お星さまの復讐

 #名前2#の家は祖父の頃から藤の花の家だった。自分たちの食事が貧相になっても必ず彼らには綺麗な米と味噌汁と焼き魚や天ぷらなどが出るものだから男は昔は「きさつたい」はぬらりひょんの仲間で勝手に家に来ては食事をする化け物だと思っていた。  「きさつたい」という言葉が「鬼殺隊」という意味だと知ったのはそれから随分もあとのことだった。  俺はいつの間にか死んだ家族をなんとか葬った。墓穴にがらがらと入れられる骨を見ながら訳もなく寂しくなってこの世界を恨んだ。  最初は祖父母のもとにいたのだが、彼らもすぐに死んでしまい、俺は住職に養われて育った。きさつたいの言葉は覚えていてもその漢字などを覚えているような教養のある家ではなかった。住職もきさつたいが何かわからず、俺はいつかその名前を忘れていた。  ある日、一人の盲目の男が「きさつたい」と名乗ってやってきた。 「申し訳ない。我々の力不足で、惜しい人たちを亡くしてしまった」  鬼殺隊の漢字をその時初めて教わった。鬼殺隊の人達は頑張っていたらしい。それはもう、死ぬことを厭わずに。俺はそれを尊敬すべきだし、褒めるべきだし、感謝するべきなのだろうけど。それでも、俺の家族は殺された。俺だけ1人、友人の家に遊びに行っていたから。俺は、生き残った。なぜ姉が鬼になったのだろうか。姉は鬼のように怒る人だったけど決して鬼ではなかったのに。  俺はゆっくりと顔を上げると「ありがとうございます、漢字を教えてくれて」と礼を言った。それが礼儀だと思った。俺の倒すべきものは鬼なのか、鬼殺隊なのか分からないけれど。ただまあ、どちらも救うことを目指して生きようと思った。俺を育ててくれた住職に顔向け出来なくなってしまう。  そうして俺は何の因果か新興宗教の教祖となった。自分で言っててよく分からないが、そうなのである。教祖なんて誰かに押し上げられてなるものだ。来た人たちの話を聞いて悩みを解決するために一緒に考えてただそれだけで俺は金を貰って生きていた。変な人生だった。だが、鬼殺隊の人達に金も食料も奪われていた昔よりはこの生活の方が安心できた。  仏教の中でも地蔵菩薩を信仰する俺たちの宗教はとにかく祈ることである。祈れば、世界は変わる。  俺もそれなりに人を集めてる方だけど、今はなにか別の人もいるらしいとこの時代になって初めて聞いた。その名も一心浄土教。絶対に昔の人の考えた名前だと思う。教祖の名前は#名前1##名前2#というらしい。俺と同じくらいの歳の男。興味があった。面白いやつなら鬼にしてやろうかなって。自分のところに連れてきてもいいけど、なんか信者たちが対立してるらしいからこっそりと隠れて行ってみた。宵闇に紛れて移動するのは簡単だ。人間は愚鈍だから俺がここに来るのにも気づかない。  障子の向こうにいた男は信者よりも愚鈍だった。男は目が見えないらしかった。 「……あんた、誰だろう。うちの信者でもないし、手伝いでもないなあ」 「まあねえ。敵情視察ってやつだよ」 「てきじょうしさつ……。そうか、よく分からないが大変だったな。茶でも食ってくか」 「食うくう~」  男には学がなかった。それどころか、常識を知らない男だった。男と女がまぐわえば子が産まれるとか、そういうことを全く知らなかったのだ。 「そうか、女が腹をふくらませているのはそういう理由だったのか」 「そうだよ………。本当に何も知らないんだねぇ」 「ああ、知らなかった」  #名前2#のその穏やかな笑みがなぜか焼き付いた。  次の日の夜も遊びに行った。#名前2#は俺が来ても何も言わなかった。ただ相手をしてくれる。時たま、桃や菓子を分けてくれた。俺も自分の場所では食べられるのになぜか#名前2#にもらった方がおいしかった。もはや俺と彼とは夜にだけ会える友達と同じだ。そう、思っていたのに。  無惨様に呼ばれていていつもの時間に行けなかったとき、#名前2#の部屋には知らない女がいた。誰か分からなかったけれど、彼女の首を落とした。#名前2#のそばにいるのが気に食わなかった。 「……あかね? どうしたんだい?」 「#名前2#。俺だよ、ごめんね、遅くなっちゃった」 「……。おい、お前。あかねはどうした」 「ねえ、そんな女なんてどうでもいいじゃない。せっかく友達が来たのにひどいよ」 「とも、だち……。まさか、お前、俺の、友達だと思ってたのか」 「え?」 「あかねには、俺を守ってもらうことになってたんだ。きさつたいを助ける側じゃない。俺は、助けてもらう側に、なれたのに……」 「ねえ、#名前2#」 「おまえが……」  慌てて#名前2#の口をふさいだ。手にかじりつこうとする#名前2#。絶対に、普段の、俺なら殺しているはずなのに。なんでこんなにも心が高ぶっているんだろう。 「ねえ、ねえ、#名前2#! もしかして、これが恋ってやつかなあ!」