてから退院することになった。引き攣れた銃創がなぜこんなにあるのか、と質問されたがアメリカでの銃撃戦に巻き込まれたと言うと渋々納得された。 でも世祖は自分の体よりも#名前2#の体の方が傷が沢山あることを知っている。この程度の傷跡ならどうってことない。哀を背中に#名前2#は世祖の手をとった。 「ごめんな、助けるのが遅くなって」 「……」 「世祖、お前はよく頑張ったよ」 暖かな手が世祖の頭をなでてくれる。また泣きそうになったがなんとかこらえた。ぐーっと力を込めて歯を食いしばると#名前2#は「ブサイクな顔すんなぁ」と笑って背中を見せてくれた。 乗れ、と言いたいらしい。大丈夫かな、と心配だったが乗りたい気持ちの方が勝った。#名前2#の広い背中は痩せた哀と世祖でも少々狭かったがその分腕が2人の足をしっかりと押さえてくれていたので思いきし体を緩めた。謝ったあの時から体は緊張しっぱなしで大変だったのだ。 「ん、んん……」 「哀ー?」 「哀、寝かしといてやろうか。俺と一緒になって2日間ずーっとついてたんだ。ふぁーぁーあ。さすがに3徹はきついな……。車の運転危ないかも……。世祖、今タクシー呼ぶからちょっと待ってくれな」 「それは必要ないんじゃないですかね」 「!?」 「#名前2#くん、こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇ですね」 「……あははー。こんちわ、安室さん」 「よければ僕の車で送りますよ? 3人なら丁度ですから」 「だってよ、世祖」 どうしようか、と#名前2#が続ける。背負った哀はもう起きたようだが安室の気配がしたと気づいた瞬間にたぬき寝入りに持ち込んでいる。世祖はそんな哀を見つめて口を開いた。 「#名前2#さん! 久しぶりっす!」 「!?」 「ん? おー、秀樹くんじゃん。久しぶり、元気だったか?」 「ええ、まあ。お陰様で」 世祖は口を開いたものの後ろからかけられた声で思わず舌をかんでしまった。ひーひー息を漏らしながら後ろを見るとそこにいたのはコクーンゲームで知り合った諸星秀樹だった。警視副総監の孫ということを笠にして色々性格がネジ曲がっていたがコクーンの後以来礼儀正しい子になってくれた、とお礼を言われてしまった。 秀樹の後ろの車には運転手と一緒に薬研が車に座っていた。ジーッと窓が開くと彼はケラケラ笑って手を振っている。 「…その人は……?」 「この人は俺がよく行く店の店員で安室さんっつーんだ。眠りの小五郎のお弟子さんだよ」 「へー、…。あんなヘナチョコの……」 二言目はボソリといったつもりであろうがきちんと聞こえている。世祖も哀も思わず笑いそうになるのをこらえた。 「#名前2#さん、このあと暇なら俺達に勉強教えてくださいよ」 「おう、いいぞー。あ、じゃあ安室さん。すいません、今日はここで……」 「あ、ああ。はい。またポアロに来てくださいね、それでは」 最後まで爽やかに笑う人だがその目はわりと怖い。ふぅーと息をつくと世祖がもぞもぞと背中から降りようとしてきた。 「降りるのか?」 「ん」 しゃがみこんで下ろすと世祖は秀樹のもとに駆け寄り頭をさげた。 「ありぁと」 「いいよ、気にしなくても」 「ん? 何の話だ?」 「コイツからメールが来たんすよ。#名前2#が疲れてるっぽいから車を貸して、って。薬研が#名前2#さんと世祖見つけたんで急いで回ってきましたよ」 「そうだったのか……。ありがとうな、秀樹」 「別に構いませんて。このまま家まで送りますよ」 「ああ、いや。……今日はこの娘を送ってくからそっちでいいや。帰りは歩くよ」 「いいんすか? 2軒でも送りますけど」 「いいよいいよ」 小学6年生だというのに今からこんなに紳士なのかあ、と#名前2#は心の中で思いながら車についていく。哀はまだ寝た振りを続けていたので横に座らせて。 世祖は秀樹と薬研の間に挟ませた。秀樹に妹がいない人間のせいか、世祖のことを可愛がりたい気質だった。世祖はあまり弄られるのは好きじゃないが今回は助けてもらったと思っているので大人しく座っている。 「出してくれ」 「分かりました」 車内では久々に会ったので近況について秀樹は色々としゃべってくれた。ヒロキに体を乗っ取られていた秀樹だが朧気に記憶があるらしく、哀のことも生意気なガキだと覚えていた。 「この前の学力テスト、めっちゃ難しかったっす」 「あ、それ新聞に出てたな。なんか渋滞のやつを解けって」 「それっす。後で薬研に確認したら、こいつ中学のやり方やってて……」 「残念だったな、俺っちはもう中学の方もできる頭なんだよ」 むっとした顔だったが秀樹はすぐに「#名前2#さん、今度教えてください」と言い出した。 「俺? おー、じゃあ金とろうかな」 「えー、いいですけど」 「あはは、嘘だよ。あいつらも来る? サッカー組」 「滝沢たちですか? 来ますよ、きっと。あ、菊川はどうかな。休日は稽古だから」 「そっかー。まあ聞いてみないとな」 阿笠の家の前で停まり、車を下りた。秀樹は#名前2#たちを送らなくていいのかと何度も聞いてきたが、構わないと2人を車に押し込めて出してください、と合図する。薬研はそんな#名前2#を「さすがだな」と評価して去って行った。 車がしっかり消えたと確認して#名前2#は哀に「もう起きていいぞ」と声をかけた。 「………。あなた、彼とまだ繋がってたのね」 彼、とは秀樹のことだろうなあと#名前2#でも分かる。とどのつまりはコクーンゲーム終わったあとも連絡とってたのね、と言いたいのだろうがそれは違う。 「……俺じゃないよ。ノアズアークがやってるんだ」 「え…」 「世祖のラップトップに今はいるんだけど……なんてゆーか、友達が欲しいって言っててさ。薬研に協力してもらって秀樹と連絡とれるようにしたんだ。アッチからすれば俺と話してるみたいだけど」 「……あなた、まともじゃないわね……。わざとスケープゴートされてるの?」 「まあいいじゃねーか。ノアズアークは秀樹たちとの会話しかさせてねえし、他のことに使うつもりもない。ああ、あいつにはラインはちゃんと引かせてあるから大丈夫。下手なことしたら消されちまうからな」 「……。あなたってほんっとうにおかしな人ね。まあいいわ。お茶でも飲んでけば?」 「あんがとー」 ふと気づいた。じっと視線がこちらに向けられている。哀のことか世祖のことか。俺自身のこと…ではないよなあ。工藤邸から沖矢さんが視線をやっていた。 哀は沖矢に世良、安室から離れるのもあって世祖についていく、と言い出し終いには学校を休んでベッドに張り付いていた。心配しようにも沖矢は病院には行けないので#名前2#と世祖の友人(というよりは遊び相手だが)のキャメルになにか起きないか見張らせることにしていた。 そこで沖矢が知らされたのはFBIで仕事を共にしていた左文字宗が#名前2#と親しげに話していたということだった。 「左文字宗?」 「ええ。赤井さんは知りませんか?」 「いや……。知らないな……」 「そうですか……。長谷部さんとはなんだかんだ言っても仲が良かったようですが」 それはどーゆー意味だ、と言うのは我慢して引き続き哀たちを頼むと電話を切った。全く。彼は知らないうちにいろんな人間を巻き込む体質らしい。