溶かして冷やして愛してね

「おれは、ありのままのニックが好きだよ」 付き合って初めてベッドを一緒にした日。その言葉に俺は顔を苦痛でゆがませた。俺が聞きたいのはそんな綺麗事じゃない。ありのままの俺ってなんだ? 詐欺師だったころの俺か? 警察になってジュディのバディになった俺か? それとも、チームに入りたかった俺のことか? 「俺は、……なあ、お前のニック・ワイルドってなんなんだ?」 #名前2#の答えを聞かないままそれだけ言って夜の中を走り出した。レインフォレスト地区で土砂降りにあって涙をそのまま雨とともに消した。ぼろぼろと流れてくるそれはたぶん俺が#名前2#に伝えることが出来なかった思いなのだ。遠慮したり、我慢したり、はたまた嘘をついたり。#名前2#というオスに嫌われないために必死で頑張っていた。それなのに。 『ありのままのニックが好きだよ』 頑張ってきた自分は、彼の中でニック・ワイルドというカテゴリには入らないんだろうか? そう思うと今までの人生はなんともつまらない物な気がした。家に帰ることもなんだか嫌だ。#名前2#は自分を探しに来ればいいんだ、と思った。適当に歩いていたらキキッと音がして白塗りの大きな車がニックの横に止まった。 「あらあら、私の恩人の相棒さん。どうなさったの?」 車から覗きでた豊かな黒髪のネズミ。MR.BIGの娘でありジュディに陶酔にも似た何かを持つフルー・フルーであった。 「ねえ、こんな所でどうかなさった?」 「いや……」 フルー・フルーにはニックが#名前2#と付き合っていることを知らせていないし、まず#名前2#というホワイトタイガーを知らないだろう。話をしても意味がない。 「ああ、まるで濡れネズミだわ。私はネズミであなたはキツネだけどね。ほら、はやく乗ってちょうだい。子供たちがジョディの話を聞きたがってたのよ」 「…あのニンジンのかい?」 「自分の名前をくれたウサギですもの、気になるのは当たり前よ。さあ乗って」 今度は拒否権もなくスーツを着た大型のクマがニックをつかみ車の中に荒っぽく乗せた。革製のイスはニックを包むことなく濡れた服が滑って落ちてしまう。 「あら、大変だわ。ちょっと、ハンカチをちょうだい。貴方じゃなくて其方よ」 クマが渡してきたハンカチをフルー・フルーはニックに投げつけて「濡れたままじゃ困るわ。それを床にしいて座っててちょうだい」と言った。 ハンカチを使っていいのか、とクマに目を向けると哀れな顔をしていたのでやめた。「使わないの? 別に気にしなくていいのに」と笑うフルー・フルーはジュディと名付けられた子どもの他にもう1匹の赤ちゃんを産んだ。彼女はもう立派な母親であり成長しきったギャングの娘だった。 屋敷に行くとミスタービッグに挨拶もそこそこにフルー・フルーの部屋に連れ込まれた。ボディガードのクマたちからタオルとスーツを受け取り汚い服を渡した。泥まみれになっていた服はもうボロボロだった。このスーツどうしようか、と思ったらミスタービッグが「別にそれぐらいもらって構わん……」と声をかけた。有難うございます、と一応の礼をしてニックは先に行ったフルー・フルーの後を追いかけた。 部屋に入るとフルー・フルーは寝ている赤ちゃんにキスをしてニックの方を向いた。うふふ、と彼女は笑っていた。 「ジョディから聞いてるのよ、ニック。ホワイトタイガーの#名前2#さんと付き合い始めたんでしょう?」 吹き出して思わずネクタイで首を締め付けるところだった。危ない。フルー・フルーを見ると彼女は「#名前2#さんはお父様とも関係は良好なのよ」と澄まして言われた。 「へー」と知らなかった自分が恥ずかしくなったニックにフルー・フルーはブフッと吹き出して「嘘に決まってるじゃない!!」と笑いだした。 「んなっ…!?」 「ジョディに教えて貰ったに決まってるじゃない! あー、面白かった。それで、詐欺師のキツネさんはどうかされたの?」 私がお話聞いてあげるわよ、と言ったフルー・フルーに観念してニックは#名前2#と一方的にケンカして家を出てきてしまったことを言った。フルー・フルーはだまってそれを聞き、ニックが話し終わるとゴソゴソと自分の服の中を探り始めた。 