試着室でのメッセージ

 じゃーん!とカーテンをめくる音が聞こえてきた、気がした。外で待っている俺はずっとスマホを見たり本を読んだりと暇している。この前、プールに遊びに行ったら世祖が他の女の子のように水着が欲しいと言いだした。洋服ならまだしも水着はどういったものがいいのか分からない。蘭ちゃんたちが自分の水着を買いに行くということで世祖もつれていってもらおうとした。  すると、「#名前2#さんも来てくださいよぉー」と肩にくっついてきた。そりゃあいいな!と真純ちゃんも来た。女子高生に囲まれてぐうっとなった俺にコナンは追い打ちをかけるように「知らない場所に来ても安心できるように#名前2#さんがいた方がいいんじゃないのー?」と笑っている。やったあ、荷物持ちだ―と顔が言っている。そんなこんなでショッピングモールに来たのだった。 「#名前2#さん」 「コナン、みんなは?」 「お披露目会してる」 「なるほどねえ」 「他、見に行ってきていいって」 「世祖は?」 「どの水着が一番可愛いか見定めてる」  誰の水着なのか知らないが楽しそうなことやってるなあと笑って立ち上がった。ちょうどいいから本屋によらせてくれと中に入っていく。漫画を買うのかと思ったら雑誌の方に歩いていった。 「#名前2#さん、何買うの?」 「おー、ちょっとなあ」  手に取った雑誌はすごく有名ではないがコンスタントに発表されている医療系の雑誌だった。一冊しか残ってなかったのでその中身は確認できなかった。 「コナン、お前は何か買うのか?」 「ううん、いいや」 「じゃあ俺だけレジ行ってくるから」  レジで買い終るのを待ってもらって迎えに行くと文庫本で新訳のホームズを見ていた。最近有名な作家が長年の夢を果たしてホームズの新訳を行った、というものだ。翻訳作業の大変さはいろんな本でも語られており、文豪たちの中でも翻訳は色々とミスがあるだとか読みにくいだとか欠点をあげつらうこともあるのだが。今回のホームズがどうなっているのか俺は知らなかった。 「面白いのか?」 「うーん、まあまあってとこかな」 「コナンは原本も持ってるんだっけ」 「うん、パスティーシュも原本であるよ」 「すっげえ、ガチ勢だ」  コナンと一緒にそのままブラブラ店を見て回っていたら「覚えてないの!?」という鋭い声が耳を貫いた。見るとSIMUSAという店でおばさんに店員がクレームをつけられていた。 「先週、試着室でぶっ倒れて医務室に運ばれた二塚よ!!」 「ああ! 思いだしました、貧血で気を失われた……」 「貧血じゃないわ、犬アレルギーよ! 犬の毛まみれのあの女が私が入る前に試着室を使ったから……。体が拒否反応を起こして気絶したのよ!」 「は、はい…」 「だから今日、あの女が来たのかどうか聞いてんの!」 「あの女と言われましても…どのお客様か…」 「ホラ、高飛車で目つきが悪くてど派手なネイルをしてる…」  そう言っている二塚さんの後ろには言葉に見合った女性がいた。嫌味な目つきをしている。というか見覚えのある姿だった。知り合いだとは思われたくないタイプだ。人に嫌われることも平気でする、お金があれば何でもいいだろというタイプだった。二塚さんを擁護するような発言をした女性も、諫めた店員さんも社長…問題の女性に言い負かされてしまった。  そおっとその店を離れて他を見て回っていたら蘭ちゃんから電話がかかってきた。水着は買い終えたらしい。一番近いエスカレーターで待ち合わせすると世祖は頭をぐしゃぐしゃにしてやってきた。着替えるのに失敗したそうだ。ご飯を食べる前にトイレで髪の毛をとかそうと失礼させてもらった。すぐに追いつくから先にレストランに行っててくれとお願いした。世祖の水着を預かり車いすの方用のトイレに入らせてもらった。  急いで髪の毛をとかし世祖の服を整えた。トイレから出てペットボトルを買うと世祖はんぐんぐと飲み干してしまった。500mlのペットボトルだったがあっという間に空っぽである。ゴミ箱に捨てて世祖は俺に手を伸ばした。仕方なく持ち上げて蘭ちゃんたちはどこにいるのかなあとスマホを開いたら世祖にぐりんと首を動かされた。あっち!と指された方向に歩いていく。さっきも通ってきたところに出てきた時点でなんとなく察してしまった。SIMUSAの文字が見える。 「やっぱり殺されたかあ」  思わずそんなことを呟いた。世祖と共にお店の中に入ると真純ちゃんとコナンが被害者のダイイングメッセージを見て何か喋っていた。もうすぐ警察も来る。世祖を抱えなおして蘭ちゃんと園子ちゃんを探した。 「あ、いた」 「#名前2#さん、連絡しなくってごめんなさい」 「ううん、人混みあったからなんとなくこっちかなあって」 「まさか本当に殺人事件が起きるなんてね」  園子ちゃんの言葉に今回のフラグ作りはお前だったのか、と頷いた。事件の解決に俺たちはいらなさそうだ。のんびりしていようか、と世祖を連れてベンチを探した。だが、人混みも多い中でベンチも満杯だった。世祖がぐずらないように声をかけながら歩き回っていたらおもちゃ屋さんに着いた。 「世祖、ほら」  こんのすけとは程遠い可愛らしい狐のぬいぐるみを見て世祖は首を振った。全くわがままだなあと思いながら何か世祖が気に入るものがないかを探す。結局見つからずに事件現場の方に向かうと先からコナンが駆け寄ってきた。 「コナン」 「#名前2#さん、ようやく見つけた」  ぜーぜーと息をしながら俺の服を捕まえたコナンと目線を合わせる。世祖も床に下りてコナンの手を握った。 「どこ、行ったのかと……」 「ごめん、世祖がぐずりそうで」 「心配した!」  コナンがはっきりと大声でそんなことを言うとは思わなかった。あっけにとられながら「すまん」と謝る。 「……。いいよ」  コナンと世祖と手を握ってさっきのお店の前に戻ってきた。コナンが電話を書けて女子高生たちもやってきた。どうやら探してくれていたらしい。 「よかったぁ、突然いなくなったと思ったから」 「ごめんごめん」  お詫びにクレープをおごってショッピングモールをあとにした。もう殺人事件と世祖探しで疲れてしまいさっさと帰ろうと言われたのだ。水着に関しては世祖も満足のいくものを手に入れたので三日月たちとプールに行くことにする。