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 親戚の兄や姉に「まだ帰らないでー!」と泣きつく子どもは見かけたことがある。俺にはそんな姪も甥も従兄妹もいなかったわけだが、保育園のボランティアをしていたらそんな風に足にしがみつかれることはあった。あと、友人の家の犬。足に絡みついて前に進めさせない。なぜこんな話を思い出したのかといえば、綺礼が腰にひべりついたまま「帰さないぞ!」といるからである。本気で子どもだったな、綺礼。ハサンにはがしてもらって教会外に出るとなぜか王様と世祖がジャンプをしていた。 「せ、世祖ー?」 「#名前2#ッ!」 世祖がふおーんと浮かび上がってきて俺の背中にやってくる。おぶったまま王様のもとに行くと地面にはたくさんの○とそこに書かれた数字。あー、昔やったなあー。ケンケンパの要領でやるんだよな。 「お久しぶりー、王様」 「お前……。聞きたいのだが、時臣も綺礼も誑かしてどうするのだ? 男が好きなのか?」 「いや、そういう訳じゃないんだけど……」 「なら、なぜ」 「……」 「好きなのか、やっぱり」 「いや、好きじゃあないよ」 「ほぅー?」 「愉しみの対象にしてもいいけど、残念ながら面白いものは見れねえよ?」 「疑問に疑問で返すな」 「そうさせる言葉をいうんじゃあない」 ふふっと2人で笑うと取り敢えず一旦家に帰ろうということになった。気持ち悪い笑みを浮かべて歩く2人を世祖は吐きそうな顔をわざとらしく作って見つめていた。  酒を飲み交わしたあとの夜は何とも寂しさや侘しさが募るものだ。王様はなぜか桜と布団に入っているし(寒いらしい。)、#名前2#は世祖を起こさないようにベッドから降りるとベランダに行った。ひゅうっと風が吹いて髪の毛を上に持ち上げる。額にはなんの傷もなければ第三の目というのもないが、何となく隠したくなって髪の毛をかき混ぜる。 「そんなに掻いては傷を作るぞ」 「うるせー、お前の髪留めも相当だろ」 「そうでもないさ」 このままでは風邪をひくぞ、と渡された羽織。誰の羽織かは聞かなかった。こいつには渡せる着物がないからどこからか引っ張りだしてきたのだろう。 「ふふ、誰の羽織か疑っているな?」 「……誰のだよ?」 「俺のだ。内番にはこんな煌びやかなものを着やせんよ」 後ろを振り向くと三日月がにまにまと笑いながらコップを見せてきた。もう酒は呑めねえぞと釘を指すと「これはただのジュースであるよ」と渡された。 プラスチックの蓋をあけるとゆずの香りがした。ゆずジュースなんてあるのか、なんて場違いなことを思いながらコップに注がれる黄色っぽい飲み物を見つめた。 「なあ、三日月」 「なんだ?」 「明日の切嗣たちのところにはさ、世祖を連れていかないでおこうと思う」 まるで宣言というものではなかったが、#名前2#はジュースを飲みきってようやく緊張が解けたような素振りを見せた。 「良いのではないか」 三日月も同じようにぐびっと一気に飲み込んだ。酸っぱい、苦い、少しだけ甘い。ゆずの香りで味は微妙だったがまずくはなかった。#名前2#の顔は不味いものを飲み込んだように顰め面をしていた。 「本当に? いいと思うか?」 「ああ。そなたの決めたことに文句は言わんよ」 「………ずりいよなあ、お前」 ずるくて結構だ、と三日月は笑う。ずるく生きずに、好いた相手を目の前で殺されるよりは全然マシだ。#名前2#はカラカラと笑いながら三日月の肩をつかんで中に入っていく。 俺から触らせにいくなんて、本当にずるいやつだよお前は。 そう言った#名前2#に三日月は恥ずかしさでなんと言えば良いのか分からなかった。  ウェイバーのことをかなり馬鹿にしている節があったのは認める。まさか彼がハイブリッドな魔術を目指しているとは知らなかったのだ。ライダーから受け取ったウェイバーの新理論は面白いものだった。