硝子の小指に結んだリボン

 タコの魚人に対して#名前2#というオスは優しかった。彼は興味のあるものに真っ直ぐなタイプでその時はタコに寄っていた。自分よりも幼いものに「かっこいい」「大好き」「また遊ぼうね」と声をかけられるのは幼い頃の大きく育った自尊心をくすぐった。 「いいでしょう、ただし勉強はしっかりしてくださいよ」 「はーい!」  #名前2#が大きな声で返事をするのでアズールは余計に彼に色々と声をかけてやりたくなる。何か嫌なことがされていないか、と過保護に聞いてしまうが#名前2#はアズールよりも友達が沢山いて、周りの彼らからするとあのアズール・アーシェングロットに懐いてるコイツやべえ、と不本意なことになっていた。  アズールは一時期、ほいほいと宿題さえも代行しそうになったときは思いとどまった。宿題をやらないと遊んでもらえないという意識は#名前2#の母親にも喜ばれた。アーシェングロットくんのおかげでうちの#名前2#も学校では、と褒められる度にアズールは気を良くしてアズールの母も嬉しそうにそれを聞いていた。  #名前2#の興味はタコに対しての意識が強い。特にタコがタコを食べるのってどういう気持ち?という内面さえも聞いてくるのだ。さすがにそれはやめろ、と怒ったが#名前2#はなぜ悪いのかということが分からないまま「分かった」と頷いた。#名前2#の性格の悪さに繋がらないと良いのだが、と親のようなことを思いながらアズールは大切に大切に#名前2#を育てていた。  そんな彼をあの双子が見過ごすはずもなく。アズールが少し、親の仕事について出かけている間に彼らは#名前2#と接触していた。自分よりも2歳年下。アズールの性格の悪さも知らず、真っ直ぐと「アズールはすごいんだぞ!」と話す#名前2#を見て双子たちは「自分だってすごいし」という対抗心を持ってしまった。  ジェイドとフロイドはとにかく#名前2#に自分たちがどれほどすごい魔法が使えるかということを話してみた。しかし#名前2#は「アズールが前にみせてくれたよ! アズールはね、ぐわーって、火花がいっぱい出た!」とアズールの話ばかりをする。そうやって対抗心を抱いていてもアズールの方が魔法が上手いのは事実だった。かといってユニーク魔法は中々見せられるものでもない。2人とも自分のユニーク魔法はまだコントロールが効かなかった。そのうちフロイドはイライラしはじめて「あんなタコのどこがいいのさ!」と叫んでいた。 「タコはかっこいい!!!」  #名前2#はぶん、とフロイドにつかみかかった。フロイドはそのまま海底にべちゃり、と倒れた。フロイドが泣き出すのと同時に#名前2#も泣き始めた。ジェイドもどうすればいいか分からず泣き始め、最終的にはなぜか#名前2#が「自分よりも年上なのに泣き続けてる」ことに驚いて泣き止んだ。アズールは泣いたりしなかった。少なくとも#名前2#の前では泣いているのを見たことがない。泣くというのは#名前2#は意識したことがない。 「ごめんね、ふたりとも」  よしよし、と頭を撫でる#名前2#に双子はきょとんとした顔になった。フロイドはそのまま「ねえ、もっと撫でてよ」とぐいぐい頭を押し付ける。うわぁ、とまた倒れそうになったジェイドが慌てて支えにはいった。自分よりも小さな体がすっぽりと腕の中に収まる。後ろに回ったせいで気づいたがここにいると頭を撫でて貰えない。 「ぼ、僕もいますから」  ジェイドはおずおずと#名前2#の肩に顔をのせた。フロイドはけたけた笑ったが#名前2#は「助けてくれてありがとうございます~」と片手でジェイドの手を握る。そうじゃない、と思ったがフロイドが「ずりぃジェイド!」と言ったので少しだけ溜飲が下がった。二人は「アズールよりもかっこいいと言わせる」と約束してその日は解散になった。  翌朝、アズールが#名前2#の家に1番に駆け込み「あの双子に何されたんですか!!」と叫び、純粋に育てすぎた#名前2#が「喧嘩して泣かれて俺も泣いたー」と言い、謎を残したのは別の話である。 「そんなこともありましたね」 「あったねえ」 「よく覚えています」  3人は海から送られてきたバブルレターを見ながらそんなことを呟いた。泡に浮かぶ文字が少しづつ消えていく。新しい文字は「俺はNRCに行けるか分かんないけど魔法は今も練習してるよ! 今度、戻ったら俺の練習またやってね!」というものだった。絶対NRCに入学させてみせる、先輩後輩の関係からさらに一歩踏み込ませてやる、という強い意志のもとアズールたちは返事を出した。  大丈夫、必ず#名前2#はナイトレイブンカレッジに入学する。そしたら、きっとオクタヴィネル寮に配属されるだろう。昔のようなあのキラキラした瞳を向けて朗らかな熱を与えてくれるあの男を自分のものにしてやる。三人の気持ちは#名前2#が来た途端に敵意に変わるものだが、今だけはつるんでやろうという冷静さも持ち合わせていた。