ふたりのマーリン

 マーリンをカルデアに呼べるかもしれない、と言わらたらしい。マスターは最近来たばかりの水着を着た武蔵を自分の部屋に連れてきていた。いや、今は武蔵ではなく宮本伊織だったか。マーリンというサーヴァントがあの白くて強いサーヴァントなのは分かっていたし、もしかしたら来てくれるのかなあぐらいの気持ちだったがなんとなく、そうこのラスベガスならそんな奇跡があるのではないかという気持ちに襲われたのだ。 「なあ伊織」 「ん? なあに?」 「ちょっとさ。マスターの部屋でこれ見ててくれないか?」 「キングスマン?」 「そ、スパイの映画」 「スパイ? かっこいいわねえ! カーミラさんみたいにカード投げたりするの?」  スパイと怪盗は違うものだよ、と返事をして説明するのも面倒だった。カードは投げないけど傘から銃弾が飛び出すよ、と言うとゲラゲラ笑った。 「アーチャー実装ねそしたら!」 「まあ、お目当てはそれじゃないんだけど」 「え? 何か言った?」 「ううん、なんでもない」 「あ、ねえ。#名前2#くん」  ぎくり。帰ろうとしたところを掴まれた。絶対、10割の確率で彼女はきらめく笑顔をしている。バーサーカーらしく何事も自分のフィールドに持っていく、という顔をしている気がする。 「私、マスターに部屋で大人しく待っててって言われたの」 「うす……」 「だから、それを破らせるんだしぃ、何か貰ってもいいと思うのよねぇ」  めちゃくちゃずるい言い分だが、夏と水着とで浮かれて遊ぶ自分も悪いのは悪い。#名前2#は少し考えて「マスターに見つかったら俺のせいってことにしていいから」と伊織の腕を振り払った。  ラスベガスだからといって特に何をするでもなかったが、陸奥たちが気を利かせて三日月と一緒に行動させてくれた。しなやかに伸びた体は俺よりも大きくて強そうだ。それが1番気にしているのか三日月はせっかくの水着だというのに、パーカーを着て縮こまったようにしていた。 「三日月、お待たせ」 「うむ。良いのか、あれで」 「まあ、ただのお遊びだし。それよりもホテルに行こうぜ。アナスタシアがアイスショー開くって言ってた」 「う、うむ」  手を繋ぐのすらもなんだか気恥しいが夏にやられているのだ。それぐらい許して欲しい。手を繋いでいるだけなのに手汗がひどい。暑さもあるし緊張してるのもある。三日月の方を見るといつもの白い美しさを捨てて、血色の良すぎる顔で俺を見ていた。 「どうした」 「ううん、三日月がいるなって」  「はは、それはこっちのセリフだ」  何度も交わした言葉でも、何度でも言いたくなる。諦めたはずの熱量を消さずにいてよかった。歩きながら三日月がふと、足を止めた。 「三日月?」 「#名前2#、見てくれ」  そこに居たのはこの暑さにだれてしまったアスクレピオスだった。あの異聞帯から初めての摩訶不思議体験で本人は心もやられてしまったらしかった。 「お、おい、大丈夫か」 「あ? ああ、平気だ」 「いや、そうは見えないし。誰か人でも呼ぼうか」 「いらないと言ってるだろ! 全く、誰もが浮かれやがって熱中症対策も適当になってる!」 「ま、まあまあ。それであんたが倒れたら意味が無いしさ。これからアイスショー行くんだけどそっちに一緒に来ないか? うちの薬研と救護所でもこしらえてもらうと助かるよ」 「………」  アスクレピオスは小声で「お前らみたいなのが1番見たくない」と言っていたが仕方なく着いてきてくれた。流石に手は離すかと思ったがアスクレピオスはイライラしたように「繋いでおけばいいだろ!」という。日本人だし恥ずかしさというのもあったが、アスクレピオスの怒ってる姿が怖いのでまともに繋いだ。 「#名前2#さん、みかづき、おかえりなさい」 「今剣、薬研と世祖呼んできてくれ。救護所作らせる」 「はーい、ばびゅーんといってきますね!」  今剣はひょいっと上に飛び上がったと思ったらすぐにいなくなった。ホテルの部屋でぐだぐだとだれている世祖とどこかのカジノへ繰り出した薬研を探しに行ったのだ。 「お帰りなさい、三日月さん、#名前2#さん。飲み物は?」 「いや、いいよ。ていうか、その格好なに?」  燭台切は照れたように「似合うかな?」と聞いてくる。ぶんぶんと縦に振ると安心しきった顔で「よかった」と笑った。 「アナスタシアさんのアイスショーを手伝うことになったんだ」 「さすが伊達男」 「恥ずかしいよ」 「何でだよ、自慢の刀だって言えるよ」  三日月も一緒に頷いた。