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#名前2#さんにはアメリカでの記憶は薄らとある程度らしい。僕はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。#名前2#さんの脳の開放が100%出来ていたらもっと早くにこの特異点は世祖ちゃんの思うように進んだはずだった。 #名前2#さんは抑止力を働かせただろうし、世祖ちゃんはすぐにフルパワーで対応できた。あんなに仲間は死ななかった。でも、彼はそれをしなかったのだ。僕はずっとそれが不思議だった。 それを聞いてみると#名前2#さんは少しだけ笑って「俺は世祖を守るだけじゃないんだ」と言う。 「世祖はな、俺にとっても沖野さんにとってもカミサマなんだよ」 だから世祖は俺を頼りにしてちゃダメなんだ。あいつは1人で出来るんだ。 #名前2#さんはそう言ったけれど、僕にはそう思えなかった。世祖ちゃんはとても幼い女の子なのだ。大人に頼るのは当たり前の存在だ。いつだったか、刀剣男士のひとりが言っていた。「#名前2#さんは信仰のために死んだのです」と。その時は言ってる意味が分からなかったが今ならよく分かる。#名前2#は世祖ちゃんへの信仰心があったのだ。世祖ちゃんを育てるために自分を犠牲にできるような信仰心だったのだ。 僕には理解できない論理だった。英雄なんかじゃない僕だけれど、勝手に死んで、残された人の気持ちを理解しようとしないことは辛い。僕の頭の中にわがままに好き勝手に生きた祖父を思い出した。祖父は自分のしたいようにしやって大往生した。残された方は彼の尻拭いをしなければいけなかった。 「#名前2#さん、貴方は間違ってますよ」 「……そうかもな」 「世祖ちゃんは貴方をずっと待ってました」 「だろうな」 「申し訳ないとは思わないんですか」 どきどきとうねる血流の音が頭に響いた。特異点にいた時のように緊張していた。この人にこんなことを言っていいのか、と誰かが囁く。いいんだ、と胸の内で答えた。 僕はとても卑怯な男だった。#名前2#さんが困っているところにぶすぶすと刃を突き刺しているのだから。顔が染まって熱くなる。その時#名前2#さんは笑い出した。けらけらと大声で。そしてゆっくりと口を開いた。 「……。俺に消えて欲しいのか?」 僕は冷水を浴びせかけられた気がした。心の奥底まで見透かされたみたいだった。心臓のどきどきは止まらない。#名前2#さんは笑いながら僕を見つめた。そしてふっと笑顔を消すと「俺だって来たくなかったさ」と言った。僕を責めるような声音だった。 「だけど呼ばれたなら仕方ないだろ。世祖のことだって心配だったんだ」 「……」 「マスター。あんたの事を俺はまだマスターとは認められねえのよ」 苦笑いした彼は先程まで会話していた彼とはどこか違っていた。雰囲気が鮮やかに変わってしまったのだ。 「英霊オキノとして、やらなきゃいけないことがある。その一つは、マスターを見極めること」 オキノの視線が僕を貫いた。さっきまでの冷たい視線ではなく、鋭いけれど温かみのある視線だった。 「大丈夫、お前ならすぐにマスターになれるさ」 「……」 「信用ならないって顔だな」 そんな顔をしているつもりはなかった。思わず顔に手をあてるとまた笑った。そう焦るなよ。声をかけられて上を向くと#名前2#の顔が思いのほか近くにあった。 「絆レベルってのがあるんだろ?」 「……知ってるの?」 「世祖から聞いた。お前に与える情報が増えてくって」 「うん……。そうだよ」 「なら、それがLv5になったら最大の秘密を教えてやるよ」 「レベル5?」 「そう。俺には秘密が多いから」 #名前2#さんはそう言って部屋に戻っていった。去り際に撫でられた頭はくしゃくしゃにされている。何だか自分の嫌なところを見せつけられて、そして甘やかされた気分だった。子どもみたいな扱いだ、と思いながらも自分も部屋に戻る。なんでか鋭い五感はもう鎮められていた。 部屋に戻って寝転ぶ。今まで回った特異点は冬木も含めたら6つになる。特異点もどきも含めたらもっと数が多いだろう。そうやって指を折っていたらマスターになってから頭を撫でられたことがないと気付いた。 自分はいつも戦いに明け暮れている。カルデアの中ではゆっくりすると言うよりは消費した体力を補うために眠りこけると言った方が正しい。眠りこける自分にはどんなサーヴァントが来ても相手はあまりしてあげられない。魔力が全くない人間ではないらしいが、これだけ多くのサーヴァントを使役するのは生半可なことではなかった。 #名前2#さんが来てからようやくそれがなくなったことに気付いた。後でダ・ヴィンチちゃんに確認したら世祖ちゃんの暴飲暴食みたいなパスが切れたからだろうと言われた。バーサーカーは特に魔力を食べやすくて、仮契約だった世祖ちゃんはさらに倍の魔力を必要としていた。だったんだけど、世祖ちゃんは本契約がなされている。それに#名前2#さんが来たことで自分の貯蔵魔力で顕現してくれるようになった。世祖ちゃんのスキルが発動したのだ。お陰で僕はこうやっていられるという訳だ。 閑話休題。僕はサーヴァントとの交流をここにきて段々と出来るようになった。でも、サーヴァントたちの中では僕は「人類を助けるためのマスター」になっていた。結局、自分を理解してもらうことは諦めた。 #名前2#さんはそんな僕を「甘ちゃんだ」と笑う。だってしょうがないじゃないか。サーヴァントなんて人間のこと分かっちゃいないんだよ、結局は。 「マスター!」 部屋に駆け込んできた#名前2#さんは青い顔をしていてあの嫌味っぽくて僕の嫌いな人は姿を消していた。腕に世祖ちゃんが俵みたいに抱えられてる。唇をとがらせて僕を見ていた。 マスタールームでちょうどマタ・ハリとマシュと一緒に居た。マタ・ハリは世祖ちゃんを見てあらあらと笑っている。 「っと、すまん。何かやってたのか」 「大丈夫よ、ただのお茶会だもの」 #名前2#さんの顔はまだ青い顔色のままでお茶いる?と自然に聞いてしまった。 「あーいやあ。うーんとな」 「お邪魔みたいだから私は失礼するわね。マシュは、」 「そのままでいい!」 「それじゃあまた後でね」 四人になって#名前2#さんは気まずそうに世祖ちゃんを僕の前に座らせて自分はマシュの前に座った。いつの間にこんなテーブルセットを用意してたのか、全く気付かなかった。世祖ちゃんがやったのか、と見ると真っ赤なほっぺで泣きそうなのを我慢している。 「どうしましたか、世祖さん」 「……」 「さっき叱ったばっかりだから喋ってくれないかな。マスター、申し訳なかった」 突然下げられた頭にマシュも僕も頭の上にはてなが浮かんだ。 「えっと、あの……?」 「うーん。なんていうか、なあ。アメリカでの俺の記憶はかなり曖昧なんだけど、ただ覚えてるのはクーフーリンオルタとメイヴのことだけでなあ。敵対してたのか、と思ってたんだけど世祖の話聞いてるとどうもそれだけでは終わらないぽかったから」 「うん……まあ、そうだね」 正直現れた時味方なのか敵なのかよくわからなかった。でも、世祖ちゃんは#名前2#さんを信頼していて、僕から何か言うのは変な気がした。マスターは僕なのに、と嫉妬もした。そういうのも全部伝わってしまっているのかな。 「マスター、アメリカの俺は今の俺とは違ってるんだけどオキノっていう英霊はもしかしたら記憶があるのかもしれない」 「オキノ……。ねえ、#名前2#さん。前、深夜に話しかけたこと覚えてる?」 「深夜? 俺は夢遊病なんか患ってないはずなんだが。基本、寝れる時に寝る体質になってる」 「そっか」 あれは、#名前2#さんじゃなくてオキノさんだったのか。それで納得がいった。雰囲気が全然違ってたから、心配だった。世祖ちゃんをかいがいしくお世話する#名前2#さんが器の素なんだろう。 「あの、それで世祖さんはどうしたんでしょうか」 「マスターに迷惑かけてたのに何も言わないでしあばっくれようとしてたみたいだから」 「……」 確かにそうなのだが、#名前2#の言い方では身もふたもない。#名前2#さんは失言をした、と気づいたのか「ごめん」とまた謝った。 「悪いことしたと思うならちゃんと謝れって叱ったんだ。マスターを助けるためとはいえ、原因も解決も世祖っていうのは世祖が予防できたはずだからなあ」 それは確かにそうだが、世祖ちゃんの障害のことも考えると僕が一方的に責めるのはよくないことだと思ったのだのだ。#名前2#さんは「世祖は馬鹿だけどそれくらいは分かるよ」という。 「やっちゃったっていう感覚はあるんだ。でも、世祖には悪いことなのか良いことなのかの基準が分からないんだ」 世祖ちゃんはぐずぐずした鼻声でごめんなさいと口を開いた。今まで文字を空に書いているのばかり見てたから声を聞いたのはすごく久々だった。 マスター、と声をかけられて「大丈夫だよ」と返した。 「その感触は、私にも覚えがあります。相手の人が傷ついたような顔になると、私は何かしたんだろうなとは思うんですが、その理由は分からないんです」 「マシュ……」 「今は、先輩や他のサーヴァントの皆さんと旅をして楽しいことも辛いことも色々と覚えました。今は、先輩と一緒にカルデアの外へ遊びに行きたい」 「マシュはここでの生活が長いんだっけ」 「はい」 「世祖もなんだ。一般常識も、未来と今とでは違うからなあ。そういうのもあってキャスターが今まで面倒みてくれてたみたいなんだけど」 #名前2#さんの話してくれた本丸の話は、戦争中と聞いていたよりも賑やかで楽しそうだった。僕もその中に入りたいけど今更すぎる気がする。 「マスターは、自分のこと下げてるのかもしれないけど世祖やキャスターのクーフーリンや、ディルムッドなんかも『いいやつ』って言ってた。他のサーヴァントたちも、俺とマスターが喧嘩してるんじゃないかって心配してた」 「……」 「わいわいやってなくても、マスターの頑張りは伝わってる。俺のところにマスターのいいところを書いた手紙まで置かれてたし」 それを聞いて思わず笑った。誰がやったのか分からないけど、#名前2#さんが「ほら」と手紙を見せてくれた。悲しいわけじゃないのに涙が出てきた。サーヴァントなんか、と失望していた自分が馬鹿みたいに思えた。 「ありがと、#名前2#さん」 「何言ってんだ。それは俺じゃなくて周りのサーヴァントたちに言ってやれよ」 「だね」 マシュと一緒にサーヴァントたちに会いに行った。素材がなくて最終再臨させるのも大変で、スキル上げもそんなにできなくて。ごめんね、といつも謝ってた。お礼を言うことは、ほとんどなかった。 初期からずっと一緒にやってきてくれたステンノ様に会いに行くとクスクスと笑われた。 「ようやくあなたと目を見て会話できるのね」