刀剣男士と英霊1

【牛若丸の話】 今剣は本丸の世界軸にはいなかったが、ここの牛若丸はまた別の源義経である。会いに行ってみれば?と言うと今剣は「かのじょはべつのかたなをもってます!」と教えてくれた。 「別の刀?」 「はい。ひざまるどのです、あれは!」 「へー。膝丸……え、膝丸!!?」 呑んでいた酒を落とすところだった。危ないよォと次郎太刀が狙いに来るが#名前2#も反応してすぐに隠した。飲みすぎと注意されてむうっとした顔を見せる。 「いいじゃないか、それくらい」 「荊軻……そうは言うけど、お前もだからな?」 「はは、じゃんじゃん持ってこーい!」 「やーめーろ!」 荊軻から酒を取り上げようとするとものすごい力で引っ張る。アサシンだが彼女は強いのだ。#名前2#は仕方なくもう少し力を使った。筋力ではなく、沖野による力の底上げだ。引っ張るとすぽんと酒を持ち出せた。 「ああ~~、酒が……」 「はいはい。それで膝丸なのかあの刀は」 「はい! せいそたちはなまえでかたなをはんだんするので きづかなかったのかもしれませんね」 「それは否めない……。刀本体見ても分からないし、鞘も膝丸が持ってるのと違うし……」 「刀のさやは持ち主によって違うものだからねぇ。拵えは目に見えたステータスだよ」 「なるほどね」 昔の人も今の人と考えてることは変わらないのだ。牛若丸の刀もなぜか狸の尻尾のようなそれになっている。 「そういえばだけどさぁ」 「荊軻……。喋る前にそのはだけた着物を直せ」 「お母さんー」 「俺は母親じゃねえ!」 着物を直してもすぐに体を揺らす荊軻にはあまり意味が無い。#名前2#は胸を見ないように目をそらしながら「何かあるのか?」と話を戻した。 「牛若丸のことだ。あいつの宝具、薄緑や吠丸というのはその膝丸とやらのことか」 「確かそうだったはず。へぇー、牛若丸の宝具にもあ?のか」 「あいつには宝具が色々とあるからねえ。その中のふたつに、入ってたはずだよ」 「……なんで知ってんだよ、そんなこと」 「前に宝具についてしゃべったことがある」 宝具は一人一つという限定はない。その人の逸話や所持していたものが宝具になることがあるのだ。クラス適正についてもまた色々とあると思うのだがそこは割愛。 「んー、じゃあ膝丸と牛若丸合わせたのまずかったかな」 「さあな。牛若丸の方にその知識があるかどうかも知らぬ」 「うすみどりは いろいろとかんがえこんでいましたよ。でもすぐに ひげきりがなぐさめていたので だいじょうぶだとおもいます」 「そっかあ」 それでも心配なものは心配だ。次郎太刀と荊軻から酒を奪い今剣を連れて本丸の方に顔を出す。膝丸はいつものように勉学に励んでいた。 「膝丸」 「なんだ、#名前2#と今剣か。どうした、出陣か?」 「あー、いやー」 何も考えないで来てしまったので何と話を切り出せばいいのか分からなかった。仕方ないと言うように今剣が笑いかける。 「かるであと ほんまるの せつぞくのちょうしについてきいているのです!」 「そういうことか。いや、大丈夫だ。問題ない」 「そうか? ならいいんだ」 とぼとぼと部屋を出る。今剣は下から「まったくもう」という顔で俺を見ていた。 「不信感持たせたかな」 「あれはやばいってやつですね」 平安刀が覚えた「やばい」という単語。恐ろしいことになりそうだ、という時に「やばい」と言われる。膝丸に変に探りを入れたのは失敗だったかもしれない。 食事をするのも中々口が開かない。髭切は今日はカルデアの方にいるため世話をする相手もいない。 「……」 「膝丸さん、浮かない顔してんね」 「蛍丸か。いや、何。