泣いてるって言ってるでしょ

 あいつは損な役回りなのだと思う。自分の友人を見ていて思った。  相棒のウサギとはとても仲がよかったがやっぱり異種間ということもあるのか何なのかウサギさんは別のウサギと結婚した。結婚式には俺もお呼ばれした。お相手はかっこいいウサギだったがちょっとキザっぽかった。友人と性格が似ているな、と思った。  帰り道。友人に告白はしなかったのかと聞いてみた。友人のキツネは「何も言えなかったんだ」と呟いた。  話を聞いてみると、何度か相棒のウサギから誘いはあったらしい。だがいざとなると挫けてしまいいつも何も言えなかった。その結果、ウサギは「ずっと待ってたかったんだけど」という一言を残して結婚したらしい。友人は過去に戻りたいなあと言った。俺は友人のために何とかならないかと頑張ってみることにした。  結局この行動は無駄に終わった。友人のキツネは結婚して一人息子をつくった。だが息子が産まれる前にやつは亡くなった。不運な事故としか言えない。奥さんは号泣していた。このズートピアではシングルマザーの支援があまり整っていない。ここに住まない方がいいと言ったのだが、奥さんはここで生きると言ってきかなかった。メスの動物ってのは不思議だ。子どものために何でもする気になるのだから。仕方なく俺は彼女たちの支援をすることにした。ただし、息子には俺のことを知らさないでくれと頼んだ。俺のことを父親と見られたらたまらない。息子にとっての父親はアイツだけなのだから。  キツネというだけでやれる仕事は限られてしまう。奥さんは夜の仕事をしていて、俺はミスター・ビッグのもとで運送屋をしていた。運ぶのは様々だが中身に関しては聞かないようにしている。うめき声が聞こえるずた袋でも、冷気を感じる木箱でも、よく分からない美術品でも、だ。  ある時、俺は変なカーペットを運んだ。スカンクの嫌な匂いのするカーペットだった。ミスタービッグは「クソ狐が」と俺を見ながら呟いた。 「あのお」 「……」 「キツネがなにかしたんでしょうか」  俺の言葉にミスタービッグはタバコを吸って煙を吐き出した。目と鼻にかけられたそれにゲホゴホと咳をする。 「ひでぇもんを売りつけやがった」 「これ、ですね」 「全く、キツネってやつは……」  ミスターの言葉に少し耳が反応した。キツネの偏見は仕方ないことだが、目の前にキツネがいるのにその言葉を聞くのはしんどかった。そんな俺に気づいたのかミスターは「お前が何年と働いてないやつだったら、すぐに殺すところだった」とよく分からないフォローを入れてくれた。  それから色々とあったらしいが運送屋の俺は働き続けるのみだ。ミスターの娘にお子さんが生まれたからそのお祝い用に花やランプやシーツを買い付けてそれを運ぶ仕事を承った。なんでもミスターの娘は色んな動物を呼びたいらしく、いつものに加えて俺達が普段使うシーツや家具やらも注文してきた。  お祝いの品も選び、車で運ぶ。ミスターのもとに戻った時にデカいパトカーがあったのだがゲストの車らしい。娘さんの人脈の広さには恐れ入る。そう言えば、あいつの息子が警察になったと奥さんから聞かされた。父親とは正反対の仕事に就くなんてね、と奥さんは笑っていた。運命ってのは面白いと思う。あいつと相棒は凄腕の部下だった。ミスターのもとで働くあいつらは楽しげだった。そんなあいつらの友人になれて俺は心底嬉しかったのだ。だから、あいつらが結婚できなかったことに悲しさを覚えたし何とかしてやりたいと思った。結局それは出来なくて、俺は今もあいつの奥さんと息子を助けるための金を送り続けている。息子はもう働けるようになったと聞いても、送り続けたのは俺にも父性が芽生えたからかもしれない。 「なあ、あんた」 「んあ?」  後ろを振り向くとそこには亡くなったあいつがいた。いや、毛色が微妙に違う。それに目の色も。あいつは金色だった。 