エンジェルなんて柄じゃない
#名前2#が入学した時、生徒たちには騒がしい人もおらず自分はどこか異世界にでも飛ばされたのかと思った。田舎から来たので魔法士についてもなんとなくの知識しかない。さすがにグレートセブンだけは知っているけれど、教師に誰がいるかなんて知らなかった。 全寮制の学校はいくつかあるけれどここ、ナイトレイブンカレッジとロイヤルソードアカデミーとが有名なふたつだった。#名前2#は本当はロイヤルソードアカデミーに行きたかったのだけれど、何の因果かこちらの学校に来たのだ。知っている人はどこにもいない。どの寮に配属されるかも分からない。前途多難そうな入学式だった。 寮分けは鏡によって決められる。そういえば村の中で一緒に話していたお姉さんは「組み分け帽子」の話をしていた。 「ここはしゃべる帽子じゃなくて、しゃべる鏡なんだなあ」 #名前2#は鏡の前に立つと両手を広げる。仮面を浮かび上がらせた鏡は#名前2#を見て「ポムフィオーレ」と口を動かした。世界で一番美しくあろうとした女王を讃える寮である。#名前2#は美しくもない自分を見て「えっっ。俺大丈夫かな……」と心配してしまった。 最初の席に戻ると隣にいた少年がニマニマと笑っている。小柄で可愛らしい顔をしている少年だ。どう見ても#名前2#より年下だった。飛び級が許されていると聞いているからそのタイプなのかもしれない。 少年は豊かでたっぷりとある髪の毛を三つ編みにして腰まで垂らしていた。生まれてから1度も髪の毛を切ってないのだろうか。それにしては美しい髪の毛だ。彼は笑っているもののどこか食えない微笑みをしていた。 「カーム・ギフトだ。同じポムフィオーレになった」 「よ、よろしく。カーム」 「#名前1#だって? 古い貴族の家系なんだね」 「……」 貴族? #名前2#の家はただの靴屋である。曖昧に笑うとカームは「今はもう没落してるよね」と笑った。 「ああ、ごめん。うちも没落したんだ。下ってくだって今のうちはただの小間物屋さ」 小間物屋とはまた古い表現を使う男だ。#名前2#は不思議に思いながらも「そうだったのか。よかった、うちだけじゃなさそうだな」と笑った。寮長らしき男がこちらを睨んでいる。うるさい、と思っているのだろう。そろそろ黙ろう、とカームの脇腹をつつくと「やべえ」と口を噤んだ。そしてどん、と#名前2#の座る椅子を蹴った。 「えっ」 #名前2#は椅子に揺られてそのまま倒れてしまう。カームはニマニマ笑って倒れている#名前2#を見ている。「おい、新入生!」と叫ばれているが#名前2#はそんなことよりカームという男がよく分からず、ずっとカームを見つめるしかなかった。 寮に入るとまるで貴族たちが集まっています、というような家具がある。ここに来る人には貴族なのか?というくらいに聞こえてくる会話がポンコツだった。茶の入れ方も知らないらしい。 「よく来たな、小人たち」 「寮長!」 「私が寮長のエーベン・ホルツだ。お前たちにはポムフィオーレ寮の寮生としてマナーと美しさを卒業までに備えてもらう。自分たちの美しさを各自見つけるのだ」 簡単じゃないか、と呟いた人が誰かいた。#名前2#は工場で培った耳の良さから呟いた声もよく聞こえた。しかし誰が話していたかまでは分からない。カームではないことだけは分かった。 「そこのお前。今、『簡単だ』と言ったな?」 「えっ、あの、その寮長……」 「お前のような男は見かけの美しさに騙される。人の美しさは美貌と共にその心を磨くのだ。そうあることもできない者はさっさと寮を変えてもらう」 「いいいい、いえ! そんな事はありませんから!!!」 同じ1年生というだけだが、こんなに威圧感たっぷりに叱られたら困っているのかもしれないと思うと助ける気持ちも出てくる。1歩前に出ようとした#名前2#をカームが足で止めた。 「おいおい、寮長の言ってることは最もじゃないか」 「でも可哀想だろう?」 「可哀想じゃないよ。あれは自業自得。可哀想って言うのは君みたいに俺に騙される人を言うんだよ」 さっきのあれはやっぱりカームがわざとやったのだ。怒った?とカームは笑うが#名前2#にはなんの気持ちもなかった。 「いや、別に」 カームはつまらないなあ、と唇をとがらせる。寮長はまだ話をしている。説教が終わったのはそれから10分もした後だった。寮長が準備させたらしいコックたちが温め直したものをテーブルに用意する。座りなさい、と命令を受けてそれぞれ名札が用意されている席に座った。#名前2#の横ではないがカームは向かい側の席に座った。 カームは小声で「うわぁ、コース料理かぁ」と呟く。#名前2#は村の女にテーブルマナーは教わっていた。といっても、正しいことと綺麗なことは違う。#名前2#は「人を不快にさせない」レベルでのテーブルマナーしか知らない。 「テーブルマナーの基礎を確認するぞ」 寮長のホルツの声が掛かる。カームはあからさまにほっとした表情で主人の席に座るカームを見ていた。まるで家畜と飼い主のような光景だった。