久々に#名前2#さんに会えたのだが、変なことを聞かれてな」 「変なこと?」 「カルデアと本丸の接続はどうか、と。この前世祖がアップロードしたばかりだったろう」 「そういやそうだね」 「それに今剣も微妙なかおをしていた。俺はなにかしてしまったのかと思ったが生憎と思い浮かばなくてな」 「……」 「何か知っているのか」 「え、あ、うーん。ちょっとね」 「何だ? 教えてくれ。このままでは胸のとっかかりのせいで眠ることも出来ん」 膝丸の強い目線に蛍丸はううっと結んでいた口を開いてしまった。 「んー、じゃあ言うけどね。カルデアにいる牛若丸って人のことを心配してるんだよ。あそこにいるのは別世界の、サーヴァントの刀としてある膝丸さんでしょう?」 その後なんとか食事を胃に詰め込み部屋に帰った。別世界の自分についてまざまざと思い知らされた気分だった。気にならないといえば嘘になる。だが、あの自分と俺とは違う。演練で自分と戦うようなそんな気持ちなのだ。それを#名前2#は心配を……。おや。あれは、心配と言えるのだろうか。 「まあ、いいか」 最近は本丸で動いてくれない#名前2#にちょっとした意趣返しだ。 【沖田総司の話】 こちらの世界の沖田くんは女だった。その事に簡単に納得出来るほど俺は沖田総司の刀という自覚を甘く見てはいない。安定の方がどう思ってんのか俺も知らないけど(最近の安定は変だ。世祖とくっついて何かしている。)一緒に戦いたいと思うような相手じゃないのは確かだ。 「#名前2#さん、ちょっといい」 「おー」 「沖田くんのことなんだけどさ」 「なんだぁ? 闇討でもしたいってかぁ?」 「はあっ!? そんなの考えるわけないじゃん」 「そっか」 #名前2#さんはつまらないという顔をしてまた机に向き直った。散乱している紙には最近読み込んでいるとある家族の関係図が書かれている。ホームズから出された問題の謎を解いている最中なのだ。 そんな事よりもこっちの話を真面目に聞いてほしい。 本丸にいた時ならそうじゃなかった。そう思ってからハッとする。今とそんなに変わらないか? 自問自答を繰り返していると#名前2#の方からこっちを向いた。 「沖田さんがどうした? アイツ、なにかしたのか?」 したといえばした。してないと言えばしていない。ただ女である沖田総司に慣れないだけだ。さらに言えばあんなに煩い沖田総司も苦手だ。どうしたって自分の知っている、記憶の中の沖田総司と比べてしまう。 ただそれを言うと怒られる気がして「ちょっとね。まだ一緒に戦いたくない」と言った。 「……。自分の知ってる沖田総司と違うからか」 「……。それもある、けど」 「じゃあ、あれか。グダグダ感のせいか」 「うーん、それもある」 曖昧な言い方が続いてしまう。#名前2#さんは段々探るような目付きになっていた。加州も不思議な感覚がしている。自分で考えていたよりももっと深い理由があったのかもしれない、と思うほどだった。 しかし#名前2#はその答えにたどり着くような質問はしてくれなかった。まあいいやと切り上げた。「沖田さんと組まないようにマスターに伝えておく」と言って紙を無造作にばらまいて何か考え始める。置いてけぼりにされた気持ちだった。 「あっそ!」 なんだか情けない気分になって加州は#名前2#の部屋を出た。世祖の部屋は横にあるため、そこに戻れば本丸へも戻れる。ただ、やるせない気持ちを持ったまま本丸に帰ると誰かに八つ当たりしてしまいそうでブラブラとカルデア内を歩くことにした。 カルデアもサーヴァントの数が増えた。大体のサーヴァントは世祖に驚き、世祖の宝具である刀剣男士に驚く。