剣豪2
世祖はキャスターのクーフーリンと共にまたカルデアへと下りてきた。最初は戻ることも迷っていた。カルデアには#名前2#がいないことは召喚の輪から感じ取れていたからだ。だが世祖と共にある刀剣男士たちは繋げた縁を大事にする存在だ。人の世を守りたいというカルデアの声に彼等は応えようとしていた。世祖にはそんな気持ちこれっぽちもなかったが珍しくも熱に浮かされてクーフーリンの誘いに頷いたのだった。 今回は下りるのも遅かったのかカルデアには大勢のサーヴァントが戻ってきていた。と、思ったらクーフーリン曰くほとんどのサーヴァントは少しだけ座に還っただけですぐにカルデアに戻って来たらしい。生真面目にも座に戻ってそれっきりだったのは世祖と#名前2#くらいだった。 「久しぶり、世祖ちゃん」 マスターは顔つきが変わっていた。魔術礼装も変わったからだろうか。眼鏡をかけていた。似合っているかどうかは世祖には分からない。隣にいるマシュの方はいつも通りだったので安心した。マスターは挨拶もそこそこに「少しだけ他のサーヴァントを召喚できたからね」と言ってレイシフトに行ってしまった。 「よお、戻ったのか」 「あー」 反応しただけか名前を呼んだつもりか分からないが世祖がこっちを向いたとみてアーラシュは爽やかに笑った。種火周回は二人でよくこなしたものである。アーラシュの後ろには知らないサーヴァントが立っていた。世祖が見たことないだけで彼女とはキャメロットで多くのサーヴァントが会ったことがある。世祖たちがいなくなってから新しくカルデアに召還されたサーヴァントだ。 「久々のカルデアだろう? サーヴァントの部屋も少し変わったんだ、案内するぜ」 「ちょっ、ちょっと! 困ります! 私はファラオ・オジマンディアスに貴方を呼んで来いと頼まれたんですよ!?」 「ファラオの兄さんも子どもの案内を受けるとあっちゃあ遅刻も許してくれるだろ。そうだ、世祖。こっちにいるのはキャスターのニトクリスだ」 「……?」 「え、あ、えっと……。サーヴァント、キャスター、ニトクリスです」 「……」 じっと自分を見詰める瞳にニトクリスは焦ってきた。口をとがらせてファラオである私をそんなに見つめるなんて不敬ですわ、と呟いた。それでもまだ見つめる世祖にアーラシュがそっと腕で遮った。それと同時に刀剣男士も現れる。めったにカルデアに出てこない江雪左文字だった。世祖と一緒に居る時間の長いアーラシュだから気づけたことだ。ニトクリスはひぃっと驚いた声を出した。 「世祖、部屋を…見に、いきましょう」 「う」 世祖は江雪に手をとられて廊下を歩いていく。江雪はアーラシュとニトクリスに会釈するとそのまま歩いていってしまう。アーラシュはフラれちまったな!と笑っていたがニトクリスはそんなことどうでもよかった。今アーラシュが遮ってくれなかったら何をされるか分からなかった。 「今のが、宝具ですか?」 「ああ、世祖のだ」 「……聞いてはいましたが見ると大変ですね」 「まあな」 世祖の宝具についてサーヴァントに聞いてみるとこんな言葉が返ってきた。ある男は心が不安定になると表現した。ある女は本当にサーヴァント?と心配した。世祖のことを何と思うかは人それぞれだがたいていは好意的ではなかった。アーラシュにはその原因がよく分かっていたが何も言わなかった。変につつくのは世祖にとってはよくないだろうと思ってのことだった。初めて#名前2#に会った時はさらに驚いた。世祖よりも不安定な霊基だったのだ。 「って、ああ! こんなに時間が経っていました…! 早くオジマンディアス様のところに行きますよ!」 「おーう」 世祖が帰ってきたのに#名前2#が戻る気配はない。