警察学校組と
不動が極になる前のような不安定さを見せた原因は何かと突き詰めたら諸伏が#名前2#の話をしだしたから、という話だった。#名前2#の姿が変わらない。その原因は世祖の力なのだが、それよりも大きな原因が沖野さんだった。話すと面倒だったので省略してしまったのだ。 「あー、まあ確かにそこら辺の話はしてなかったかも」 「俺たちにとってはもう通常運転だったから説明省いたかもしれない」 「うーん、説明しないこっちが悪いよなあ」 安定、不動、#名前2#はううんと頭を抱えた。これ以上秘密を喋っていいものか、という話である。もうバレていることではあるけれど説明がややこしい。#名前2#たちもそう思って刀剣男士には顕現してからすぐに頭に叩き込むようにしていたのだが、諸伏にそんなことはできない。 「……。でも、不動にも迷惑かかるしなあ。石切丸が言い聞かせてても、安室さん…っていうか降谷さんか。あの人に何かあったら幽霊だろうが気にしなさそうだし」 「なんか死んでからネタバレされるって人狼ゲームみたい」 「安定、お前さあ会話は空気読もうぜ? もーちょっと何かあるだろ。人狼やりたいにしても」 あははっと安定は謝ることもなくそのまま部屋を出ていった。#名前2#も仕方ない、とパソコンを開く。もう幽霊の彼に向かってどう繋げようかと考えてみた。パソコンの起動画面を見ながら10分して#名前2#は電源を落としルーズリーフを取り出した。拝啓 諸伏景光様へと1行目に書いた。昔こんのすけとこんなの書いたなあなんて思い出しながら頭で内容を思い浮かべながら手を動かしていたらすぐに書き終えた。 「景光君」 「石切丸さん」 呼ばれて体を竦めてしまうのは警察学校からの癖である。この声はどうにも苦手だった教官と同じ雰囲気らしく、癖はどうにかしようと努力しても治らなかった。また何かやらかしたか、と思ったら君あてに手紙が届いたよと見せてくれた。御丁寧に封蝋がついている。誰だろうと手紙をじっと見ると#名前1##名前2#と書いてあった。 「あの、これ……」 「大丈夫、君でも持てるよ。1人で読むといいんじゃないかな」 有難くそれを受け取り蝋を剥がした。誰も見てないという証拠になるように封蝋にしたのかもしれない。中にはルーズリーフで書かれた手紙が折りたたまれていた。レターセットではない所が彼らしいと笑いながら読み始める。 1行目にスコッチというコードネームではなく本名で宛名が書かれていた。それが嬉しくもこそばゆくもあり、死んでからの自分を思い返させる。結局俺は#名前2#の隣にいることは出来なかったんだ、とふとした時に思ってしまう。もちろん幼馴染の恋が上手くいくといいなと思っている。だが、先に見つけたのは此方だし最初はゼロはずっと警戒していたのだ。ライの時もそうだったがスコッチは何となく合間を保つ役割だった。でもそれを楽しく思っている自分もいたのだ。スプリッツァーを独占しているということは周りには言えないことではあったが優越感を諸伏に与えていた。それが今はどうだ。明るみに出た秘密と今の自分を見て。悔しくなるのは当然だった。俺の方が、好きだったのに。零れそうになる涙を必死に抑えた。死人は生者の応援をするのみと石切丸に最初に言われた。 君たちは普通の人間に近寄りすぎると悪影響を与えてしまう。自分たちにそんな気がなくとも、ね。霊体でいることへのエネルギーはこちらから供給すると約束するから変に人に近づかないように気をつけてね。 そういえばそんなことを言われたが、この手紙も何かエネルギーをつけているのだろうか、ついたい握りしめていた手紙は真ん中を細い線で歪ませていた。ひとつひとつシワを伸ばすようにしてもう一度よく見てみると1番目の文章に「これを読み終えたら燃やしてくれ」と書かれていた。 「俺には秘密がある。だが、それを言えるのは何時になるのか分からない。未来では極近代社会になっているから物事に説明をつけることが出来るが俺はそうでもない。あるがままに受け入れてしまう。 俺の年齢があんたらより年上だってことは話したが、俺はその記憶を持ったまま大きくなった。世祖も同じだったろうし、今の年齢差に何か嫌なものも感じてたと思う。世祖のストレスを減らすため、俺と沖野さんはそれなりの年齢に身体を進めるようにした。体だけ年老いたと言い換えてもいい。 世祖にとっては人間の体は原子や分子の集まりであってそれを変えることに何も感じない。未来での感覚なんだ。というわけで、俺は諸伏さんと会った時には今よりもう少し年上の24歳くらいだった。今の俺からそんなに成長してないんだな。 俺についてまた何か言うと松田さんたち困るだろうしこれは俺とあんたの秘密ということでひとつお願いします。それでは」 この手紙を読んで思ったことは、もしかしたら自分の恋心は既に彼に知られているんだろうかという馬鹿げた妄想だった。いやいやそんな馬鹿な。心の中で否定するがその都合のいい考えを信じ切られるほど馬鹿でもなかった。 