#名前2#に驚いたのは関係があったサーヴァントか、その特異性に気づいたサーヴァントのみだ。 加州清光はスタッフやサーヴァントたちに挨拶をしながらある人の元を目指していた。何だかんだで本丸にいる刀剣男士たちにはお馴染みになっているキャスターのクーフーリンだ。 「キャスター! ちょっと話聞いてよ!」 「加州か。もう少し静かにしてくれよ」 「何、世祖寝てるの?」 「いいや、こっち。世祖はあっち」 ひょいっと見てみると床に倒れて寝ている安定と、ジャック、世祖の相手をしているジェロニモの姿があった。 「何この状況」 加州にはその一言しか出せなかった。 安定は精神が不安定だ。怖がったら嫌な方向に考えが働いてしまい、逆に面白いと思えば楽観的に進んでいく。今回、安定は先にマイナスの方向に考えた。正しい歴史はひとつだけ。自分たちが嘘か向こうが嘘か。水掛け論になりそうな考えから沖田総司を殺しに行った。そして失敗した。再臨が進んでないとはいえ彼女は中々強かった。 目覚めたあと今度は自分が嘘かもしれないと刀を折ろうとした。一緒にいた世祖とこんのすけ曰く「ちょっと散歩行ってくるね」くらいの気軽さで「ごめん、僕沖田くんに迷惑かけちゃったみたい」と言って抜刀し、壁に勢いよく叩きつけようとした。こんのすけも心の臓が止まるかと思った、と言っていたがそれは言いすぎだろう。結局それを世祖が止めてマスターのもとに連れていった。 話を説明して少しの間、#名前2#と一緒に本丸に隠れさせてほしいとお願いすると気のいいマスターは「いい方法があるよ」と種火周回に出かけた。 「それで、沖田さんの種火を回収してきたってわけか」 「レベル80まで無理やりあげたからな……」 なら、ぶっ倒れるのも仕方ない。共に周回に出かけていた(というよりは絆レベルを上げていた)ジャックとジェロニモと世祖は遊んでいて、安定は疲れを引き取って寝ているというのだ。 「馬鹿でしょ、安定ってば。誰かと交代しながら行けばよかったのに」 「そういうわけにも行かねえだろう。男の沽券に関わる」 「……。ま、分からなくはないけど」 加州はそう言って安定を肩に担ぐと世祖に本丸へ連れていくように頼んだ。心配する皆に笑いかけながら安定の部屋へ行く。後ろをついてきた堀川が布団をしいてくれた。 「ありがとうね、堀川」 「いえいえ。沖田さんのこと、聞いてますから」 「……。そっちも、大変じゃない?」 「辛いとは思いません。歴史が少し違うだけです。向こうの僕が役に立っていたと教えて貰っただけで十分です」 「ん、そうだよね」 どこの世界にも正史と呼ばれる歴史がある。自分たちとて歴史改変主義者たちに会わなければそんなこと考えなかっただろう。いや、刀なのだから元から享受しかできない。 向こうの歴史、こちらの歴史。異なるものではあるがそれは全くの無関係。影響し合わない線の上にいる。世祖と#名前2#がわざとこちらにお邪魔しにきただけだ。 「沖田くん…は俺らの知ってる沖田総司だけど、沖田さんっていうのはあいつらの沖田総司なんだよね。女だろうがぐだぐだしてようが、さ」 「ですね」 「三段突なんて、普通の人はやれないだろうし」 ぽたりぽたりと雫が畳に落ちていた。堀川の差し出した白布を受け取りごしごしと顔をこする。恥ずかしかった。自分の心がまるで沖田総司に囚われているようだった。もう、主に捨てられたくないのに。主の元で働くって決めたのに。 「清光さ、考えすぎなんだよ」 「や、安定!? 起きてたのかよ!」 「だってうるさいんだもん。あ、堀川。久しぶり」 「お久しぶりです。白湯でも持ってきますね」 「お願いー」 障子が閉められて二人きりになる。