「光忠にお似合いだ」  アスクレピオスはげんなりという調子で大倶利伽羅から水を受け取ると普段の食べる具合からは考えられないくらいのスピードで飲み干した。ぶはっと一息ついたところで#名前2#たちを睨み「こんなところでイチャイチャするな」とのたまった。  大倶利伽羅と燭台切が手伝ったアイスショーは物凄い声援だった。水着になったメルトリリスが途中で割り込んでくるというアクシデントがあったが、想像していたアイスショーとは全く違ったもので珍しく彼女の間抜けな顔を見た。アナスタシアのような高貴な女性が法被を着て雄叫びをあげながら氷を削り出していたとあれば彼女としても唖然とするほかなかっただろう。彼女が持っていたのはギャインギャインと厳つい音を出すビーバーである。なぜビーバーであんなに繊細な作業ができるのか#名前2#にも分からない。ただ、撒き散らされる氷が熱く火照った体にはちょうど良い。そうやって楽しんでいた#名前2#は武蔵こと伊織に何を頼んだのかすっかり忘れていたのだった。 「あー楽しかった。今度やる時は俺達も参加しようか」 「どうやって参加するのだ? 氷の彫刻などはいくら俺たちでもやったことがないぞ?」 「かき氷配るとか」 「ふふ、かき氷! ラスベガスに来てまでか!」 「うぐっ。そう言われると庶民臭いか」  どうやって自分らしく遊ぼうかなあと考えていたら部屋の扉をがんがんと叩かれた。高級ホテルなだけあってか、もしくは誰かの結界か。声がこちらに届かない。三日月に目をやると既に刀に手を当てていた。 「はいはい、どうしましたかー」  落ち着いた声を出して扉を開くとわっとマスターとマシュが転がり込んできた。 「#名前2#さんでしょ、犯人!!!」 「は!? 何が!?」 「マーリン!!!」 「お、来たのか? おめでとう、これでうちのバスター宝具たちが楽になるな」 「違うよそっちじゃなくて!! 真面目で優しい間マーリンの方!!!」  言いたいことは分かるがそれだと普段からカルデアで世話になってたあの魔術師は真面目じゃないし優しくもない方になるがいいのだろうか。 「……なぜ、こんなことに」  あせあせと水着を着た女性とTシャツを着た男性がお世話をしてくれる。そしてコソコソと「あのマーリン?」「みたいですな」「#名前2#くんかな?」「絶対それしかないでござるよ~~。魔術師のマーリン殿ほっぽり出してこれでござるよ?」「あの人めちゃくちゃすごい人なのに今ぽかんとしてるもんね……」と話しているのが聞こえてくる。あそこで死んだ後何が起きたのか自分はあの時と同じ姿でよく分からないラスベガスに来ていた。 「#名前2#さんこっち!」  先程叫びながらころげ出ていった少年の声が聞こえる。バタバタと聞こえてくる足音はさっきの倍。2人新しく連れてきたらしい。未だにキングスマンにいた時のように神経が尖っていることに喜べばいいのか、悲しめばいいのか。死んだ後にこんな力を実践で使っても意味が無いのに。  部屋に入ってきた少年と、これまたラフなアロハシャツを着た青年が2人入ってきた。後ろには少年と一緒にいた水着の少女もいる。 「うわ、本物だ。マークだ。ていうか、あの時の姿じゃん! 無理、俺死にそう!」 「マークというかマーリンというか」 「うんうん、ママーリンな」  自分のことを言っているのだな、とすぐにわかった。ママーリンという不名誉な名前に眉を顰めると「うわー、本当のマーリンだ!」とワイワイ騒ぎ出した。 「え、あ、魔術師のマーリンもいる」 「うん、来たよ!」 「ちょっと君たち! 私の扱いがいやに軽くないかい!?」 「まあ、いつか来る魔術師よりも冗談でも召喚出来たマーリンに喜んじゃうよな」 「わかる」 「マスターも#名前2#さんも流石にその発言はどうかと……」 「名前を決めなくて良いのか? 俺の時のように訳分からなくなるぞ?」  青い髪の毛の美丈夫がそんなことを言う。そうだそうだ、と先程から世話を焼いてくれた 「魔術師の方はマーリン? シスベシフォーウ?」 「いや、普通にマーリンでいいよ。彼の方をマークにしようよ」 「まあ分かりやすいかもな」  口を挟む隙間もなく私の名前は新しく「マーク」になり、アロハシャツの青年にニコニコと迎え入れられた。 「よろしく、マーク」  その笑顔があの候補生と被る。きっと彼よりも年下のはずなのに。 「よろしく、頼む」  自然とそんな言葉が出てしまっていた。