沖野さんと毛利さん、キャメル捜査官

 毛利小五郎の友人に沖野という男がいる。探偵になってから知り合った友人で、アイドルの沖野ヨーコの叔父なんだとか言うが実際のところは謎だ。胡散臭い男ではあったが、その正義感は確かなもので嫌うようなことは無かった。  沖野は私生活が謎で交友関係も不思議だったが、お金に困っていた毛利に依頼を紹介してくれたり家族とのいざこざを助けてくれたりしたのは沖野だった。小さな蘭にとっては、沖野は声も知らないあしながおじさんだった。  沖野は基本的に「毛利には依頼しない」という。初対面の時のは数えねえのか?と聞くとあの依頼は三条からだと躱してしまう。こんな腐れ縁を続けていくのだと思っていたある日、一度だけ沖野は毛利に依頼したことがある。 「娘と息子ができたんだ」  写真も見せず戸籍も見せずその一言のみだった。いつもならすぐに証拠だなんだという男がそれだけの報告というのはおかしな話だったが、沖野の表情を見て毛利は何も言えなくなった。 「あいつらとお前がいつか会うかもしれない。その時は頼む」 「何言ってやがる……。探偵の俺とお前の子どもがいつ会うってんだよ」  沖野は毛利と会うとき必ずマンツーマンでなければいけないと言っていたのだ。だから毛利は妻と子どもに「沖野という友人がいる」とは言ったことがない。沖野もまたいつも1人でふらりとやってきたのにどうしたのか。  沖野ははへらりと笑って「会うだろうよ」とだけ言うのだった。沖野がそう言った時に外れたことがない。毛利は渋々頷いた。そして出会うことになったのが大学生だという#名前2#と小学生だという世祖だった。帝丹高校のOBで東都大学の1年生。妹は障害者で、彼がいないと生活困難者らしいが1年生にだってそれなりの学業があるわけで妹はたまに毛利探偵のもとに預けられるようになった。世祖の同級生のコナンがいたからいいものの、そうでなかったら扱いに困っていただろう。  沖野と自分とに関わりがあるのは構わないし、我が娘と沖野の息子が仲良くなっていても気にしない。だが言いたかったのはその教育だった。 「うちは保護者は放任主義なんすよ」  #名前2#は言い訳のようにその言葉を使う。一言で全てが解決してくれる魔法の言葉というかのように。家には沖野はほとんど帰ってないらしい。アメリカで何をほっついてるのか知らないが、あの兄妹ふたりだけでは生活だって困るだろう。  沖野からは金はもらっているらしく、世祖を預かる度に口座に金が振り込まれる。要らないと言った時期もあったが、依頼としてるからと#名前2#は首を振り続けきちんと一定額振り込んでいた。兄妹の家計がどうなっているか分からないが自分の飲み食いには使わないようにして蘭の学費に変えた。それでもやはり金は余ってしまうので、そんな時は世祖を預かった時にどこかへ遊びに行くようにした。高所恐怖症の毛利探偵だったが、世祖といるとなぜかその怖さがなかったのだ。世祖を見やるとくひひと笑うだけで何もしていない。不思議な体験だったが、それはたった一度のことでそれ以降に感じたことは無い。今でもあれは世祖がやったのではないかと疑っているが真意は確かではない。  シグマという人がキャメル捜査官は苦手だった。何を考えているか分からないからだ。上役のため顔に出さないものの、彼が来ると自然と自分のやる気が削げるのが分かる。シグマはいつ頃からFBIにいるか分からない。気づいた時にはそこに収まっていたのだ。  胡散臭い男。形容詞はそれがピッタリあてはまる。同僚たちは滅多なことを言うもんじゃないと諌めたが左文字という日本人(日系人かもしれない。)はそうですねと頷いた。 「君もそう思うかい?」 「はい。シグマは人使い荒いし、労りもせずに仕事を押し付けるので僕は嫌いですよ。素性も分かりませんし」 「そうなんだよなあ」  左文字宗の言葉にぶんぶんと頷いてしまった。左文字は笑いながら「素直な人ですね」と言っていたが左文字だってかなり本音を言っていた気がする。