番外編1
【神父の仕事】 本丸にいた頃の話だが、神父が児童虐待をしていた事件を前にネットで見かけた。そしてそれはこの世界でも起きている話らしかった。600もの記事と約300人の神父の汚職。被害者は1000人以上と言われている。 貧困層の子どもたちにとっては教会はまるで天国だ。神父に目をかけられたならそれはまるで子どもたちにとって褒美なのだ。だって神父は子どもたちにとって神様だから。手伝いを言われれば進んで行い、ちょっとした話にも耳を傾ける。どんどん傾倒し信頼する。淫らなジョークに特別な秘密の共有なのだと笑う。ポルノ雑誌を受け入れ、マスターベーションに手を貸し、オーラルセックスにまでのめり込みあとは泥沼。子どもには消えないトラウマが残り、神父たちは揉み消されることを知って次の獲物を探す。子どもたちは乗り越えて生きるか、多くは自殺することを選んだ。それが何十年も続いていたのだから驚きだ。 「言峰さんたちの所には性的虐待するような神父はいないんですね」 刀剣男士というのはどうしてこうも地雷を踏み抜くのか。物吉は綺麗な笑顔でニコニコと神父たちについて書かれた記事が印刷された新聞を見ていた。今ここに桜や凛が風呂でいないことを本当に感謝する。そしてそんな記事を持ってこさせた世祖を俺は許さん。どこから持ってきたんだ……。 「……。あー、」 俺はなんて言おうか迷った。時臣は固まってしまったし、綺礼はそんな時臣をずっと見つめていたし(おそらく間抜けな顔を晒した時臣が面白かったんだろう)、物吉は本丸での常識しかないのでどうして皆が固まっているのか分からないようだった。 「物吉、綺礼のところは普通の神父たちと違う仕事をしてるんだ。要するに、そこに出てくる神父たちとは上役が違うんだよ」 「へえー。神父って怖いんですね」 「怖くはないさ。権力をたてにして横暴に振る舞う奴らなんて沢山いるよ。神父みたいな化けの皮を被らないやつもな」 俺が自衛隊にいた時のように、とは言葉にしないで笑うと物吉はきちんと意味を理解したのか「じゃあ綺礼さんは信頼できそうですね!」とキラキラ笑った。本当に幸運を呼び込みそうな笑顔だ。時臣はなんとか苦笑いで「ああ、そうだね」とうなずく。お願いだからこれ以上の面倒ごとは呼び起こさないでほしい。 スポットライトを見てたので思わず 【龍之介の願い】 龍之介は聖杯戦争が停戦した今だって#名前2#に殺されたいと思っているが、#名前2#がまだ死ねないというならもう少し生きようかなあなんて思っていた。ただ、彼からすればどうして生きないのかが不思議らしい。 「そんなに生きたくないのかい?」 「まあねー。キリツグさんは?」 「僕は……まだ、死にたくないかな」 やるべき事があるからね、と苦しむ目つきで言われて#名前2#と違うなあなんて思った。#名前2#はこの世界で生きることを苦しいとは思ってない。彼はこの世界がどうでもよくて、生きてても生きなくても同じのはずなのにその責任感から生きることを選択肢に入れていて。そうそう、だからキリツグのように拷問のような生死は賭けていないのだ。 「大変ですねぇー」 「……そうかな?」 生きることは楽しいことだよ、なんて。どの口が言ってるんだか。 切嗣は聖杯戦争が始まる前から#名前2#のことを敬っていたせいか、殺すことに躊躇するのではないかと内心では自分のことを心配していた。だから、停戦の申し込みがあったときは安心してしまった。長年の傭兵生活から考えると恐るべき事態だった。 そして今、最愛の娘のイリヤスフィールを助けて冬木に住む決意をした切嗣は絶対に死ねない、と思っていた。正義の味方は誰かに殺されない、はずだった。 だが、#名前2#は死にかけた。自分の親に身代わりとして、殺されそうになった。恐ろしかった。死ではなく、正義に最も近いと思っていた正義が死にかけることが恐ろしかった。 「死ぬことってさ、芸術なんだよね」 だから、#名前2#さんと近くにいたはずの彼がその有様を芸術と評すのは解せなかった。 「……そうかい? 僕はいつも人を殺したけれど、あれは芸術なんかじゃなかったと思うよ」 「芸術だよ、どんなになっても。