魔術と科学のいいとこ取りしよう、というのが結論なのだが考察が本当によく出来ている。 「すげーな、これ」 「そうであろう?」 「…何でライダーがそんなに誇らしげなんだよ」 「余のマスターを褒められて嬉しくないわけがあるか!」 「……あっそ」 ここまで潔い返事だといっそもう清々しい。ウェイバーはライダーと#名前2#からの褒め言葉攻撃に顔を真っ赤にさせて俯いていたが吹っ切れて「何で病み上がりのくせにこんなところ来てるんだよ!」と叫んだ。#名前2#に斜め上にキレるウェイバーに三日月はふふっと笑ったがウェイバーにはそれすらも恥ずかしさを覚えたらしい。しゅぽんと煙が出そうな程に真っ赤だった。 「まあまあ、良いではないか。そなたをバーサーカーたちが認めておるのだから」 「うるさい、ライダー! てか、僕の論文を何で勝手に持ち出してるんだよ!」 これ以上の痴話喧嘩モドキは聞いているとこっちが恥ずかしくなりそうだったのでそこら辺でお暇することにした。マッケンジー夫妻には「また来てね」と言われたがライダーたちのことを考えると返答に困る。曖昧に笑いながらその家をあとにした。三日月と連れ立って歩いていた#名前2#はあ、そうだと三日月をブティックに連れ込んだ。今から行くところに三日月宗近という美しい男を連れていくのは主人が期限を悪くする。現代的な洋服を着た三日月の髪の毛をボサボサにして買ったサングラスとマフラーで顔を隠した。 「うん、まあ……こんなもんかな」 「はっはっは、こんなにもわざとらしい格好で平気なのか?」 「嫌か?」 「嫌ではないが……違和感はあるな」 「そっか」 ここでちょっとふざけてみようか、と思ったのは#名前2#が昨日に三日月と乾杯したせいだろうか。#名前2#はにんまりと笑って「キレイなお前は俺だけが知ってればいいんだよ」とさらに頭をかきまぜる。三日月は真っ赤になった顔をマフラーで隠したが隠しきれない肌を見て#名前2#はさらに笑った。  ケイネスは家、というか城にやってきた#名前2#たちを見て「何してるのだ?」と一応聞いてみた。自分のサーヴァントであるランサーを片手に、バーサーカーの宝具の1人であろう男を片手にやってきた#名前2#は苦笑いでことを話し始めた。 「実はな、ランサーの黒子の魔力を遮断するためのサングラスを渡したんだよ。ソラウみたいにわざと切らなかった奴を除けば殆どが何もなくなる。そしたらランサー泣き出しちまって、自分でも魔力のコントロール出来ないとか言い出すから手ぇ繋いで調整してるってわけ」 「……」 そのサングラスは有難いが男3人手を繋いでいるのは見てて気分が良くないので早々にやめて頂きたい。ランサーの方を睨むと、「ずみまぜっ」と泣きながら霊体化していった。あほらし過ぎて何も言えない。#名前2#はけらけら笑いながら世話になった菓子だよと渡してきた。意外と美味しそうな匂いがした。日本の和菓子は案外侮れないものだ。おいしい。宝具の1人はこちらを見ながら「婚約者殿はどうしたのだ?」と地雷を踏んできた。 「………今は、イギリスにいる」 「イギリス? 帰りなさったか」 「うるさい! 一時帰国だ! すぐに戻ってくる!」 「じゃあ何でそんなに怒ってんだ」 そう聞かれるのは困る。黙ったケイネスに#名前2#は「言ってくれた方がこっちも手を貸しやすいぞ」とにまにま笑う。腹が立つ男だ。沖野も侮れなかったが、正直このマスターの方が侮れない気がする。 だがじっと見つめられていると従ってしまうのも確かだ。ケイネスは渋々話し始めた。  元から政略婚約であったのをここまで連れてきたから、ソラウが帰りたいと言うのは仕方ない。服もあまり好きなものがないそうだし、食事も微妙な顔をしている。ランサーだけがソラウを引き止めるものだった。 「……だがな、」 「うん?」  目を閉じながら話していたケイネスはなぜか#名前2#の方を見つめていた。俺……なにかした?