猫背をみつめる瞳

 めでたいことにサムの店にリクエストボックスが設置された。というのも、寮生活じゃ娯楽が少ないよなあとカームに愚痴ったら「分かります」とルークも頷いたのだ。ポムフィオーレ寮だけでもいいから改善が欲しい。目安箱的に投下するような、意見を言ってみるか、と立ち上がったらホルツ先輩が既に話は聞いていたよ、とスマホを見せてくれた。 「僕の知り合いにだけ……でも、この程度の人数が集まれば無視できないと思うよ」 「…ホルツ先輩すごっ」 「ありがとう」  この人はなんでもお見通しなんじゃないかと、たまに思う。あと行動がやけにアグレッシブすぎる。ポムフィオーレ寮というともっと美しさ、華やかさが売りらしく周りが「ホルツ先輩ってちょっとズレてるよな」と言っていたのを聞いた。俺はホルツ先輩が好きな方なのでそんなこと言ったやつの背中には「カームの悪口を言った」という証をつけてやったがそれはまた別の話。  ホルツ先輩の人脈のおかげでサムの店にはリクエストボックスが作られた。もちろんそれを買ったらどんなことが出来るのかとい先を見通した「結果」も記入しなければならない。そういうところは厳しいのだ。  談話室でカームの実家から送られてきたマジカルチェスで遊んでいたらぴらりと紙が前に出てきた。一瞬の隙をついてカームが剣で俺のナイトを殺した。あぁっ!!という悲鳴もカームは無視する。紙を見せてきたルークは俺たちのチェスなど気にもとめないようだった。 「ということで、いかがでしょう先輩」 「んー?」 「リクエストをサムの店に送ってみませんか」 「はあ~~??」  なんで俺たちが……と思ったが談話室でガリガリとペン先を走らせていたヴィルが肩を震わせたので納得した。つまり、あれか。俺たちがリクエストした中で自分も一緒に出したかったということだろうか。何も言わずにヴィルを見て首を傾げる。ルークが満面の笑みで頷いた。 「んー、分かった。後輩の頼みなら仕方ない」  何か適当にやばそうなものを詰め込んでおけばヴィルも満足するだろう。底辺を知れば普通のものはより綺麗に見えるという方法だ。そう思ってプリントに書いていたらヴィルがコツコツとローファーの音を立てて近づいてきた。 「べ、別にアタシが頼んでいる訳ではありませんからね!」 「え……あ、うん。そうだな?」 「……」  ヴィルはなんというか、すごく不器用である。ルークは「頑張ったねヴィル」と声をかけているがこのままでは人に話が伝わらないということも覚えた方がいい。さっきまで書いていたペニス型ワッフルメーカーは削除して本のタイトルを書き入れた。これを買うことで得られる経済効果。………俺の後輩が少しだけ真面目になるかもしれない、と。よし。  そんな会話をしていたのがつい昨日のこと。そして今日。リクエストボックスにいれた本がちゃんとサムの店に入っていた。 「#名前2#先輩、あれって」 「ごめん、わざとじゃない。いや、絶対入らないだろうなって思ったんだよ……」  ヴィルが頼んだのは映画ボックスだったけれどそこに一緒に俺がリクエストで出した「好きな人に素直になる方法」の本を買っている。  墓穴ほったなー、と笑うとルークは「そりゃあ好きな人に関連することなら仕方ないですよ」と彼の方も笑っていた。その好きな人っていうのはタイトルのことであってくれ、と心の中で祈った。