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書文はスカサハに勝負の約束を取り付けたら颯爽と姿を消した。最後にすごい爆弾を落として。 あくまで書文の見立てではあるが、一発ぶん殴れば目が覚めるであろうと彼は言い残した。なにかに憑かれているサーヴァントざいる、と。さっき捕まった相手に対してもナイチンゲールは容赦がないようだ。 「マスター、新たな患者です」 「……念のため聞くけど、その患者って」 「発明王エジソン。先ほどのサーヴァントによれば何かに憑依されているとのこと。私も賛成です。あれはエジソンと言うには、あまりに異質すぎる」 「なあ、そのエジソンってどんなだ? 俺も知りたいんだが」 空気を読まずにあえて聞かせてもらうと大統王エジソンについて皆が色々と教えてくれた。頭がホワイトライオンで人語を話し、スーパーマンのような服装をしていて……。ふむ、どう考えても異質というよりはただのおかしな生き物だ。きっとサーヴァントとして登録されたときに色々とあったのだろう。 「また困ったことになったね。捕まった相手の元に行くなんて」 「何を言ってるんですか。患者が複数いるときはトリアージが大切なんですよ」 医療関係者らしい言葉だ。昔に俺も習った覚えがある。でも、その時はライオンを人間より優先しようとは言わなかった。そんなこと言うのはブラックジャックだけだ。俺の考えを読み取ったのかなんなのか世祖がくすりと笑った。笑えるのならよかった。ジョークに思われないと面白くない。 結局マスターはエジソンのもとへ行くことに決めた。無難な選択だ。ここで反対でもしたらナイチンゲールに殺されそうだった。 「あんた、やな目つきしてるわね」 「そりゃあどうも」 「嫌味? アタシ、まだあんたを仲間って認めてないから」 「何でもいいですよ」 正直、エリザベートに嫌われてもこちらは苦しくない。マスターとマシュはあわあわとしていたが周りは気にした素振りもなかった。 エジソンたちがいるのはアメリカ西部。機械兵がうろついているのを見ると今でもケルトを警戒しているらしい。ロビンフッドはここをディストピアという。面白いセリフだが、なんでその言葉を知ってるのか? 俺のイメージの中のロビンフッドはアニメの狐なのだが、ディストピアという言葉を使うような世界にはいなかったはずだ。 元貴族のエリザベートはこの光景も嫌いではないという。俺もエリザベートと同意見。ここで見られているのは典型的な日本人にとってはよく見かける仕組みだ。よろしくない方向で見かけるものだけど。 カルデアからの通信はドクター?という人から来るらしい。バースト通信という不穏な言葉を聞いたと思ったら空間にエジソンがモニターされた。審神者時代でもよく見たモニターをもっと画質を悪くさせたようなそれだった。 通信ジャックかあと思ったら世祖の眼が開きカタカタと動く。エジソンは天使に失望云々かんぬん言っていたら消えた。あっけない終わりだった。 ドクターが再び現れて「ごめん、ジャックされてたみたいで……。すぐに直ったけど大丈夫?」と聞いて来る。大丈夫ですとマシュが答えた。エジソンは消えたと思ったら今度は拡声器で声を届けにきたた。 「ケルトに与したのか、負け犬が庇護を求めたのかどちらなのか」という問いかけだった。ここに答えて声が届くのかは分からないよなあと呟けばロビンフッドに変な目で見られた。 「あんた、意外とひどいよな」 「俺のことなんだと……」 誰も俺を優しい人間なんて言ってないのに。エジソン側も俺に気づいて「なぜ彼を仲間にしているの?」と聞く。この声はたぶん……ブラヴァツキー夫人かな。これでも狂王のもとにいたときに西側のサーヴァントは確認している。女性サーヴァントはブラヴァツキー夫人のみだったはずだ。 「メイヴ暗殺は失敗したから命乞いをしたのかと思ったけど……。彼がいるってことは……どういうことかしら? あのメイヴたちが手放すとは思えなかったけど」 「俺がこっちにいる理由はどうでもいいだろ」 呟きはなぜかエジソンたちに拾われて「そうもいかないだろう。パワーバランスも壊れてしまう」と返した。 「も」ときたか。嫌な言いまわしだ。ロビンフッド、ナイチンゲールからの視線がいたい。前者は分かるが後者にはどうして見つめられているのかさっぱりだ。さらに世祖に近づこうとするとナイチンゲールの視線が鋭い。もう気にしないことにした。 