余りある夢だとか未来だとか

 朝起きて#名前2#がいないことに慌てた。ばたばたとスウェットとサンダルを履いて部屋を出ると部屋に戻ろうとしていたところなのかパーカーとマグカップを持った#名前2#がいた。 「おはようシルバー」 「……。おはよう」  #名前2#の挨拶にはどうしても返してしまう自分が憎たらしい。ベッドに俺を置いていくな、と言いたいのに#名前2#の顔を見るとそれを言う気持ちも失せてしまった。とぼとぼと部屋に戻るシルバーはそこが#名前2#の部屋であるというにも関わらず勝手知ったるなんとやらで自分の制服をハンガーから取ってきた。 「お前が居なくて焦った」 「スウェット(汗をかいた)?」  冗談めかして笑う#名前2#にシルバーは着替えたスウェットを投げつける。ぼふんとぶつかったそれに#名前2#ははははと笑いながら頭の上に乗せてずずずっとホットミルクを飲んだ。寝る前ではなく朝起きてから飲むそれは#名前2#曰く健康のためのものらしい。シャツに着替えたシルバーは下を下着のままにしてのそのそとベッドの上を這っていく。自分の投げたスウェットを横に放り投げて#名前2#を背中から抱きついた。 「おはようのハグかあ」 「そうだな」  甘ったるい会話をしているがこの二人はまだ付き合っていなかった。#名前2#は眠れないシルバーのために自分の部屋に招いているだけ。特にセクシャルなこともブルーなこともしていないシルバーたちはさっさと服を着替えると談話室に向かった。同級生たちが待っている。  #名前2#とシルバーはまだ付き合わないのか、と少年は思った。思っただけで口にすることはなかった。音を鳴らしながらウィダーインゼリーを飲む彼の視線の先にはルーティンで出されている朝食のプレートを楽しそうに選ぶ先輩たちの姿があった。#名前2#とシルバーがもし人という存在ではなくて、なにか、それこそドラゴンのような長命な生き物だったとしたらどうだろうか。ほぼ変わらないお互いを見てあんなに楽しそうにしていられるのか。イメージしてみると絶対にするだろうな、と思った。それこそ、毎朝お互いを見るたびにこんなに素敵な人が世の中にはいるのだ、とかそんな甘ったるい気持ちに浸るのだろう。うへえ、と思いながらもウィダーインゼリーを飲む動きは止まらなかった。 「マックス。いやマキシム。そんなしかめ面をするんじゃない、これをあげるから食べなさい」  親知らずを抜いたばかりの少年のほっぺたはとんでもなく腫れていた。それを見たディアソムニア寮で自称一番面倒見のいいリリアは少年をせっせと甲斐甲斐しく世話をするようになった。今日もまた二人への視線を遮って体を割り込ませてきた。少年はめんどくさいなあ、と思いながらも副寮長にもらったヨーグルトを口に含む。オレンジが入っていた。いつも少年に口うるさいセベクは今日はいない。リリアにそんなことをさせるなんて、と言うのはあともう一人シルバーがいるのだが、彼は少年に声をかけるよりも前に#名前2#からものを食べさせてもらう戯れの中にいた。恋人のいない自分たちにはできな、いや、恥ずかしくてやってられないだろう。恋人になってもできなさそうなことを、この二人はやっているのだ。素面で。よく分からない。  少年は単純な思考回路をしている、と自分でも思っている。ほらと渡されたスプーンに食いつきながら#名前2#とシルバーがなぜ恋人にならないかを考えていた。  カリムは#名前2#のいなくなったシルバーがうとうとしているのを見ると慌てて起こす。シルバーは起きない。#名前2#はいつも一発で起こすのに。ジャミルとの衝突があってから、カリムは少しだけ自分のやることについて考えるようになった。クラスメートが寝ている場合、どうすればいいのか。そんなの簡単だ。起こしてやればいい。でもこんなに揺すっても引っ張っても起きないなんて。 「も、もしかして……病気か?」  カリムは慌ててスマホを検索する。ナルコプレシーという病気があるらしい。困った。もし友達がそんな病気にかかっているとしたら自分はどうすればいいのだろう。 「ん、んん………#名前2#、まってくれ……」  シルバーの寝言なんて久々に聞いた。迷った末にカリムは#名前2#に連絡を入れた。シルバーのことならあいつだろう、と思った。  カリムからのテクストを見ながら「カリムくんてば、また何か暴走してるね~」と#名前2#が笑う。それを聞いたクラスメートのザルクがのそのそと近寄ってきた。 「カリムがどうかしたの」 「いや、何も無いよ。強いて言うならシルバーがやらかしたことを取り違えてる感じ」 「なんだ」  ザルクはつまらないなあ、と机に不貞寝する。休憩時間だからこそ許されているものの既にトレイン先生が準備をしている中でその素振りは少しまずい。ザルクの面倒はシュヌーレに任せるのがいい。と、彼は今日は日直だった。通りで今日はいつにも増して倒れているわけだ。 「#名前2#はまだシルバーと付き合ったりしないの?」 「ん? うーん。そうだなあ、付き合うとか付き合わないとか、そういうんじゃないんだよなあ」 「ふーん?」 「一緒にいることが当たり前すぎてね、いちいち名前をつけるのが面倒になった」  それを聞いていたザルクは顔をぽかんとさせて「そんなんで人生楽しめてる?」と聞いてくる。本気で心配しているような声に#名前2#は吹き出した。 「俺さあ、性格悪いから。俺のことずっと考えてもやもやしてるようなシルバーが好きだよ」  最低じゃん、とザルクは自分から聞いたことなのに減らず口を叩いた。シルバーも厄介な男に好かれたねえとザルクが言う。#名前2#はお前がそれを言うなよ、と笑った。