黒鉄のサブマリン
古今伝授は世祖の言いつけ通りにわざと組織に捕まり内部へと入り込んでいた。世祖の方からすでに連絡がいったのか、ボスから殺すなという命令があったらしい。 どこかの潜水艦にのせられ、武器を持ってないかチェックされる。直美の方はUSBメモリを取られたようだったがそれ以上の危害は与えられなかった。 世祖の言いつけ通りに、盗聴装置を男の腕につける。バレてもバレなくてもどちらでもいい、と世祖は言っていたが古今伝授は仕事はきちんとするタイプである。 聞こえてきたのはシェリーとよく似た少女がいること。パシフィック・ブイのシステムによりその少女とシェリーは一致しているということだった。#名前2#の心配していたことがもう既に起きていた。 ジンはウォッカから報告を聞いて、こちらに向かってくるという。その子どもをさらって来いとも。ウォッカ以外のメンバーは尽く拒否していたが、ピンガという単語まで出てきた。パシフィック・ブイに潜入しているという男の名前だ。古今伝授や#名前2#は知らされていないが、世祖はもう誰がピンガかわかった上でメールのやり取りをしていた。 ふむ。古今伝授は盗聴装置の音を聞きながら次の世祖からの合図があるまで眠ることにした。 #名前2#は古今伝授が疑われるのを放置して、警部たちが部屋を搜索するのを見ていた。古今伝授は全く私物を持ち込んでおらず、手がかりになりそうなものは何も無かった。 繋がりのある#名前2#たちももちろん疑われたが、ユーロポールのあるドイツへの渡航歴はここ1ヶ月の間にはなく、容疑者の一人としておさまることになった。だが、ハッキングの疑いをかけられて世祖は作業から離れることになった。世祖、直美、古今伝授が担当していたシステム部分は残りの三人のエンジニアにのしかかることになった。グレースはもう無理です、と泣き言を言い、エドとレオンハルトは休憩時間を削ってでも仕事していた。 その夜、世祖のもとにピンガから作戦決行の知らせが届いた。世祖はGOサインを出してそのままベッドに入った。既に布石は置いてある。あとは哀がその駒を使いこなせるかどうかだった。 古今伝授は人がまた入ったことで目を覚ました。自分の下のベッドに誰かがはいったのだ。この声は、ピンがとウォッカ。騒がしくしゃべりながら彼らが出ていくのを待って古今伝授はゆっくりと下りてきた。 「直美、起きてください」 「デンジュ……! あなたも連れ去られてたの……!?」 「お恥ずかしながら。そして、今日新たに人が」 古今伝授の視線にあわせて直美が少女の顔をのぞいた。そこに居たのは自分が老若認証で発見した少女だった。 「こ、この子……! どうしてここに……!?」 「分かりません。彼女が置いていかれた音でわたしも起きました」 哀が目を覚ますと、驚いたようにこちらを見つめてきた。このまま怖がらせておくのはしのびない、と古今伝授は「世祖の知り合いです、こんばんわ」と笑った。 「世祖の……?」 「あら。あなたも世祖ちゃんや#名前2#さんの知り合い?」 「え、ええ……」 「学校の同級生なんだとか。小学一年生ですよね」 「そうよ」 「そうだったの……。あなた、わたしの知っている人とよく似ている。いや、そうね。あの子はもう大人だし……。小さい頃によく似ているんだわ」 「似ている、とは」 「シホっていう人と」 直美が話を続ける前にガラリとドアが開いた。会話している三人をねめつけて、ウォッカは「ガキを縛ってねえじゃねえか!」とキールを叱った。 「こんな子どもに必要ないじゃない」 「念には念を、だ」 「……わかったわ、私がやる。あなたはこっちを確認したいんでしょ」 哀が手足を結ばれるのを確認してからウォッカは老若認証によって志保と哀が同一人物なのかどうか迫ってきた。二人が何も言わないので古今伝授も何も言わないぞ、という顔を作り上げたがウォッカにはスルーされてしまった。 哀がキールのもとに盗聴器をいれるのを見ながら古今伝授は哀を守るために世祖の話をして仲良くしておくことにした。 コナンから、哀が潜水艦へ連れていかれたという連絡が届いていた。世祖の方はピンガの作戦をおしたというし、古今伝授が連れていかれたのは哀が連れていかれることを見越してのことだろう。 「向こうで哀は酷い目にあってないかな」 「……にゃあ」 世祖はひとこえないて、隔離されている部屋に座り込んだ。食事などはここに届く。事件の詳細は#名前2#には分からないが、世祖は自分の能力で外のこともつぶさに把握していた。ぴろん、と携帯が鳴る。ジンとピンガとそれぞれから連絡がはいったのだ。 世祖がどんな返事をしたのか、#名前2#は知らない。知ったとしてもそれ以上にいいアイデアが出せるとは思えなかった。 古今伝授は直美と哀の話をそれぞれ聞きながら、嫌なタイミングであったと頭を抱えたくなった。ベルツリー急行でシェリーは死んだと錯覚をさせたあとにこのシステムが動き始めたのもよくなかった。 それに、このシステムにかかれば世祖が成長していない話も刀剣男士たちが成長していないという錯覚も全て全てバレてしまう。それは困るのだ。本丸側も大きな損害がある。世祖たちに大きな問題が降りかかる前に、哀のところで終わらせたいというのが沖野さんの策略。世祖はきっと……#名前2#のためにも、自分のためにも哀を助けたがっている。さて。自分はどのように動くべきなのか。とりあえずは、哀と直美の二人をここから脱出させることが優先事項だ。 世祖たちが隔離された間に、レオンハルトが自殺したという。皮肉なことに、パシフィック・ブイの防犯カメラのチェックによって世祖や#名前2#が彼の自殺に関連は無いことと共犯者ではないことが確定した。いなくなった古今伝授、自殺したレオンハルトによって、世祖たちは自由を得た。 部屋から出ると、なぜか毛利小五郎とコナン、目暮警部たちまでいた。事件によってここに呼び出されたらしい。 レオンハルトの死んだとされる映像を見ると、どこか違和感がある。世祖の方はぎゅっと鋭い目付きで映像を見ていた。 と、エドが「バックドアが発動した!」と叫んだ。 「関係者を検索した時にかかるようにしてたんだ!」 「これは……!」 「ダリオ・アルジェント! 直美の父親だわ!」 「ユーロポールに連絡! ダリオを保護しろ!」 世祖はエドと共にサーバーをチェックしはじめていたが、#名前2#の方には古今伝授から連絡が届いた。哀の盗聴器のおかげで脱出方法が分かったというのだ。スマホなんてないはずなのにどうして連絡が来るのだろうか。世祖の力か。 古今伝授は哀、直美を連れて魚雷管から出てくるという。そのタイミングに合わせて海に出てこいという。世祖はここを離れる訳にはいかない。行くならば、自分かコナンたちに手伝ってもらうかだった。 「……世祖、おれ行ってくる」 「!!」 世祖がうなずいたと同時に、#名前2#はメインルームを抜け出した。 古今伝授は自分のロープから抜け出すと哀や直美のロープを外して自分が先頭に向かうという。 「私の方が強いので……」 「あの、デンジュさん……。本当に、これで大丈夫なんでしょうか」 「大丈夫じゃないかとかは関係ないんです。生きようと思うなら動くしかないので。さぁ、これをつけて」 ダイバー用のボンベをつけさせたあと、デンジュは哀の頭を撫でた。 「この子も言ったでしょう? 信じてくれ、と。わたしも信じている人がいます。生きて帰ってこいと待っている人がいるので」