刀剣男士と英霊2
【織田信長と】 第六天魔王織田信長。ぐだぐだ本能寺だとかぐだぐだ明治維新だとか色々なイベント名を打ち出しているけれど、このカルデアには彼女はいない。マスター曰く復刻の後だからということらしいが世祖も#名前2#もそういった発言はあえて深く聞かないようにしている。いないものはいない、と割り切っている。 ただ、彼女を1度手に入れられる時があった。それがデッドヒートサマーレースである。水着で戦うサーヴァントが手に入るとマスターはガチャを回していたが結果は惨敗。サポートで彼女を使うことになっていた。 「むむ? なんじゃなんじゃ、懐かしい気配がするのう!」 「俺?」 「お前……ではないな! そこの少女! そなた、わしの刀を持っているのか?」 世祖は言われてる意味が分からないと#名前2#の手を握ったが刀剣男士の反応が早かった。長谷部、宗三、薬研、不動、鶴丸、燭台切と普段よりかなり多い刀剣男士が顕現した。がんと魔力を持っていかれて世祖は危うくふらつきそうになったが#名前2#のおかげで倒れることは無かった。 「ほう。ほうほうほう。これまた多いな! えーっと、どれがどれなんじゃ? ほれ、刀の鞘を見せてみぃ」 「信長さま? あー、すいませんがコイツらは今はアンタの刀じゃないんすけど?」 織田信長はノッブでも傲慢さを持っていた。水着姿だろうがそれは変わらない。くい、と向けた手に宗三の顔がざわりと動いた。 #名前2#が割り込んだのでその顔が彼女に晒すことは無かったが不穏な空気は漂っている。 「分かっておるわ、そんなこと。じゃがのう、そやつらはわしに用があるみたいじゃから」 「……。何かあっても知りませんよ」 「うむ」 #名前2#が体をどけると刀たちは抜刀し刀身を信長に見せつけていた。使われて削られて少しずつ小さくなっている刀身。宗三の姿はまるで「これが僕です、分かりましたか」と傲慢さを押し返すかのようにも見えた。 不動や薬研のように恩を返すようにそれを見せる者。長谷部のように複雑さを隠さないもの。鶴丸のように面白がっているもの。最後に燭台切だが、彼は何の感情も浮かべないまま刀を見せていた。 「薬研藤四郎、不動行光、へし切長谷部、鶴丸国永、それにお前は長船か! なんじゃ、名前はもうもらったのか?」 「燭台切光忠、と」 「そうか。燭台切、か。へし切長谷部と似たようなものじゃな」 「似てなどいない! それに、なんだその武器は! そちらの世界の俺がそんな風に扱われるだなんて!」 「なにをぅ!? ええじゃろ、これ! かっこよくて!」 へし切長谷部は彼女に信長という存在を見出したらしい。演練で見かける「主についていく長谷部」の姿になった。世祖の本丸は普通の本丸とは形が違い過ぎるため周りから「亜種なんですか?」と聞かれることもあったが、蓋を開ければこういう話なのである。 「長谷部さん、向こうに行っちゃいますかね」 「亀甲。どうだろうなー、こっちが引き止めるわけにもいかないし」 「ふふ、彼らが向こうに行ったら本霊に報告しましょう。大丈夫です、#名前2#さんと世祖のお世話は僕がしますから」 「……。性格わっるいなあ、お前」 亀甲はにんまりと笑っていた。ライバルを蹴落とすいいチャンスとでも思っているのかもしれない。人間らしいその考え方と欲望に程よく従順な姿は#名前2#には好ましく感じられた。 「俺は何も言わない。やるかやらないかはお前が決めていい」 「やらなくても本霊に報告しちゃうかも?」 「刀同士の話に首は突っ込まない」 「いいこと聞いちゃった」 ふふ、と亀甲は笑いながら本丸に戻る。その日のレイシフトは織田組の活躍がめざましかった。 その日の夜、本丸で何が起こるか分からないと世祖、#名前2#は本丸で過ごすことになった。織田組が結論を出すかもしれないし、亀甲のように何か仕掛けてくる者もいるかもしれないとこんのすけが心配したのだ。 久々に本丸で夜を過ごす#名前2#に短刀たちがわんさかと集まってきた。話したいことがいっぱいあるんだよ、と部屋に連れていかれる。悪い気持ちはしなかった。 何かあったらすぐ連絡しろよと言い残して#名前2#は大広間から消えた。世祖はこんのすけを抱きしめて膝丸の背中に引っ付いている。今のところ彼は世祖の中で「必ず本丸にいる刀」と見られているらしかった。 つまらなそうな顔をする刀もいるが、それも仕方ない話だろうとこんのすけも思っている。最初から世祖の傍にいた刀は皆、元の主が有名なのだ。加州も、薬研も、長谷部も今剣も。あとはブラック本丸から連れてきた刀たち。世祖が信頼をおけるのは今のところ「本丸に残る。今まで通り、これからを過ごす」と宣言した膝丸なのだ。 織田信長について刀たちは話し合っていた。織田組は既にどこかに集まっていて姿が見えない。ついでに鯰尾の姿も見えないため偵察に行ってるようだ。 「あの女人が織田信長とはね…。カルデアで女人の偉人は多く見たが織田信長さえもとは」 「そうだなあ。沖田総司が女と知った時並に驚いたなあ。土方は男だったが、近藤さんはどうなるやら……」 「だが、あれはカルデアの正史だろう。こちらの織田信長とは違うのだ、あいつらは何を迷う」 「大包平、主に思い入れが強いとそうなっても仕方ない。お前も池田光政殿に恩を報いたいとは思わないか」 「主ねえ。