恥ずかしさからまた紙をぐしゃりと握りつぶしてしまった。羞恥と後悔と色々な感情が綯い交ぜになる。石切丸が近づいてきて「大丈夫かい?」と微笑んだ。その姿はまるで後光のさした菩薩様、いや御仏様だった。 「石切さん、ちょっと相談に乗ってください……」 そんな仏に会ってしまい、景光は普段なら言わなさそうな言葉をついぽろりと出してしまった。 教会の懺悔室ってこんな感じなのかな。早まった選択をした、と後悔するも後にも引けずに景光は石切丸のあとを追いかけてきた。他の人に聞かれたくないだろう?と言いながら彼は部屋の周りにぺたぺたと札を貼る。効果あるんですか?と聞くとさすがにここでは力も半減してるけど滅っしないからとにこやかに言われた。この人も大概脳筋である。 「それで、どうしたんだい?」 石切丸はにこやかだが、その顔を見ていると景光は自分のことをどこまで話せばいいのか分からなくなった。秘密をばらしたらいかに幽霊といえども害あるものと見なされて断ち切られてしまうのではないかと心配になるのだ。 景光はゆっくりと口を開くと「幼馴染の恋を応援できないんです」とその点だけは素直にしゃべった。石切丸も心得たもので「なるほどねえ」と頷くのみでそれ以上のことを聞こうとはしなかった。 「あの、言われた通り人に無闇に近づいてはいないんです。もう自分は死んでるんだからまかせておけばいいのにって思うんです。でも、仲良くしてたりする話を聞くと……。最初に見つけたのは俺なのに…あいつは、嫌ってたはずなのにって。結局、あいつに取られるのかと思ってしまって」 石切丸はそこまで聞いても何も言わなかった。ニコニコと話を聞いている。平安の刀からすれば諸伏の悩みはちっぽけで掃いて捨てることもできるような物だろうが自分にとっては真剣で一大事なのだ。真正面の石切丸の視線へと顔を上げると落ち着いた口調で「君はそれでどうしたんだい?」と聞いた。汚いものをわざとさらけ出して斬ろうとしているのだ。何故かそれがわかった。だが、そんな簡単にさらけだしたら苦労はないのだ。諸伏はぐっと噛み締めた唇を無理やり開いた。 「俺は、こんな自分が嫌です」 「うん」 「最低だと思うんです」 「そうかい」 諸伏は思いつく限りの言葉で自分を責めた。石切丸は肯定もせず否定もせず相槌を打って待っている。諸伏は待たれているのも分かっていたがやはり自分の心を晒すことには苦しみを覚えてしまう。言えば楽になる。だが、言ったら後悔する気がする。それでもわざと心を傷つけるのにも限界が来た。涙を流し鼻水を垂らし唇も噛み切って血が出てきた。口に溜まった涎が落ちそうになるのを袖でぬぐった。 「俺は…死んだから。応援しなきゃいけないのに」 「ああ」 「……。俺だって、まだ好きなのに」 涙ながらに出た言葉に石切丸は「告白しないのかい」と相槌ではなくちゃんと相談に乗る言葉を放った。 「……」 告白なんて、考えたこと無かった。無駄だと諦めた恋心は見えないように奥底に隠していて、それがいつの間にこんなにも大きく成長していた。自分でも持てきれないそれを見せるというのか。幽霊なのに、告白をするのか。 「無駄だってことはないんじゃないかな」 「……。俺は、フラれるのが怖いです」 「まあ君、イケメン?ってやつだものね」 「フラれたことないんです」 「フラれる前提なのかい?」 「だって! 幽霊で、年齢も一回り上の時から好きになって……。俺、やな奴だって、組織に居る時、知って…」 「まあよく分からないけど好きなら告白すればいいのさ。#名前2#は真摯に答えてくれるよ。必ず」 それはそうだろうと思った。彼は二股も浮気も大嫌いだと言っていたから。 「怖がっていたら何も起きないよ」 石切丸は札を剥がして出ていった。部屋にはひとり、諸伏が残された。ごろりと床に倒れる。フラれるのは分かっているのだ。彼には好きな人がいると聞いているのだから。それでも、ただいつか見てくれるのではないかと妄想したりして、そんな楽しみだけで満足していたのに。 「どうしてこうなったんだ」 寝返りを打ち反対側を見ると床の間に飾られた掛け軸と花が見えた。掛け軸には月を見上げる鹿が描かれていた。#名前2#も月が好きだったなあ、とそんなことを思い出す。障子が開かれて影が景光の体にあたった。 「おや、人がいるとは思わなかった」 「す、すみません」 慌てて体を起こし頭を下げた。黄色い靴下にスラリと伸びたスラックス。見上げると初めて見る顔がいた。 「そなたがさっきいなかった幽霊だな」 「え、」 「私は三条黄狐。黄色いキツネでこうきです。刀剣男士について話は聞かれてるので?」 「一通りは……」 「ならば刀剣の名前も。三条が一振、太刀の小狐丸です。よろしく頼みます」 笑った顔は美しく、しかし少し狐のような何か人間とは違う笑みを感じ取った。そして記憶に遠い誰かと似ているということも。 「三日月殿も来ているのですよ、挨拶を」 三日月。その名前は#名前2#からも聞いたことがある。諸伏は顔を引き締めるとよろしくお願いしますと返事をした。