Aチームとバーサーカー

「芥さん、落としましたよ」  ひょいっと彼女の本から滑り落ちたものを彼女よりも先に拾った。芥はいつも通りの無表情で「失礼」と受け取りまた歩いていってしまう。ブックカバーがつけられていたので彼女が何を読んでいるのか全く知らなかったがさっきの栞はどうやら手作りのもののようだった。  ぬるりと影の中から刀剣男士が現れる。闇夜に紛れていたのは骨喰藤四郎だった。 「#名前2#さん、ダ・ヴィンチが呼んでいた」 「お、りょうかーい」  カルデアには生きたサーヴァントが2人いる。ダ・ヴィンチと世祖プラス#名前2#だ。沖野さんのサーヴァント化計画は世祖と#名前2#を共に英霊として認めさせようというもので面白がったギルガメッシュが力を貸してくれた。存在のあやふやな#名前2#は訳の分からないまま世祖と共に召喚されるキャラクターに変わった。  カルデアは人理修復を目的とする組織である。同じように歴史を守ったことが共鳴したのか、世祖と#名前2#は召喚を果たした。カルデアは魔術師としての才能がある7人を専属のマスターとしてサーヴァントを1基召喚させようと目論んでいた。そのうちの一人が芥ヒナコだった。彼女は一目見て「これは危ないタイプだ」と#名前2#でも分かった。人間を見つめ評価し馬鹿にしている。沖野のように真意を見せないが真意を暴くタイプだ、と。世祖の方は人間じゃないことにも気づいていた。この女(ひと)は仲間もいなくて擬態してなければ生きていけないのだとそんなふうに思っていた。世祖には憐れむという考えがなかった。事実として認めているだけでそれ以上の干渉は持たなかった。 「やあ、バーサーカーちゃん」 「よお男女」 「全く……この私の完璧な姿を前にそんな口をきくなんて君だけだよ」 「理想の女を求めるのは分かるがそれを体現したら自分じゃ楽しめないだろ」 「全く、芸術ってのが分からない人だね」  いつもの様に睨み合ってダ・ヴィンチは本題に入った。Aチームのマスターたちと共にレイシフトするようにマスター適正のある魔術師をここに連れてくるんだそうだ。 「ほら、君のところの宝具は自律型だし統制も取れているだろう? 人型なのも好ましいしね。魔術師たちの世話係をお願いしたいんだけど」 「やれないことは無いが殺さないって確証はないぞ?」 「まあAチームのスペアだからね。基本的には1人2人消えたところでーーと言いたいけれど流石にそうもいかないよ。全員保護、誰も殺すな傷つけるな」 「おお偽悪主義はやめたのか」  なんとでも言ってくれ、とダ・ヴィンチは肩を竦めた。#名前2#は俺は世祖と本丸に戻るから何かあったら電話してくれと笑った。管制室から出ると待っていたらしい芥ヒナコがいた。 「芥さん、どうしたんですか」 「………。いいえ、ちょっとね」  芥は#名前2#をじっと見つめた。まるで何かを探るような視線だった。対する#名前2#はにっこりと微笑んでいる。 「ねえ、スペアの世話係するんですって?」  芥は楽しげに聞いた。いつもの彼女からは程遠い邪悪な笑みだった。一拍置いて「もう耳に入れられたんですか?」と#名前2#が尋ねる。 「私、耳がいいのよ。ねえ、そのスペアを殺してって言ったらあなたどうするの?」 「どう、とは」 「やるの? やらないの?」 「命令されていませんので何とも」 「あら、命令されればやるのかしら」  #名前2#は微笑んだままだ。芥は#名前2#をじっと見つめたが何も言わずに背を向けた。そのまま歩いていってしまう彼女に#名前2#は「暴君の末路は貴方がよく知ってるでしょうに」と笑った。 「やだ、ヒナコをいじめないであげて。あの子、あれで繊細なのよ?」 「ぺぺさん、いやあ私としては仲良くしたいんですが」  白々しい言葉にペペは「全く」と笑った。 「でもさっきの話は面白かったわ、そう…スペアたちの世話係。バーサーカーちゃんにそんなのが務まるとは思えないんだけど」 「宝具は自律型ですから、仕事はできますよ」 「でも、その宝具ってマスターとサーヴァントと同じ関係なんでしょう? バーサーカーちゃんが殺せって命じたら、殺せちゃう」  ふふっとペペは笑った。#名前2#もそうですね、と頷いた。 「貴方たちは今、世祖のマスター側にいます。命じることもできますよ」 「私はバーサーカーを召喚する役目じゃないもの、命令なんかしないわよ。……そんな罠にかかっても、アホらしいじゃない?」 「何のことでしょうか」 「白々しい言い方ねえ。ヒナコも気づいてたみたいだけど、だからってアレはないわよ」  #名前2#は首をかしげてなんの話しでしょうか?ともう一度聞く。ペペは呆れたようなため息をついて背を向けた。#名前2#はようやく本丸に行ける、と骨喰を連れて影をくぐった。  本丸にはふとした時に入れる。異界は古来から下にあるものという考えがあり、何かをくぐった拍子に本丸へと体が向かうのだった。  自室に戻り陸奥を刀掛けに置く。清めの酒を振りかけて「お疲れ様でした」と笑った。刀剣達を集めてマスター候補の世話係を決めることにした。打刀と脇差から選ぶと言われたがマスター候補の人数が多すぎて打刀と脇差だけでは足りそうになかった。どうしようか、と加州が尋ねる。答えはわかり切っていたが念の為聞いたのだ。#名前2#は 「んー、まあいいんじゃない?」 と笑って食事の準備しようぜと歩いていく。彼は本当に気狂いになってしまった。しかしそれを諌めるものも正そうとするものもいなかった。結局のところ#名前2#は審神者ではないからと刀剣たちは逃げ道を作っていた。なんなら、また三日月が殺すだろうとも。#名前2#はあはっと笑うだけだった。  山伏国広は目の前に座っている女性になんと声をかけようか迷っていた。 「バーサーカーはどうしたの?」  向こうから声をかけてくれた。山伏は安心して「拙僧は少し野暮用でこちらに来たのだ」と話す。 「……ふうん?」 「申し訳ないのだがもうすぐあなたの苦手な#名前2#が来るぞ」  山伏の言葉にオフェリアはかっと顔を赤くさせた。山伏の方を睨み何かぶつけようかと思ったがその眼差しに何も言えなかった。ありがとう、と言って部屋を出ていく。それから少しして#名前2#が部屋の中に入ってきた。 「山伏、お疲れ様!」  挨拶する姿はまともだった。彼が気狂いだなんて全く気づけないくらいに。山伏は#名前2#を哀れんでいたがそれを伝えることは無い。彼の選択に全て任せようと、そう思うくらいにはこの男に情を傾けていた。だからと言って何の被害もない人が可哀想な目にあうのも好きではない。だからオフェリアは逃がしてやった。 「今日も仕事するかー!!」  #名前2#はニコニコと笑いながらプログラムを組んでいく。サーヴァントのために用意されたシミュレーションにバグがないか調査するのだ。 「さっき、オフェリアさんに会ったよ」 「……そうか」 「山伏、お前……」 「#名前2#殿、始まるぞ」 「…ん」  山伏はただオフェリアを逃がしてやっただけだ。これは救いではなかった。反省すべきだな、と思いながらもその心の裏にあったのは今この状況を作る下心ではないかと思う自分をがいる。そんな馬鹿な、と笑って小さく蹲り情を囁く己を殺した。