クーフーリンオルタと
サーヴァントがいつの間にか増えているのはたまにあって、紹介が何日もしてからだったということもある。その原因はだいたいマスターが召喚成功していることに気づかないことが多いのだが、今回は意図して俺に知らされていないらしかった。わざわざ呼び出しを受けた部屋に行くと見知らぬ気配があった。だが肌は何かを感じとって鳥肌が立っている。 パスを当てて扉を開けるとそこには赤と黒の鎧に身を包んだ怒り狂ったような王様がのっそりと座っていた。沈黙を破ったのは#名前2#だった。扉をもう一度開き、ダッシュでその場を逃げた。後ろで破壊音とさっきの気配がこちらに近づいてる予感がする。 「うわああああ、無理いいい!!!」 #名前2#の叫び声に何だ何だとサーヴァントも集まってきたが後ろに引連れていたクーフーリンオルタを見てさっと目を逸らした。皆、自分の命が惜しい。#名前2#はあてもなく走り回り、いっそのことマスターのところへ逃げようかとも思った。だが、絆レベルが低いままだとどうなるかも分からない。困ったなあと思いながら駆けていたら彼女を思い出した。アメリカで戦った彼女である。 「ナイチンゲール!!!」 突然の方向転換に体が揺れた。ナイチンゲールはどこだー!!!と叫んでいたら管制室におったよと声が聞こえた。ありがとう!と顔も見ずに返事をする。おおきになあ、と彼女は答えた。後から来たクーフーリンオルタにも同じことを伝えた。彼女は面白いものが大好きなのだ。 「ふっふふ」 「しゅ、酒呑…? あのバーサーカーは去ったのか…?」 「茨木、あんたもしゃんとしいや。同じバーサーカーなんやさかい」 「そ、そうは言ってもな、酒呑。あの男の顔を見たら鬼とて嫌がるものよ。あいつは鬼と同じくらいの顔で人の獲物をかっさらう顔をしていたぞ」 見たのは一瞬の割になかなかいい観察眼である。酒呑童子は茨木童子の頭を撫でると「ほな、食堂で何か甘いものでももらいに行こか」と歩き出した。 管制室に急ぐとナイチンゲールと共にマスターがいた。ああ、やばいと思った直後にはナイチンゲールがこちらに駆け寄ってきていた。思わず逃げそうになった#名前2#の顔の横で銃と槍がぶつかった。 「またてめぇか」 「? また、とはどういう意味でしょうか」 「チッ、なんでもねえよ」 ナイチンゲールは槍を下ろしたクーフーリンオルタをじろじろと見て「健康体そのものですね」と深く頷いた。「マスターもこんな体を目指してください」とマスターの方にも話しかけている。#名前2#は恐る恐るナイチンゲールへ足を1歩動かしたがすぐにクーフーリンオルタからのデバフがかけられた。攻撃力ダウン、クリティカル威力ダウンである。 「#名前2#さん、久々の再会ーにはならなかった?」 「無理だろ、あれは!!」 「ああ、特異点での記憶があるのですね。それよりもその手のひらの怪我はなんですか。消毒しましたか? ちゃんと傷口を洗ってから絆創膏を貼ってください」 「洗ってないです……」 ナイチンゲールはそれを聞いて「マスター、私少し治療を施してきます」と#名前2#の首をつかみずるずると引きずり出した。クーフーリンオルタは#名前2#が逃げないとわかってその後をのしのしとついて行く。 管制室に一緒にいたスタッフは「なんだあれ…」と呟いた。全く同じことを立夏も呟きたかった。 ナイチンゲールは食堂にやってくると水道で傷を洗い常備されているアルコールでその手をまた浸し、リネンで拭き取ってからようやく絆創膏を貼ってくれた。同じく食堂に来ていた酒呑は笑いを堪えながらつまみを食べている。その姿に少しムッとした。さっきの声は酒呑童子だったのか、と。良いようにやられてしまった。 「おい、もういいのか」 「はい。一日で傷が治らないようでしたら絆創膏は貼り変えることが必要ですので念の為、お渡ししておきます」 腰に結んだポーチから3枚ほど絆創膏を渡された。ありがとうございますとお礼をしてポケットに入れる。ナイチンゲールは満足げに頷くと食堂を出ていった。キッチンに立っていた小竜景光が近づいてくる。と、クーフーリンオルタの槍が今度は小竜の方に向けられた。流石に刺すことはなかったがあの綺麗な金髪が乱れている。 「……別に、特に何かするわけじゃないよ」 「……」 「#名前2#さん、怪我は?」 「ちょっと壁殴ったりしてたら怪我した。平気だ」 「ふーん、今日はオムライスだからね」 「あいよー」 小竜はその槍の範囲にかからないギリギリの所から俺に話しかけてくれた。クーフーリンオルタはキッチンの中に戻っていく小竜を見てようやく槍を消して#名前2#の隣に座った。他のサーヴァントたちは何を思ったか霊体化して見えなくなっているのがほとんどだ。今いるのは離れたところに小竜景光と酒を飲む酒呑童子とお菓子を食べてる茨木童子だった。 「なんで逃げた」 「え、……なんか生理的な反応?」 ぶふっと吹き出す声が聞こえた。おそらく酒呑童子だろう。ちらりと横目で見ると彼女は普段通りに酒を飲んでいた。と、突然クーフーリンオルタの手が#名前2#の頬をがっしりと掴み目を合わせてきた。 「怖いか、俺が」 「怖くない! 怖くないけど!」 「けど?」 「お前、なんか俺の事殺しそうな雰囲気だった…んだよ」 クーフーリンオルタは視線を逸らすと首をかしげた。記憶にないと言いたげな行動に#名前2#はため息を心の中でついた。 「あのさあ、ここにはメイヴもいないからお前がどうしようと勝手だけどお願いだから他のサーヴァント殺すようなことはやめろよ」 「? そうか、わかった」 「うんうん、わかったって言ってもなあーーって。え、お前、いまなんつった?」 「わかったって言ったぞ俺は」 「ごめんごめん、お願いだからそのミシミシさせるのはやめろ!! 死ぬから、早速破ろうとしてるから!!」 パッと手が離された。少し浮かんでいた体も椅子に落とされる。いてーいてーと#名前2#は少し血の滲んだ頬を撫でた。もらったばかりの絆創膏に早速出番が来てしまった。クーフーリンオルタは#名前2#をじっと見ていると思ったらぐいぐいとその体を引っ張った。椅子から引きずり落とされるようにしてついていったら水道にまたやってきた。 「#名前2#、洗え」 「……もしかして、手当してくれんの?」 「いいから洗え」 何がしたいのか分かって#名前2#はへらりと笑った。ありがとうな、と言って顔を洗う。本当は洗面所の方がいいのだがクーフーリンオルタにはさっき見た映像を真似ればいいと思っていたのでそれ以外のことは分からなかった。顔をタオルで拭いてアルコールをぺたぺた手で塗り込む。またタオルで拭いて絆創膏をべたべたに貼った。横長の傷に縦に貼られた絆創膏は傷口が外に出てる方が多い。それでも満足げに頷いたクーフーリンオルタを見て#名前2#は何も言えなくなった。