と聞くように首をかしげるとケイネスがため息をついた。 「君の入院話は魔術師たちにすぐ伝わった。あのマキャベリストが死んだという話も一緒にな。それを聞いてソフィアリ家からソラウに帰ってくるよう願い出があったんだ」  危険な可能性のある場所にいて胎盤を傷つけられることがあったらたまらない、ということだろうか。よく分からないが名家はいつもよく分からないことで動くので俺が考えても仕方ない。 「それで現在は帰国中ってことか。一時じゃなくて帰国しっぱなしだったりしてな」 「……!」  ケイネスは怒りそうになったのですぐに結界を張ろうとしたが落ち着いてさっきの土産にかぶりついた。 「意外とうまい」 「そりゃあどうも」 「ソラウは帰ってくるだろう」 「ランサーのことがあるからか?」  またケイネスに怒られそうになって今度は紅茶のカップを押し出した。怒りに震えた手つきでカップを持ったら匂いに落ち着いたのかくいっと優雅な所作に戻った。 「君と話をしたいと言っていた」 「俺と?」 「私達は沖野と関わりがあったがソラウは随分と前から君のことを気にしていたよ」 「へー」 「もちろん、恋愛じゃないがね」 「お前のその一言多い性格好きだよ」 「気持ち悪い」  前言撤回。やっぱり嫌いだこいつ。  なぜか襲撃に合った。せっかくだったので三日月ににちゃんねるでのレスの仕方を教えたのだがバグが起きたのでやめた。人間と人外じゃあ端末の情報の受け取り方も違うのかもしれない。 「すまん、#名前2#。変な文字列になったな」 「いやいや、あとで世祖にお前達用の端末を作ってもらえばいいよ」  三日月は苦笑いしながら俺の頬についていた返り血をぬぐった。  切嗣の家の中に入るとまず出迎えてくれたのはイリヤと士郎の子どもたちだった。#名前2#さん!と叫ばれたと思ったら2人して胸に向かってジャンプしてきたので2人とも脇に抱えさせてもらった。 「#名前2#さんのおしり!」 「はいはい、今向きを変えるから」  イリヤを三日月に渡して士郎を抱き抱えた。あんまり俺のことを知らないはずなのに、士郎は人に懐っこいのか俺の肩に顔を押し付けて「ゔー」と空気をもらしている。 「#名前2#さん」 「切嗣、お邪魔させてもらうな」 「こちらへどうぞ」 「これ土産。みんなで食べて」  土産を受け取って喜んでいたのは舞弥だった。昔よりも感情がよく出るようになっていて俺も喜ばしい。頭を撫でると恥ずかしそうに顔を伏せて、でもそのままになっていた。士郎やイリヤが割り込まなかったらきっとこのままだっただろう。 「#名前2#さん、こんにちは」 「アイリス…えっと、」 「アイリでいいですよ」 「うっ、すまん」  長い名前は結構苦手だ。漢字はまだ刀剣といたからいいがカタカナで伸ばし音があると更に。後ろで切嗣が笑うのが聞こえて少し恥ずかしかった。  話すことは多々あったが、切嗣たちの話を聞くのも楽しかった。というか、俺の話の中から時臣の要素を抜かすとかなり話せるものが少ないので話題選びにも困るのだ。(時臣や綺礼の話をすると切嗣の雰囲気が子犬のように下がるので見てるこちらが罪悪感を覚えてしまう。)    そんな時、切嗣の家にお客がきた。気配からしてそんな気はしていたが、青江はけらけら笑いながら玄関のチャイムを鳴らした後に霊体化して縁側の方に回ってきた。 「青江、お前なあ……」 「いいじゃないか、楽しいだろ?」  楽しそう、じゃなくて楽しいという断言とは自信があるものだ。まあ成功していて、イリヤと士郎は青江に釘付けであるが。 「アイリスフィール! さっきの気配は一体なんですか!!?」  ババン、と出てきたのはセイバーだった。道場で鍛錬をしていたらしく汗をかいたタオルを片手に握りしめている。 「セイバー、いいのよ。予定にないお客さまが来ただけだったの」 「そう、でしたか」 「君が、セイバーか」  すん、と青江も三日月も気配が変わった。