「どこやったかしら、あれー」 「やめろやめろ! こんな状況見られて俺がボディガードたちになんと思われるか…!」 「あーら、それくらい平気よー。あ、あった!」 フルー・フルーの小さな体には似つかわしくない青と白のカプセルを彼女は机の上に置いた。 「……なに、これ」 「ヒューマノイドって言うの。まだ臨床実験してないものなんだけど、面白そうだからもらってきちゃった」 笑顔ですごいことをいうメスネズミだ。フルー・フルーによるとこの薬を飲むとどの動物もヒューマンという動物に変わり異種間恋愛を可能にしてくれる優れものらしい。 「私の友達(ネズミ)がどうしてもハトと付き合いたくて作り始めたらしいのよー。はい、これ。あなたにあげるわ」 「え、いやぁ! そんな薬いらないよ!」 「あら。あんなに悩んでたんですもの。ちゃんと言えないならセックスして伝えた方が早いわ?」 それはネズミたちの感覚だろう!というのは控えてニックは渋々とクスリを受け取った。 ** フルー・フルーのボディガードの1人に家まで送ってもらった。家に着くずっと前からその大きな体が見えていた。白い毛は該当に照らされてキラキしている。 キキッと車が止められた。ニックがドアを開ける前に#名前2#が開けてくれた。差し出された手にまるでエスコートされてるようだと恥ずかしさを覚えながら掴んだ。ドアが閉じられて車はこんな茶番やってられるかと言うように急スピードで去っていく。明らかにスピード違反だった。 「なあ、#名前2#。いいのか、捕まえなくて」 「ああ。そんな事よりも君を捕まえておく方が大事だからね」 そう言って#名前2#はニックの手をぎゅっと握りしめた。じんわりと伝わる温度にニックはほう、と息をつく。安心させる体温だ。#名前2#以外には感じられない心の平穏はニックがずっと欲しかったものだった。 家に入っても#名前2#はニックのことを責めず、質問することもなく、「寒かったろう? 早くシャワーを浴びて寝なさい」といつものベッドに促した。背中を押されるのに反抗しながら部屋を見渡すと目に入ったのは散らばったメモ用紙にぐしゃぐしゃのズートピアの地図。それと何台も置かれたモバイルだった。俺のことを探していたのか、と瞬間にわかった。 ーー#名前2#が好きだ。 ニックはニックのために動くことが当たり前だった。だがジョディと出会って人助けの楽しさを知った。#名前2#と出会って誰かに尽くすことの嬉しさを覚えた。#名前2#が言ったありのままのニックはどれか分からないが、#名前2#は今ニックのためにずっと何かしてくれていたのだ。それが嬉しくてニックは思わず#名前2#にキスをした。ぬるり、とクスリを分け合う。 「#名前2#、俺。#名前2#が好きだ。好きで好きでどうしようもない」 ニックは言いたいことが沢山あるのにこれしか言えない自分が嫌いだった。だが#名前2#はそんなニックの頭を撫でて「おれも愛してるよ、ニック」と深いキスを与えた。ザラリとした舌が段々と厚くて滑らかなものに変わっていく。 「だから今どうなってるのか教えてくれるかい?」 苦笑いしながらたずねた#名前2#にニックはようやく笑った。 ** ヒューマンの自分にすぐになれたのか#名前2#はニックをベッドに運ぶとそのままスーツを脱がせにかかった。ジャケットがしわくちゃのままベッド横に落とされる。シャツはボタンを外すのも煩わしいのかボタンが中途半端なまま顔を寄せられた。じゅるりと舌が胸の上を這っていく。くすぐったいだけなのに下から見せつけるようになめる#名前2#の色香にニックはもうどうすればいいか分からない。 「ふぅあ、……んちゅっ、んんっ…! ぅうんっ…!」 「あぁ、ニック…! そんなに体を堅くするなッ…!」 可愛いなあという言葉がどこからか聞こえてきたけど嘘だあと内心で返した。こんな俺を可愛いだなんて#名前2#はどうかしてる。だけど嬉しいって思うしきゅんきゅんする。乙女かよ。きもいな自分。 キスはまだ止まなくて唇がそろそろ痛い。優しいようで力強い。息するのも大変だ。 #名前2#の伸びた手が身体中をまさぐってきた。大きくてふわふわしてる手だった。体のいろんなところが少しずつ触られてる。マーキングではないけど匂いが、匂いがどんどん増えていく。