きらきら星のうらっかわ
きみ、#名前2#って人はいるかい? ひいっと声が漏れた。恐ろしい。彼はいつもキラキラしてて綺麗な目を鋭くいかりあげてこちらを見ているが向こうに僕は見えないはずだ。クラスメイトは見渡して「いないんじゃない」と答える。彼はちらりと廊下を見て「ありがとうね」と一言言い残し出ていった。力を解く。僕の姿がみんなに見えるようになる。あれ、いたのと言われて笑っておいた。物心着いた時にはこの力は備わっていて僕はいつでも好きな時に皆から忘れ去られることができた。僕はそこにいるけどそれに気づけなくなると言うのが正しいか。その力は僕はあまり使い道がない能力だと思っていたけれどこんな風に使えるなら話は別だった。 「疲れた……」 カバンから教材を取り出した。そろそろ1時限目が始まる時間だった。 #名前2#・#名前1#はスタンド使いだった。彼には自覚はなかったが世間ではそれをスタンドと呼んでいた。その能力は単純で彼は好きな時に皆から忘れ去られるというものだった。彼はそのせいで昨日遊んだ友達から忘れられたり母親に置いてけぼりにされたりと色々と悲しいこともあったが運がないなあと思うだけで能力だと思ったことがなかった。そんな彼に1人の日本人が話しかけたのだった。日本人の名前は山岸由花子と言った。どうやら彼氏がイタリアにいると聞いて追いかけてきたらしいのだ。案内しろ、と言うので#名前2#はホテルへ案内してやった。2人の感動の再会を見てさあ帰ろうと言う時に少年は「あっ!」と声を上げた。 「君、スタンド使いなの?」 「え? なに? スタンド?」 「……。君、今まで何か不思議な体験をしたことはない?」 「ああ、あるある。へえ、占い師か何かなの?」 「いや、違う。えっとね」 「康一くん。話が長引くならカフェかどこか行きましょうよ」 「ならいい所知ってるよ、案内する」 #名前2#は康一と由花子というカップルを連れて歩き出した。康一は#名前2#の項にスタンドがくっついてることを話した。#名前2#の体験を聞いてきっとそれはスタンド能力で、人の記憶から自分を消し去ることが出来るんだよと教えてくれた。どうやら二人ともスタンド使いらしく、康一は物を重くさせる。由花子は髪の毛を操れるらしかった。 「へー」 #名前2#は項をさすってみた。何も感じない。変だなあと思いながらあとは2人で過ごしなよと由花子の視線から逃げるように立ち去った。 #名前2#は人の記憶から消え去ることが出来るものだからそれまでに色んなことをしてきた。どうせこれも向こうの記憶から消えるだろうと思っていたが、不運などではなく超能力とは思ってもみなかった。#名前2#は自分の家に人を匿っていた。彼のことを#名前2#は覚えていたが向こうからは自分の記憶はないだろうと思っていた。彼は何かヘマを起こして自分たちを置いて逃げたのだ。#名前2#が覚えてる限り、その時初めてスタンド能力というものを使った。父親を追いかける追っ手から逃れるために、母と自分を守るためにスタンド能力を使ったと思う。その時に彼からも記憶が消えたらしく今でも自分は彼にとっては見知らぬ優しい男だった。 家に帰ると父親と共に誰かいた。それは#名前2#の元同級生で汐華初流乃という日本人とどこかのハーフだった。彼自身も自分がどこのハーフなのか分かってないと聞いてきっと彼も自分と同じ境遇なんじゃないかと思って1人で浮ついた気持ちになっていた。今思うととても恥ずかしいタイプだがスタンド能力で人から忘れ去られることに慣れすぎていて自分が変だと気づくのも遅かった。 「汐華……?」 「……今の僕の名前はジョルノだよ。ジョルノ・ジョバァーナ」 「ジョバーナ?」 「ジョバァーナ」 僕に発音をきつく教えて汐華……じゃなくジョバァーナは父さんを親指で指した。ジョバァーナの質問に僕はちょっと躊躇った。人に指摘されると何だか些細なことと思っていたことが急に重くなって自分にのしかかるのだ。 「この人は君となんの関係もないのに匿っていたの?」 「……うん、まあね」 「あのさ、学校行かなくなった僕についてなにか噂は聞いてる?」 「ううん。えっと、ごめん。何かあった?」 「ああいや、聞いてないならいいんだ。僕はこの人を探してたってそれだけだよ」 ジョバァーナはそう言うとどこから取り出したのか大量の花を見せた。父さんはそれを見て嬉しそうに笑う。