セイバーよりもセイバーの持つエクスカリバーに興味があるのだろうが確か彼女はエクスカリバーを魔力で見せないようにしていたような……。 「……剣が、なくねえ」  青江はそう言ってまるで小馬鹿にしたようにふっと笑った。三日月も諌めることなしに視線をずらして終わらせる。一言もなしとは。 「な、にを……!?」 「そうだ、僕は#名前2#さんに用があったんだよ」  この重たい空気を気にすることなく俺に話をふってきた青江ってすごい。さすが刀剣男士。刀剣の空気は読めるのに人間の空気はあえて読まない。 「世祖がいなくなったよ」    青江の場合は俺に対してもあえて空気を読んでない気がする。世祖がいないとなるとどこかに遊びに行った可能性が高いのだが誰も連れてないとなると……。 「やっぱり誘拐かなあ」 「ええっ!? それじゃあ早く犯人を捕まえて殺さないと!」 「アイリ、誘拐犯は死刑囚じゃねえんだから」 「#名前2#さんの話でもないと思うけどね」  青江を睨むと笑いながら煎餅を食べた。お茶請けで舞弥が食べたがらずに残したお菓子だ。(さっきの土産は完食となった。)色んなところに行ったが最後に切嗣たちの家にしたのは間違いだったかもしれない。緩い空気に混ざってなんだか変な気分だ。 「青江、世祖の携帯に電話かけても繋がんなかったよな?」 「うん」 「となると、世祖がわざと縛られてるのか……」 「そうだねえ」 「どうして? なんでしばられてるの?」  イリヤがウサギのように#名前2#の背中に飛びついてきた。切嗣のとこいけよー、と言うのだがイリヤ曰く暖かいし大きいからこっちがいい!とのことだった。まあ、切嗣はかなりイリヤに甘いのですぐに抱き上げることも慣れるだろう。 「うんー、世祖の力だとだいたいすぐに逃げられるんだよな。あいつは魔術師とかじゃないしサーヴァントらしく霊体化もできる。なのに、こっちに帰ってこないって言うのは何かあるんだよなあ」  ぽんと膝をついて#名前2#が立ち上がる。このまま話していても埒が明かない。とにかく動こう、としたら足にイリヤがしがみついていた。 「イーリーヤー」 「やーだー! もっと遊んでー!!」 「忙しいんだよー」 「おーれーもー!」 「しーろーおー」 「#名前1#」 「んあ?」  途中から俺のもとへやってきたイリヤを構っていたら気づかなかったのだが、そういえばさっきまで一緒にいたアイリがいなくなっていた。なるほど、こいつに準備させるためだったらしい。 「私も犯人を探すお手伝いをしましょう」  爽やかに笑うセイバーの後ろで切嗣が愛用のライフルを持っているのが見えた。  タンデムバイクに2人乗りしても良かったのだが、とりあえずは切嗣と舞弥の使い魔たちと刀剣男士たちとに捜索を任せてセイバーと2人でそこに駆けつけようという算段になった。  セイバーと一緒に行動するのでさっきのこともあり三日月と青江は霊体化して捜索に加わっている。サーヴァントと本当にふたりきりで話すのは考えてみると初めてだった。 「……あの、」 「名前いいにくかったらオキノでいいぞ」 「……。名前の話ではありません。私が話したいのは、」 「聖杯戦争か、三日月たちか、それともうちのサーヴァントのことか?」  セイバーは黙ったまま俺を見つめた。凛とした女は嫌いじゃないがこいつは真っ直ぐすぎる。日本には合わない。刀剣男士とこいつとじゃ、まさしく反りが合わないだろう。 「どれもが聞きたいことですが、今は置いておきます。聞きたいのはひとつです。切嗣とは、どのような関係なのですか?」 「どのような関係ったって、」 「アイリスフィールから聞いたのです。キリツグには神がいる、と。そしてキリツグの最優はその神であると」  ーーあなたは本当に神なのですか?  大真面目に聞いてるのだろうが俺にはどうにも呆気に取られる話だった。そんなことって気にしなくちゃいけないのか? 結婚した奴らの問題なんじゃないのか? 