これからどうなるのか楽しみでもあり憂鬱でもあった。ほら、とニトクリスに腕を引っ張られる。世祖の背はちっぽけなものだった。 世祖はいつも通りの部屋に行き、倒れ込んだ。#名前2#のいない日々をまた過ごすことになるのだ、と実感した。#名前2#と共にレイシフトできたのはあのバビロニアでの戦いのみだ。ふわあとあくびをもらした。うとうとした気分になりこのまま眠ってしまおうかという時に叫び声が聞こえた。本来ならば駆けつけるべきだが、世祖はマスターへ持っているべき感情も分からなかった。行くか行かないか考えていたらそのまま眠りについてしまったのだ。その夢で見えたのは必ず起きる未来だった。久々のことに驚いたが世祖はマスターのもとへと走っていくのだった。 マスターはレイシフトから帰ってきて自室に戻ったところで眠りについてしまったらしい。バイタル値はほとんどが安定しているというが世祖が触って確認した方が安全である。こめかみに親指をあててその意識の奥底にもぐりこんだ。さっき見た夢と同じ舞台にマスターがいる。それだけ確認して世祖は指を離した。マスターの安否確認をされても世祖には頷くのみで細かいことは何も言わなかった。 夢でどこかへ行ってしまったらしいマスターに世祖はついていきたいと願った。思念素体だけを夢に送るのだ。周りは焦ったようなサーヴァントたちばかりだったがダ・ヴィンチは分かったよ、と力強く言った。ダ・ヴィンチはいつものように刀剣男士を宝具として展開できないことを考えて念のために世祖に刀を二振り選びさせ抜き身を抱いて寝かせた。他のサーヴァントたちも行きたいと願ったが世祖は心だけを夢に向かわせて無事に帰れる保証はないと伝えた。審神者のように霊力でもってコントロールするならばいいが、サーヴァントは魔力で行動する。この差は大きかった。 準備が出来たところで世祖はマスターの隣に横たわると目を閉じた。#名前2#に会いたい、とその一心だった。体が浮いたような感覚がする。そのまま我慢して待っているとふわり、と風を感じた。背中が布団の柔らかさではなく草のチクチクとしたそれに代わっている。ぱちりと目を開く。起き上がるとそこは刀剣男士が向かっていた世界とよく似た場所だった。 「世祖、大丈夫?」 乱が声をかける。選んだ刀の一振り目だ。頷いて刀剣男士を呼ぼうとしてみた。出てこない。首を振ると「ダメだったか……。でも僕が頑張るからね!」と笑いかけた。 「起きたんだね、君たち」 「大般若さん!」 「少し外を見て回って来たよ。ここは江戸時代辺りだろうねえ。場所は上総国かなあ、土気城があるっていうし」 「仕事早いなあ」 「夜になったら俺は使い物にならないからね。今ここで働いておこうと思って」 にやっと笑った彼は仮面の向こうの瞳に戦いの高揚を映し出していた。乱はそれに気づいたけれど何も言わなかった。世祖はきょろきょろと目を動かす。普段から電波などを見ている世祖は何もない自然をそのまま受け入れることになって驚きばかりだった。しゃがみこみもう一度寝ころぶ。青空は青空だった。本丸にあるよくわからないものでも、コナンたちといたあの空でも、時臣たちといたあの空でもない。真っ青で白い雲が見えてただそれだけの空だ。初めて見た。横を見てみるとしゃがみこんだ乱の足が見えた。#名前2#に今すぐその空の美しさを教えなければ、と思った。そのためにはマスターに会うのが早い。どうせ#名前2#もマスターのもとに寄ってくるのだから。マスターの方はすぐに気づけた。彼の魔術礼装の気配がちゃんと感じ取れたのだ。 世祖が大般若と乱を選んだのに大きな理由があるわけではない。極の短刀を一振り選ぶのにたまたま近くにいた乱にした。世祖も動くのが大変なので太刀を選んだ。