「……エジソン。あなたは病んでいます。即刻治療を受けなさい」 「なん、だと……!?」 「あー、本人に言いきっちゃったかー」 ブラヴァツキー夫人の声から考えると味方にもそう思われていたのか。横にいる人にもそう思われるほどって相当じゃないか、それ。 エジソンは反抗するように健康を自慢したがその体は人間基準なのかライオン基準なのか疑問に思うところだ。 「黙りなさい。病人に病を告げて無礼とはなんです。甘やかされたいなら母親か妻のもとへ逃げなさい。世界を救う力を持ちながら理性を保ったまま世界を破滅へ追いやろうとするなんて。それが病以外なんと言いますか」 「違う! 私はーー」 まだ言いたそうなエジソンだったがナイチンゲールは話を聞かずに中へと入っていく。みなでその後を追いかけると後ろの方でエジソンの慌てる声が聞こえていた。どうも滑稽に思えて仕方なかった。 中に入ると白髪でやけに細長いサーヴァントがいた。アルジュナから聞いていたカルナというサーヴァントだろう。やはり来てしまったのか、とまるで来ることを予想していたようなセリフだった。 「無論です、カルナ」とナイチンゲールが答え合わせのような返事をした。ナイチンゲールはそのカルナさえも病人扱いをした。彼女の中ではこのアメリカにいるサーヴァント、特に戦争をしているサーヴァントはほとんどが病人だというだろう。痛烈な批判とも思える基準だ。 カルナは相当に優しいサーヴァントなのか「そうかもしれない」と頷いた。 「俺は忠実であろうとしすぎている」 カルナの言葉は自分の心に突き刺さる。刀剣男士たちの掘り起こしたくない黒歴史を等身大にまざまざと見せつけられているようだったからだ。 「しかし、この道を通すわけにはーー。何しろエジソンに助けを乞われたのだ。ひざまずいてな」 世祖がぼそりと「カーテシーでもしたのかな」呟いた。ぐっ、真面目な話をしているから笑かさないでくれ。 「先に乞うたのが彼だった。愚かでありながら賢くあり、傲慢でありながら博愛に満ちた男」 まるでアメリカをそのまま象徴するかのような話だった。アメリカのサーヴァントとはみんなそうなのだろうか? いや、大統領とかそんなものになろうとしてるから彼がそうなってしまったのか。 カルナはどれだけの徳が積まれてるのか、人に対して誠実に対応することが素で出来るらしい。「放っておけない」という理由でエジソンのもとにいた。ばかばかしくもカルナは俺に似ていた。 「カルナと戦うのなら俺を試しに使ってくれないか?」 そう言った#名前2#さんの手をとったのに理由なんてない。取るべきと思ったから取ったのだ。シールダー二人の防御的作戦だと思ったけど#名前2#さんは元から防御をする人ではなかった。 恐怖をこらえて1歩は必ず前に進む。攻撃こそ最大の防御なり。脳筋じゃないか、と思わず呟いてしまった。世祖ちゃんと同じだ。でも、今回は世祖ちゃんがサポートに徹している。#名前2#さんと世祖ちゃんの相性はすごく良いみたいだ。これなら安心だろう。 そう思ったときに#名前2#さんの首に見てはいけないものを見てしまった。首の付け根のところで一回りジグザグにやられた傷がある。一瞬見えただけだけど、あれは絶対に傷跡だった。血が滲んで、まるで首輪のようだった。 「! 世祖ちゃん、#名前2#さんに支援!」 世祖ちゃんのスキルで回復を試みた。なのに、#名前2#さんがカルナにやられた傷しか治らない。首の傷跡はまだ血を垂れ流してそのうちスーツの襟を濡らし始めていた。 その姿に恐怖と執着を感じた。あれは俺たちの力ではきっと外せない首輪なのだ。カルナもそれに気づいたのか#名前2#さんの首を積極的に狙うようになった。必死に#名前2#さんは耐えているけど危なかった。というのも、カルナは突然攻撃をやめて「玉座で待つ」と言い始めたのだ。 「この国の最大戦力三人でな」とカルナは言い放った。 #名前2#さんがそっと首をかしげたのを見て、まだ全然話してなかったことに気づいた。一応世祖ちゃんとの魔力の譲渡があったので知識的には何か入ってると思うんだけど。思わず説明的にエジソンとエレナとカルナの名前を挙げると#名前2#さんはなるほどと神妙な顔をして頷いていた。よかった、伝わったみたいだ。 「いざ、突入します!」 マシュの掛け声でもう一度気を引き締める。味方のことに気をかけたいけど自分たちが今戦うべき相手を思うと#名前2#さんのことは世祖ちゃんに任せるしかなかった。