あなたは常に前にいる

 うちの太郎太刀はちょっとばかし他の太郎と違うところがある。性格は、そんなに変わってない。次郎太刀のよき兄で、現世に自分のような大きな刀を扱える人間がいないことに寂しさを感じて、お酒が好きな刀だ。見た目も、そうだな……たまに俺が髪の毛いじったりするけどそんなに変わらない。着物じゃなくてたまに俺の服を着せたりするけどそれもまた可愛い。 そんな可愛い太郎太刀は何を思ってるのかたまに変なものに嫉妬して燃やす。燃やす。尽く燃やす。俺が元カノと交換したぬいぐるみも、現世での懐かしいアルバムも、何となしに買ったAVも全てだ。つらい。太郎太刀はその度に「私がいるのだからいりませんでしょう」と言う。そして今回もそれが発動した。 「ああああ、俺のマンガ!!」 「おなごが裸に似た形になっていたので」 「それは! そのマンガ独特の表現なの!! 200年も前のマンガでもうほとんど売ってないのにぃいい!!」 俺の悲痛な叫びも何のその。太郎太刀はつーんとした顔で焼き芋だと思われるアルミホイルをぽいぽい詰め込んで小夜と秋田に「後でおすそ分けしますね」と笑いかけている。腹立つわ……俺の食レイプマンガが……。 その夜、俺は腹が立ってたし気も立ってた。そんな俺を太郎太刀は何を思うのかいつも布団に誘う。俺が素面の時はあんまりしないくせに。なんか、そういう所も腹が立つ。仕置き、仕置きとか言いながら乗り気な自分はあれだ。太郎太刀に毒されすぎてる。 内番服の上から首に噛み付くと、太郎太刀は「ァンっ」とやらしい声をあげながら俺の体をまさぐってくる。広くて滑らかになり始めた手だ。抱いてた最初の頃はまだマメなんかが多かったのに、最近じゃレベルもカンストして遠征ばかりだからかすべった手になってきた。正直マメのある手の方が好きなのだが、太郎太刀が俺のためにケアを欠かさないでしてることを知ってるからなあ。何も言えん。 唇が上に向かっていくと、太郎太刀が身をよじらせた。内番服が簡単に肌けるのは何のマジックなんだか。キスをしながら服を脱がせると太郎太刀のだ液が一段と多くなる。何を期待しているんだ、と笑うと太郎太刀は熟れたように赤くなった顔で「主の種をいただきたく」と呟いた。コイツ、俺のツボを絶対に分かってて言ってるよな。 「んだよ、トロトロじゃねーか」 主の声が少し遠くに聞こえる。踵でぎゅむぎゅむと陰茎が押し込められる度に先走りがぐちゅぐちゅと濡れた音を出させた。そちらに気を取られると主がぺちりと自分のそれで私の顔を叩きなさる。仕置きと称しながら褒美でしないそれを私は甘受してパクリと口に含んだ。大きすぎるそれは口には入り切らなくて、入れられなかった部分は優しく撫でると主は怒ったような声を出す。あんまり焦らされるのはお好きではないと知っていてもするのは、じれてヒクヒクと動き出す怒張したそれを見るのが好きなのだ。血管が浮き出てグロテスクに見えるのに主のものと思うだけで心底いとおしく見える。 「主ィ…んっ、ああっ! あ、あん!」 「よしよし、いい子だな……」 卑猥な音が耳をならす。主の少しかたい髪の毛が腿をゆらしてくすぐったい。 「んっ、ぁろう、っぉ、」 「す、すみませっ、んっう、ああっ!」 後孔をぐずぐずとさせるように主の舌が動いていく。恥ずかしくてでも嬉しくて頭がどうかしてしまいそうだ。 「いれんぞ」 「はィいいい」 へろへろの頭では返事をするのもつらい。息を吸い込んでは吐いてを短く繰り返していたら、主は汗に濡れた前髪をかいて「大丈夫か?」と聞いてきた。必死に頷くと主の剛直は素直に私の中に入ってきた。指や舌とは比べ物にならないほどの質量にはしたない声をあげてしまった。とても……恥ずかしかった。 「ひぃぎっ、ああ! ぐぁ、ッぁあ、ああ゛!」 「……き、つ……!」 主はその時何をしようとしていたか分からないが、なんとか抜けないように必死に力を込めていたような気がする。なんと言うか、繋がっていないと捨てられそうな感覚があったのだ。 「太郎、俺の可愛い太郎」 「あっ! んっ、ああ! ひゃぅあ!」 「お前は、! んっ! 嫉妬するけどよ、!」 一言一言切りながらガツガツ腰がぶつかって脚が痛い。柔らかくない脚を無理矢理にあげられて主が私を見下ろすように腰を打ち付ける。