灰原のストラップ
修学旅行が行われるらしい。そんな連絡が鳴狐と蘭ちゃんから送られてきた。珍しくコナンが泣きついてこないなあ、と思ってはいた。赤井さんの時に見せたあの変装技術に頼るのか、と。それとなくメッセージでも送ろうかと思ったら向こうから送られてきた。灰原がAPTX4869の解毒薬くれないという話だった。 「世祖、コナンのこと手伝ってやらねえの?」 「? いわぇて ない」 助けてって言われなかったらやらないってことか。まあ俺も特に手助けするつもりはないので放置していた。大学生の夏休みは長いので頭がなまらないよう勉強をしていたら世祖は何かいそいそと準備をしていた。 「世祖?」 「コナと、おでかけ!」 「おおー、行ってらっしゃい。どこ行くんだ? 車出そうか?」 「んー、ううん」 世祖は今回はちゃんと電車に乗りたいと言いだした。サッカースタジアムには湘南新宿ラインに乗らなくてはならない。いつもはカバンにつけることもないパスケースをひっかけて翌日送り出すこととなった。そのチャレンジ精神は買ってやろうと放置していたら歩美から突然電話がかかってきた。 「#名前2#さん、世祖ちゃんがね!!」 悲壮な叫び声から始まった割には馬鹿みたいな話だった。簡単に説明すると久々に出会った刀剣男士に対して泣きながら泣きながら殴りかかったことらしい。世祖は小さな身長だがMAとしての鋭さは俺よりも優秀だ。にへらりと笑って出てきたのか知らないが連絡も入れず旅をし続けるようなやつなので気にしないでやってほしい。歩美に電話を代わってもらうと「あ、#名前2#くん? ひさしぶりー」とのんきな声が聞こえた。 「元気にしてたか、小竜」 「うん、まあねー。なんか三日月から聞いたんだけどさ。俺と同じ名前のやつがいるって言うから日本に戻ってきたんだよ」 「おー、いるいる。読み方は違うけど」 「これは挨拶しなきゃってね。それじゃあ世祖と一緒に動いて帰るねえ」 「了解」 念のため同じ長船派の燭台切に連絡を入れたら「なにそれずるいよ! 僕もそっち行くから!」という返信がきた。なぜおまえも来るんだと野暮なツッコミは置いておこう。世祖たちが帰ってくる用に食材を買ってきたのだがなかなか帰ってこなかった。 世祖と手を握り電車に乗る。小竜はくだんの少年探偵団たちを見ながらこんな子たちのために世祖が動くなんてなあと感心していた。本丸にいたころなら絶対に見られなかっただろう光景にそっと涙をぬぐうマネをすると突然右足に痛みが走った。見ると世祖が不機嫌な顔で小竜の足を踏んでいる。考えはオミトオシ、ということだろうか。 「世祖、お前いつからそんな暴力的に……」 そこまで呟いてそういえば世祖は元から自分に備わった力を惜しみなく使う子どもだったと思いだす。あれに比べればこれでもマシになった方だろうか。いや、一般人からしたらおかしいはず。っと、米花駅に着く。刹那、気配を感じ小竜は世祖を抱き上げた。急ブレーキの電車に倒れそうになる哀と元太をその長い足でぐっと抑えた。片足で立ったまま器用に二人を起こし大丈夫か?と聞いた。異様なバランス能力にコナンから疑いの目が向けられて世祖はやはり不機嫌そうな顔である。 「世祖、ごめんねって」 「こる、めーっ」 「いてて」 ぐいっと頬を引っ張られながら電車を降りた。そのまま阿笠博士のもとに行こうという少年探偵団とはお別れして世祖と#名前2#の家に戻った。もうお別れ―?と言われたが世祖は慣れない電車に乗ったせいで調子が少し悪くなっていた。そればかりは仕方ないと見送ってもらえたが、次はちゃんとこの後も遊ぼうねと約束をする。 世祖を抱きかかえてそういえば、と小竜が話を切り出した。 「俺と名前が同じ人がいるんでしょ? 三日月たちのところ?」 「……」 景光…そういえば確かに同じ名前だった。スコッチというコードネームの方が頭に残っていたのだ。うん、と頷くと小竜は会いに行ってもいいかなあ?と質問した。久々に三条に挨拶もしたいし、と重ねるように言われた。うん、と自然と頷いていた。 三条の家に行くのにはタクシーの方がいい。駅前のロータリーでタクシーを捕まえていくことになった。小竜は慣れたように住所とどの道がいいかを伝えている。世祖は小竜に任せて少しだけ眠ることにした。 車が完全に止まった。抱き上げられて車から降ろされる。世祖、起きてーと声をかけられた。むぐぐ、と目を開く。いつもどおりの三日月の家…というよりは屋敷である。 「いやぁ、いつ見てもすごいね。#名前2#くんに電話したら夕飯作ってくれてるって言うから挨拶だけして帰ろうね」 世祖はこっくりと頷いた。