君がくれた感情を握りしめた
#名前2#がやけにおいしそうにそれを食べるので自分も食べたくなった。ゴーストパンプキンのスープは味のくせが強いのだ。でも#名前2#はおしそうにスプーンですくって食べていた。同じものを頼んで食べてみた。普通のパンプキンの味かと思うと強烈な後味が襲い掛かってくる。どうしても美味しいとは思えなかった。 「なんや、#名前2#だけなんかなあ。変やなあ」 それでも金を払ったのだから我慢して食べることにした。遠い席に座る#名前2#はやっぱりおいしそうにすすっている。パンをちぎりスープにひたし、大きな口でぱくり。やっぱりおいしそうに見えていた。 「#名前2#ーー! って、お前……またその悪夢のスープ飲んでるのか…」 「うまいじゃん」 「お前、味覚がなんかおかしいんじゃってたまに思うわ…。よかったな、お母様の舌がしっかり仕事されてるみたいで」 「……」 「あ、ごめん」 あの友人の…名前はなんだったか。あの悪魔、#名前2#が母親の話をされるのが世界で一番嫌いであることはわかってるのだろうか。わかってやっているとしたらむしろ褒められるべきだろう。 怒った?という友人の悪魔に#名前2#は「怒ってるわけねえじゃん」とほほ笑んだ。その顔がいつか自分に向けられたら、と思う。もしそんなことがあったら恥ずかしくて死ぬかもしれない。#名前2#のあきれるような微笑みだなんて。 「なあ、課題やってきた?」 「……えぇ? そんなのあったか」 「あれっ。珍しい、お前もしかして忘れたの!? #名前2#が忘れるなんて珍しいな」 「いや……やった、と思うんだけど家に忘れたかもしれない」 「あー、ドンマイ。カルエゴ先生厳しいからな」 「容赦なくマイナスポイントが付くんだろうな……。最悪だ…」 そのつらそうな顔がすごくかわいい。正面の顔が見られるように席をとってよかった。手前に座る悪魔の後頭部が邪魔をするけどあんまり近づくのは僕の心臓がもたない。 「途中まででもいいからやっとこうと思う」 「お、行くのか」 「マイナスは減らす作戦……」 今から気落ちしそうな姿で食堂を出ていく#名前2#を見て僕も何かやってあげられたらいいのになあって思った。でも、#名前2#くんはハイランクだから一緒にいると絶対に好かれないだろうなって思う。 キリヲは自分のことを客観的に見てよく考えられる。#名前2#と自分には大きな差があるし、絶対に好きとは言ってもらえない。でもキリヲは#名前2#の隣にいたいし好きだよって言ってほしいのだった。好きな人の幸せを願って自分は身を引こうだとか、身分違いだからあきらめようとかはキリヲの頭の中にはない。ランク付けをしているせいで#名前2#に近づけないのなら、ランク付けをする社会が壊れてしまえばいいのだ。そう思いながらスープを必死に飲み込んだ。胃がひっくり返りそうなほどつらかった。 ある日の体育の授業で珍しく#名前2#が休みをとっていた。僕も同じく休んでいたけれど(走っていたら体力的についていけず吐血して倒れたというのが正しい。)、#名前2#が待っているのは珍しかった。ほてった体を冷やすための凍らせたタオルを#名前2#が持ってきてくれたのだ。僕は一瞬何を見ているのか分からなかった。 「はいよ」 「……。あっ、うん、ありがとうね」 「いいって。いつもしんどそうにしてるもんなあ、お前」 #名前2#に見られていたのかと思うとこれまでのことも恥ずかしくなるというものだ。別の意味でもほてってしまった体を必死にタオルで覆い隠した。#名前2#は僕のそんな様子を見てかもう何も言わなかった。横に座るのは、初めてじゃなかった。でも、緊張して何をしゃべればいいか分からなかった。手汗がじんわりとにじんでくる。いつもはこんなことないのに。そっと#名前2#の方をタオルの隙間から見てみた。彼は空をぼーっと見ていた。クラスメートたちがうるさくワーキャー叫んでいるのに、#名前2#くんの耳には届いてないみたいだった。彼の周りだけどこか別の世界にあるみたいだった。 「どうしたの、俺のこと見つめて」 僕は話しかけられたことにビックリして声も出なかった。あう、と口が回らなくなる。#名前2#くんはゆっくりとこっちを見た。ニンマリと笑って「やらしいなあ」という。 「や、やらし!? う、そんな風に見とりましたか? なんや、恥ずかしいなあ」 「お前の方が恥ずかしがるの? 変な奴だな……。……俺の後ろになにか着いてる?」 「なーんも! なんも着いとらんよぉ!」 「そっか。それならよかった」 #名前2#は喉の奥でくくっと笑って僕の方に手を伸ばす。 「お前のところには葉っぱくっついてるなあ」 肩についていただけの小さな小さな葉っぱが手に取られてふうっと息を吹きかけられている。風にちょこっとだけ乗って空を飛んだ葉っぱにも僕は嫉妬心を持っていた。 「なあ、名前……なんだっけ。ごめん、俺、覚えるの苦手でさあ」 いつもは友達に助けてもらってんだよねぇ、と#名前2#がばつが悪そうに笑ってる。ああ、あの男にも価値があるのかとそんなことを遠くの中で思った。 「アミィ」 「え?」 「キリヲやで」 「キリヲ。そっか、キリヲ。面白い名前だな、OK,ちゃんと覚えた」 #名前2#は明るく僕のファーストネームを呼ぶ。家とか関係なく、僕のことを知ってほしかった。#名前2#のこの顔が苦しむ顔はとてもみたいのに、見たら最後、彼のことを好きだと思う僕の気持ちは紛い物なんじゃないかと心配だった。でも、今この瞬間、#名前2#が僕の名前を呼んでくれた瞬間、僕の顔はとてつもなく熱くなってた。嬉しいって気持ちと恥ずかしいって気持ちとでいっぱいになった。 「キリヲ、大丈夫か。顔真っ赤だぞ。日差しにあたりすぎたのか?」 「ううん。大丈夫や。やから……ちょっと離れて」 そうか……と#名前2#が離れていく。あー、ほんとこの人の見せる表情全部見たくなってしまうなんて。こんな自分でも恋ができるとは。本当に感情ってよくわからない。