平等に訪れる死を誰かに見られたらそれはもう芸術的観点を持ってるよ」 見えにくいけどね、と龍之介が笑う。死は芸術とするならば、彼にとっての正義は何なのだろう。退屈の権化とでも言おうか。龍之介を見つめる切嗣に、見られる方は笑いながら「アンタはそういうの嫌いなんだってね」と茶を飲んだ。 「俺とちがうね」 「そうかな」 考え方は違くてもやったことは同じだ。2人とも人を殺した。地獄に落ちる存在だ、と#名前2#なら笑うだろう。 「俺は芸術のために地獄に落ちるのも悪くないって思うんだよね」 「死ではなくてかい?」 「うん。自分が死んだら最高にcoolだけど、でも見てくれる人はきっと#名前2#さんだけだから。#名前2#さんさ、絶対に地獄に落ちるじゃん。そう思うと地獄だって楽しそうだよね」 にこにこと龍之介は夢見るように話した。本当にあるかもわからない地獄の妄想をしているらしい。気味の悪い光景だったが、切嗣は龍之介の言葉に納得してしまった。 そうだね、と切嗣は頷く。目の前で龍之介はけらけらと人を貶すように笑っていた。 【ソラウへのお見舞】 !時系列はつっこんではいけない ソラウが部屋に閉じこもったという連絡を受けて仕方なく元アインツベルンの家にくると扉の前であたふたとするケイネスとランサー。そして我関せずと茶菓子を食べるギルガメッシュと連絡を寄越した時臣がいた。 「何やってるんだ、あれ?」 「兄様、よかった…! ソラウさんが閉じこもってしまったらしく、」 ケイネスから時臣に連絡が来て、時臣から俺に連絡が来たらしい。(ギルガメッシュは時臣についてきただけ。) 「あー……なんで俺が呼ばれたんだ」 「#名前2#がよいと時臣に申した。そなたがどんな采配をするのか見ものではないか!」 丁度いい距離感にいて、婚約者でも惚れた相手でもない#名前2#は便利な存在だ。ギルガメッシュはにまにま笑いながらいうのでミカンを受け取ってとりあえず中に入れてもらえるかどうか聞くことにする。 「ケイネス、そこどけ」 「!! お前なんかが入れると思うのか!?」 ソラウのことを心配しすぎていつものケイネスではなくなっている。そして敬意のないタメ口に関して#名前2#は容赦がない。びしっ、と頭にチョップを食らわせてフラフラと倒れそうになるケイネスをランサーが慌ててその体を支えた。 「ソラウ? 入っていいか?」 「……#名前2#さん?」 「ああ。ミカン持ってきたぞ」 「……………食べるわ」 すらりと入るとソラウは貧血気味にぐったりと体を壁に寄り掛からせていた。平気か?と声をかけても返事がない。すまんな、と声をかけて"力"で体を持ち上げベッドへ連れていく。ミカンの皮をむきながら待っていたら、ソラウが地を這うような声で「腰が痛いわ」と唸った。 「生理痛か?」 「…………」 「ほれ、ミカン」 薄皮までむいたそれを口に持っていくとソラウの口がもそりと動いて舌でミカンを迎え入れた。ぷちゅりと果汁が流れてベッドに垂れそうだったが#名前2#は気にせずソラウに与え続けた。 ソラウのことだからどうせすぐにメイドを呼ぶだろうと思ってのことだった。ソラウはそんな意図は知らず、ただ与えられるミカンをかぷかぷと食べるのに忙しい。 「うまいか?」 「……まあまあね」 「正直に言えや」 #名前2#のガサツな言葉遣いにソラウは眉を顰めたが「おいしいわ」と口を動かすと#名前2#は満足げに笑った。 「どうしてここに?」 「回り回って時臣に呼ばれた」 「………そう」 上手くはぐらかされたような気がしたが深くは追求せずに横になった。ずんと重くなった腰が痛い。血が溜まった下っ腹も痛い。ミカンを食べていた時はまだそちらに集中できたのに。ひどい顔をしたのだろうか、#名前2#が心配そうに腰押すか?と言いだした。 どうしようかと思ったがお願いすることにした。何となくの決断だったが、それは結果的によい話だった。 女の生理の原理はよく分からんがうっ血してる~と言いながら腹を抱えるやつは見たことがある。薬を飲みすぎて薬が効かない体になったそいつは、恋人だった俺に「腰に乗れ」と命令してきた。 