#名前2#の深みがある甘い匂いが自分の匂いと混ざっていって、いい臭いとは言えないのにかいでたくなる。安心するのだ。 下着が下ろされてしょぼくれた陰茎を#名前2#の手で擦られた。ただ、なかなかエレクトしなくてたぶん俺は緊張していた。#名前2#は苦笑いして「ムリなようなら止めてもいいんだよ」と言う。ニックは#名前2#にそんなこと言われるくらいなら無理にでも犯された方がマシだと思った。#名前2#のものにして欲しいのに、こんな醜態でとても無様だった。 「大丈夫、大丈夫だから」 泣きたい気持ちで#名前2#にしがみつくと、#名前2#はニックを抱きしめて背中を優しくなでてくれた。 「大丈夫、時間はまだあるんだから。慣れないことに、性急にする必要はないよ」 やだ、それじゃダメなんだ。 ニックは心の中で呟いたと思ったのに#名前2#は首をかしげて「どうして?」と聞き返してきた。 #名前2#が誰かにとられちゃう。 「おれはどこにも行かないよ」 行っちゃう。絶対に行っちゃう。#名前2#にはもっといいメスが見つかるはずだけど俺がその場所をとってるから。 「そんな事ないさ。おれにはニックしかいないよ」 嘘だあ。 「嘘じゃない。好きでもないやつとキスしてベッドに連れ込んで勃たせるほどおれは親切な虎じゃないよ」 #名前2#はそう言ってニックの腰に自分のエレクトしたそれを擦り付けて「ほらな?」と笑う。おそるおそる伸ばした手にぶつかって思わず真っ赤になったニックを見て#名前2#はクスクスと笑いだした。 ぐちゅぐちゅと水音が響く。ニックの陰茎の下から#名前2#の陰茎が頭を覗かせている。まるで2つ生えているかのような奇妙な光景にクラリと頭がイカれそうになった。 「んっ、あっ…! やぁ、#名前2#ッ! 乳首、そんないじんないでぇ」 ひゃあぁん、とまた喘ぎ声が出てきた。ずちゅずちゅとまだ腰がぶつかる。 「ちっちゃくて固くて可愛いから無理かなあ。殺人事件とか扱いすぎて癒しがほしいんだもの」 癒しって、そーじゃないだろコレは…! ニックの叫び声も知らないフリをして#名前2#は(後ろにいるから見えないけど)ニンマリと分析官の嫌らしい笑みを浮かべてるはずだ。 「ぃゃし、じゃあっ…! なぃいい、ンン…!」 「そんな事ないけどなあ」 そんな事あるだろ、と返したかったけどだ液がこぼれて変な声が出てきた。それすらも頭がイカれてるらしい#名前2#にはか、かわいい…のか「ニック、好きだよ」と耳に囁きかけた。わざと低くくして腰を深くねじ込んでくる。ももに挟まれた#名前2#自身はビクビクと震えて射精しそうだった。 「はやっくゥ! 出して、ァン、出して!!」 「あっ、ぐぅっ……!!!」 ニックが意識してももに力を込めて尻を突き出すと#名前2#はそれに乗っかって精を吐き出した。ぼたぼたとベッドに白いものが零れていく。ニックの体力はもう限界だ。慣れないことをしたし、雨にまみれてシャワーを浴びなかったのも悪かった。頭がセックスのせいでなくて熱っぽい。 途切れそうな意識の中で#名前2#が焦ってニックを呼ぶ声が聞こえていた。 ** 起きてみると昨日の後始末は全部されていてニックは#名前2#の腕の中で寝ていた。ヒューマンではない、キツネとホワイトタイガーの体で、だ。重たい腕の爪はニックを傷つけないように切られている。肉球がニックの頭をぷにぷにと撫でてきた。 そーっと#名前2#の顔を見てみるとまだ寝ている。ふんふん、と鼻がゆれる。寝てる顔はブサイクだけどすごく可愛い。自分の匂いを嗅いでみるとめちゃくちゃ#名前2#の匂いがした。 「#名前2#、愛してるよ」 ちゅっとリップ音を鳴らして#名前2#の鼻頭にキスを送った。いい朝だ。朝ごはんの準備をしようと起き上がろうとすると#名前2#の腕がキツく締めてきて全くベッドから、いや#名前2#から離れられない。 「#名前2#起きてるのか?」 狸寝入りでもなく、#名前2#はニックのことを離さないように力をこめているらしい。 早起きするといい事がある、と誰かが言っていた。確かにいいことがあった。ひとつ、#名前2#の寝顔を見れたこと。ふたつ、#名前2#にようやく愛してると言えたこと。みっつ、#名前2#がニックを離さないように抱きしめていることだ。