黒うさぎ亭にて
バニーガールたちに興味があったというよりは、オーナーに誘われていたという方が正しい。諸岡さんとは、三日月の紹介で出会った。ボディガードとして雇われているおれのことを自慢した三日月に諸岡さんはうらやましいとしきりに言い続けて、今回の脅迫状のボディガードを頼まれたのだった。彼にだってボディガードは幾人も雇われているのだが、そのお店では堅苦しい姿は見せたくないということでおれが候補にあがったのだった。あくまでもアルバイトなのでそんなに期待はされていなさそうだったが依頼されたらしっかり仕事はやるつもりだった。 「ちわす」 そんなわけで、バニーガールのクラブに来ているのだ。諸岡さんにはおれに依頼してきたときにくだんの脅迫状を見せてもらっていたので、ついでに「毛利探偵も呼んだらどうですか」と言っていたのだ。眠りの小五郎ねえ……とあごをさすっていたのであんまり好感触ではなかったし、まさか本当に呼ぶとは思わなかった。コナンと蘭ちゃんはいつものこととして、安室さんも来ているのには驚いた。向こうもおれがいるとは思わなかったみたいで顔にはありありと「意外だ」という言葉があった。 「#名前2#さんもこういう場所すきなのかと思いました」 蘭ちゃんが苦笑いで言う。存外に、男の人だしかわいい女性のバニーガール姿すきでしょうと言いたいようだった。そういう仕事なんだし、それはそれでいいんじゃないか? とも思うがそこは深くはつっこまないことにした。 「おれは行くとしたら普通の店のほうがいいよ……」 「行くのは行くんですね……」 「世祖がいるから行ったことないけどね」 蘭ちゃんはそれもそっか、と納得している。おれが世祖のせいで行動が制限されているのがそんなにわかりやすいのか。 「私の命が狙われるとしたらここしかなくてですね。普段はボディガードもつれていかないんですが、三条さんがOKを出してくれたので#名前1#くんを呼んだんですよ」 「です」 軽く頭をさげるとなぜか向こうもお辞儀してくれた。そういう律儀さはわりと好きなところである。 「あ~~! 諸岡さん、いらっしゃーい!」 明るい声が横から聞こえてきた。諸岡さんの話で聞いていた有里という女性だ。いつも指名している人らしく、ここに来るたびにお金を使いまくっているのだとか。それなりにいい年齢をしているおじさんが……? とは思ったが、嗜好は人それぞれだし女性の好みもそれぞれだ。 「あら、その子たち娘さんと息子さん? かわいい~」 前屈みになった有里さんのことを見て毛利さんの喉がごくりと鳴る。毛利さん、と声をかけると「お、おう! まだなんもしてねーぞ!」と返された。 「ここ、女性に触っていいとこじゃないですよ」 「毛利さん!?」 「い、いやあ。何言ってるんだ、#名前2#くん。俺がそんなことするはずないじゃないか……」 焦りながら弁明する毛利探偵に蘭ちゃんとコナンくんが「いっつもしてる」と視線で物語っていた。 毒味のために諸岡さんの隣に座り、一口ずつ食べていたらコナンの視線がぶすぶすと刺さってきた。 「#名前2#さん、今日、世祖は?」 「今日は病院の日」 「ほんとに?」 「じゃなかったら依頼、受けられないよ」 ラッキーだったなあと笑う諸岡さんと、しょぼっとした顔をしている執事の深町さん。なんとなくだが、犯罪をする人間というものはみんなしてイレギュラーの事態を起こす人間に対する憎悪の気持ちがきえなくてこんな風に視線に隠しきれないことが多いと思う。今日、初めてここにもボディガードを連れて行くことになったと知らされて、深町さんの衝撃とはいったいどんなものだったのか。 ここに来るときに、車の中でこっそりと深町さんに話をさせてもらった。深町さんはそもそも亡くなってしまった奥さまに仕えていた人で、諸岡さんの執事をやっているのはその奥さまからの遺言だったそうだ。 「なのに、旦那様ときたらウサギ姿の若い女性にうつつをぬかしていて……」 それで、脅迫状を思わず出してしまったらしい。今日はそれでも無視して黒ウサギ亭にきた旦那様へ報復をしようとしていたらしいが。 「…………ひとまず、会話してみましょう。今日のところはなんとか我慢してもらって。もしダメだったら、執事なんかやめちゃいましょ」 「……ですが」 「亡くなった人のために誠意を尽くしたい気持ちはわかりますけど、それでストレスためて人を傷つける方がよっぽど奥さまに対して失礼だと思うんですけど」 もう少しオブラートに包んで言うはずだったのだが、深町さんにはストレートに言った方がいいかも、とおもわず。深町さんはそれ以上はなにも言わなかった。 結局は何も起こらないまま諸岡さんはかえっていった。事件はこっちが阻止したのだから当たり前だ。小五郎さんたちは「骨折り損だったな」なんて言っていたけど、おれとしては深町さんが何かやらかさなくてよかったというところ。それに。 「あの女の人、たぶん諸岡さんの娘さんですね」 「そうでしたか……」 「三日月に、調べてもらったんですが。諸岡さんは以前、駆け落ちをしたことがあるんですよね? そのときに子どもももうけていたらしくて。有里さんという方は、おそらく」 「……わたしは、旦那様のお嬢様を殺すところだったんですね……」 「まあ、そういうこともありますって」 正確にはおれの依頼を聞きつけた世祖がわざわざ調べたという話だ。そういうわけだからさっさと病院に来いというメールがさっき入っていた。 諸岡さんたちとは店の外でお別れ。いかつい顔をした母デイガードさんたちとバトンタッチだ。おれはそのまま病院に行く予定だったが、コナンたちがにっこにこの顔をして待っていた。 「#名前2#く~ん!」 「は~~い!」 「車、ちょ~っと貸してくんねぇかなぁ!」 「そんなことだろうと思ってました」 どうぞ、と車まで案内すると安室さんが「僕はこれで……」とひとり逆方向へ歩いていってしまった。いつもなら乗っていくだろうに。 「おやすみなさーい」 声をかけると会釈だけされてまた歩いていく。コナンはそんな安室さんをずっと見ていたが背中を押せばゆっくりとついてきた。 酔っ払っている小五郎さんたちを毛利探偵事務所に連れて行った後、ようやく病院に行くと世祖はベッドの上でもにょんもにょんと変な動きをしていた。 「世祖、おとなしくしましょう」 「……うぃぁー」 「しずかに。ストップ」 「ゅかー」 「ストップ。しずかにね」 世祖をとっつかまえてもう一度布団に寝かせるとやっぱりバタバタしていたがだんだんと眠気が戻ってきたのか落ち着いた。 世祖のおなかをたたきながらスマホを確認すると工藤夫妻から連絡が届いていた。 「バーボン、つかまったって」 世祖はなにも返事をしてくれなかった。