痛いのに嬉しい。主が私を支配しているのかと思うとキュンときた。 「俺は! お前いないと、! いきらんない、から!」 「主ッ! 主ィ! わたひも、わたしもでしゅ! ひぃ、いグッ、いグッ、あぁぁああ゛!」 「~~~ッ!!」 主の霊力が身体中を行き渡る。ぐちゃぐちゃとヌメた音がつながるそこから響いていて刀と人でも繋がれるのだと嬉しくなった。 と、急に主の体が動いた。ぐぐっとさらに押し込まれる。イッたばかりの体は敏感に感じ取ってあぐあぐと声にならない声が出てきた。 「太郎、ごめん。止まんねーわ」 主という人は全くしょうのないひとだ。 お題セリフ「お前がいないと生きられない」 「んっ? また濡れたままなのか」 私の呼びかけに後始末を終えた主が張り付いた髪の毛を横に流してくれた。シャワーを浴びたばかりの髪の毛は汗にまみれた時と同じように顔に張り付いてしまう。私のような長いものは特に。主の手は綺麗ではないが優しい手だ。そんな手に触れられて嬉しくないわけがない。わざと濡らしたまま布団のもとに来るのだと主は気付いてるだろうか。 ゆっくりと一筋ずつ払われていく。短い爪が顔にすこしだけひっかかり、そして離れてしまう。その一瞬の触れ合いさえも私は逃したくなくて全身の感覚を顔に集中させて私は待つ。 髪の毛を流された後の視界がクリアになって主の顔が少しだけ良く見える。でも視界がにじんで主の顔がよく見えない。 「主……」 「ああ」 切なかった。こんなことしても一つにはなれないのが悔しい。子種をもらっても子どもは作れないのが悲しい。 「太郎、泣くな、太郎」 「うゔぅうう……」 主、私は主と同じ種族に生まれたかった。せめてもの、女として生まれたかった。いくら取り繕ったところで私は男の刀。付喪神ではあるものの雌雄同体ではない個体。主の霊力を受け取ることはできても種を授かることは出来ない。 主はいつか私を置いてこの世から消えてしまうのだろう。主もそれは分かってるはずだ。審神者たちは歴史修正主義者の力を受けやすい。そのため、審神者という職につくものは家族含め遺書を書くことが強要される。主が普段の文机に遺書と私宛の手紙を残してくれていることは知っている。けれど、 「主、主。お願いします。私を置いていかないでください。私はあなたのいない現世に興味はありません。どこかへ消えるなら、わたしも、連れていってください」 「大丈夫、俺はずっと太郎太刀をそばに置いていくよ」 そうは言っても人は少なからず嘘をつく。残されて、置いていかれて、主が誰かと運命の出会いをしてしまうくらないならば私は主の元についていきたい。今これまで私は主が私以外を見ないように何もかもを排除するようにしてきたのに、ここで壊されて主が私を忘れてしまうのも主と離れ離れになるのも真平だ。 主、主、主。主が死んだら、一緒に死ぬことを許してください。私はそれだけで主の御心のそばに寄り添えるのだから。 うちの太郎太刀はちょっとばかし他の太郎と違うところがある。性格は、そんなに変わってないかと思ったがそうでもない。太郎太刀は元来うたぐりぶかい性格で、そしてそれは俺に向かってきている。 俺が何度愛の甘言を囁こうと、何度体をつなげようといつか分かれる運命にあることが決まっていると判っている太郎太刀には辛いものがあるのかもしれない。飢えて飢えて、もっと欲しいと揺すれば揺するほど飢餓感がつのる。太郎太刀はそれをあえて受け入れて、俺をそこに巻き込もうとしているようだ。あの嫉妬の原因を俺はそう見ているが実際のところはどうだろうか。もしかしたら太郎太刀には刀らしい刀の本能で燃やすことを選択しているのかもしれない。理由はなんであれ、俺はとてもじゃないが太郎太刀のようにはなれない。審神者として俺は戦う意志をもってここにいるからだ。刀の付喪神を愛したことと、審神者としてここで戦い続けることはまた別のこと。ただ、欲を言うならば太郎太刀には幸せになってほしい。俺への愛で溺れ死んでしまう前に、あいつ自身の幸せを見つけてほしい。 ーー主、主、主。主が死んだら、一緒に死ぬことを許してください。私はそれだけで主の御心のそばに寄り添えるのだから。 それはお前の幸せとは違うだろう、と俺は言えなかった。