「こうでいいのか?」 「そこぉ~~。あー、ぎもぢい」 C級のAVでも聞かなそうな汚い喘ぎでそいつは俺にマッサージをさせた。腰がこってるイメージじゃないが、固いのは確かだった。揉みほぐすように押してやると腹に(?)たまった血が流れるのか終わったあとはトイレにこもってスッキリして出てくる。 「腰押すとねー、血がどばって出るのよ」 「そういもんなのか」 「男も似たようなもんでしょ」 男の射精と女の生理を同じにして欲しくはなかったが言いたいことは分かってしまった。 今のソラウを見ているとあっと察してしまう。辛いんだろうなあと思いながらも体重を乗せないように腰を軽く上げたままぐりっと力を込める。 「ふっぅ、うう…!」 「辛いけど我慢してくれなー」 「うゥ、あぁっ、ん~~ッ!!」 思いのほか腰がこっていた。外国人には「肩こり」という概念がないと聞いたことはあるが腰がこるという概念もまたないらしい。重たそうな腰でよく平気だったな、と心内で感心しながらほぐしていく。背骨周りにある筋肉がこりやすいタイプなのか背中の方もかなり固くなっていた。 マッサージ師ではないので筋力トレーニングの後にやるようなものしか知らないが、それでもソラウには充分だったらしい。 「っはぁ……」 「大丈夫だったか?」 「すごく出てたわ」 「すまん。気持ち悪いか?」 「トイレ……じゃないわね、シャワーに行かせて」 「メイド呼ぶか?」 「こんな状態じゃ呼べないわよ……。その扉の向こうがそうだから連れて行って」 「はいはい」 お姫様と従者みたいなやり取りだが、ソラウは口調の割にスッキリした顔をしていたので結果オーライだろう。 下着類と着替えとは自分で用意してもらってシャワールームまで連れていく。タオルの用意は俺がやることになったが、想定の範囲内だ。 「ゆっくりしろよ」 「ありがとう」 ソラウの口からありがとうが出るとは。ビックリして「変装してるんじゃないよな?」と聞いたらシャワーを扉に向かって噴射された。片付けをするのは俺ではないのでメイドさん可哀想になあと思いながらソラウの部屋を出た。 すると、なぜか人にぶつかる感触があった。押し扉だから、と気にせず開いたのが悪かったらしい。確認してみるとケイネスのサーヴァントが髪に隠れていない額をさすって座っていた。 「ランサー? どうしたんだ、そんなところで」 「!? あー、いやぁ」 苦笑いでいたランサーを不思議に思ったが突っ込むのは可哀想な気がしたので手を差し出すだけにした。ランサーは少し戸惑ったようにその手を取り「ありがとうございます」と小さくつぶやく。 「どういたしまして」 立ち上がったランサーをそのままにリビングの方に戻ると時臣とケイネスがしけた顔をしながら紅茶を飲んでいた。英雄王はいつの間にかいなくなっていた。 「ケイネス? 終わったぞ?」 「………」 何も答えないケイネスを覗き込むとひどい顔をしていた。 「おい、大丈夫か?」 「……さま」 「きさま?」 「ソラウに何をしたぁああ!?」 どこに仕込んでいたのか水銀が一気に俺の元にきたがなぜかすんでのところで止まった。ビックリして俺は真顔のままケイネスを見つめてしまった。一体何だったのか。 「……ソラウは?」 「ただの疲れだよ。マッサージしたから平気だろ」 ついでに薬も置いてきた。常備の頭痛薬だが、効能には生理痛にも効くと書いてあったはずだ。 「マッサージ」 「ああ、マッサージ」 ケイネスと時臣が子どものように「マッサージ」と繰り返す。子どもは言い過ぎだった。オウムみたいだった。 「マッサージ……!!」 「あ、疚しいことは俺してないからな??」 2人が変な顔をしたり、ランサーが扉の前にいたことを察してしまった。俺の言葉に2人は信じられないみたいな顔をしていたが「ランサーに確認すれば? セックスして魔力供給みたいな漫画な話やってないからな??」と言えば信じてくれた。漫画みたいな、というワードが心に突き刺さったらしい。 ここにいなかったギルガメッシュが聖杯戦争参加者に話をしてしまい、俺の誤解が広まったのはまた別の話。