そんなの考えたこともねえや」 「同田貫は色んな刀の複合体なんだっけ」 「おおー。でも、巴たちもそうだったよな」 「ああ。だから、もしカルデアで主と自称する者がいても困るな。巴型薙刀はこのように本丸にしか存在しない」 「それを言ったら静形薙刀も同じこと」 刀たちが好き勝手言う中で三日月はニコニコと膝丸の横で笑っていた。あえて気配を消すように座っていたのに三日月は平時と変わらないように世祖、と呼びかけて座った。美しい青い瞳が世祖を捉える。 「元の主のもとに行っても良いとは、酷な宣言であるな」 「三日月殿、それは……」 「世祖も#名前2#も俺たちのことを考えてくれているのだろう。だが、そう言われるとな。ちと、自分はいなくてもいい存在かとも思う」 「……」 膝丸も思う節があるのか何も言わなかった。世祖はじっと三日月を見つめてから口を開いた。こん、と。一言だった。ひょっこり、膝丸と世祖のあいだに挟まったこんのすけが顔を出した。 「いなくなるような刀なら、ここにいるともっと辛くなるでしょうと世祖さまはお考えです。時間遡行軍との戦いが終わった訳ではありません。今後、こちらで前の主に会った時この本丸を捨てるような行為をしたら切り捨てなければなりません」 「……主が有名なもののみそんなにも負荷をかけるのか?」 「有名な分、プレッシャーがあるというわけです。後世に名前を呼ばれない主とて、信用出来ないからこのような形なのです」 「なるほどな」 だから世祖は膝丸の元にしか行かないというわけらしい。合理的な考えだ。世祖の感情も#名前2#の考えも無視した沖野らしいやり方だ。他の刀たちに隠すような声で喋ってはいない。部屋にいたいくばくかの刀剣達にはこんのすけの喋りは聞こえていただろう。 「世祖、そなたが良いと言うのなら俺は何も言わん」 「うん」 即答。しかし声は沈んでいる。正しいことがいつも自分の最適解になるわけじゃない。それは自分も同じことだ。 「人の体とは難儀なことよな」 前の主について色々と言われることはこれが初めてではない。今回も素直に世祖のもとにいようとしたのだが、今回は燭台切がそれに待ったをかけた。 「どうしたんだよ、燭台切の旦那」 「うーん、ちょっとね。思うことがあって」 「手短にすませろよ、世祖が待っている」 「それなんだけどさ、僕らはこのまま毎回疑われるのかい」 「……。というと?」 宗三の射抜くような視線に燭台切は苦笑いで「そんな厳しい話じゃないよ」と言う。 「そろそろ世祖に僕らは世祖の刀だって思ってほしいじゃないか」 「そりゃあそうだけどよ。だけど、毎回主として認めるための儀式やってるんだぜ?」 「それでも足りないと言われてますからねえ」 「これ以上、俺たちはなにかした方がいいのか?」 鶴丸の言葉に燭台切は「それなんだよね」と指を立てた。 「いつも僕らは疑われて、主に忠誠を誓って、鎖が強くなっていた。でも、これ以上何をすればいいのか分からない。なら、しない方がいいんじゃない?」 「よく、分かりませんね」 「織田信長に過剰に反応しすぎってことだよ」 「……」 黙って聞いていた長谷部が拳を作り燭台切を殴った。燭台切の方もステゴロでは負ける気がしない。拳をつかみ、「なに、やるの?」と挑発的に笑った。 「おいおい、やめろよ」 「いいじゃないですか薬研」 「不動、お前も黙ってないでなんか言ってやれ」 「燭台切の言葉も一理あるなと思っただけだよ」 不動の言葉に長谷部の肩が動いた。それを見た薬研は鶴丸にもっとやれとアイコンタクトをする。 「織田信長を捨てられるのか、お前は」 「捨てるんじゃなくてしまうんだ。極になってからちゃんと自分のことを見直せた。織田信長様はすごい人だけど、人間の形を与えて戦わせている世祖のことだって同じくらい大切だし大好きさ。競うものじゃない。あの女人も織田信長だけど、彼女の刀は別にあるってみんな分かってるだろ? こんな会議開くだけ無駄だよ」 余計な言葉も混ざったが概ね燭台切が一言に込めた意味を説明してくれている。鶴丸がそうだよなあと肩を組んで長谷部を見やる。 腕を下ろし俯いた長谷部はさっきのような鋭さがなかった。 「長谷部くん?」 「分かってるんだ、俺だって。だが、こうも思うんだ! 俺たちのことをただの刀として見ている壊れれば新しい刀が作れると思っている世祖に、目にもの見せてやりたいと! いなくなって悲しむ世祖を見てみたいと、そう……思ってしまうんだ」 「あちゃー、こじらせてますね」 「長谷部くん、すごいね」 「旦那、酒飲むか?」 「初期からいる奴らは対応に慣れてるなあ」 本音が口を切った長谷部に薬研が酒を飲ませている。鶴丸たちもそれを皮切りに酒を飲み始めた。不動の言う通りでもあるし、長谷部の言葉も共感できる。とにかく今は二律背反の考えを酒に浸らせてしまいたかった。 次の日の朝、二日酔いの薬を配りながら燭台切は「織田信長様についてはもう触れないようね、いいね?」と一人一人確認して回った。甲斐甲斐しさの中に狂気が混じってると不動には思えたが、もはやそれは彼の構成要素になってしまっていて今更取り除くことも出来ない。 みなで世祖と膝丸の元に行き、原稿通りに言葉を読んだ。かくして織田組と呼ばれた刀は世祖の刀として在ることになった。