加州は泣いた顔を隠すように安定に背を向けた。安定はそれに何も言わなかった。 「清光が心配してるのは#名前2#さんでしょ。あの人、前の主についてはうるさいもん」 「……。世祖は、#名前2#さんに言われたらうんって言っちゃいそうだもん」 「でも、世祖がカルデアに呼ばれたとき言ってくれたじゃない。忘れたの?」 忘れてない。世祖がこんのすけに言葉を託したあの演説は。世祖としてはただ思いを伝えただけで、いつもの言葉と何ら変わりはないだろうが世祖が自ら考えて言ってくれたのは多くの刀にとって初めてのことだった。 ――カルデアには色んなサーヴァントが来るだろうから、皆様と関係のある方も来るかもしれない。その時驚くかもしれないし、辛くなるかもしれないし、その人に使われたいと思うかもしれない。でもそれを審神者は止められない。カルデアの歴史と私たちが守る歴史は違う。どちらの歴史を優先したいかは自分で選んでほしい。 膝丸や今剣たち源氏の刀はすぐにその選択が迫られた。そして世祖のもとで使われることを決めた。彼らは関わらないという選択肢を取った。 織田の刀はノッブと呼ばれる少女に絶望したような表情を見せた。向こうは構おうとこちらに近寄るが長谷部を筆頭にレイシフト先で鬼ごっこが行われた。あれは我等の信長ではないという結論に至ったと薬研から聞いた。まさかお前達が否定するなんて、と思った。向こうもそれは自覚していたのか、言い訳するように「受け入れられなかったんだ」と泣くのを我慢するような声で言われた。 沖田総司が女だというのは遠くから見ていた。それがカルデアに来て彼女の人柄に触れるようになった。記憶と重なるところ、重ならないところ。苦しくて仕方なかった。否定することは出来なかった。彼女には新選組の矜恃も、沖田総司という剣術使いのスキルも、生きていたという記憶があるのだ。それを否定することは出来なかった。生きてくれてて嬉しいと、そう思ったのだ。 「清光、僕はあの人が沖田総司として英霊としてすごく強くなってくれたら嬉しいんだ。それだけで、いいんだ」 「……。ばぁか」 「清光だってそうでしょ」 「そういう風に俺の言いたいことかっさらうのムカつく」 「清光……」 「俺だって、あの人のこと認めたいよ! でも、しょーがないじゃん! 俺たちの知ってる沖田くんじゃないもん!」 「沖田くん、カルデアの方の人だけど、あの人は僕達に会えて嬉しいって言ってくれたよ」 その言葉でダメになった。寂しさと悲しさとほんの少しの嬉しさとがまぜこぜになった。涙が止まらなかった。あの人を沖田総司と認めることは、池田屋で会った彼を沖田総司の座から引きずり下ろすようなことだと思った。それがすごく怖かった。持ち主だった沖田総司も消えて、#名前2#さんに怒られて世祖の刀でもいられなくなるんじゃないかと。そう思ってしまった。 「あの人は沖田さん。僕らが知ってるのは沖田くん。それでいいじゃない。僕らは沖田さんの刀じゃなくて、今は世祖を守るための刀だよ」 障子の向こう側で堀川と和泉守、長曽祢は話が収まったようだと刀剣たちに合図した。良かったあと胸をなでおろすのは織田の刀たちである。自分たちのせいで余計こじらせてしまったかと心配していたのだ。 何とかいい方向に結果が結ばれるみたいだとほかの刀剣たちも我慢していた酒を飲み始める。 「白湯、冷めちゃったよね。また温めてくるよ」 「すみません」 「加州くんの分もいるよね」 燭台切が厨の方に隠れていく。それを見送ってそっと宗三が呟いた。 「織田信長と認めないと言ったことですけど。あの人が1番拒否したんですよ」