刀剣男士と
【髭切と膝丸と】 訳あって俺は今目の治療を受けていた。というのも、とある女性の恨みを俺が買ってしまったのだ。彼女は俺を脅そうとしただけらしいが彼女のことを思った信者たちが無断で俺に向かってきたのだ。そして液体が吹っかけられた。いわゆる酸の類のそれが顔に当たったものだから一瞬何が起きたのか分からなかった。ただ、世祖が瞬間的にそれを横にずらしてくれたのでそれほど被害がでかいわけではなかった。 のだが、飛び散った雫が瞼にあたり今は前が見えない状況にあった。その状況で困ったことといえば俺はこの事件の前に足を骨折していて逃げられなかったということだろうか。満身創痍ではないがほかの人たちが見てる前での怪我である。警察沙汰になったせいで俺は世祖の治療を受けられなくなった。 普通に病院に通いながら少しずつ回復させてもらうことになり、大学の方にはその怪我について申請しておいた。だが、普段は世祖と俺と二人暮しであり、このままでは生活できなくなる。誰か手の空いている刀剣男士にということを本丸で長谷部に代わりに発表してもらうとすっと誰かが動く気配がした。 「ね、それ僕らが立候補してもいいかな」 誰かと思ったら意外にもやりたがらない部類に入りそうな髭切にそんなことを言われた。お前に出来るか?と俺も半信半疑に言うとそんなのどうにでもなるよぉと笑い声が返ってきた。 「……兄者だけじゃ心配だ、俺もやる」 「膝丸も?」 「ああ」 「うーん、まあ二人いた方がいいかなあ」 そんな適当な理由で俺は2人を家に招き入れたのだった。ここで髭切と膝丸がトラブルを起こしたらそれはそれで酒で話すような笑い話になったかもしれないが生憎とそんなことにはならなかった。むしろ髭切はよく俺の面倒を見てくれたし膝丸はそんな兄に感動して張り切っていた。世祖も俺の言うことをそれなりに聞いてくれたのでものすごく困ることは無かった。むしろ困ったのは膝丸が本物の外車で俺たちを迎えに来たところだった。正直泣いた。 そうして治療は世祖の力のおかげもあって早くに良くなり俺と世祖との二人暮しが再開する、と思ったのだが髭切がそれを許さなかった。いつもの笑顔で「もうちょっとここに居たいんだけど」と言い出したのだ。 「いや……え、なんで?」 「だって僕ら医者として働いててさ。疲れるんだよ」 「うん……それは知ってる。今も世祖の式神に仕事代わってもらったりしてるもんな」 これに関しては本当に辛かった。人としてどうかと思う、と沖野さんに泣きついたが沖野さんから刀剣男士は元から人でなしだよ、と蹴り付けられて(盲目の男の足を蹴るぐらいこの人には何ともない)刀剣男士がふんわり知識で医者をしているよりも世祖の知識を持たせた式神の方が有能だよと正論を言われた。2200年以降の常識でそうだとしても俺は2015年を生きていた男なのである。沖野さんからまだ何か言うならその鼓膜を破る、と言われて慌てて口を閉じた。沖野さんはすると言ったら実行する人である。 髭切はあの俺の様子を見ていたのにまだ式神を使わせて欲しい、と言った。 「僕達にだって休みが欲しい。君と遊ぶ時間が欲しいんだよ」 真っ直ぐとそんなことを言われて俺は仕方なく頷いた。頷かないとこの男は自分の目を切ろうとしている気配だった。髭切が盲目になっても別に手入れで治せる。問題はこのやり方なら言うことを聞いてもらえる、と勘違いされることだった。 やった、と小さく喜んだ髭切の腕を掴んだ。 「お前は、刀剣男士。使われる側だ。それを忘れられたら困る、お前は折られる可能性だってあるんだぞ」 「わかってる。でも、君はしないだろう」 「本当に? 本当にそう思うか?」 「いつもと違うものに世祖は敏感だもの」 「………」 「安心してくれ。何回もやろうと思ってるわけじゃないんだ。ただ……うん。僕にも思うことがあったってこと。ね、#名前2#にはこれが似合うと思う」 髭切はそう言って俺に映画のチラシを見せた。確かに俺が好きそうなタイプの映画だった。でもこれ、髭切とかは好きじゃないだろう。そう思ってちらりと見たら「好きだろう?」とまた笑う。 「好き、だけど……」 「せっかくの機会なんだ。お願い。僕と、映画館に行こう」 髭切の懇願に俺の方が折れてしまった。 待ち合わせというものがしてみたい、と言われたので陸奥に世祖を頼んで米花シネマにやってきた。中に入ってみるとエスカレーター近くで白いセットアップを着て待っている男がいた。相変わらず美しい男である。 「お待たせ」 「ううん、待ってないよ」 まるで少女漫画のような会話だ。髭切はにっこりと笑ってチケット買ったよー、と見せてくれた。今日は水曜日なので一律1100円だった。ポップコーンとかいるか?と聞くと「折角だからタピオカがいいなあ」とねだられた。 原宿で食べた時のタピオカと比べると映画館のそれはすごく美味しいわけではなかったが、音も立てないし腹持ちもいいのである意味いい食べ物だった。 タピオカを持っている、白のセットアップの、男。中々にパンチのきいた姿だが髭切は楽しそうに進んでいった。 外国の戦争映画を見ることに髭切は抵抗はないのだろうか。映画としてフィクションであるものの、それは実際の出来事を元にして書かれている。そんなことを考えて映画館に来たのにいざ始まったら俺はずっと前を見ていた。すごい映画だった。元々が戦場に近い生活をしていたので映像だとしても、緻密なその動きに俺は見とれてしまっていた。エンドロールに入ってからようやく髭切のことを思い出した。そっと横を見ると髭切は何だか遠いものを見ているようだった。もしかしてここにも見えてはいけない幽霊とかがいるんだろうか。目を凝らしたが俺には何も見えなかった。 映画は面白かった。だが、髭切は笑うだけで何も言わなかった。どうしようかなあ、と思いながら映画館を出たら誰かが猛スピードで走ってくるのが見えた。 「兄者!!!!! 見つけたぞ!!!!!」 「膝丸!?」 「兄者、ずるいぞ! ひとりだけ映画なんて!!!」 「いいじゃないか、少しくらい」 「よくない! 俺たちは仕事を得たんだ。きちんとその働きを見せなければ」 「分かってるよ。でも……三日月たちだけずるいだろう? 僕らだってたまには遊びたいよ」 ぎゅっと髭切が抱きついてきた。道端なのにまずいのでは、と思ったら膝丸が反対側から俺に抱きついてきた。 「俺だって……#名前2#さんと遊びたかった!!!!」 往来でそんなことを叫ばれても俺は嬉しくないのだが。感情が溢れて涙さえ出始めた膝丸と顔をふくらませて「弟にだって今回のは譲れないよ」と話しかける髭切を引っ張って俺はファミレスへと行くはめになったのだった。