そして父さんはぽっきり、と花を手折った。それと同時に父さんが死んだのが分かった。呆気ない最期だった。 「この人と約束をしていたんだ。死ぬ時には僕が看取ると」 僕は悲しくはなかった。向こうには僕の記憶はないわけだし僕らをめんどくさい事情に押しやったのも向こうだ。なぜジョバァーナと名乗る昔のクラスメイトが僕の家にいて彼を看取るのかも分からないがそれもどうでもよかった。僕は今ひとりになったのだ。気づいたらスタンド能力を使っていた。僕はその場から立ち去った。ギャングの仲間に会いたかった。そこだけは確かな僕の居場所だった。 ギャングの中でも下っ端は上に金を取られてしまうものだ。というか、そのイメージがあったのだが今はそういうことは取り締まりがされているらしい。おかげで僕みたいな弱っちいやつも十分生きていけるようになった。D地区と呼ばれているここのリーダーは上の上のミスタさんという幹部にお世話になったことがあるらしく、彼に頼まれると何も言えないのだった。ミスタは家族のいなくなった僕がギャングの世界に足を踏み入れることを肯定しなくともいたいだけ入ればいいと言ってくれた。ミスタは普段は金にゆるく酒に弱く女を集めるタイプという人らしいが、彼の昔の上司のことをよく話し仲間については篤い人となりだそうだ。兄貴分を買ってでてくれたターナーは僕を家に置いておくことを許しても学校へ行かないことを許してはくれなかった。 「お前よォ、いい加減学校にはいけよ」 「………うん」 そんなわけで僕は学校へ行き始めた。何とか卒業くらいは目指したい、とそんな気持ちがあった。ターナーから言われて口座を確認したら訳もわからない大金が入っていた。僕は怖かったがターナーに言われたし、とその金で学費を払った。 その頃からだろうか。僕の行く先にあのジョバァーナがいるようになった。僕はそれを知る度にスタンド能力を使い逃げた。逃げた。何度も逃げていたらだんだんと彼は手段を選ばなくなった。さっきのように学校にたまに来ては女の子たちに挨拶をしてクラスメイトたちに僕について聞くようになった。僕はそれでも逃げていた。彼がギャングに入ったとか、パッショーネのボスだとかそんなことを聞いたのだ。パッショーネと言えば僕が父について入ったギャングだった。そんなところで縁は繋がって欲しくない。僕はターナーにお願いしようかとも思ったが結局この世界は上からの命令に従うものだし、とプライベートに来ている今だけは逃げ続けようと思っていた。しかし彼はボスだというのに幹部のミスタさんを使うこともうちのリーダーに圧力をかけることもなかった。とても不思議なことだった。不思議すぎて僕は最大の陣地の守りを怠った。 「#名前2#、おかえりなさい」 「……」 ターナーに言われて自分の家の解約をしようとした時、家賃は既に何ヶ月先の分も払われていると言われたのだ。怖い、と思った。口座に支払われたあの謎の金もだ。急に湧いてでてきた金が父親の遺産と思えるはずがない。あの金は、僕に対する何かの忠告だとかきっとそういうものだったのだ。 「全く酷いよなあ。僕は君のことを君のお父さんから言われて護っていたのに君は僕から逃げるばかりじゃないか」 彼はそう言いながらパスタをつまんだ、ちゅるり、と吸い上げる。うん、美味しいと微笑んだ彼は僕と同い年にしては明るく美しかった。僕は自分の陰鬱さが彼によって引き立てられていると思ってしまう。ジョバァーナは僕を見てまるで恋人といるかのように笑った。 「ねえ、#名前2#。ジョルノだ。僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ」 「分かってる」 「分かってない」 「……」 ジョルノ、だよ。ジョバァーナは繰り返した。その瞳はさっきまでの熱を消して黒い何かに包まれた。それでも彼は美しかった。彼は正義も悪も全て飲み込んだのだろうか。だからそんな表情を浮かべるのだろうか。僕が昔憧れたものに彼がなっているから僕はこんなにも憂鬱になるのだろうか。もしくは、彼と僕との差に絶望を感じているのだろうか。 「ジョルノ」 乾いた声だった。僕は自分がどんな顔をしているか気になった。さっきからスタンド能力を使っているはずなのに彼は僕を見て熱をたたえた目でうっとりと笑っているのだ。 「#名前2#」 短い愛の言葉に僕は殺されそうだった。