「それ、運べばいいのか?」 「あ、ああ……」 「手伝うよ」 「いや、お前、ゲストだろう?」  服装がフォーマルだった。ここで荷物運びなんてしたら皺くちゃになってしまう。止めた方がいいと言ったのにあいつに似たキツネはケラケラ笑って「いいよ。俺がしたいんだ」と荷物の片方を持った。家具を入れたそれは重かったので慌ててもう片方を持ち上げた。 「! 力持ちなんだな」 「何年もやってるからな」 「そうなんだ。大変じゃないのか?」 「大変……。いや、そう思ったことは無い」 「そうなんだ」 「ああ」  昔は大変だと思ったこともあったはずだ。だが今となってはこの仕事が楽しかった。ミスターのためになる。奥さんのためになる。あいつの息子のためになる。ひいては、あいつのためになる。それが俺にとっては何よりも嬉しかったのだ。 「なあ、あんたはミスタービッグのもとで働いてたキツネ知ってるか?」 「俺以外にってことか」 「ああ」 「……友人だった」 「! そうなのか」  あいつに似たキツネは荷物を運び終えるとまた車に戻ろうとしたから慌てて止めさせた。この家具を運び終えた後は細かなものしかない。これ以上働かせるわけにはいかなかった。 「いいじゃないか。させてくれよ」 「ダメだダメだ」 「なんでさ」 「ゲストに仕事はさせたくない」  俺の言葉にキツネはショックを受けたような顔をした。そして「あんたにとって俺はゲストなのか?」と聞いてきた。 「? ああ」 「………」  キツネは黙り込んでしまった。俺はそのまま車に戻ろうとしたが何となくあいつと相棒の話を思い出した。あいつは相棒に言葉をかけられなかった。相棒は待っていたのに、だ。このキツネも俺の言葉を待っているのだろうか。いやいや、それよりもなんで俺に話しかけてきた? 同じキツネだから? それにしたって。こんな裏口にまでゲストが来てる理由ってなんだ?  俺はよくよくキツネを見つめた。あいつに似ていると思った。それを違和感と捕えず、ただ会話をした。あいつが死んでから何年経った? あいつの息子は警察になったと言ってなかったか? 目の前のキツネは、誰だ? 「……なあ」 「あ、ああ?」 「お前の母親の名前は」 「アビー。アビゲイル・ワイルドだ」  あいつの奥さんの名前だった。そうか、こいつが息子だったのか。ニック・ワイルド。あいつが命をかけて助けたたったひとつの命だ。 「あんたは#名前2#・#名前1#だろ」 「ああ」 「母さんから聞いた。俺にはあしながキツネがいるんだぞって。ずっと信じきれなかったんだ。だけど、ようやく見つけた」 「………。俺なんかを探し当ててなんだってんだよ」 「俺のことを見守ってくれてありがとうって言いたかった」 「……」 「俺のことを捨てないでくれて、ありがとうって。言いたかったんだ」 「お前の父親が死ぬ原因になったのが俺だったから、お前のことを助けてただけさ。俺は身勝手なキツネだ」 「そんなこと、ない」 「あるんだよ。俺はどうしようもないキツネなんだ」  あいつが死んだのは俺のせいだった。俺が捕まったりしなければあいつは死ぬことなんてなかった。あいつは病院に行けたはずなんだ。病院でお前のことを抱いてやれたはずなんだ。 「それでもいい! それでもいいんだ。俺のことを見てくれたのは、あんただ! 父さんじゃない……」 「……」 「あんたは十分俺に尽くしてくれた。だから、今度は俺があんたを助けたい。一緒に暮らそう、#名前2#。俺はあんたを助けるために警察になったんだ」  あいつの息子は俺の手を掴み泣いてくれた。あいつの奥さんとそっくりな仕草だった。一回り以上年下のやつに俺は何をやらせてるんだろうか。涙がこぼれてきた。情けない俺になのか、息子のニックに感動したのか。涙は止まることを知らずにぼたぼたと流れてくる。抱きしめあった俺たちはそのまま泣き続けた。キツネの偏見に耐えきって俺たちはようやく幸せをつかめた。