チャイムを鳴らして入ると三日月はいつも通り優美な笑顔を浮かべてそこで待っていた。仕事はどうしたの?と聞くと「うちは社員が優秀なのでな。俺が何か無闇にする方が邪魔になる」とブラックユーモアたっぷりに返された。 「世祖はどうしたんだ? それにお前も……。珍しいじゃないか」 「同じ名前のやつがいるって聞いて興味がわいたんだよ。どこにいるんだ?」 「なんだ、そんなことのために来たのか」 三日月は呆れたように言ってある方角を見た。世祖達もつられて視線が向く。いつもはそこにいるのだ。だがそちらだけでなく家からあの幽霊たちの気配はしなかった。誰もいなさそうだけど?と小竜が言うと三日月もうなずいた。 「石切丸が連れていったようだ。こちらも話を聞いてないのだが」 「ふーん?」 ふと、世祖は自分のスマホが鳴っているのを確認した。見るとコナンからだ。電話をするのは苦手だ。いつもテクストで済ませるようにしていたはずなのに。小竜の服を引っ張りスマホを渡した。おや、具合が悪そうだなと三日月が飴をくれた。有難く受け取り口にふくむ。小竜は電話をとると「電車の中で? うーん、そうだなあ」と何かしゃべっている。 「世祖にきた電話だろう? 何があったのか教えてやってもいいだろう」 「あ、ああ、ごめん。コナンって子から電車で後ろに立ってた親子について覚えてることはないかって」 「?」 「哀ちゃんって子がストラップ落としちゃったらしくてね。探してたらその親子に辿り着いたみたい」 「…まど。かく」 世祖ははあっと息を吐いて指で書く真似をした。その通りにコナンに伝えるとそうか…ありがとうという返事が来た。そうそう、と世祖はもう1つヒントを喋った。 「あ、コナンかい? うん、世祖からもう1つ思い出したって言われた。海の匂いだってさ」 コナンたちは哀のストラップを探しに千槍駅に出掛けていた。博士のビートルは知人に貸されて、#名前2#も世祖がいない今お願いするわけにはいかず困っていたら安室さんを紹介されたのだ。沖矢はカレーのおすそ分けと称して阿笠博士の家に来たのだが哀が放心状態になっているのを見つけて家に残ることにしたのだ。 駅で見た落し物というのは比護選手のストラップではなく真田選手のものだった。振り出しに戻ったーと落ち込むコナンたちに安室は自分も付き合うから頑張って探そうと声をかける。彼の仕事を知っているコナンは少し申し訳なく思ったが彼は純粋に力になってくれるというよりも何か下心ありきかその必要があるときに接触してくる。本人が言ってくれたのだからそれに甘えることにした。 ファミレスに入り光彦が間違えて録画していたという動画を見る。世祖と一緒にいた長船景光という男に安室は興味を示したが今回の事件に彼は関係ない。#名前2#さんの友人だよー。それよりも後ろのこの人達!と話が流されてしまった。 後ろにいた親子が問題なのだが、いかんせん電車の中での記憶が曖昧だった。コナンは哀に解毒剤を懇願していて元太は歩美たちに探偵団バッジを自慢していた。世祖ちゃんなら何か知ってるんじゃないかな、という安室の言葉に彼らはようやく電話すればいいじゃないかという考えに至った。 電車にいると知ってしまう情報量が多すぎるため、セーブしているという話を聞いてコナンは申し訳なく思いながら世祖の話を聞かせてもらっていた。窓に文字を書いていたこと、海の匂いがしたこと。日焼けしているが手首から先だけ白い肌。角張ったものを入れたスポーツバッグ。それらから想像すると……。 「潮干狩り、かな」 「えー? 潮干狩りー!?」 「何言ってるんですかコナンくん。潮干狩りは春にやるものですよ」 「おめー、そんなことも知らねえのかよ」 小学生特有の宥めるような言い方に少しカチンと来たがコナンは気を取り直して潮干狩りについて説明した。1番ちょうどいい時期は春だが潮干狩り自体は一年中行える。米花近く…東京、千葉あたりでは夏まで開いていることが多いのだ。へー、と打って変わって感心した表情の探偵団たちに少しだけ心が和らいだ。 「それに潮干狩りに最適な時間は満潮から1時間前。丁度いい時間でしょう」 「よし、そうと決まったら早速行こうぜ!」 「僕が会計しておくから先に車に行っててくれるかい?」 「うん!」 コナンたちを見送りお金を払う。ファミレスを出る前に安室は部下に連絡を入れた。今回は安楽椅子探偵のように話を聞いて終わることは出来ないだろうと分かったのだ。神奈川にいた部下を動かし、湘南新宿ラインに乗ってもらった。