舞台の上にいるあの子
俺がハウスマスターになったのは一日で広まっていたのか、歩いているだけで生徒たちにつかまりそうになる。逃げるように学園内を移動していたら「ま、まって……」とか細い声が聞こえてきた。振り返るとスケボーでがらがらと俺を追いかけるハーツラビュル寮の男がいた。 「す、すまん。とりあえずスケボーから下りてくれ、俺が怒られる」 「はぁー、ようやくつかまった。逃げ足早いね、先生。足ひきずってるのに」 「いや、それは誉め言葉じゃないからな?」 「スケボーくらい見逃してくれませんーー?」 「ダメ、って言いたいところだけど。仕方ない。それで、何の用事だ?」 「ハーツラビュルでおなじみ、なにもない日のパーティをやるから申請しまーす」 「ああ、そろそろか。……昨日、トラッポラが食べたのって……」 「トラッポラってエース君のこと? そうそう、トレイの作ってたタルト食べちゃったんだよねえ」 「腹減ってたんだからそういうこともあるだろ」 「オレたちの寮ではそれもいけないしねえ」 とりあえず申請します、と紙を差し出された。承認のサインをするとダイヤモンドは「はーあーー」とこれみよがしなため息をついた。 「何も聞かないぞー」 「俺たちの寮にもハウスマスターの先生ほしーなー」 「オンボロ寮に決まったからなー」 ほら、早く戻れ、と背中をたたくとダイヤモンドはあわてて教室に戻った。さて、なんでもない日のパーティーには困ったらここに頼めと呼ばれている店の準備をさせないといけない。購買部にはいつも何でもそろっているが、その時々に必要なものを追加させるのはこっちで指示したほうが金を無駄にしなくて済む。ルールに厳しいローズハートが寮長になってからはこの店に突撃する生徒も少なくない。 「おっと、#名前1#先生。また仕入れですか?」 「ああ……。困ったときのために、な」 「相変わらず細かいですねぇ。なんでしたっけ。ニーズ、ですっけ? しっかり見られてるんですねえ」 「毎年こんなことしてて、生徒に泣かれて寮変えたいですって言われるよりもマシだからなあ」 「まわりまわって、自分のためってことですか」 「そうじゃなかったらこんな面倒なことしない」 サムはひひっと笑うとメモ帳を受け取った。いつものことながら、この店の品物はアホほどよくそろっているなあと色々見てしまう。教師割引してくれるものもあるらしいが、今のところは「安い!」と実感したことはない。 「そろそろお昼だね。先生、一緒にどうだい?」 「ああ……そっか。行くかあ」 サムはお昼休みという看板をかけて店の中から出てきた。ひょい、と横に並んで俺の腕をとる。 「こうしてた方が楽でしょ、先生」 「……そりゃどうも」 19世紀じゃないんだから、と思いながらも楽になったので運んでもらう。食堂に来るとハーツラビュルの生徒とグリムが何かやらかしていた。 「おや、ハウスマスター。出番じゃないのかい」 「げぇーっ。アイツら、俺の言うこときかねえぞ」 「不良生徒たちにはそれなりに人気あるだろ、君。ほら」 サムにぽん、と背中を押される。杖も手にしていなかったのでそのまま無様にこけるところだった。 「先生、危ないんだけど」 「お前がやらかしそうなことの方が危なかったっての……」 「えーー、いやー、ごめんって。ねね、先生。今回もまた店開いてる?」 「サムに頼んである」 「やーったぁ」 腕にひっついてきた生徒を別のところに連れていくため、ユウたちの顔は見れなかったが後ろでグリムが「むむーー」と大声で言っていた。 「先生と一緒に食べたい。いいっしょ?」 「はいはい、パスタのびるぞ。席座っていいから」 サムのところに戻るとニヤニヤした顔で座っている。 「危なかったねえ、君たちのとこの寮長厳しい人だからなあ。別の寮の子らと騒いだってあったら首をはねろって言われてるところだよ」 「ちょっとからかっただけじゃないすか」 「ローズハートの頭に"ちょっと"があったら聞いてみたいものだな」 「#名前1#先生、辛辣……」 「普通だろ」 ユウたちの方を見るとクローバーとダイヤモンドも混ざって会話している。横のつながりも大事だが、寮内の先輩と会話するのも大切だ。 「先生ってあれでしょ、オンボロ寮のハウスマスターでしょ。いいよなあ、あいつら」 「仕事が増えて俺は死にそうなんだがな」 げらげらと笑っていた生徒たちはサムにあとでまた行くわーーーとダラけた声を出しながらも次の授業の準備をしに行った。バルガスの授業と言っていたからホウキを取りに行くのだろう。もしくは、寮のルールに合わせて立ち上がったのか。俺にはよくわからない。 俺は自分の御飯も食べ終わっていない。あいつら、話すだけ話して行っちまった。 「#名前1#先生、相変わらず人気者だねえ」 「これが人気者かよ」 俺の言葉にサムは笑っただけだった。サムは俺の杖をもって遊んでいたが、俺たちのテーブルに向かってコツコツと音を鳴らせて歩いてくるやつがいると言うと目を凝らして「あちゃーー」と表情を浮かべた。 「リドル坊やが怒ってるね。僕も行かなきゃ」 「どうせ砂糖だろう? ここに置いてあるのを持っていけばいい」 「ひゅう。さすが#名前1#先生」 「むしろ、あの子には誰かから物を借りてもいいんだってことを覚えてほしいんだけどなあ」