俺が手を出すべき事態じゃないんじゃないか? 「……。私は昔、神のように崇められていました。でもその崇拝は受け取るには重すぎて手放すにはあまりにも私に繋がっていました」 「……」 「神として、あなたは生きられますか?」 「……生憎と、カミサマは信じない主義でな。周りがなんと言おうと俺はおれだ。カミサマに見えるなら勝手に見せてやればいい」 「そんな身勝手な!」 「人生は1度きりだ。そいつに決めさせなくてどうする」  セイバーは少しだけ唇を噛み締めてから前を向いた。それもまた道なのですね、と呟いていたのが風に乗って耳に入ってきた。俺の言葉はただの面倒くさがりなものなのに、英雄によればそれは『道』というものらしい。英雄って難儀だな。  世祖が見つかったという報告は切嗣からだった。居場所を携帯に転送してもらい、バイクで猛スピードで飛ばしてもらった。路地裏とか廃墟とか人のいない所にいるかと思いきや、普通の商店街の地名が送られてきて俺の方が困惑した。  世祖はなぜか商店街の精肉店でもきゅもきゅとコロッケを食べていた。 「世祖」 「おーいしい」 「……そっかあ」  美味しいならまあいいか。目を輝かせてコロッケを見つめるセイバーのためにあるだけのコロッケとメンチカツを買い与えて、自分は世祖からコロッケを少し分けてもらった。 「……。分けるのですね」 「ん? ああ、コロッケか? まあ時たまやるよな」  ふた種類食べたい時は世祖と俺とでそれぞれ頼んで食べることもある。セイバーにそれを伝えると、ふむと頷いてメンチカツをふたつ俺にくれた。 「私も分けるというのをやってみたいです」 「……ありがとう。でもふたつももらったらセイバーが腹空くだろ? ひとつでいいよ」 「ですが、それでは……」 「分けて食べるからいいんだ」  世祖がすぱっとメンチカツを割ってくれるので苦労せずに食べられる。セイバーはそんな俺たちを見ながら「なるほど、そういう風に食べればいいのですね」と言っていた。このまま切嗣たちの家に返していいのか心配になってしまった。  世祖と手を繋ぎながら帰っていたら家の窓から桜が手を伸ばしていた。一緒に獅子王が風車を振っている。 「おかえりなさーい!」 「おーう、ただいまー!」  声をあげると桜が笑いながら家に引っ込むのが見えた。桜は最近吹っ切れたのかずいぶん明るくなった気がする。でもイタズラもするようになってきたから困りものだ。可愛いイタズラばかりなので怒らないがマニキュアを俺に塗るのはやめてほしい。 「#名前2#」 「んー?」 「怒る?」 「怒ってない」 「ほんと?」 「ああ」  世祖がひとりでどこかへ行ったと聞いた時、#名前2#の頭の中には沖野の姿があった。刀剣男士も同じだっただろうが、それでも彼らは探し出すことにした。ひとりで泣くのは辛いと知っているから。  コロッケを食べていた世祖はぽつん、と迷子のようだった。#名前2#が迎えに来てやらなければ彼女はひとりだ。沖野はもういないのだと思い知らされた。 「世祖を守ってやらなきゃなって思った」 「……わたしも。#名前2#をまもる」 「おう、あんがとな」  本丸からずっと一緒の家族はもうふたりしかいない。 「桜もまぜてー!」  ぽすっと桜が#名前2#にぶつかってきた。まだ家からは数メートルあるところを、#名前2#のサンダルをはいてパタパタ走ってきたらしい。ぜはーっと息を大きくすってはいてニッコリ笑った。 「桜も! 聞かせて!」  思わず目を瞬いた。桜がそんなこと言うのは初めて聞いた。後ろから獅子王がけらけら笑いながら近づいてくる。 「家族が待ってるんだぞー」 「……そうだな」  桜も刀剣男士も、確かに大切な家族だ。世祖と目を合わせるとちょっと泣きそうになりながらふたりとも笑った。桜を#名前2#が抱き上げ、世祖を獅子王が抱っこする。 「家に帰ろうな」  みんなが待ってるんだもんな。