座にいた時アマデウスのもとでピアノを聞いていたので仮面を思いだし大般若を連れてきた。大般若の背中に乗りマスターのもとへ急ぐ。夜になる前には再会したかった。 「ま、待ってください! 世祖殿!」 「あ、忘れてた」 乱は振り向いて「おーい、ここだよー!」と声をかけている。世祖は後ろを振り向いてあの男の子は誰だろう、なんて考えていた。赤い髪の毛の彼の名前は風魔小太郎。アサシンのサーヴァントである。 村正は俺に庵の奥に隠れてろ、と言い残して外へ出ていってしまった。おぬいと田助が帰ってきた雰囲気だったのになあと思いながらのそのそと玄関に近寄る。がたん、と音がしておぬいと田助が家に入ってきた。田助が泣いてしまっている。おぬいも悲しそうな顔だ。慌てて布団を引っ張り出してきて二人をくるんだ。ぐっと嫌な気配が漂ってきている。おぬいと田助を奥に座らせて障子の隙間からそっと覗き込むとそこにいたのは見覚えのある、しかし確実に成長を感じ取れる青年と見知った程度のサーヴァント……いや、あれは人間だ。まだ座に行っていない人間だ。彼らがわちゃわちゃしてると思ったらさっきのどす黒い雰囲気を全身にたぎらせたサーヴァントがいた。どうなるんだろうか、と心配して見ていたが女剣士はめちゃくちゃに強かった。彼女はこの世界の千子村正を担ぎ敵を倒してしまったのだ。敵対していた坊主はサーヴァントのはずだ。一体どういうことだろうか。サーヴァントと互角に戦える彼女も不思議であるし、村正に気づかないマスターにも不思議さを感じていた。 庵に入ってきたさっきの二人を確認して俺はようやく顔を見せた。マスターがうわああっと声をあげた。ここに召還されてたの?と泣きながら聞くマスターに#名前2#は「ごめん、そっちに行けなくて」と素直に謝った。ぐすぐすと声を漏らしながらなんとかマスターは「帰ってきてくれてよかったぁ」と笑う。 「世祖はもうそっちに?」 「うん、ついこの前に。そうそう、あの後新しく契約もできたんだ」 「へぇー、そりゃすごい!」 #名前2#の声に立夏は涙が出てきそうになった。#名前2#に褒められるのは久々だった。世祖を褒めるときと同じくらいに手を叩き喜んでくれる。おぬいも楽しそうに手を叩いた。立夏は頭をかきながら「まだまだですけどね」と笑う。それでも嬉しそうな表情を隠せていなかった。 「貴方とは…初対面よね、名前を聞いても?」 「#名前1##名前2#だ、よろしく」 「私は武蔵ちゃんって呼んでくれると嬉しいな」 お互いに本名を明かすつもりはないようだ。村正は顔をしかめていたが何も言わなかった。マスターはおぬいたちに「けいやくってなあに?」と聞かれている。ふと外を見ると一晩明けたらしく小鳥たちのさえずりが聞こえてきた。武蔵の腹の虫が鳴る。おぬいと村正とに見つめられて仕方なく飯の用意をすることにした。マスターも手伝うと言ってくれたが目の奥に見える疲れや動かしにくそうな体を見て休んでろと押し返す。 食事の準備をしている中で武蔵は刀を見てとてつもないほどに褒めていた。こちらの世界の明神切村正であるが、刀匠の村正はそのまま武蔵にくれてやると言う。刀匠というものを初めて見たが恐ろしいほどの境地に自分を追い込んで刀を鍛えていると見える。刀剣男士からしたら素晴らしく審神者に似合う男だと言うだろう。自分は絶対にそんな人間にはなりたくないが。極めすぎると人は人ではなくなる。マスターの方を見ると首をかしげてながらコチラを見ていた。はっとした顔でそっと村正を見てもう一度俺を見る。 「#名前2#さん、あの刀って……」 「うん、そう。俺たちが言うところの妖刀ってやつだ」 まあその刀剣男士の刀ではないけれど。あの変な笑い方を思いだしたのかマスターはううん、と顔をしかめた。