キャメルと左文字はそんなことがきっかけで仲良くなった。尊敬する赤井捜査官の呼び名もシュウのため、左文字のことをキャメルはソウと呼んでいた。その呼び名がいい、と左文字から言われたのだ。 「ソウザが僕のあだ名だったんです」  左文字は日本語を教えてもらった時にぽつりとそんなことを話した。ニックネームではなく、あだ名と言ったのはなにか意味があるのだろうけどキャメルは聞かないようにした。左文字は時たまぽつんと外を見ていたからだ。他人を寄せ付けないようなそんな雰囲気。左文字とは友人だと思っているが、左文字からそう思われてるかは謎だった。  キャメル捜査官がシグマのことを苦手と思わなくなったのはとある事件をキャメル捜査官と左文字で手伝った時からだった。とある事件と言っても、犯罪行為ではなくシグマが事件といったから便宜上事件と呼んでいるだけである。キャメルたちが手伝ったのは、シグマの娘を息子の方と会わせることだった。  日本には「はじめてのおつかい」という、まだ幼い子どもひとりでお買い物に行かせる行事があるらしい。アメリカでは考えられない話だが、日本はそういうお国柄らしい。なぜアメリカでこんなことをするかと言えば、シグマのせいらしいが深くは話を聞けなかった。娘の方は世祖といい、息子の方は#名前2#という。迷子のふたりを会わせてやるのがキャメルと左文字の任務だった。  子どもに怖がられる顔だと自負していたが、世祖は全く驚かずにキャメルのスーツに顔をうずめた。左文字の方は#名前2#くんの方にいって道案内をしているはずだ。  シグマからの任務だと、#名前2#くんには英語でしか話しかけられないらしい。でも#名前2#くんが何か日本語で喋った時にすぐに分かるようにした方が案内が楽だという理由で左文字は#名前2#くんの方に行った。そんな訳でキャメルは世祖のところに着いている。世祖はすぐに見つかったが、まさか向こうも自分がFBIだと分かると思わなかった。少女はぱぱっと駆けてきたかと思ったらキャメルの手を繋いで近くの街道のベンチへと連れてきたのだ。  少女の方は英語が達者だった。イギリス英語っぽいのは否めないがフランクな話し方である。君をお兄さんの元へ連れていくからね、と伝えると泣き出してしまった。ひとりぼっちでいた不安は確かにあったらしい。 「#名前2#どっがいっだぁ~~。せい、おいてった……」 「置いてかないですよ、大丈夫」 「どごいっだのか分かんない~~」  一頻り泣いた後は世祖はすっきりしたように自分のリュックサックからお茶を取り出してごくごくと飲み始めた。コーラを飲まないあたりはやはり外国人だなと思う。 「さ、行きましょう」  差し出された手に世祖の手が重なる。シグマの娘は自分が思っていたよりも可愛い子どもだった。 「キャメルさんっすね! 世祖のこと連れてきてくれて、ありがとうございます!」  まだ小さな少年はぴかぴかの笑顔でキャメルに握手を求めてきた。シグマの息子というからもっと冷静な子を想像していたが全然そんなことはなかった。年相応の少年だった。なぜかキャメルは「こちらこそ、ありがとう」と返していた。#名前2#の後ろで左文字はぶふふっと笑っている。 「俺、まだ英語あんまり分からんくてソーザがいて助かりました」 「そーざ?」 「あっ、えっとー、」 「僕のあだ名のひとつですよ」 「そうだったのかい」  #名前2#くんはやけに慌てていたが、左文字の言葉にほっとしていた。わかりやすい男の子だ。シグマとは大違い。 「いやあー、それにしても助かりましたよ。シグマさんに、迷子になったら助けをよこすって言われてたんすけどね。キャメルさんみたいないい人で良かったです。世祖も楽しめたみたいだし」  未だにキャメルと手を繋ぐ世祖がにぱっと笑った。心がふわふわと暖かくなる。シグマのことは苦手だが、彼らのことは好きになれる気がした。 毛利探偵とキャメル捜査官の可愛さが伝われば幸いです。 キャメルさんと会ってる時は、おそらく世祖が組織にいる時期です