村正と武蔵の方もようやくサーヴァントの話を打ち明かしている。平行世界の存在はとても面白い。こんな不可思議な出会いがあるのだ。そして武蔵という女も。この世界にはまた別の宮本武蔵がいるかもしれないことを忘れてないだろう。でなければあんな名乗りをするはずがない。まあ、こちらの名乗りは一身上の都合と我儘と入り乱れておかしなことになっているわけだが。 「ほら、飯ができたぞ」 「#名前2#さん、おいしそうね」 「おぬいはいいこだねー」 頭をなでてやると田助もきゃっきゃきゃっきゃと笑う。田助のためのかゆを椀に入れて預かった。おぬいは田助に食べさせていると自分が食べるのもおろそかになってしまうのだ。腕に抱えながら自分の分も食べる。世祖よりもよっぽど動かないので正直楽ちんだった。 「上手ね、食べさせるの」 「普段はもっと面倒なやつと食事してるからな」 「世祖ちゃん!」 「話聞く限り本当にいるかそんなやつ、と思ってたが」 村正は深くうなずくマスターを見て「いるんだろうな」と言葉をつづけた。 「世祖ちゃんかあ、私も会ってみたいなあ…!」 「…うん、まあ会えると思うけど。どこかで」 カルデアとか言う名前の場所でならずっと生活することもできるしという言葉は飲み込んだ。先に食べ終えた村正たちは鍛冶場に行くというのでこちらは食器洗いと野菜を見に畑へ行くことにした。井戸から水をくみ上げて田助の足にちょろちょろとかけてやる。ひやっこい感触にきゃぁと高い声をあげた。すごく可愛い。それしか言えない。世祖と一緒に居るとやっぱり理解できないことも「どうしてこんな目に」と辛く思うこともある。一時的に離れてみるということが大事なのだろう。鍛冶場ではきっと村正が話をつけているだろう。おぬいは時たま心配そうに向こうを見ていた。 「おぬい、大丈夫。あの侍たちはちゃんと守ってくれるよ」 「うん、でも……」 おぬいは俺を見ていた。その目は昔の小学生たちと被った。この子が聞きたいのは向こうの話ではなく、俺のことか。腑に落ちた表情を浮かべてしまったらしい。おぬいは慌てて「ご、ごめんなさい」と謝った。 「おぬい、ありがとう。心配してくれて」 「……#名前2#さん、行っちゃうんでしょ?」 「そうだなぁ、待ってくれてるやつらがいるからな」 「世祖ちゃん以外にも?」 「うん」 「そっかぁ」 へにょりと笑ったおぬいに田助が手を伸ばす。姉が傷ついたことに気づけたようだ。持ち上げてやると小さな手をほっぺたに寄り添わせてニコニコとしている。泣き笑いでおぬいはぷちゅっと田助のつるりとした頭に口づけた。 「#名前2#さん、おぬいちゃん、田助くん!」 「はいはーい! そら、行こうか」 手を繋ぎ庵に向かう。畑仕事で汚れた服をさっと洗い準備をした。陸奥はやっぱり何も言わないままで少し寂しいが仕方ない。これからどうするのか聞くと土気城の城下町へと急ぐらしい。近隣の里は全部壊滅している今はマスターたちと動いた方がいいだろう。村正はここに残ると言うが俺の方はおぬいたちを心配してこっちに来ることにした。 武蔵に世祖のことを質問されながら道を行く。世祖は審神者なので夢をつなげることもできるはずだが、ここは特異点かそうでないかも分からない。世祖はあまり仕事できないかもしれなかった。ふと暗雲たちこめてくる。おぬいと田助を後ろに控えて武蔵が戦いに出た。猪だが普通のモノとは違う雰囲気だ。もののけ姫で見たような怒りに燃える猪だ。 「いざ、参る」 俺は初めて宮本武蔵の剣筋を見た。その勢いの良さと清らかさ、どれをとっても一流であると思えるのに「強さ」という面では彼女はまだためらっているようだった。突き進むこと、頂上へ行くことに彼女は怖がっていた。